【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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135:瞳の奥に宿る危険な光

 任務を無事に達成し、博物館内を歩いていく。

 アサギリ先生は熱心に展示されている物を見ていて。

 俺も何と無しに説明を聞いてはいたが、オーバードの事で頭の中は一杯だった。

 

 白き神と黒き神。

 二つの存在が明らかになった古代兵器。

 メリウスのような人型の兵器であり、完全な意志を持っている。

 選ばれそれを扱う事が出来る人間の特徴は分かった。

 しかし、そんな人間がこの世に存在するかは定かではない。

 

 穢れなき魂を持つ人間とは何だ。

 人間誰だって邪な感情は持っている。

 汚れを知らない人間はおらず。

 そんな人間はいないんじゃないかと思えた。

 可能性があるとすれば、赤子や子供だろうけど……幼子に兵器を扱える筈がない。

 

 そもそも、古文書の内容で言えば白き神は大人に力を貸していた。

 神官となるような人間であれば、それなりに歳を重ねて知識がある筈だ。

 一年二年の信仰心で神官になれる筈も無いからな。

 だからこそ、神と呼ばれた兵器も、使える人間をちゃんと見定めていると分かる。

 問題なのはそいつにとっての穢れ無き魂というのが、どういう人間なのかだ。

 終末を望むという事は世界の破滅を望んだという事と同じだ。

 そんな人間が穢れ無き魂を持っているのかと問われれば、俺は違うと答えるだろう。

 まるで分からないのだ。奴らの選別の基準が理解できない。

 

 黒き神もそうだ。

 大罪を受け入れし人間と書かれていたが。

 そもそもがどれほどの罪が大罪だと言えるのか?

 

 人殺しか、国家転覆か……どれも違うように感じる。

 

 罪は罪であり、大きさは無いように個人的に思う。

 人を殺せば重い罪であり、国家を崩壊させようとすればそれも罪だ。

 しかし、それは人間が決めた法律上の罪で。

 軍人は理由があって人を殺すし、テロリストの中には崇高な理想を掲げているものだっているだろう。

 全ての人間に罪があると言えばそれまでであり、大罪というものの境界線が曖昧だ。

 誰でもなれるようで、誰にもなれないかもしれない。

 

 二つの機体が求める人間。

 それを理解することは難しく、探し出すことも不可能に近い。

 オーバードの居場所が分かったとしても、それを使う事は無理だろう。

 だが、俺の目的はゴースト・ラインと告死天使の二つの陣営よりも先にオーバードを見つける事にある。

 見つけて確保さえできれば、後は天子が隠すだろう。

 奴でさえ、オーバードを使える人間を見つけ出すのは無理な筈だ。

 だからこそ、手に入れさえすれば俺は二つの陣営の計画を潰すことが出来る。

 告死天使には悪いとは思うが、どうしても奴は信用できない。

 サイトウさんも過去に奴に何かをされたようであり、恨みの様な感情を持っている気がした。

 俺自身も恨みとまでは言わないが、ゴウリキマルさんを裏切ったことを不信に思っている。

 何故、相棒であった筈のゴウリキマルさんを見捨てたとのか……結局、聞くことは出来なかったな。

 

 理由があれば……いや、ダメだな。

 

 理由があろうとも許せない。

 俺自身も彼女を裏切ったからこそ、許してはいけない。

 自分自身を許せないからこそ、告死天使も許さない。

 結局のところ俺たちの関係は敵のままであり、奴自身も俺を信用なんてしていないだろう。

 

 オーバードの事を考えながら、気づけば告死天使の事も考えていた。

 裏切った事への罪悪感は……不思議と感じていない。

 

「……仲間じゃなかったからか……寂しいな」

 

 ぼそりと呟いた独り言。

 俺の言葉は誰にも聞かれることは無かった。

 マイクは上機嫌で説明を続けて、アサギリ先生は熱心にメモを取っていた。

 サイトウさんはボケっとした顔で絵を眺めている。

 俺はくすりと笑いながら、皆の事を眺めていて――

 

 

「いやぁ、此処は広いですなぁ。こんなにも広いのに、不思議と涼しい。帝都博物館は来場客への配慮に余念が無い。実に関心ですな」

「――っ!」

 

 

 背後から声が聞こえた。

 男の野太い声であり、まるで気配を感じなかった。

 俺は勢いよくその場を離れて、男へと視線を向ける。

 すると、黒いスーツを着て赤いネクタイをつけたガタイの良い男が立っていた。

 

 黒縁の眼鏡を掛けていて、ニコリと微笑みながら青い瞳を俺へと向けている。

 金髪はオールバックにしていて、滲みだす気配から強者であると理解した。

 鍛え上げられた肉体がスーツを押し上げていて、サイズの大きいスーツですら窮屈そうに見える。

 身長は二メートルくらいあるか?

 

 巨漢のそいつはニコやかに笑いながら声を掛けてきた。

 マイクはハッとした様子で、アサギリ先生に紹介していた。

 

「こちらは当博物館に多くの貴重な品を寄贈してくれている方で。大海通運の社長さんです。日頃から大変お世話になっておりまして……あの、本日はどのようなご用件で?」

「ん? 用が無ければ来てはいけなかったかな?」

「いいいいいえ! 滅相もございません!」

「ははは! 冗談だよ! 今日来たのは近くを偶々通りかかったからだ。荒んだ心を癒せるのは美しい物だけだろう?」

「え、えぇ。そうですね! はは」

 

 マイクは手を揉みながら笑みを浮かべている。

 完全に引きつった笑みであり、この男には逆らえない様子だった。

 

 男はくすくすと笑っていて、その横には微笑む青年が立っていた。

 無造作に伸ばした緑髪に、意志の強そうな碧眼をした青年。

 優しそうな雰囲気を漂わせる青年は、巨漢の男に揶揄うのはやめるように注意していた。

 

「すまんすまん。遂、な? マイク君は愉快な人間だからねぇ。それに、今日はもっと愉快な人間たちがいるので、嬉しくなってな」

 

 ちらりと俺に視線を向けて来る社長。

 その瞳の奥には妖しげな光が宿っている。

 まるで、闘争心の塊のようにピリピリとした圧を感じた。

 この男は何者なのか。気配を絶って近づいてきたのは何が目的か。

 

 俺は強い警戒心を持ちながら相手の一挙手一投足を見ていた。

 

 男はゆっくりと手を差し伸べて来る。

 笑みを浮かべながら、奴は自己紹介を始めた。

 

「初めまして、私は大海通運の社長。名をジョン・フロストという。握ってくれるかな?」

「……どうも、シロウ・モリです」

 

 男の握手に応じる。

 手を握った瞬間に、凄まじい圧を感じた。

 気を抜けば膝をつきそうなほどの圧で。

 俺は平静を装いながら、男の手を握っていた。

 

 男はニコニコと笑いながら一人で頷く。

 

「シロウ・モリ。良い名だぁ。実に良い」

「ありがとうございます。父がつけてくれた名で」

 

 ジョン・フロストがゆっくりと耳元に顔を近づける。

 そうして、囁くように言葉を発した。

 

 

 

「できれば、君の本当の名前を言って欲しかったよ。雷君」

「……っ」

 

 

 

 何故、知っている。

 ジョン・フロストが言った言葉。

 奴は確信をもって俺の変装を見破った。

 どくどくと心臓が鼓動して、一瞬だけ判断を誤った。

 

 その瞬間に鈍い音が響き渡った。

 ハッとして見れば、サイトウさんが奴の顔に蹴りを入れていた。

 隣にいた青年は視線を鋭くさせながら、腰に手を伸ばしていた。

 しかし、ジョン・フロストがそれを片手で静止する。

 

「良い蹴りだ。鍛え上げられたソルジャーの一撃だ。躊躇いが無かった点が実に良い」

「……チッ」

 

 仕留められなかったサイトウさん。

 苦々しく舌打ちをしながら距離を取った。

 マイクやアサギリ先生は何が起きたのか理解できていない。

 俺自身も奴らの正体を掴み損ねて……いや、待て。

 

 あの青年の声は聞いたことがある。

 何処かで聞いた覚えのある声であり、恐らくは戦闘中に聞いた声だ。

 優しい声では無かった。

 あの時に聞いた声は怒りの籠った声で――理解した。

 

「……ゴースト・ライン」

「――ッ!」

 

 青年の表情に変化があった。

 何故気づいたのかといわんばかりの顔で。

 ジョン・フロストは小さくため息を吐きながら首を左右に振る。

 

「ポーカーフェイスには程遠いな。世を渡っていくには経験が足りないぞ」

「す、すみません……ですが、この人たちは!」

「落ち着きなさい。我々は戦いに来た訳ではない……そうだろ? ん?」

 

 ジョン・フロストは笑みを浮かべながら俺に聞く。

 チラリと天井付近を見れば監視カメラが俺たちに向いている。

 此処で騒ぎを起こせばただでは済まない。

 向こうもそれは同じであり、戦う意思は無さそうだった。

 

 しかし、油断は出来ない。

 何故ならば、この男は俺の変装を見破ったから。

 どうやって見破ったのか。そして、何故、それを態々俺に言ってきたのか。

 

 何も分からない。

 しかし、あの青年の声は俺がU・Mに加入した時に島から退避する時に戦った男の声だ。

 確かあの時はサードと呼ばれた男と共に戦いを挑んできた。

 だとすれば、この青年も幹部なのか。

 いや、それよりも目の前のジョン・フロストが幹部である可能性が一番高い。

 

 大海通運という大企業の社長。

 それがこいつの表での顔で、裏ではゴースト・ラインの幹部として活動している。

 どんなに笑みを浮かべて隠そうとしても、立ち振る舞いで危険度は分かる。

 抜き身の刀のように危険な圧を感じていて、今にも襲い掛かってきそうだ。

 

 俺が警戒心を強めていれば、男は指を立てて提案してきた。

 

「そうだ。此処で会ったのも何かの縁だ。どうかね、この後お茶でも」

「……断る事が出来るとでも?」

「ん? それは君の自由だが。私としてはオーケーという言葉が聞きたいね」

 

 チラリとアサギリ先生に視線を向けるジョン・フロスト。

 目の奥に妖しい光を宿した男の視線に気づいていない先生。

 断れば先生の身が危険だ。

 しかし、先生を一緒に連れて行く訳にもいかない。

 

「……タカダさん。先生をホテルまでお連れしてください」

「……分かった」

 

 一瞬の言葉のやり取りで、互いの役割を理解した。

 サイトウさんは先生を連れて離れていく。

 マイクも不審に思いながらも、先生についていった。

 俺はゴースト・ラインの幹部と残って奴らを睨みつけた。

 ジョン・フロストはそんな俺などお構いなしで、踵を返して歩き出した。

 

「帝国で行きつけの店があるんだ。きっと君も気に入る筈だ」

「……どうかな」

 

 ジョン・フロストは呑気に鼻歌を歌っている。

 無防備に背中を晒しているが、まるで隙が無い。

 後ろで警戒している青年の殺気もあるが、それを抜きにしても奴を倒せる自信が無い。

 選択が無く、奴の誘いに乗る形になったが……いざという時は自決する覚悟をしなければならない。

 

 奴らに拘束されるのが最も最悪な結末だ。

 それを回避するのであれば、一度死ぬ覚悟も必要になる。

 極力は避けたかったが、捕まって自由を奪われるよりはマシだ。

 

 ゆっくりと目を細めながら、ジョン・フロストの背中を見つめる。

 奴が何を思っていて、これから何をするつもりなのか――俺は静かに観察し続けた。

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