【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
完全に破壊された建物。
ある程度の爆撃には耐えられる筈の拠点が、見るも無残な姿になっちまった。
クレーターのように小さな島には大きな穴が空いている。
残った瓦礫の残骸を部下たちに捜索させて、俺は生きているであろうあの男を探していた。
敵が此処を調査した痕跡はない。
瓦礫だけであり、死体すら残っていないのだ。
調査するだけ無駄だと思ったのか、或いは……。
暑さで汗が頬を伝って顎から地面に垂れていく。
必死になって生き残った奴を捜索している部下がちらちらと俺を見て来る。
どうせ、そんなに熱いのならその厚いコートを脱げと言いたいのだろう……あぁその通りだよ。
五十を超えるジジイが何をお洒落に目覚めているのか。
若い世代からの痛々しい視線を受け流しながら。
俺は胸ポケットから煙草の箱を取り出した。
暑さと未だに姿を現さない奴にイライラしてきて、気が狂いそうだ。
マイルス・ワーグナーは抜け目のない奴であり、度胸のある奴だと認識を改めた。
まさか、自分の体に発信機を埋め込むとは思わなかった。
あのボスですら、この展開は見えていないかったと思う。
普通の発信機であったなら、まだ事前に発見できただろう。
しかし、奴の体に埋め込まれたものは特別製で。
特定の受信機でしか信号をキャッチできないものだった。
その情報を得て、俺は奴の肝の据わり具合に驚いたものだ。
何せ、奴は初めから助かる気が無かったのだ。
この島にしこたまミサイルをぶち込んで、ファーストと共にやって来た幹部を道連れにしようとした。
一か八かの賭けであり、もしも、幹部が来ていなかったら……いや、違うな。
奴には確信があった。
必ず、幹部が自分の元にやって来て。
すぐ近くで事の成り行きを見守るという確信が。
マイルス・ワーグナーという交渉における重要な手札。
それを手にした瞬間に、俺たちは奴から目を離せなくなる。
最低でも手練れの人間が近くにいて指示を出す必要があるからな。
今回は運の良い事に……いや、そうでもないが……兎に角、俺の予想では犠牲は”一人”だろう。
あの男は確実に生きている。
部屋の様子は別のカメラで確認していた。
アイツはミサイルの接近を知らされてから優先順位を決めていた。
その優先順位によって生かされた方は……可哀そうにな。
煙草の箱を握ったまま考えていた。
俺はため息を吐いて頭を掻く。
そうして、乱暴に箱を叩いて煙草を一本取り出す。
口に加えてから、安物のライターを出して火を付けようとして――瓦礫が吹っ飛ぶ。
凄まじい勢いで瓦礫が上に飛んだ。
捜索していた奴らは驚いて銃口を砂埃が舞うそこへ向ける。
「あぁやめやめ……全く、派手な登場だ。目立ちたがり屋め」
ボリボリと頭を掻きながら、俺は砂埃が舞う所へ歩いていく。
煙からは人影が見えている。
そいつは優雅に歩いてきて、煙から出たそいつの姿はひどい有様だった。
一張羅はビリビリに破かれて、奇跡的に下は隠されている。
その手には少しだけ火傷は負っているものの、概ね健康そうな幹部様がいた。
薄目を開けながら、状況を理解できないでいるファイブ。
十代の若者にはちと刺激が強すぎたようだ。
俺は半裸の変態に薄い笑みを向けながら、もう一人は何処かと尋ねた。
「……残念だが、私の手の中は一人用でね。彼しか救う事が出来なかった」
「……そうか……まぁ、そうなるわな」
此処にはファーストとファイブの他に、セブンも来ていた。
あの獣を擬人化したような女が、こんなところでくたばった。
何時も何時も戦い戦いってうるさかったが……嫌いじゃなかった。
幹部の中では正義っていうものを一番理解していた。
俺たちの組織がやる事全てを鵜呑みにする事無く。
奴は奴なりに、正義というものを心の中に抱いていた。
他の人間はどう思うのか……関係ねぇか。
他の奴ら何て知った事じゃねぇ。
俺は個人的に奴へと祈りを捧げる。
煙草に火をつけてから、ゆっくりと煙を吸い込んで。
空へと煙を吐き出して、心の中の祈りと共に弔う。
「……あばよ。俺たちも、すぐに行くからな」
「……私にもくれるかい?」
「……はは、ガラじゃねぇな。悲しいのか?」
「悲しいさ。私にとって組織の人間は家族のようなものだ……ありがとう」
煙草を一本やってから火をつけてやる。
奴は両手でファイブを抱えたまま、器用に煙を吸っていた。
勢いよく煙を吸い込めば、一気に煙草は短くなる。
もう少しでなくなる時に、奴はぷっとそれを捨てる。
そうして、ため込んだ煙を一気に吐き出した。
俺よりも大きな煙であり、奴の祈りは俺よりも大きかった。
「……これはこれで、いいものだ」
「だろ? だが、あまり頼らない方が良い。手放せなくなっちまうからよ」
「あぁ肝に銘じておくよ……あぁ君。彼の手当てを頼むよ」
「は、ハッ!」
近くを通った兵士にファイブを渡すファースト。
兵士は驚きながらも、別の人間を呼んでファイブを運んでいった。
しかし、奴は意識がハッキリとしたようで暴れ出す。
兵士たちはファイブを落として、奴の体から何かが零れ落ちていく。
そう言えば、大切そうに何かを抱いていたが……はぁぁ。
見ちゃいけないものを見てしまった。
ファイブには見せられないものだった。
しかし、奴は自分の懐から零れ落ちたそれを凝視している。
体を小刻みに震わせながら、転がったそれに手を伸ばす。
「あぁ、あぁ、ぁぁぁ、あぁあ……セブン、さん?」
半ばから千切れた腕。
切断面が焼け焦げたそれが転がっている。
筋肉質な腕であり、その腕には奴がつけていた指輪が嵌められていた。
ルビーの宝石が嵌められた奴だけの宝物で。
ファイブはその腕が、自らが慕う女の――セブンの腕だと認識した。
「あああああぁぁぁぁあああぁぁああああ!!!!!!」
頭を両手で押さえながら、奴は叫び声を上げる。
両目からポロポロと涙を流していって。
奴は声が枯れんばかりに叫び続けていた。
周りの兵士が奴へと手を伸ばそうとする。
俺はそんな兵士の手を止めて、撤収の準備をするように伝えた。
ファーストは、泣いているファイブを静かに見つめている。
何時もの笑みは消えていて、奴はただジッとファイブを見続けた。
まるで、今起きている事を網膜に焼き付けようとしているようで。
俺は責任感の強い男だと思いながら、奴の隣に立つ。
「……それで、どうする。情報によれば、告死天使のメンバーが幹部の襲撃を計画している様だ……何人か、実際に襲われたらしい」
「……奴の狙いもオーバードだ。恐らくは、使い捨ての人間を使って我々の邪魔をしているのだろう……無駄だと言う事を教えてやろう」
「……ボスへは俺から報告する。ファイブの事は……まぁ任せておけ」
「あぁ助かるよ……やはり話し合いよりも、拳で解決するのが一番だ」
ファーストは野性的な笑みを浮かべる。
奴の殺気に満ちた目を見ながら、俺は部下に案内を命じた。
ファーストは歩き出して、瓦礫の山から離れていく。
奴はしっかりとした足取りで歩きながら、ぼそりと言葉を発する。
「――躾てやろう。ケモノ共」
ピリピリと肌を刺すような殺気を全身から放ちながら。
多くの戦いを生き抜いた兵士がそう呟いた。
ビジネスマンだと言っていた男も、戦うと決めればこうも気持ちが切り替わる。
惚れ惚れするほどの心であり、奴の強靭な肉体と鋼の精神があるからこそ俺たちは奴を頼りにする。
奴は俺たちの中で最強であり、誰にも負けない神話のような存在だ。
奴の大きな背中を見ながら、俺はただ笑う。
「……また屍を築き上げるのか」
俺の言葉は奴には聞こえない。
この惨状には、ファイブの叫びだけが響いて。
俺は泣き続ける奴を見つめながら、心が落ち着く煙を静かに味わった。