【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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125:意図せぬ相対

 新型のデモンストレーション。

 その日が迫って、俺は焦りに似た感情を抱いていた。

 不安と言ってもいい、アレには乗ってはいけないと俺の心が告げていた。

 得体の知れない何かと接触する危険を孕む悪魔の機体。

 阿修羅システムと呼ばれるものが起動したが最後、俺は自由を奪われてしまう。

 自分自身も知らない何かに、体の主導権を奪われてしまうのだ。

 

 だが、俺に拒否権は無い。

 

 この場所に来た時点で、デモンストレーションに参加する事は決まっていた。

 もしも断ろうものなら、俺は天子との接触の機会を失う事になる。

 それは絶対にダメであり、俺は心の警鐘を無視する様にシュミレートに臨んでいた。

 ささやかな抵抗として、アレから一度も阿修羅システムを起動していない。

 心が落ち着いていれば、アレは発動しないのだと理解していた。

 だからこそ、昂りそうになる心を落ち着かせながら、何度も戦った。

 

 クロウ・ハシマは何も言わない。

 褒める事も、罵倒する事もせずに。

 作業のように挨拶を済ませれば、何処かへと去っていく。

 不気味だった。阿修羅システムを使わない俺に何も思わない筈がない。

 強引に阿修羅システムを起動させようと企むものかと考えていたのだ。

 しかし、奴はそんな素振りは一切見せず。

 ただ黙って実験を眺めながら、何かを考えている様子だった。

 

 新型の調整は最終段階に入って。

 遂に、デモンストレーションを行う日を迎えてしまった。

 シュミレーターでは無い。本物の新型に乗る日が来たのだ。

 俺は白狼の前に立った時に恐怖に似た感情を抱いていた。

 心が怯えていて、乗る事を最後まで拒絶していた。

 

 しかし、俺は白狼に乗り込んだ。

 輸送機の中で揺られながら、俺は考えていた。

 このままデモンストレーションは安全に終わるのか。

 阿修羅システムを使う気の無い俺に、奴らは何かをしてくるのか。

 

 そんな事ばかりを考えていれば、デモンストレーションの舞台についてしまう。

 

 ディスプレイにはクロウ・ハシマの顔が表示された。

 奴は薄い笑みを顔に張り付けながら、俺を見つめて来る。

 俺は黙ったまま操縦レバーを握って、出撃の時を待つ。

 

《……今回のデモンストレーションを行う舞台は、東源国が使っていた廃鉱だ。君には我々が用意した敵と戦ってもらう。数や敵が乗る機体の情報に関しては悪いが伏せさせてもらう。これは実戦を想定してのものだ。相手を殺すつもりで、戦ってもらうよ。でなければ……言わなくても分かるね?》

「……了解」

 

 言わなくても分かるというのは、本気で戦わなければ俺が殺されるからだろう。

 相手は俺を殺す気で掛かって来る。

 だったら、俺も相手を殺す気で掛からなければ俺の命がない。

 そう言いたいのだろうと理解して、俺は無表情でデモンストレーションの内容に了承した。

 

 俺は通信を切断して、送られてきた座標に向かおうとした。

 しかし、クロウ・ハシマはそれを止める。

 俺は何か言い残した事でもあるのかと思って奴を見ていた。

 すると、奴は目を細めて笑いながら、穏やかな口調で俺に話しかけてきた。

 

《……君が阿修羅システムを使わないようにしていたのは知っている。アレによって、君の内に秘められた何かが呼び覚まされたのだろう? 君はそれを拒んでいる。違うかね?》

「……何が言いたい」

《いや、私はただ……逃げていては何も始まらないのではないかと思ってね……いや、ただの老人の戯言だ。今の言葉は聞き流してもらって構わない……さぁ出撃したまえ。君の活躍を、心から期待しているよ》

「……」

 

 奴は笑みを浮かべながら俺に期待していると言った。

 俺はそれに何も返すことなく通信を切断した。

 そうして、輸送機のハッチが開かれていくのを見つめた。

 

 単機での出撃の為に用意された無人の輸送機。

 カーゴのようになった部分に機体を搬送して。

 左右のアームが武器などを掴んで渡してきた。

 渡されたショットライフルは特殊な工程で製造された特注品だった。

 実体弾ではなく、エネルギー弾を使用したショットライフルで。

 限界までチャージをして弾を放てば、従来のメリウスであれば鉄くずに変えてしまう代物らしい。

 

 チャージ用の内臓バッテリーは詰め替えタイプで。

 フルチャージであれば、合計三十発までは問題ないと聞いていた。

 イソカワからは平均して五十発ほど打てば換装するタイミングであると言われた。

 バッテリーが消耗して、換装が必要になればシステムから通知が来る。

 もしもそれを無視して使い続ければ、自動的にバッテリーは排出されるようだ。

 結エネルギーの使用も可能であり、阿修羅システム時の威力は優に二倍を超えるらしい。

 

 替えのバッテリーは腰に六つ携行する。

 ライフル自体のバレルも、これ以上を超える使用は不可能らしい。

 結エネルギーは従来のエネルギーよりも発する熱の量が多い。

 だからこそ、阿修羅システムを起動して結エネルギーを使用する時は装甲を展開して炉を露出させる。

 これにより発する熱を外へと逃がしているようだが、バレルに関してはそうもいかない。

 連続して使えばどんなに大事に使おうともバレルは使えなくなる。

 装甲の展開に関しても苦肉の策であり、装甲の強度はやや下がってしまうらしい。

 

 ライフルを装備して、開いていくハッチから外の景色を見る。

 雲の切れ間から下で待っている大地が見えた。

 黒っぽい色をした砂の大地であり、近くには活動を停止している火山が見えた。

 人が住んでいる様子はなく。

 小さな島には壊れた建物などが点在していた。

 

「……やるしかないか」

 

 操縦レバーを握る。

 そうして、覚悟を決めて――ガシャリと音がした。

 

 機体をロックしていたアームが外れて、機体は下へと降下していく。

 センサーに光が宿って、システムを戦闘モードにする。

 ショットライフルをしっかりと掴みながら、ゆっくりとペダルを踏んでスラスターを点火した。

 スピードを上げて下へと降下して、ぐんぐんと地面への距離を縮めていった。

 そうして、途中で機体の向きを変えてスラスターを下に向ける。

 勢いの乗っていた機体は徐々に減速していく。

 やがて、機体はゆっくりと停止して、白狼の脚部が大地を踏みしめた。

 

 周りにセンサーを向けるが敵の反応は無い。

 レバーを動かして移動を始める。

 地面を滑空しながら、俺は敵の居場所を探った。

 

 倒壊した建物に、放置された作業用のメリウス。

 岩盤掘削用の巨大な壊れたドリルに、濁った水が溜まった大きな浴槽。

 人がかつて住んでいて、此処で仕事をしていたのは分かる。

 しかし、今はそんなものはどうでもいい。

 敵と戦う為に此処へ降りたのに、敵が姿を現さないのはどういうことなのか。

 俺は警戒心を強めながら、静かに移動をして――電流が走る。

 

 勘のようなものが働いた。

 俺は寸でのところで機体を動かしてその場から離れる。

 すると、数秒遅れて俺が通ろうとした道が大きく爆ぜた。

 激しい電流が迸って、視界がバチバチとスパークする。

 強い閃光を見て、俺はすぐに捕縛用の電磁ネットであると理解した。

 何故、敵が電磁ネットを使用したのか――ペダルを強く踏む。

 

 機体が一気に加速する。

 全身に強い圧を受けて、ビリビリと機体が振動する。

 そうして、頭部スレスレを弾丸が通過していった。

 狙いが外れた弾丸は、半壊した建物を完全に破壊した。

 スナイパーからの狙撃であり、俺は加速の乗った機体をそのまま敵の方向へと動かした。

 ぐんぐんと距離を縮めて、スナイパーの二射目を回転して避ける。

 装甲を軽く撫でたそれを無視して、ショットライフルを構えて――咄嗟に、レバーを引く。

 

 敵の姿を視認して、上へと上昇した。

 大きく目を見開きながら、スナイパーの機体を見つめる。

 見た事のある機体だ。そして特徴的なスナイパーライフル。

 共に戦ってアレに何度も助けられた。

 距離を離しながら見つめていれば、建物から煙が上がった。

 水柱のように上がったそれから何かが飛び出す。

 それは両手に巨大なガトリングガンを持っていて、ガラガラと音を立てて弾が乱射された。

 緑色の単眼センサーを光らせて、装甲の厚いそれが飛んでくる。

 武骨な機体にも見覚えがあって、アレらは――オッコとトロイか?

 

 猛然と襲い来るトロイのファイアボルト。

 機体を動かして距離を取ろうとする。

 しかし、オッコが俺の逃げ道を塞ぐように弾丸を放ってきた。

 俺は舌を鳴らしながら、上昇するのを止めて機体を一気に下降させた。

 ファイアボルトのガトリングガンは危険だ。

 あの弾数に加えて一発一発の威力も高い。

 おまけにアレらは実体弾であり、喰らえば白狼ではひとたまりも無い。

 

「何で、お前たちが……くそ! 通信が繋げられない」

  

 相手に通信を試みるも不可能だった。

 得体の知れない相手からの通信を受ける筈がない。

 いや、そもそも通信自体出来ないようにプロテクトが――まさかッ!

 

 俺はクロウ・ハシマの顔を思い浮かべた。

 奴が最後に俺に発した言葉、そしてあの笑みの意味。

 それはこの展開を俺に差し向けたからこそ出たもので。

 俺がどんなに拒もうとも、阿修羅システムを起動させるための状況を作り出したのかッ!

 

 機体から降りるか――いや、危険だ。

 

 武装を解除してみるか――ダメだ。クロウ・ハシマが見ている。

 

 此処で戦いを放棄するのは、東源国を裏切る事になる。

 もしも一度でも裏切れば、もう二度と奴らに接触する機会はない。

 戦いながら、選択肢を迫られる。

 逃げるか、戦うか――俺は強くペダルを踏んだ。

 

 機体を一気に加速させて地面スレスレを飛行する。

 オッコは機体を上昇させて上空から狙い撃ちしようとしてきた。

 俺はショットライフルの銃口を地面へと向けて発射した。

 エネルギー弾が拡散されて、地面へと当たって建物を破壊する。

 バラバラと残骸が散らばって、土煙が舞った。

 何度も何度も弾を撃ち込めば、視界は悪くなって何も見えなくなる。

 俺は降下する前に手に入れたデータを元に飛行する。

 ジグザグに建物を避けながら飛行して――脇腹を弾が掠めた。

 

「――チッ!!」

 

 移動経路を予測して弾丸を撃ち込んできた。

 俺は揺れる機体を制御しながら、掘られた穴の中に飛び込む。

 薄暗い鉱山の中では、残された鉱石が光を発していた。

 俺はシステムに損壊状況を報告させる。

 

《損害軽微。戦闘に支障はありません》

「……狭い場所でなら、狙い撃ちされる心配は無い……アイツの得意な殴り合いか」

 

 薄く笑みを浮かべながら、汗が頬を伝っていく。

 かつての仲間との戦いで。

 戦いたくないと思っていたトロイのファイアボルトとの撃ち合いだ。

 二人が穴を潜って来たのを感じながら、俺は汗ばむ手でレバーを握りしめる。

 退くことも殺すことも出来ない戦いで、俺は静かに戦う決意を固めた。

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