【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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112:大空を支配する雷

 目が覚めた時、俺の傍には一人の男がいた。

 サングラスを掛けてスーツを着た男で、護衛官の一人だと認識した。

 彼は俺に全てを話してくれた。

 俺が眠らされて、情報は中佐たちに渡って――中佐がミサイルの着弾を阻止しに向かった事を。

 

 俺はベッドから起きて、脇目も振らずに走った。

 雷切の元へ向かうでもない、ムラサメさんの元へ行く訳でもない。

 俺は階段を駆け上がった。

 バクバクと心臓が鼓動して、体中が熱くなっていく。

 全身から汗が流れていって、俺は呼吸を荒げながら駆け上がっていく。

 

 途中でこけそうになった。

 足を踏み外して膝を打った。

 痛かったが、そんな事を気にしていられるほど余裕はない。

 

 全力で階段を登っていく。

 どれだけ駆け上がったかは覚えていない。

 気が付けば、屋上の扉を開け放って柵に手を置いていた。

 心臓が痛いほど鼓動して、呼吸は大きく乱れていた。

 滝のように汗を掻きながら、俺は頻りに周囲に目を向けた。

 そうして、ある一点に視線が向く。

 

 見た事のあるメリウス。

 まるで妖精のように穢れの無い綺麗な姿。

 美しいと思った純白のメリウスが空へと舞い上がっていく。

 その向かう先には、空に軌跡を描く飛翔体がいた。

 

 心臓を冷えた手で鷲掴みにされたような感覚を覚えた。

 心の底から恐怖して、俺は大きく目を開きながら声を出していた。

 

「あぁ、ダメだ。ダメだダメだ! 行ってはダメだッ!! 貴方は」

《――マサムネさん。貴方に希望を託します》

「――ッ!? マクラ-ゲンさんッ!! 戻ってくださいッ!!」

 

 端末から声が聞こえた。

 俺はすぐにポケットからそれを取り出して声を荒げる。

 引き返すように何度も言った。しかし、俺の声は届いていない。

 当然だ。これはあらかじめ録音された音声だ。

 それを知っていながら、俺は何度もマクラーゲンさんの名前を呼んだ。

 

 何度も何度も何度も――声が掠れるほど叫んだ。

 

 彼女は自分が死ぬと理解している。

 理解している筈なのに、その声は落ち着いていた。

 母親が子供に言い聞かせるように、優しい声色で俺に言葉を送って来る。

 俺はそれを聞きながら、目じりを熱くさせていった。

 

《最期まで貴方には頼ってばかりでしたね……私は貴方を友だと思っていました》

「……俺も、です。俺も貴方を、友達だって……なのに、何で」

《今、泣いていますか? 違っていたら……いえ、きっと貴方は泣いてくれるのでしょうね》

 

 純白のメリウスは更に加速していく。

 軌跡を描いていた飛翔体は分離して、何かが落ちて来る。

 俺はそれを大きく開いた目で見つめていた。

 両目から涙が流れ落ちていく。

 水面のように揺れる視界の中で、彼女の機体が白い光になっていた。

 

 どこまでも強く暖かな光。

 それが地上から離れて天へと昇っていく。

 彼女が通った後には綺麗な青い光が舞っていた。

 それを目に焼き付けながら、俺は強く柵を掴んだ。

 強く強く、手が鬱血するほど強く握る。

 とめどなく流れる涙を止める事は出来ない。

 手を伸ばしても、彼女に触れる事は二度と出来ない。

 彼女は覚悟を決めて空へと羽ばたいた。

 録音した音声を聞きながら、俺は奥歯を強く噛みしめた。

 

 マクラーゲンさんは、言葉を続ける。

 俺の事を優しい人間だと言って、誰よりも強い心を持っているという。

 そんな事は無い。俺は優しくも強くも無い。

 肝心の時に役に立たず、また大切な人を失おうとしている。

 俺は彼女の願いを聞いて、役に立ちたかった。

 もっと一緒にいて、彼女から多くの事を学びたかった。

 

 気持ちが心の底から溢れ出る。

 後悔ばかりが俺の心を支配して、涙と共に流れ落ちていく。

 俺は鼻を啜りながら、輝きを増した彼女を見つめた。

 

 ゆっくりと彼女は息を吸う。

 そうして、何時もの彼女らしい凛々しい声で言葉を放った。

 

 

《――私の死で悲しまなくてもいい。貴方は止まってはいけない。次へ進みなさい》

「次へ、進む。何を」

《希望を託します。誰も悲しまない世界を。真の平和が実現した未来を――貴方の手で作ってください》

「ま、待って、待ってッ! 俺はまだ貴方からッ!!」

 

 

 白い光がより一層輝きを増した。

 

 

 それと共に、凄まじい勢いで落下した物体とかち合う。

 

 

 何かが広がり、両者は激しく接触した。

 

 

 一瞬の出来事だった。

 

 

 瞬きするよりも早く、結果が見えた。

 

 

 白い輝きは一瞬で消え、代わりに凄まじい爆発が起こった。

 激しい閃光。次の瞬間には爆風が襲い掛かって来た。

 必死になって柵に捕まって耐える。

 ガタガタと柵が揺れて今にも外れそうだった。

 俺はそれでも耐えてその場にしがみついて――爆風が収まる。

 

 ゆっくりと顔を上げた。

 

 そこには黒煙が広がっていて、パラパラと残骸が落ちていく。

 

 青い粒子が散り散りになって、彼女の美しい機体は破片となって墜ちていく。

 

 

 

 命が、大切な仲間が、俺の前で――命を散らした。

 

 

 

《――ありがとう、友よ。貴方に会えて良かった》

「あ、あぁ、ぁぁ、あああぁぁぁ……ッ!!」

 

 

 

 端末から聞こえた友人の声。

 それがぶつりと途絶えて、端末が手から滑り落ちる。

 俺は両手で顔を覆いながら、手の隙間から涙を流していった。

 止められない、溢れてどんどん流れていっている。

 体から全ての水分を失くしてしまうほど、俺は目から涙を流していった。

 声は枯れて泣き声も出ないほどに。

 

 子供のように泣きじゃくる。

 天を仰ぎ見て、せき止められない感情を吐き出していった。

 胸が痛い。心臓がかつてないほどに痛い。

 心が凍えて、頭が激しく痛みを主張してきた。

 それでも俺の涙は流れていって、床を静かに濡らしていった。

 

 遅れて、爆発音が響いた。

 地面が小さく揺れて、物が焼ける臭いが此処まで漂ってくる。

 

 俺はゆっくりとそちらへ視線を向けた。

 すると、レーダーユニットが配備されている施設から火の手が上がっていた。

 ミサイルは有人で、恐らくはメリウスもミサイルと連結していたのだろう。

 一瞬だけだったが、ミサイルから何かが分離したのが見えた。

 マクラーゲンさんの死を覚悟した攻撃を逃れて、ボロボロの機体で施設に突撃した。

 それは恐らくは、リック・ハイゼンの乗ったファルコンⅢで――涙を拭う。

 

 まだ心臓は痛い。

 頭も鈍器で殴られたように痛く。

 心も冷え切っていて、力が抜け落ちそうだった。

 

 でも、止まってはダメだ。

 俺が信じた人は、俺に進めと言った。

 此処で立ち止まる事は、あの人の想いを穢してしまう。

 

 

 それだけは絶対に――したくない。

 

 

 端末を拾って操作して、対Gスーツに変更する。

 ヘルメットを手に持って装着しながら、端末をポケットに仕舞った。

 空を見上げれば、何かがこの首都を目指して降下している。

 ミサイルによる爆撃が失敗した場合に備えて敵は別の作戦を考えていたのか。

 無数のメリウスが天より飛来していて、俺はそれを睨みつけながらゆっくりと自らの胸に手を置いた。

 

 

 

「守るんだ。貴方の想いを無駄にはしない――来いッ!! 雷切ッ!!」

 

 

 

 愛機の名を叫ぶ。

 すると、遠くのバンカーの天井を破って何かが飛翔する。

 それは真っすぐに俺の元へと向かってきた。

 俺は柵を飛び越えて高く跳躍した。

 

 勢いよく下へと体が落ちていく。

 片手でスイッチを押してヘルメットのシールドを展開する。

 全身に風を感じながら、俺は下に潜り込んだ愛機を見つめた。

 

 真下には雷切がコックピッドのハッチを開けて待機していた。

 俺は体を滑り込ませながら中へと入る。

 システムは起動しており、武装を確認すればプロミネンスバスターが装着されていた。

 これも中佐がこの展開を予見して持ち込んでいたのか――存分に使わせてもらうッ!

 

「全力で行くぞッ!!」

《了解しました》

 

 ペダルを強く踏んで加速する。

 ぐんぐんと加速していき、周りの景色が勢いよく流れていく。

 敵のシルエットが露わになり、足場のような物を盾にしながら降下していた。

 大気圏を突破して、減速しているそれにロックオンをする。

 一気に五機のメリウスに狙いを付けて、俺はチャージしたバスターを放った。

 

 シリンダーが激しく回転して、赤く発光する。

 熱気に包まれた銃身から勢いよくレーザーが放たれた。

 直線に飛ぶレーザーを強引に動かして、ライフルを横へと振る。

 轟音を立てながら、凄まじい熱量の光線が全てを薙ぎ払う。

 相手は回避行動を試みたが、間に合わなかった四機はレーザーに溶断されて爆発四散した。

 黒煙を切り裂き一直線に伸びたレーザーが収束する。

 

 比類なき攻撃力を持つこれで――全てを破壊するッ!

 

 ディスプレイに表示された敵のマーカー。

 無数のマーカーが次々に表示されてAIは淡々と事実を述べた。

 

《敵機影を多数確認。数――約七十》

「上等だ。どれだけ来ようとも、墜として見せるッ!!」

 

 マクラーゲンさんから希望を託された。

 祖国の為、未来を守る為に死んでいった彼女の為――俺は此処を守って見せる。

 

 勢いよくスラスターを噴かせて飛行する。

 すれ違いざまに敵にレーザーを照射した。

 ずくずくに溶けて羽をむしり取られた虫のように残骸が落ちていく。

 盾から離れて攻撃を仕掛けてくるメリウス。

 それを見ながら、俺は冷静に敵を墜としていく。 

 

 ライフルの弾丸が機体を掠めて。

 爆発的な加速によって機体は激しく揺れた。

 俺は視線を鋭くさせながら、戦場にて舞う。

 

 空に軌跡を描くように飛行して、近づく敵を確実に仕留めていく。

 景色が勢いよく流れていくが、俺の目には全てが止まっているように見える。

 どれだけの数を用意しようとも、どれだけの勢いがあろうとも関係ない。

 

 彼女から想いを託された俺は、絶対に退かない。

 全ての敵をなぎ倒して、彼女の理想を守って見せる。

 

 接近してくる敵。

 ライフルの弾を回転によって回避。

 そうして、勢いのまま敵へと機体をぶつける。

 肩にかち当たった敵を盾にしながら、別の敵へと加速する。

 相手のライフルの弾が敵の装甲を貫いてバラバラにする。

 盾が無くなった俺は青いセンサーを光らせながら、敵の周りを飛行した。

 

 三機が集まっている。

 その周囲を飛んで、相手をかく乱した。

 そうして、ライフルの照準を足へと向けて放つ。

 

 一機の足を根元から抉り、二機目の胴体部分を貫通。

 残りの一機も左半身を失って派手な爆発を起こした。

 それに巻き込まれた二機は爆炎に包まれて墜落していく。

 

 流星のように落ちて来る敵を確実に減らしていく。

 眼光を鋭くさせながら、俺は強くレバーを握る。

 降り注ぐ敵を、幸せを奪いに来た侵略者を殺す。

 もう二度と仲間を失わない為に、もう二度と涙を流さない為に――敵を討つ。

 

 スラスターが鳴き声を上げた。

 俺の心に共鳴する様に音を奏でて。

 俺は更に機体を加速させながら、敵の群れへと突っ込んでいった。

 

 雷切はかつてないほどの速度で翔ける。

 風を切り裂き飛翔して、周囲に青い粒子が舞っていく。

 誰も追いつけない速度で加速して、敵を視界に入れる。

 短い機械音が鳴ってロックオンが完了し、バスターからレーザーが放たれる。

 

 精確に、無慈悲に、命を刈り取っていく。

 俺は更に機体を加速させて、限界を超えていった。

 システムから警報が鳴り、俺の安全が保てなくなると告げられる――知った事じゃない。

 

 

 加速、加速、加速、加速加速加速加速加速加速加速――ッ!!

 

 

 絶対に奴らを地上に降下させない。

 彼女の祖国を穢させはしない。

 降り注ぐ敵を、この空の上で全てを始末する。

 

「まだだ、こんなもんじゃないッ!!!」

 

 轟音を立ててスラスターが吹いた。

 凄まじい、何者も追いつけない。

 限界を踏破して、更なる場所に至ろうとしている。

 不思議と全身に感じる風のような何か。

 それを存分に味わいながら、俺は触れるもの全てを破壊していった。

 

 次々とマーカーが消えていく。

 凄まじい勢いで敵が減っていく。

 それを見ながら俺は笑みを深めて、鼻から垂れる血も気にしなかった。

 

 

 何処までも、何処までも、俺は自由に――大空を舞って見せる。

 

 

 止まらない。進み続ける。

 貴方がそう言ったのなら――俺は進み続ける。

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