【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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120:新型のデモンストレーション

 轟轟と激しい音を立てて炎が燃え上がる。

 駐屯地を襲撃して、待機していたメリウスも全てスクラップにした。

 治安部隊の兵士たちは、悲鳴を上げながら逃げまどっている。

 突然、駐屯地を襲撃した俺を兵士たちが恐怖に染まった目で見ていた。

 必死に消火作業をする者、俺へと抵抗するように手に持ったライフルの引き金を引く者。

 混沌としたこの場所で、兵士たちは生き残る事に必死だった。

 俺はそんな人間たちを一瞥してから、黒煙を上げる駐屯地を後にした。

 

 追手はいない。

 来たとしても、敵から奪った武装で仕留められる。

 アジトに戻る為に空を飛行して、残りのエネルギー量を確認した。

 

「……まだいけるな」

 

 ぼそりと独り言を呟く。

 ぐんぐんと速度を上げて、駐屯地から離れていく。

 

 

 やがて安全圏へと到達して、俺は事前に指示されたポイントまで機体を動かした。

 機体を遥か上空へと上昇させていく。

 空の様子は、いつの間にかどんよりとした曇り空で。

 分厚い雲へと侵入してから、かき分けるように上へと昇る。

 徐々にスピードを上げながら上昇して、分厚い雲を抜ける。

 一気に視界に光が広がって、綺麗な青が目に映った。

 太陽が頭上で輝いていて、視線を向ければ帰還用の超大型輸送機”モダニア”が待機していた。

 

 全長293メートル、全幅487メートルのメリウス輸送機。

 光学迷彩などのステルス装置を搭載していて、両翼には二門のプラズマ砲を備えていた。

 俺が雲から出た瞬間に光学迷彩を解除したようで。

 巨大なそれが優雅に雲の上を飛行してい。。

 

 砲身を此方へと向けながら、操縦士から声を掛けられる。

 規定通りに此方はゆっくりと飛行しながら輸送機のケツに張り付く。

 そうして、予め与えられていた認証コードを送信して待つ。

 

 何秒か待てば、認証が完了する。

 ゆっくりとハッチが開かれていって、俺は中へと機体を滑り込ませた。

 輸送機の内部へと侵入し、床に足を付けながら音を立てて移動する。

 足元には誘導員が立っていて、俺をケージへと誘導していった。

 雷切をケージの中へと入れれば、胸の辺りに足場が移動してきた。

 それを確認してから、戦闘モードを解除してシステムを停止させた。

 俺は軽く息を吐いてから、ヘルメットを取って開いたハッチから外へと出た。

 

 少しだけ暑かった。

 だからこそ、ヘルメットを外した後の涼しさは心地が良い。

 全身に心地いい風を感じながら、閉じられていくハッチを見つめた。

 

 低い音を立ててハッチが完全に閉じられる。

 涼しかった風も止んで、輸送機は再びステルスモードに切り替わったようだ。

 俺はカツカツと音を立てて足場を歩いていく。

 すれ違うように整備班が雷切へと向かって、俺は彼らに何も言う事なく通り過ぎていった。

 

 階段を下りて行けば、ぶっきらぼうな顔で立っている銀髪の女がいた。

 パリッとした黒いスーツを着て、少し短いように感じるスリットの入ったタイトスカートを履いている。

 黒いタイツで肌を隠して、黒縁の眼鏡を掛けている。

 青色のヘアクリップで少し長い髪を纏めて、夜会巻きなるヘアスタイルにしていた。

 きりりとした鋭い青い目を俺へと向けながら、彼女は手に持った大きな端末を操作した。

 

「今回の作戦において使用した弾薬。並びにエネルギーの消費量。そして、受けたダメージの総量。問題はありませんが、以前よりも損失は少しだけ大きくなっています。カウンセリングを受けますか?」

「……問題ない」

 

 カウンセリングを受けるかというのは、俺の腕が鈍ったのではないかという皮肉で。

 面倒な顧客への対応をさせられたことを彼女は根に持っているようだ。

 俺個人の専属マネージャーなるものになってしまった彼女の名前はミネルバ・ランドルグ。

 東源国からの依頼を受ける為の仲介人として彼女は存在する。

 機体の修繕費や弾代など、彼女が計算をして東源国に請求するのだ。

 他にも俺のスケジュールを組んで、無理のない範囲で働かせて来る。

 最も、無理のない範囲と言うのは壊れないか壊れるかのギリギリのラインで。

 俺は傭兵という立場であるものの、ブラック企業の下っ端のような扱いを受けている。

 

 別に待遇なんてのはどうでもいい。

 俺の目的は天子への接触であり、気に入られるのなら何でもやる。

 例えこの女が、俺への監視役としてあてられたと知ってもだ。

 

 冷たい目の女を無視して、俺は部屋で仮眠を取る事を伝えた。

 そうして、女の前から立ち去ろうとして――目の前にミネルバが立ち塞がる。

 

 俺は眉を顰めながら、無言で何のつもりかと見ていた。

 すると、ミネルバは端末を操作して何かを俺の端末に送りつけてきた。

 小さく震えたそれをポケットから出して確認した。

 すると、何処かへの連絡先が送られてきたようで。

 俺は意図の読めないそれを何なんだと思っていた。

 

「貴方の戦闘データを取得した事によって我が国のメリウスの開発は大きく進みました。新型の開発も終盤まで進み。後は優秀なパイロットによるデモンストレーションのみとなりました」

「……俺に乗れと?」

「えぇ理解が早くて助かります……その連絡先は本国にある御三家の一つ栗林重工業の開発主任の連絡先になります。名前はクロウ・ハシマ。彼から説明を聞いて、デモンストレーションに臨んでください。では、失礼します」

 

 説明を終えれば、ミネルバは軽く会釈をして去っていった。

 カツカツとヒールの音を立てながら器用に歩いて行って。

 俺は静かに端末を見つめてから、それをポケットに仕舞った。

 

 デモンストレーションという言葉はあまり良いものではない。

 企業からの、それも御三家と呼べるような大企業の一つからの依頼。

 怪しい臭いは蓋を開ける前からぷんぷんと漂っている。

 恐らくは、実戦形式で何かと戦わせる気なのだろう。

 何と戦わせる気なのか……傭兵、という可能性が高い。

 

 何も知らない傭兵をおびき出して俺と戦わせる。

 そうすることによって実戦に近い戦闘でのデータを採取する気か。

 あまり気は進まないが、やる以外に選択肢はない。

 俺は輸送機の中を歩いていった。

 コツコツと音を立てて歩いて行って、狭い廊下を進んでいく。

 無数の扉が設置された通路で、仮眠室と書かれた部屋に入る。

 俺に宛がわれている部屋であり、扉を開ければ湿った臭いがしてきた。

 簡素な折り畳み式のベッドが一つと、小さい机と椅子のセットが一つ。

 窓もない狭い部屋の中へと入り扉の鍵を掛けた。

 

 俺は椅子に座りながら、端末を取り出す。

 服装を私服に変更すれば、一気に涼しくなった。

 脇腹に収めていたメットが消えて、俺は端末を弄って連絡を繋ごうとした。

 掛けた相手は、先ほどミネルバから教えてもらった栗林の開発主任で。

 ぶるぶると端末が震える中で、相手が電話を取るのを待っていた。

 

 ワンコール、ツーコール、スリーコール……出ないな。

 

 ずっとコール音が響いて、相手は全く電話に出ない。

 偉い立場の人間だから、忙しいのは分かる。

 しかし、ミネルバが相手の状況も分からないまま、電話を掛けるように言う筈がない。

 アイツは色々と調べて予定を立てるような女だ。

 間違っても、相手が忙しい時間に予定を入れる事はしない。

 

 そんな事を考えながら、繋がらない電話を切ろうとして――繋がった。

 

《もしもし? いやぁすまないねぇ。仮眠を長く取り過ぎていたよ。失敬失敬。君がマサムネ君だね?》

「……そうだ。新型の情報とデモンストレーションの内容。それと日程を教えてくれ」

《お? やる気満々だねぇ。いやぁ実に結構。さて、では先ずは新型の情報だが……すまないが、口頭では説明できない。君の端末に暗号化したデータを送る事は出来るが……万が一を考えて今回はやめておくよ。そしてデモンストレーションの内容だが、此方が用意した三名のパイロットと戦ってもらう。実戦形式だから、万が一殺されても文句は言わないでくれ。日取りに関しては……そうだな。シュミレーターで君に機体慣れして欲しいから一週間後にしよう。その輸送機は東源国に向かっているのだろう? ラボに足を運んでくれ。詳しい場所とゲートを通る為の認証コードを送っておくから……質問はあるかな?》

「無い」

《結構。では会える日を楽しみにしているよ》

 

 笑みでも浮かべながら言っているのだろう。

 男は通話を切って、俺は静かになった部屋で端末を机に置いた。

 硬いだけでリラックスできない椅子に座りながら、俺はチラリとベッドに目を向ける。

 折り畳み式のベッドは既に開かれている。

 硬そうでカビ臭そうで、アレでは仮眠も出来ないだろう。

 せめて、体を休める環境くらい整えておけと心の中で文句を言う。

 

 ゆっくりと体を起き上がらせてから、ベッドの縁に座る。

 ギシギシと嫌な音が鳴って、今にも壊れそうだった。

 そんなベッドに体を預けながら、俺は鉄の天井を見つめる。

 予想通り硬いベッドであり、起きたら体が痛みそうだった。

 

「……はぁ」

 

 小さくため息を零す。

 そうして、ゆっくりと瞼を閉じる。

 眠れるからは分からないが、せめて瞼だけは閉じておこう。

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