【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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127:戦士の存在意義(side:トロイ)

 マサムネの乗る白い機体の動きが一変した。

 スラスターからつんざくような音が鳴り響いたかと思えば機体は一気に加速した。

 現れた敵の弾丸の合間を縫うように飛行して、瞬く間に敵に接近する。

 空中で静止して、至近距離で敵を見つめる。

 敵は驚きながらも、チェーンブレードで斬りかかった。

 しかし、刃がマサムネの機体に触れる事は無かった。

 

 スラスターを動かして機体を回転させた。

 一瞬の敵の動きを読んだ上で、触れるか触れないかのギリギリで移動した。

 敵の背後に回りながら、奴はくるくるとショットライフルを回転させた。

 そうして、背後より近づいてきた敵に対して弾を放つ。

 後ろを見る事無く弾丸を放てば、襲い掛かって来た敵の一人に当たる。

 高出力のエネルギー弾に接触して、機体が大きく揺れた。

 そうして、ダメージを負い硬直した敵へと接近して蹴りを放つ。

 

 攻撃を受けた敵は装甲を大きく破損させて壁へと突っ込む。

 凄まじい勢いで壁にぶつかってガラガラと瓦礫が降り注ぐ。

 センサーの光をパチパチと点滅させながら、青い機体に乗ったパイロットは瓦礫に潰される。

 パラパラと砂埃が舞って、瞬く間に一機が破壊された。

 通信越しにマサムネはくつくつと笑っていた。

 

 怒りにかられ殺された敵の仲間がマサムネに攻撃を仕掛ける。

 連携の取れた攻撃であり、迷いの無い動きだった。

 しかし、マサムネはそれを全て見る事も無く避けていた。

 まるで、体の至る所に目がついているように。

 奴は踊りでも踊るように軽やかな動きで、敵の弾丸を全て回避した。

 いや、それだけじゃない。攻撃を避けながら、奴はライフルの弾丸を放っている。

 天井へと打ち込んで崩落を起こそうとしている。

 ビリビリと天井に亀裂が走って、俺たちは危機を感じて洞窟からの退避を選んだ。

 マサムネとの通信は繋がったままで。俺は必死に奴に声を掛けた。

 しかし、マサムネに声は届いていない。奴はくつくつと笑いながら、敵と戯れている。

 

 崩落の始まった洞窟から抜け出す。

 グングンとスピードを上げて瓦礫を避けながら飛行。

 ガラガラと天井から岩が降り注ぐ中で、汗ばむ手でレバーを操作する。

 まだか。まだか。まだか――見えた!

 

 洞窟の出入り口が見えてきた。

 外からの光が差し込んでくるそれを目指して突き進む。

 そうして、オッコと共に光の漏れ出す出口を潜って――出入口が塞がれた。

 

 ガラガラと瓦礫が落ちて、出入り口を塞ぐ。

 完全にマサムネたちは洞窟内に取り残された。

 俺は呼吸を落ち着かせながら、オッコに声を掛けて内部の様子を聞いた。

 

《……生体反応はロストしていない……移動を始めた? これは……》

「どういうことだ? 道は一つじゃ」

《待て。今、情報を受け取った。マップとの照合を――まさかッ!?》

 

 オッコが驚きの声を上げる。

 俺はどうしたのかと心配した。

 すると、オッコは俺に洞窟内のマップを渡してきた。

 マサムネの生体反応がマップ内に表示されていて凄まじい速さで移動している。

 道となるものは存在するが、それは限りなく小さく狭かった。

 

《アイツは高速移動をしながら、メリウス一機がギリギリ通り抜けられる道を通っている……異常だ。こんな飛行、誰にも出来ないぞ……》

「敵の反応は?」

《マサムネを追跡している……だけど、途中でロストしている。操作を誤ったか。マサムネに撃墜されたか……何方にせよ。あのマサムネはいつもの奴じゃない。何も分からないが、奴の指示に従った方が良いかもしれない……どうする。ゴウリキマルちゃん?》

「ゴウリキマルって――いるのか!?」

 

 今度は俺が驚く番だった。

 そこにマサムネの相棒がいるのかと聞けば、奴はいると答えた。

 そうしてディスプレイに表示されたのは、かつて共に戦った戦友の顔だった。

 浮かない顔をしているものの、取りあえずは元気そうで。

 俺はくだらない話をしそうになるのを堪えながら、本当に退くのかとゴウリキマルに聞いた。

 

《……退きたくない。でも、お前たちを危険に晒せない。通信機越しに聞いたアイツの声……何かに抵抗して苦しんでいた声だった……まるで、自分が自分でなくなるような……》

《……心当たりはある。マサムネちゃんと一緒に無人機たちと戦った時。アイツは笑っていた。地獄のような光景が広がる中で、子供みたいに笑っていた……さっき聞いたマサムネちゃんの笑い声。まるで、あの時のアイツみたいだ》

 

 オッコは過去の記憶を思い出していた。

 ゴウリキマルはあのマサムネの異変に危機感を抱いていて。

 俺自身も得体の知れない笑い声に不気味さを感じていた。

 アイツの声なのに、アイツとは思えない。

 

 俺は暫く考えた。

 折角、マサムネの情報を得て駆け付けたのに。

 このまま、アイツから自分たちの意思で離れていってもいいのかと。

 今までの三年間、碌な情報も無く、アイツが潜伏している場所すら分からなかった。

 何処で戦っていたのかは記録で知っている。

 俺たちの前から姿を眩ませてから、アイツがどれだけ辛い経験をしてきたのかも分かる。

 記録に残っている戦闘を見て、アイツが何度も何度も地獄を見させられ続けた事を知った。

 

 戦って、戦って、戦って――アイツは何を手に入れた?

 

 子供たちが死んでいって、一般人を巻き込んで。

 裏切りにあって、信頼していた仲間を失って。

 何回も何回も何回も、アイツは心を傷つけていった。

 それでもマサムネは戦っている。今も何かに取り憑れたように戦っていた。

 アレはきっとマサムネの心が生み出した何かだ。

 絶望を味わって苦しみの中で生まれた何かで。

 

 

 ――俺たちは退いてはいけない。

 

 

「戦おう。アイツを置いてはいけない。俺たちは仲間だ」

《……まぁそうだな。仲間なら、置いてはいけねぇよな。ゴウリキマルちゃん?》

 

 仲間を見捨てたりはしない。

 一度は離れていったマサムネだけど、それは俺たちを思っての行動だ。

 もう二度とアイツに辛い選択はさせない。

 これ以上、アイツの心を傷つけない為に、俺たちは此処でアイツと向き合う。

 

 ゴウリキマルは何かを考えていた。

 本当に俺たちをアイツと戦わせていいのか考えているのか。

 俺は迷う必要は無いと言おうとした。

 

《あぁもう! 戦うって言ってるんだから! リッキーは頑張れって言うの!》

《あ、おい!》

《……だ、そうだ。やれるかぁ。トロイ?》

「あぁ勿論だ! アイツとまた酒を飲む為にもな!」

 

 横から聞こえてきた声にも聞き覚えがある。

 誰よりも明るく元気な女子高生の傭兵だ。

 アイツも元気そうであり、ゴウリキマルに檄を飛ばしていた。

 俺はニヤリと笑って、両手のガトリングガンを構えながら前を見た。

 すると、オッコもスナイパーライフルを構えて笑う。

 

 

《……馬鹿野郎……でも、ありがとう》

「へ、気にするな!」

 

 

 本心で言えば怖い。

 英雄と呼ばれた男だ。

 底の見えなかったアイツと本気で戦う事になる。

 俺たちはマサムネを行動不能にする事を目的として戦う。

 しかし、今のアイツは俺たちを殺す気で掛かって来るだろう。

 

 戦う覚悟は決まった。

 その瞬間に山の一部から土煙が上がった。

 何かを破壊して、煙を突き破って上空へと飛ぶそれ。

 赤黒い光の粒子をまき散らしながら、それはくるくると回転して――ピタリと止まる。

 

 両手にショットライフルを持ちながら、優雅に空中に浮遊する白い機体。

 赤黒いエネルギーが機体全体に流れていて、顔を覆う装甲が展開されていた。

 血の涙を流しているかのような顔であり、鬼のようにも見えた。

 ピリピリとあの機体から発せられる殺気は禍々しくて、今にも胃の中のものをぶちまけそうだった。

 怯えや不安を抑え込みながら、俺はマサムネが乗った機体を睨みつける。

 そうして、ダメもとで繋がった通信を通して奴に言葉を飛ばした。

 

「聞こえてるか? 聞こえてるなら、今すぐ武装を解除するんだ。一緒に帰ろう」

 

 返事は返って来ない。

 代わりにくつくつと笑う奴の声が聞こえてきた。

 そうして、ゆっくりと底冷えするような声で奴は声を発した。

 

《何も、理解していない。お前たちは、俺も、俺の過去も知らない……俺はとっくに帰る場所を失った》

「何? 一体どういう――ッ!?」

 

 妙な事を言ってきた。

 俺は思わずどういう意味なのかと問いかけた。

 しかし、それを遮るように奴はスラスター噴かせて接近してきた。

 俺は咄嗟にガトリングガンの銃口を向けて弾を乱射する。

 牽制するつもりで放った弾丸だ。

 しかし、奴は一切動じることなく前へと進む。

 そうして、機体を回転させて俺の弾を回避するように飛行していた。

 最短距離での飛行であり、俺は舌を鳴らしながら距離を取る。

 

 オッコも距離を取りながら射撃する。

 マサムネはそんなオッコの攻撃を予測して自らのライフルから弾を発射していた。

 空中でオッコの弾とマサムネの放ったエネルギー弾が接触して弾ける。

 避ける素振りを見せる事無く、奴は洗練された動きで機体を動かしていた。

 

 流れるように、手足のように機体を操作していた。

 まるで、機体と人間が合体しているような動きで。

 寸分の狂いも無く、熟練のパイロットをも上回る機動を俺たちに見せつけてきた。

 距離を取ろうとしても逃れられない。

 すぐに至近距離に奴の機体が迫ってロックオンをされる。

 コックピッド内に警報が鳴り響いて、俺は冷や汗を流しながらブースターを操作して機体を回転させた。

 迫って来た奴へと機体を近づけて、手に持ったガトリングガンを当てようとした。

 泥臭い戦い方だが、これが俺に一番合っている。

 意表を突くような形で攻撃をしてやった――そう思っていた。

 

 マサムネは迫って来たガトリングガンを見ていない。

 当たる筈だと思っていた。

 しかし、奴のスラスターから音が鳴ったかと思えば、奴の機体は回転していて。

 凄まじい勢いで迫った俺のガトリングガンの上を転がるように避けて見せた。

 そうして、避けながら銃口を俺へと向けてきて、それから光が見えた。

 

 

 かつてないほどの危機感。

 

 心が激しく警鐘を鳴らして、心臓を冷たい手で握りしめられたような感覚を覚える。

 

 殺られる。確実に、此処で俺は撃墜される。

 

 過去の記憶がフラッシュバックして、走馬灯のようなものが脳内を駆け巡って――強い衝撃を受けた。

 

 

 コックピッド内が激しく揺れて。

 警告音が鳴り響き、真っ赤な光が灯る。

 俺は歯を食いしばりながら衝撃に耐えて。

 咄嗟に姿勢を制御して、大きく距離を取った。

 

 見れば、オッコが銃口をマサムネの乗る機体に向けていた。

 銃口から煙が上がっていて、マサムネを見れば手に握っていたショットライフルを落としていた。

 くるくると回転しながら、手から零したそれが空を舞う。

 マサムネは己の手を確認してから、オッコが放つ弾丸を避ける。

 ひらりと舞うように全てを躱してから、手から落とした銃を回収した。

 

《ボケっとするなッ! 隙を見せたら最期だッ!!》

「あ、あぁ! 悪い。助かった」

 

 どうやら、あの一瞬でオッコが機転を利かせたようだ。

 マサムネの銃身を弾丸によってブレさせた。

 それによって、俺の機体は奴のエネルギー弾の直撃を免れた。

 しかし、機体の半分が弾に当たってしまった。

 右手の感度が鈍く、装甲の厚いファイアボルトがたったの一発で中破に追い込まれた。

 いや、いくらか貰ってたからなのもあるだろうな。

 ダメージが蓄積された状態で大きな攻撃を受けた。

 それによって機体のパフォーマンスが一気に低下した。

 

 各部から火花が散って、エネルギーの消費も激しい。

 動力系がやられたか……長くはもたないな。

 

 殴り合いの戦闘が基本のファイアボルトだが、これでは戦えない。

 奴のエネルギー弾は俺にとって脅威で。

 この装甲も溶断できるほどの出力を持っている。

 強い警戒心を抱きながら、くるくると両手のショットライフルを回すマサムネを睨む。

 

《戦う事が俺に与えられた使命。戦い続ける事が俺の存在意義……お前たちも俺の糧にしてやる》

「糧だと? お前は一体、誰なんだッ!」

《誰でも無い。何者にも成れない。人間に成れなかった、ただの――化け物だ》

 

 にたりと笑ったかのように言葉を発した。

 恨みでも怒りでも無い。

 それが当然だと受け入れているかのような発言だった。

 奴はけたけたと笑いながら、スラスターを噴かせて向かってくる。

 猛然と進む敵を見つめながら、俺はマサムネの身を案じる。

 

 

「お前は化け物じゃない。お前は、俺たちの――仲間だッ!!」

 

 

 叫ぶようにマサムネに呼びかける。

 しかし、奴は狂ったように笑うだけだった。

 俺は銃を乱射しながら、強い殺意を発するナニカと対峙した。

 互いの弾が交差して、装甲を傷つけながら俺は歯を強く噛みしめてレバーを強く握った。

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