【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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111:貴方に全てを託して(side:マクラ-ゲン)

 端末に表示された情報。

 それは、我々が欲していた敵の情報で。

 マサムネさんは”期待通り”の働きをしてくれたようだった。

 

 ムラサメさんからは既に聞いている。

 マサムネさんがシュミレーターの中で眠らされていた事。

 そして、私の愛する部下に擬態した鼠は既に身を隠したと。

 ビーコンとして役割を果たす為に、奴らはこの街の何処かで息を潜めている。

 死ぬと分かっていて国に忠誠を誓うのは……いや、違うでしょう。

 

 国に忠誠を誓っている訳ではない。

 それ以外に選択肢が無かっただけでしょう。

 死よりも恐ろしい目に遭うと分かっていて、この役割を引き受けた。

 誰もが引き受けたくも無い確実な死が待っている任務だ。

 それを指示する人間が狂っていれば、それを受ける人間も狂わざるを得ない。

 

 私が見た”未来”の一つ。

 その未来は、この首都が炎に包まれて。

 大公が死に、住人たちが焼けただれて死んでいく未来。

 子供たちは泣き叫び、誰も彼もが突然の襲撃に対応できなかった。

 その結果、大勢の人間が死に新たな大公が戦争を推し進めていく。

 帝国と公国は二度と対話をすることも無く、両者は破滅の未来を進んでいく。

 

 私はその未来を見た時に考えた。

 どうすれば未来を変えられるか。

 どうすれば、最善の選択を出来るのか。

 

 そんな時に現れたのがマサムネさんだった。

 彼は私が見た未来を小さくではあったが変えていった。

 変わる事の無い筈だった未来が変化して、私は彼こそが変革をもたらす鍵であると確信した。

 

 偽物の存在には初めから気づいていた。

 近くで一緒にいたイサビリの変化は簡単に分かる。

 シュミレーターの映像を誤魔化そうとも、事前にリアルタイムの映像が私の端末に届くように設定しておけば問題ない。

 どんなに爪を隠そうとも、信頼する部下を間違う事は無い。

 

 悔しかった。心の底から悔しかった。

 イサビリを救えなかった事ではない。

 イサビリを”分かっていて”死地に追いやった自分に悔しさを抱いていた。

 他にもやりようはあった筈だ。

 しかし、限られた時間の中で考えをまとめ上げる事は出来なかった。

 だからこそ、変化がある可能性に賭けて私は道を定めた。

 

 後悔してはいけない。振り返ってはいけない。

 私が”いなくなった”世界で何が起きようとも、絶望してはいけない。

 私が希望を預ける青年は、私以上に苦しむ事になる。

 この先で待ち受ける困難や障害を、彼は果たして乗り越えられるのか。

 

「……時間ですね」

 

 マサムネさんから送られてきた情報は、敵が行う作戦の内容で。

 シュミレーターの結果から、敵が垂直降下による爆撃を行う事が分かった。

 それも超高速度による垂直降下爆撃であり、迎撃用のミサイルポッドでは間に合わない。

 地上から狙撃をしようにも、敵の進行ルートが分からなければ不可能だろう。

 いや、進行ルートが分かっていても、狙撃が成功する確率は限りなく低い。

 

 

 つまり、やる事は一つしかなかった。

 

 

 システムを起動すれば、コックピッド内が明るくなる。

 武装を確認すれば、私の両肩には特殊兵装が取り付けられていた。

 発射すればネットのように周囲に広がって、高速移動する物体が触れれば一気に起爆する代物で。

 一度きりの使用ではあるものの、至近距離で使うのであればミサイルを防ぐ事は出来る。

 最も、起爆すれば機体もろとも使用したパイロットは死ぬ。

 

 こんな事は誰にも任せられない。

 だからこそ、私は此処にいる。

 

 偽物たちが何かをしようとしていることは理解していた。

 彼らには秘密にして首都へと来て、ムラサメさんたちと作戦会議をしていた。

 その先が分からなかった私にもたらされたマサムネさんの情報。

 それにより、敵の爆撃を阻止する作戦を短時間で考える事になった。

 

 スパイを拘束すれば良かったのだろう。

 しかし、奴らは我々が勘付いた事に気が付いて身を隠した。

 たった一日で見つけ出すのは不可能で。

 何故、スパイを野放しにしたのかと私を糾弾する者もいた。

 それでは意味が無い。私が見た未来を変えるには、スパイを拘束するだけではダメだ。

 ハイドは何百いう作戦を用意しており、その全てを解き明かすことは不可能だった。

 だからこそ、多少のリスクはあったが、スパイをこの地に誘い込んだ。

 

 結果、敵の作戦を突き止める事が出来た。

 後は、敵の爆撃を阻止する方法だけだった。

 夜を跨いでも話は続いて――1つの作戦に行きついた。

 

 コーデリアの兵器開発部門から連絡を受けた。

 試作段階であるものの、この特殊兵装を使えば、被害を最小限に抑える事が出来ると。

 私が自ら志願して出撃する事を決めた。

 ムラサメさんは最後まで反対していたが。

 しかし、今回の事は私に責任がある。

 

 部下を犠牲にして、マサムネさんに希望を託して……私は最低だ。

 

 結局、私は最後まで他人任せであった。

 誰かを頼って生きてきて、最期の希望も彼に託してしまう。

 恨まれても文句は言えない。

 あの世で再会した時は、好きなだけ殴られてもいい。

 でも、どうか、希望を絶やさないで欲しい。

 

 私が見た未来には続きがある。

 おぞましい光景であった。

 漆黒よりも黒い泥が溢れ出し、その中で佇む一体のメリウス。

 無数のメリウスの残骸が泥へと飲み込まれて、地上を泥が覆おうとする。

 全てを飲み込み作り替えていくそれ。

 この世界どころか現世にも影響を与えるそれが、全てを破壊する。

 

 アレは駄目だ。あの未来は存在してはいけない。

 公国の未来。そして、世界の未来。

 そのどちらも救うには、今ここで私が礎になる必要がある。

 そして、マサムネさんという鍵が、破滅の未来を変えていく。

 彼ならば、きっと新たな道を作ってくれる。

 誰もが見つけられなかった希望への道を、見つけ出してくれる。

 

 

 例えそれが――彼を、世界の敵にしようとも。

 

 

 ペダルを踏めば、ゆっくりと機体が上昇する。

 空を見れば、一直線に飛んでいく何かが見えた。

 私の未来を見る力と、マサムネさんの送ってくれたシュミレーターの結果を使えば、ある程度のルートの予測が出来る。

 大公たちは既にシェルターへ避難させている。

 住民たちの避難も完了している頃であり、これで少なくとも大勢の人間が死ぬ未来は回避できた。

 

 しかし、安心は出来ない。

 

 私がどれだけ遠くの未来を見えようとも、敵はその上を行く。

 ゴースト・ラインの中には私と同じ能力を持った人間がいるのか。

 分からないものの、安心できることは何一つない。

 私の命は此処までだ。だからこそ、もうマサムネさんたちに私がしてあげられる事は無い。

 やるだけの事はした。後悔は無い。

 

 ペダルを踏む力を強めていく。

 すると、コックピッド内がカタカタと揺れ始めた。

 上へ上へと上昇していく中で、空を進んでいた何かが停まる。

 そうして、分離した何かが真っすぐに進んできた。

 

 来る。確実に降下している。

 ビーコンを頼りに微調整をしながら、敵が迫ってきている。

 それを見ながら、私は震える手でスイッチに触れた。

 チャンスは一度きりであり、失敗は許されない。

 

 汗ばんでいる手から、私自身が恐れを抱いている事を知る。

 死への恐怖、身勝手に仲間に押し付けた希望、これから彼らを襲う苦難――それら全てが思考を覆う。

 

 呼吸が荒くなっていくのを感じる。

 すると、手首に巻いた端末から鎮静剤が打たれた。

 恐怖などにより乱れた心が静まっていく。

 それを感じながら、私は彗星のように進む物体を見つめた。

 

 

 瞬間、目の前に敵のシルエットが露わになる。

 

 

 大きなミサイルを装着したメリウス。

 特大の噴射口から青い炎を噴射して。

 その赤い単眼センサーがぎろりと私を捉えていた。

 スローモーションに感じる世界の中で、敵が私を避けようとしていた。

 私は笑みを浮かべながらボタンを押した。

 

 特殊兵装が作動して、ネットが周囲一帯に広がる。

 敵の驚きの感情が手に取るように分かる。

 回避しようにも、広がったネットに触れずに降下する事は不可能だ。

 

 ゆっくり、ゆっくりと進んで――ネットが歪む。

 

 その瞬間に、ネットは激しく閃光する。

 爆薬が起爆して、徐々に爆発が広がっていく。

 敵は爆発に巻き込まれて、ミサイルを強制的に分離した。

 そんな敵の姿を一瞥してから、私は後方に目をやった。

 

 

 美しい。何処までも綺麗な故郷の景色。

 それを目に焼き付けながら、私は笑みを浮かべた。

 

 

「あぁ、綺麗――……」

 

 

 視界が白に染まっていった。

 

 

 一瞬の激痛と共に視界は真っ白になって。

 

 体から重りがなくなったかのように軽くなった。

 

 白い世界の中で、私は心地の良い温もりに包まれた。

 

 眠くなっていく。

 

 疲れてもいないのに眠い。

 

 私は流されるままに意識を温もりに預ける。

 

 

 

『――!!』

「……えぇ、後は、頼みます」

 

 

 

 希望を託した青年の声。

 それに応えて、私は静かに眠りについた。

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