【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
「……お前も、此処にいたのか」
広い格納庫の中へと足を踏み入れる。
すると、自動的にライトが点灯していった。
そうして、全てのライトが点灯し終わった時に俺の愛機は姿を現した。
ケージに入れられてテープのようなものが巻かれている。
頑丈に固定されているそれを見つめながら、俺は愛機に駆け寄った。
女の人はそんな俺に何も言う事なく手元の端末を操作していた。
ケージを駆けあがって、コックピッドのハッチを開く。
中へと飛び込んでからハッチを閉じて、システムを起動させようとした。
しかし、すぐには起動しなかった。
プログレスバーが表示されて、五秒ほど待った。
そうして、システムが復旧して再起動する。
《パイロットの搭乗を確認。お久しぶりです、マサムネ様》
「あぁ、心配かけたな……何かされたのか?」
《えぇメカニックによる干渉を受けました。しかし、彼らの腕ではプロテクトを破る事は出来ませんでした。ウィルスを流し込まれましたが、先ほど洗浄を終わらせたので問題ありません》
「……此処から出る。エネルギー残量は?」
《七十パーセント以上あります。長時間のフライトも問題ありません》
カタカタとコンソールを叩きながら、システムの確認を終わらせる。
中途半端に弄った形跡はあったものの、AIと共にすぐに全て戻した。
そうして、コンソールを収納してから操縦レバーを握る。
下を見ればあの女の人は消えていて――警報が鳴り響く。
けたたましいサイレンの音であり、格納庫の中は赤色灯が回っていた。
機械の音声で侵入者の確認を告げていて。
その数秒後に、格納庫の扉が爆破された。
見れば煙の中から何かが現れていて。
姿を現したのは全長十八メートルほどのメリウスだった。
日本の甲冑を思わせるような装甲であり、違いがあるとすれば頭部がシュッとしている事と。
肩の部分に片方だけ波打つようなシールドが付けられていた。
基本的なカラーリングは黒で、文様のように赤い線が引かれている。
顔の部分は鬼のような威圧感があり、その赤い双眼は俺へと向けられていた。
手には長大なランチャーのようなものを装備している。
腰の辺りには棒のような物が付けられていて、恐らくは近接格闘用の武装なのだろうと思った。
鬼を思わせるそれから通信を強制的に繋がされる。
ディスプレイに表示されたのは、俺を助けてくれた女の人であった。
《見つかった。すぐに退避する》
「分かりました……さっきの頼みは」
《ん。コードとアドレスを送る。それを使ってネットに繋いで》
「ありがとうございます」
彼女にお礼を言えば、通信が切断される。
そのすぐ後にコードとアドレスが送られてきた。
俺はAIに指示をして彼女の後を追うように命令した。
すると、自動操縦モードがオンになって、機体が動き始めた。
ぶちぶちと音を立てて、テープを強引に引きちぎっていく。
そうして、ずしずしと音を立てながら彼女の後を追いかけていった。
俺はコンソールを取り出して、カタカタとアドレスを入力する。
すると、すぐにディスプレイには専用のサイトが表示された。
俺はその中にコードを入力する。
プログレスバーが表示されて――準備が整った。
画面が切り替わって、俺の顔が映し出される。
画面の端を見れば、全世界への配信が開始されていた。
俺はゆっくりと息を吐いてから、薄く笑みを浮かべて言葉を発した。
「……俺の名前はマサムネ。魔神を倒し、モルノバを滅ぼした男だ。今俺は、WMの施設から脱走して仲間と共に新たな場所に向かっている」
視聴している人間の数が爆発的に増えていく。
それを見ながら、俺は言葉を続けた。
魔人を倒したのも、モルノバを滅ぼしたのも事実で。
WMから逃げるのは、知られたくない真実を知られたからだと伝えた。
「WMは嘘をついている。公国のアリア・マクラーゲン中佐が国家転覆を謀って敵を送り込んできたと……それは違う……彼女は誰よりも優秀だった。スパイの存在に気付いて、敵の攻撃を自らの命でもって防いだ」
コメントが表示された。
スパイとは誰か、お前は嘘をついている――俺は笑みを深めた。
「スパイは――俺だ」
コメントが止まった。
それを見ながら、俺は言葉を続けた。
魔神を倒したことによって多くの人間に信頼された。
公国内部からは英雄だと呼ばれて気持ちが良かったと。
しかし、モルノバでの任務中に気に食わない事があって衝動的に国一つを滅ぼしたと。
何の計画も無くただ衝動的に国一つを滅ぼしてやった。
結果から言えば、立場が少しだけ危うくなったが問題は無かった。
「あの女に取り入って公国の軍部に属して、俺は密かにある事を計画していた。また戦争が始まれば、俺は英雄に返り咲く。だからこそ、ゴースト・ラインと結託して大公と天子が会談を行う日に襲撃をしようとした……結果は失敗だったがな。あの女に勘付かれて、ミサイルが堕とされて。俺は計画を変更して、奴らの駒を全て叩き落してやった。これでバカな民衆はまた俺を英雄と認識する……裏切りに気づいたのはその後だ。イサビリ中尉、ウラカワ伍長、ジェスラ曹長に成りすました俺と同じスパイ共。奴らはゴースト・ラインからの命令で俺を消そうとした。運の悪い事に俺だけを標的にしやがって、出来の悪い俺専属のメカニックや鬱陶しい女共を狙わなかった。あぁあ、あんな奴らでも盾くらいにはなったんだがなぁ」
コメントが急速に流れていく。
本当なのか、この悪魔、あの人たちは誰だと。
信じていた仲間をコケ下ろすクソ野郎、最低最悪のカスか。
それを見ながら、俺は邪悪な笑みを浮かべて言葉を発する。
違う。そんな事言いたくない。
大切な人たちを悪く言いたくない。
誰も傷つけたくない。誰も悲しんで欲しくない。
辛い。心が痛い。
それでも、俺は笑みを浮かべながら言葉を吐きだした。
「俺は死なない。裏切られたのなら、俺もお前たちの正体を言う権利がある。あの女狐に計画を阻止されてむしゃくしゃしていたんだ。精々、偽物として惨たらしい扱いを受けろや。無能なメカニックも使えない仲間もいらねぇ。弱いだけで邪魔なだけだからな……哀れな公国とバカな帝国に最後に言っておこうか。ゴースト・ラインと手を組む時は良く考えろ。奴らは平気で仲間を切り捨てる。戦争を起こして多くの人間を殺しても、なぁんとも思わない……もしも、また戦争をするのなら俺を呼べ。金さえ払うのなら、俺は何方の味方もしてやるよ。ははは!」
コメントの内容が怒りと憎悪に染まる。
俺は言ってしまった。
引き返すことは出来ない。
もう誰も俺を信用しないだろう。
しかし、こうする以外に方法は無かった。
長い時間を掛けている暇は無い。
中佐の疑いを晴らし、全てのヘイトを俺へと向ける。
そうすることによって、中佐への疑いは無くなる。
そうして、公国と帝国も安易に戦争への手を打てなくなってしまう。
俺一人が犠牲になる事で、全ての問題が解決するのだ。
俺は最後まで邪悪な笑みを浮かべながら配信を切った。
ディスプレイには黒煙を上げる建物が表示される。
下から豆鉄砲を撃って来る兵士たち。
それを無視して上昇して、仲間と共に離脱していった。
遅れて爆発音が響いてくる。
至る所から火の手が上がっていて、これをしたのはこの人だと理解した。
待機しているメリウスを全て破壊したのか。
これで俺たちを追ってくる人間は一人もいない。
悠々と戦線を離脱して、後ろからの砲撃を一瞥した。
「……無駄だ。何もかも」
絶海の孤島から飛び立つ。
海の上に浮かぶ船からも砲撃されて。
自動操縦から手動操作に切り替えて、それをひらりと回避した。
空中に敵の砲撃跡が刻まれていく中で、誰かからのコールを確認した。
名前を見て――俺は表情を曇らせてしまう。
ゴウリキマルと書かれたそれを見ながら、俺は迷っていた。
繋いでも良いのか、切るべきなのか。
そんな事を考えている間に、通信は強制的に繋がされた。
《マサムネッ!! お前、どういうつもりだッ!! 何で、何であんな嘘をッ!?》」
語気を荒げながら、彼女は俺を問い詰める。
俺は暫くの間黙っていた。
しかし、彼女がすすり泣く声を聞いてゆっくりと声を発した。
「……ごめん」
《……ごめんって何だよ。何処に行く気だ。私たちを置いて、何処に行くんだ……一緒に、私も》
彼女は、こんな俺と共にいようとしている。
大切で温かで優しい彼女と一緒にいたい。
もっともっと一緒に過ごして一緒に笑って、一緒に歩んでいきたい。
困難を分かち合って、どんな時も――歯を食いしばる。
強く強く歯を食いしばりながら、俺は静かに強く言葉を発した。
「――ダメだ。俺は一人で行く」
「……っ。なん、で。何で。なんで、だよ……私は、お前の相棒だ。何処に行っても、私は必ず、お前を……」
彼女は今、泣いている。
彼女の瞳から涙が零れ落ちていくのが分かる。
一緒にいたい、一緒に生きたい。
彼女はこんな俺に強い想いを向けてくれている。
俺の心は叫んでいる。
ずっと彼女といようと。
ずっとずっと彼女の傍でいたいと。
血が滲んで垂れていくほど、強く唇を噛む。
心の叫びを殺して、俺はゆっくりと指を持ち上げた。
俺は無言のまま、小さく震える指を動かした。
そうして、バディーに表示されている彼女の名前をタップした。
すると、相棒の契約を切るかと確認された。
俺は声を殺して、そっと指でタップする。
彼女と結んだ誓いを、俺は自分の手で断ち切る。
彼女にすぐに連絡がいって、彼女が息を飲むのが分かった。
大切な誓いだった。
彼女と一緒にいると誓ったのだ。
俺にとって大切な記憶であり、かけがえのない存在だ。
今もこれからも――だからこそ、俺は彼女に別れの言葉を伝えた。
「――さようなら」
《ま――……》
彼女との通信を切断した。
最後に聞こえた彼女の焦り声。
心臓が激しく痛む。ズキズキと痛みを主張しきて、俺は強くレバーを握った。
涙は出ない。
悲しくても、涙を流してはいけない。
代わりに唇から真っ赤な血が垂れていって。
ボタボタとズボンに赤いシミを作っていった。
言いたくなかった。
彼女を拒絶するような言葉なんて言いたくない。
心では彼女を求めていた。
でも、俺はその反対の言葉を彼女に吐いた。
大切だから、誰よりも信じているから。
彼女を危険に晒さない為に、俺は彼女を突き放した。
茨の道を歩むのは俺一人で良い。
彼女の綺麗な心と体を傷だらけにしてはいけない。
死ぬほど辛い。死ぬほど悲しい。
心臓はズキズキと痛みを発していて今にも吐き出しそうだ。
でも、俺が一番辛いんじゃない。
誰よりも辛く苦しくて悲しんでいるのは――ゴウリキマルさんだから。
《……遅れている》
「……すみません」
新たな仲間から注意される。
本当の仲間なのかも分からない。
しかし、今の俺は他の誰も頼れない。
涙を流し尽くして、叫びたいほどに苦しい。
それでも、それでも俺は――進まなければならない。
レバーをしっかり握る。
そうして、感情を殺して前だけを見つめた。
世界の敵となった今、俺が失うものは何もない。
大切なものは全て置いてきた。
誰にも傷つけられる事は無い。
「未来を創る。誰も悲しまなくていい未来を――俺が創る」
中佐の願いを口にする。
例えどれだけの血が流れようとも止まってはいけない。
亡くなった中佐の魂に誓う――俺が未来を創る、と。