【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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110:辿り着いた最悪の筋書き

 謎が一切解けない。

 何度も何度も考えた。しかし、何も見えてこない。

 奴らの真の目的も、奴らが打った一手も。

 

 あの夜以降、偽物たちは俺への接触を絶った。

 事務的な連絡以外では話す事は無く。

 イサビリ中尉の偽物も口数を減らして黙々と訓練を受けているだけだった。

 しかし、チラリと見た時に奴の手が僅かに震えていたのが見えた。

 

 確実に取り返しのつかない何かをしたのだろう。

 だが、その何かが見えない。

 

 何度も考えてみた。

 俺が敵であれば、どうやってこの守りを砕くか。

 まず問題になるのはレーダーだろう。

 アレにより飛行する物体も地上を走行する車両も即座に発見されてしまう。

 識別番号を持たなければ、警告の後に撃墜されてしまうのだ。

 

 高速で接近しようにも、コーデリアには最新技術により開発された地対空ミサイルがある。

 訓練を終えた時にシュミレーターを使う許可を貰って、もしもの場合を想定した映像を見てみた。

 すると、敵を発見してから警告するまでの僅か数秒足らずで地下に格納されていた発射台が展開されて。

 その数秒後にはミサイルが発射されて、遠く離れた位置の敵に精確にミサイルが撃ち込まれていた。

 どんなに機動力が高められた機体であろうとも、アレには敵わない。

 大型の敵と小型のメリウスとで撃ち込まれるミサイルを変えている。

 多くのメリウスが飛来しようとも、空中で無数のミサイルをバラまくアレは脅威だ。

 高性能のホーミング機能により執拗なまでに敵を追いかけて、被弾すれば塵一つ残らない。

 

 どんな場合を想定しても、敵は確実に撃墜される。

 どの経路から侵入しようとも、確実にだ。

 

 薄暗いシュミレーターの中で考える。

 コンソールに手を置きながら、情報の入力をしようとした。

 

「……もう遅いか……破壊工作でも無い。要人の暗殺でも無い。だったら……此処に来ること自体が目的だ。足を踏み入れた時点で決定的な何かが……いや、待てよ」

 

 俺はカタカタとコンソールを叩いてシュミレーターを起動させた。

 今度はある事を入力した上でのシュミレートで。

 映像が始まってから見ていけば、予想通りの結果になっていた。

 

 帝国と公国の間で、最も近いミサイル発射台。

 それがあるとされる場所から、無人誘導式のミサイルを発射すると仮定した。

 現在、この世界で使われている無人誘導式ミサイルは大気圏へと飛び地上へと落下していくもので。

 弾道ミサイルとの違いがあるとすれば、その地上へと落下するまでの間に内蔵されたシステムによって加速と微調整が行われる。

 大気圏からの地球への落下による熱に耐えうる装甲。

 そして、内蔵されたシステムにより加速からの誤差を修正する。

 これであれば、発見から撃墜までの間に――距離が縮まる。

 

 円形に広がっているレーダーの索敵範囲。

 横への対応力は確かに高い。

 しかし、ある一定上の角度……それこそ垂直からの攻撃には対応が遅れる。

 

 この無人誘導式であれば、弾道ミサイルよりも遥かに速度が速い。

 それ自体が持つ質量による重力加速度と推進剤による加速で……思った通りだ。

 

「公国であろうとも、帝国であろうともルールがある。接近する物体には警告をする……だけど、ミサイルや無人兵器には例外か」

 

 それが持つ識別信号の他に、公国のレーダーはそれが持つ生体信号を受信している。

 もしも、その兵器に人が乗っていれば必ず警告を発していた。

 

 今回のシュミレーターでは、相手を人が乗っていないミサイルにした。

 いや、そもそもこれほどの加速において人が搭乗するのは不可能だ。

 だからこそ、無人誘導式のミサイルを想定してみたけど……これでもまだ足りない。

 

 どれだけ距離が縮んだとしても意味がない。

 無人式であれば、コーデリアの妨害電波によってシステムが強制的に停止される。

 それによって誤差の修正どころか、ミサイルは目標を見失って見当違いの方向へと飛んでいってしまう。

 もしも万が一、その時の気流や天候が奇跡的に合致していれば、目標に当たる確率もあるが……それはほとんどゼロに近い。

 

「こんな奇跡に頼るほど、ハイドは馬鹿じゃない……それに、偽物が来る意味が無いじゃないか。考えろ、奴らには役割がある。此処へ来る事によって、ハイドの計画が上手くいく何か……無人誘導式。可能性が無いと思っていた。本来ならあり得ない。だけど、仮にあり得たとして……」

 

 体をミンチにしてしまうほどの殺人的な加速。

 それに耐えうる人間が存在したとして、ミサイルを機械によってではなく――人間によって制御すれば?

 

 カタカタと情報を打ち込んでいく。

 すると、シュミレーターがはじき出した結果は――エラーであった。

 

 いくら高性能のシュミレーターであっても、考えられない現象で。

 映像を見れば、その有人誘導式のミサイルに乗り込んだ人間は僅か数秒にも満たない時間で気絶している。

 体を持たない機械だからこそ耐えられる。

 もしも人間が乗り込んでしまえば、良くて気絶であり、最悪の場合はそのまま死ぬだろう。

 

 

 でも、俺の記憶の中には一人だけいる。

 

 

 恐ろしいまでのGに耐えられる人間。

 俺のように安全装置がついていない機体で挑んできて。

 奴は互角以上の力で俺と戦った。

 俺が出会ってきた敵の中で、一二を争うほどの速さだった敵の名は――リック・ハイゼン。

 

「――まて。じゃアイツがアレに乗って戦っていたのは……この時の為――っ」

 

 帝国軍の最新機体。

 ファルコンⅢというのは奴の限界を底上げする為の機体で。

 殺人的な加速を幾度も経験する事によって、奴は到達できない速さに達しようとしていた。

 

 

 それは何も兵士としての技量を高める為だけじゃない――今回の作戦において重要な役割を担うから。

 

 

 謎が解けていく。

 喉につっかえていた物が取り除かれていくような感覚を覚えた。

 しかし、それでもまだピースが足りない。

 

「リック・ハイゼンが……ミサイルの誘導役になるとして……いや、無理だ。どんなに加速になれようとも、豆粒ほどから一気に近づいていく街へ誘導する事なんて……何秒も無いんだぞ? その間に微調整をするなんて……いや、その前に偽物の役割が……待て。此処へ来た時点で打つ手を終えていたんだ。それは、つま、り――ッ!!?」

 

 考えらる中で最悪の可能性。

 偽物たちの役割は、大公たちの暗殺ではない。

 重要施設の破壊でもなければ、内部から敵に情報を流す事でも無い。

 

 

 

 奴らの役割、それは――ビーコン。

 

 

 

 街の位置を精確に把握するためにハイドが用意したビーコンだ。

 機械によって信号を送るのではない。

 一個人の生体信号をビーコンにして、奴らはこの街に垂直降下によってミサイルを撃ち込む気だ。

 ミサイルを発見してから、生体信号をキャッチして警告を送るまでに数秒。

 ミサイルを打ち込んで撃墜するまでの時間は――クリアしている。

 

 僅かに出来る此方の隙。

 それを利用することによって、不可能だと思われた暗殺が可能になる。

 空白の数秒を使えば、撃墜される前に敵のミサイルが届く。

 それもギリギリであるが、可能性はゼロじゃない。

 カタカタと情報を打ち込んでシュミレートしてみるが、結果はエラーであった。

 しかし、可能性だけを数値化してみれば……七十パーセント。

 

 他が限りなくゼロに近かった分、これは成功率が高い。

 まだ誰も知らない筈だ。今すぐ知らせなければならない。

 大公と天子の会談は明日に控えており、もう残された時間はあまりない。

 

「……イサビリ中尉……彼女ならきっと俺と同じことをする筈だ」

 

 彼女を見捨てたくはない。

 しかし、奴らの暗殺計画は大規模な物だ。

 垂直降下によりミサイルを落とすのであれば、首都そのものに被害が出る。

 これでは暗殺ではなく、虐殺に近いだろう……そんなことにはさせない。

 

 俺はシュミレーターを停止させて外に出ようとした。

 しかし、扉を開けようとしてもロックが解除されない。

 俺は不審に思いながら、ロックの解除をするようにシステムに命令した。

 

 

「……お前は知り過ぎた」

「その声は……何で、此処にいるッ!!」

「……もう遅いんだ。何もかもが……大人しくしていてくれ」

 

 

 扉の隙間から、何かが流し込まれてくる。

 ガスのような何かが中へと入ってきて、俺は口元を覆った。

 息を止めていたが長くは保たず――ガスを吸い込んでしまう。

 

 その瞬間に頭がくらくらとして、周りが歪んでいくように見えた。

 睡眠ガスを注入されて、体から力が抜けていく。

 俺は必死になって扉に手を伸ばした。

 しかし、扉に触れるだけで何も出来ない。

 

「……すまない。すまない……許して」

「く、そ……」

 

 ゴトリと手がシートに落ちる。

 そうして、俺の意識は闇の底へと落ちていく。

 ポケットから端末が滑り落ちて鈍い光を放っている。

 俺は薄れゆく意識の中でそれを見つめて、薄く笑みを浮かべた。

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