【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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131:古代兵器

「先ず初めに、オーバードという言葉に聞き覚えはあるか? 正直に申して見よ」

「……無い」

《知ってる。アルフォンスたちが探している》

「アルフォンス……あぁ告死天使の奴か。確かに奴も探しているな」

 

 どうやらサイトウさんは知っているらしい。

 そして、オーバードというものは告死天使も探している様だ。

 恐らくだが、告死天使を欺けという言葉の意味はこれにあるのだろう。

 オーバードを告死天使よりも先に見つける為か……そうに違いない。

 

 俺は黙ったまま、説明の続きを待つ。

 すると、天子は頬杖を突きながらゆっくりと説明を始めた。

 

「オーバード。それは遥か古の時代に生み出された古代兵器。この時代では存在を知る者もいないような、遥か昔の産物だ……告死天使やあの女はそれを欲している。そして、お前が追い求めている存在。あのゴースト・ラインもオーバードを探し求めている」

「――ッ! そのオーバードは何なんだ。どれだけの力があるんだ」

「……我も詳しくは知らん。何代も何代も魂を”継承”し続けて、記憶が所々欠けているのだ。許せ」

「魂の継承……まさか、お前は」

 

 魂の継承という言葉に心当たりがあった。

 それは屍人の部隊が使っていた技術で。

 記憶をコピーしてクローンにインプットするというものに似ている気がした。

 俺がそんな事を考えていれば、天子は目を細める。

 

「……まさか、ゴースト・ラインの出来損ないと一緒にしているのか。もしそうなら、首を撥ねるぞ」

「……違うのか」

「……ふ、ははは! 正直な奴だ。よし、許そう。ふむ、そうだな。確かに、奴らの使っている出来損ないの作り方は、我が使っている技術と似ている。いや、似ていない。アレはパクリだ。その証拠に、アレは十年以上も前の記憶は継承できないからな。継承できたとしても、それはただのメッキ。そうだったのだろうという憶測で作っただけの偽物だ。我は違う。完璧に記憶を受け継いでいくのだ。肉体さえあれば、我は不死鳥のように蘇る。どうだ、凄いだろぉ?」

「……お前が不死身なのは分かった。幼いように見えて、俺よりも年上なのも理解した……それで、何故ゴースト・ラインと告死天使たちはオーバードを探しているんだ」

「ふ、可愛げのない奴よ……そうさな。簡単に言えば、オーバードは、不可能を可能にする代物だ」

「不可能を、可能に?」

 

 言っている言葉の意味が分からない。

 不可能を可能にするとはどういう事なのか。

 俺が考えていれば、天子はくすくすと笑いながら答える。

 

「言葉通りの意味だ。大地を創造し、人間を生み出し、世界を構築する力――神に等しい力だ」

 

 天子の言葉に少なからず驚く。

 天地を創造し、人間も自在に生み出せるのだ。

 世界を構築という言葉が真実であれば、地球以外の惑星にも影響を与えるのか……信じられない。

 

 そんなものが遥か昔に存在していた事すら疑わしい。

 もしもあったとしても、その技術が現代にまで継承されていないのはどういう事なのか。

 意図的にオーバードに関する記録を消したのか。

 それとも、オーバードというものは人間が作り出した空想のモノなのか。

 何方にしても、天子の言葉だけを信じられる筈がない。

 

「オーバードの力は理解した……だが、それを信じる事は出来ない。そんなものがあれば、今頃は」

「今頃は、何だ? 誰かが世界の支配者となっていると? はは、それは違う。オーバードは意志を持った兵器だ。選ばれし人間の前にしか姿を現さない」

「……意思を持った兵器か。益々、信じられなくなった」

「ははは、頭の固い奴だな……だが、お前は信じざるを得ない。何故ならば、お前の追っている組織は、それを探しているのだ。信じなければ先には進めぬぞ」

 

 天子は頬杖を突くのを止めて大きく伸びをした。

 猫のように目を細めながら、椅子の上でだらけ切っている。

 俺はそれを冷めた目で見ながら、どうするべきかと思った。

 

 ゴースト・ラインを知っているのはこの女だ。

 クローン技術や記憶のインプットに関する技術も知っていた。

 十中八九が、ゴースト・ラインとの関りを持っていたのだろう。

 そうでなければ、俺が話してもいない奴らの情報を知っている筈がない。

 

 しかし、そのオーバードの話を信じてもいいのか?

 

 御伽噺の中に登場する魔法の道具のようなものだ。

 あるのかも疑わしい物であり、そんなものが本当に存在するとゴースト・ラインは思っているのか?

 

 手に入れた情報に信憑性は無い。

 唯一信じられるのは、この女がゴースト・ラインと繋がっていた事だけで。

 俺は一人で考えながら、ジッと女を見つめていた。

 

 天子は俺の疑いの視線など気にしていない。

 自分の片手を翳しながら、爪を見つめていた。

 そうして、ボソリと独り言のようなものを呟く。

 

「ゴースト・ラインと我は一時的にだが協定を結んでいた。我が資金と場所を提供する代わりに、奴らは我にそれ以上の利益をもたらすようにと……奴らは欲深かった。技術や知識も欲してきたのだ。確かに、無人機の技術には感心した。まさか、幼子を使う事によって意思を持つコアを作るとはなぁ。まぁ、アレではオーバードには程遠いがな」

「……何が言いたい」

「いやぁ、ただ奴らは度し難いほどの強欲の持ち主だとな……まさか、我の記憶の継承術を真似しただけでは収まらず。魂を再構築する術を見出すとは……我はな、奴らの底知れぬ闇を恐れて手を引いたのだ。奴らはオーバードを手に入れるだけが目的ではない。オーバードを使える人間を、自らの手で生み出そうとしているのだ」

 

 天子は俺の目を見つめながらハッキリと言った。

 オーバードを手に入れるのはただの通過点で。

 奴らの真の目的は、オーバードを使える人間を創り出す事だと。

 つまり、魂の再構築も無人機の開発も、全てはオーバードに近づく為で……本当なのか?

 

 オーバードは使い手を選ぶのは分かった。

 それを真実だと認めたとして、ゴースト・ラインが無人機の開発を行ったのはそれが関係しているからか。

 オーバードを求めて、意志を持つ兵器を開発して。

 似通った贋作を生み出して、その次は魂を再構築する技術を生み出した。

 無人機はオーバードと同じ意思を持つ兵器として開発してそのメカニズムを知る為で。

 魂の再構築は確実にオーバードを扱える人間を生み出す為。また、選ばれし人間を人工的に作り出す為で……筋は通っている。

 

 オーバードというものの姿形は分からない。

 どれほどの大きさで、どうすればそれが起動するのかも分からない。

 槍なのか、大砲なのか。それとも、武器とは呼べない形なのか?

 

 ゴースト・ラインもそれについては知らないかもしれ……いや、待て。

 

 可笑しい。奴らはオーバードを知っている。

 何故、奴らはオーバードを知っているのか。

 天子が知っている事は理解できた。

 遥か昔から魂を継承したことによって、その存在を覚えていたのだろう。

 しかし、天子自身が先ほど言っていたではないか。

 記憶が所々欠けた状態だと……確かめるか。

 

「……天子。お前は、オーバードの事をゴースト・ラインに話したのか?」

 

 少ないが可能性としてはあり得る。

 俺の時のように、ゴースト・ラインの幹部かボスに協力を仰いだのだ。

 だからこそ、ゴースト・ラインはオーバードを探し求めた。

 しかし、俺はそれは違うと考えた。

 

 天子は大きく欠伸を掻きながら、首を左右に振った。

 

「教えていない。あんな胡散臭い連中に、話す訳が無いだろう」

「……なら、何でアイツ等はオーバードを知っている。お前のような人間が、他にもいるのか」

「いない。断言できる。我以上に世を生きる人間は存在しない……可能性は一つだけだ」

 

 天子はにやりと笑って人差し指を天に向ける。

 

「我らは遥か昔より、特殊な能力に目覚めた者を”覚醒者”と呼ぶ。ゴースト・ラインの連中はそんな奴らをイレギュラーと呼称しておったな……お前さん、心当たりがあるだろ?」

「……未来視か」

「ははは! やはりだ! お前も覚醒者か! 我の勘が当たったようだな!」

 

 天子は愉快だと言いたげに手を叩く。

 俺は口を噤んだまま、奴の言葉を待った。

 

 やがて、一頻り笑うと天子はゆっくり息を吐く。

 

「……覚醒者という存在は、遥か昔より存在した。そのどれもが未来を見る力を持っていた。数秒前の未来が見える者、数日後の未来が見える者、存在するかも分からない未来が見える者……覚醒者の能力には幅があった。大昔では、神からの御加護だと宣う人間が大勢いたが……今の時代を生きる我は、確信をもって断言できる――この力はマザーのものだと」

「マザーの?」

 

 マザーの力とはどういう事か。

 マザーはこの世界を管理しているだけの存在ではないのか。

 

 天子は俺の顔を見てニヤリと笑う。

 

「知っているかもしれないが敢えて言おう。マザーは数千年先の未来すら予測できる。それはつまり、己が見た未来をこの世界に住む人間に見せる事も出来ると言う事だ……どういう事か分かったか? つまりだ。マザーは己の力の一端を、どういう訳か人間に貸している。奴の心までは分からないが、奴の力の一端であることは確信できた」

「……お前が言いたいのは、ゴースト・ラインの中にも覚醒者が存在して。遥か未来を見た事で、オーバードの存在を偶然に知ったと?」

「うむ、そうだ。それしか考えられない……まぁ他にも可能性はあるにはあるがな」

 

 天子は説明を終えてゆっくりと息を吐いた。

 そうして、パンパンと手を叩くと空間が歪んで何者かが姿を現した。

 白い衣装を身に纏って、顔を布で隠した怪しげな人間。

 細身の体のそいつは、グラスと透明な容器を持っていた。

 氷と水が入った容器を傾けて、中身をグラスに注ぐ人間。

 そうして、注ぎ終えたそれを天子の顔に近づけた。

 天子はだらしのない姿勢でそれを飲んでいく。

 

 ごくごくと冷たい水を飲み干して、天子は爽やかな息を吐く。

 

「ご苦労。下がれ」

「御意」

 

 天子が命令すれば、顔を隠した人間は姿を消す。

 霞のように姿が消えて、完全に景色と同化してしまった。

 恐らくは、光学迷彩に似た技術で。

 あの無数の視線はこいつらの物だったのかと思った。

 

 俺が周りを警戒していれば、天子はそんな俺を無視して話を進めた。

 

「それで、晴れてお前たちは我の下僕になったのだ。さっそくだが、働いてもらうぞ」

「……オーバードの在り処に心当たりがあるのか」

「いや、残念ながら無い……だが、知っていそうな人間には心当たりがある」

「は? お前はさっき他に知っている人間はいないと」

「ん? 言ったが? オーバードというものをほぼ完ぺきに理解している人間は我以外にいない。ただ、おぼろげな姿。もしくは、偶発的にその存在を知覚した人間ならいる……信じがたいが、その中にはオーバードが眠る場所を見たという人間もいる」

 

 オーバードというものは知らない。

 しかし、その姿を見たことがある……予知夢か。それに近い何かか?

 

 これもマザーの力の一端なのかと思った。

 だが、今はそれを考えている場合ではない。

 オーバードの在り処を知っている人間がいるのなら、速やかに聞きにいかなかればいけないだろう。

 

 俺が早速、その場所を天子から聞こうとすれば、奴は掌を翳して遮る。

 

「待て、早まるな。幸いな事に、それを見た人間と我が手に入れたい古文書が保管されている場所は同じだ。先ずは、お前たちには古文書が保管されている帝都博物館に行ってもらう。そして、古文書を手に入れる……のは無理だろうから。同行する考古学者に解読させて、その情報を我に教えろ。少なくとも、オーバードが選定する人間の種類くらいは分かるやもしれん。話しを聞きに行くのは、その後でも問題ない」

「古文書の解読……考古学者に同行するのか?」

「あぁお前たちには東源国から歴史の調査と題して博物館に派遣される予定の考古学者の助手として同行してもらう。知識が無くとも、護衛くらいは出来るだろ?」

 

 考古学者の護衛として帝都博物館に……帝国に向かうのか。

 

 東源国では、情報が統制されているので自由に出入りが出来る。

 しかし、帝国や公国では俺たちはお尋ね者だ。

 顔を晒せば治安部隊が駆けつけて、その場で銃殺という事もあり得る。

 俺はまだ復活する可能性はあるが、サイトウさんはどうなるかは分からない。

 

「案ずるな。簡単な変装ではない。東源国の技術を使って、お前たちを別人に変えてやる。なぁに、整形では無いからすぐに戻れる。心配するな」

「……」

「ははは! 嬉しくて声も出んか! ははは!」

《……終わった?》

 

 取り敢えずは、方針は決まった。

 その考古学者と共に帝都博物館へと行く。

 そして、館内で保管されている古文書を何とかして閲覧する。

 危険はあるが、完璧な変装が出来るのなら少しは安心だ。

 

 天子は話は纏まったと視線を控えていたミネルバに向ける。

 

「後はお前に任せた。手筈を整えろ」

「承知致しました」

「……では、期待しておるぞ……ふあぁ、我は疲れた。もう寝る」

 

 パンパンと手を叩けば、また顔を隠した人間たちが現れる。

 彼らは小さな神輿のようなものを担いでいた。

 天子はのそのそと動いて神輿の中へと乗り込む。

 そうして、天子が乗った神輿は姿を消す。

 気配が完全に消えたのを感じて、俺は大きく息を吐いた。

 

「……良かったんですか?」

《いずれはこうなった。問題は無い》

「……なら、良いです」

 

 バッチ越しにサイトウさんの声を聞く。

 彼女の返答に少しだけ安堵して、俺はミネルバについていく。

 サイトウさんはすぐに合流すると言ってきた。

 俺は待っている事を伝えてバッヂから手を離した。

 

 狙い通りゴースト・ラインの手掛かりは掴めた。

 しかし、何故か告死天使を裏切る形になってしまった。

 奴を敵に回すことは避けたかったが……奴の手にオーバードを渡すのはダメな気がした。

 

 ゴースト・ラインも告死天使も得体の知れなさでは同じようなものだ。

 何を考えている分からない上に、奴らの価値観は危険だ。

 三年も活動していれば、嫌でも奴の行動は目につく。

 敵であろうとも味方であろうとも、利用価値が無くなれば平気で捨てる。

 かつて身を寄せていた活動拠点ですら、奴は何も思うことなく切り捨てた。

 命を何とも思わない奴の手に、神に等しい力を渡してはいけない。

 

「……まだ、天子なら……どうなんだ?」

「何か言いましたか?」

「……何でもない」

 

 部屋から出ようとした時に振り返られた。

 俺は失言だったと思って口を噤む。

 告死天使やゴースト・ラインに渡るくらいなら。

 あの女に渡した方が何倍もマシだろう。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は神秘的な空間から出ていった。

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