【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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150:三つ巴の戦い

 アジトの自室で、端末から映像を投影する。

 その映像の中では、スーツを着た偉そうな人間がわんさかいた。

 大きなディスプレイには敬愛する人物の顔写真が写されていた。

 俺は奴らの話を聞きながら、何も言う事なく事の成り行きを見ていた。

 

 マイルス・ワーグナーの死は大々的に報じられた。

 U・Mという組織の名前は隠されていたが、彼はゴースト・ラインとの戦いで命を落としたとされ。

 敵に捕まり、彼は自らが交渉材料として利用される事を拒んで。

 信頼できる部下に命令して、敵の拠点を攻撃させたと。

 彼の勇気ある行動にこの世界の住人たちは喝さいを上げていた。

 ゴースト・ラインという共通の敵を前にして、散っていった勇者に皆が祝福の言葉を送る。

 

 喝さいじゃない……誰も彼の魂の安らぎを願わないのか。

 

 そんなニュースを見ていれば、別の記事が読まれる。

 それは生前のマイルス社長が取材陣に語っていた言葉が書かれたもので。

 マサムネという男は決して我々にとっての敵ではない、と。

 彼こそが真の英雄であり、無知な人間たちから投げられる礫も受け入れる男だと。

 

 記事を読んだアナウンサーは偉い学者に質問する。

 これはどういう意味で言った言葉なのかと。

 すると、偉そうな人間たちはマイルス社長が責任を逃れる為に言っただけの言葉だと言う。

 俺という大悪党を庇っただけで。

 彼が勇者のようにもてはやされているが、その行動はこれ以上の罪を背負う事が耐えられずに死を選んだ結果なだけだと。

 死んでいった人間を何とも思っていない醜い人間。

 自らの知識こそが正しいと信じて疑わない人間の顔だ。

 

 俺はこんな奴しかいないのだと思って端末の映像を消そうとした。

 しかし、隣に座っていた細身の男が手を挙げる。

 アナウンサーが彼にどうしたのかと聞けば、彼は静かに語る。

 

 罪に耐えられないのなら、彼は既に死んでいた。

 PMCの代表というものは、多くの社員の命を預かる仕事だと。

 家族から罵倒される事もあれば、恨まれて暗殺される危険もある。

 彼は今までそんな恐怖と向き合ってきて、ゴースト・ラインとも戦ってきた。

 

《……偏見や先入観だけで物事は語らない方が良いですよ。少なくとも、故人への配慮がありません》

《……これは失礼。ですが、マサムネという男は諸悪の根源なのですよ! それを庇ったのは事実で》

《事実とは何ですか? 諸悪の根源と言いますが、貴方は実際にそれらの事を調べたんですか?》

《調べる? 何を言っているんですか。モルノバの大虐殺は、調べずとも周知の事実では無いですか!》

 

 モルノバでの事件を男は語る。

 住民を焼き払い、中立国家を塵一つ残すことなく地図から消させた。

 マサムネという男は冷酷非情で、その本性はあの動画で分かったと。

 奴は利己的な人間で、他者への慈しみなどまるでないクズだと……散々だな。

 

 俺が笑うと、男はくいっと眼鏡を上げる。

 

《本当にそうなんでしょうか》

《……何?》

《モルノバでは怪しげな宗教が流行っていたそうです。まだ確定した情報では無いので名前は言えませんが。その宗教では危険な薬物を信徒に配っていたそうですよ》

《……それの何が関係ある!》

《ありますよ。精神に異常をきたす薬。そんなものを配る宗教がモルノバで広がっていて……彼が住民を虐殺した事と全く関係がないと言えますか?》

 

 彼は薄い笑みを浮かべながら語る。

 すると、反論する様に別の男が虐殺を肯定するのかと問い詰めていた。

 眼鏡の男は首を左右に振りながら、それは違うと否定する。

 

《私はどんな理由があれ、殺しを許すつもりはありません……ただ、彼の悪行にばかり目がいって。彼の功績の話が全くでなかったので、それは不公平だと思ったんですよ。公国の国民を恐怖に陥れようとした魔神を倒し、たった一人で天子様と大公様を暗殺しようとしていたゴースト・ラインの計画を阻止した……まぁ彼は、自分が悪人のように言っていましたが。嘘を言っているかもしれませんからねぇ》

《嘘だと!? そんな事を言って奴に何のメリットがある!》

《……損得の話をしている貴方方には、一生理解できないと思いますよ》

《――ッ!?》

 

 場が騒然となり、殴りかかりそうになった男をスタッフが押さえている。

 眼鏡の男は優雅にレンズを拭いていた。

 俺は面白い男がいるのだと思いながら、端末の映像を消した。

 

「……社長は、死んでも俺を気遣ってくれるのか」

 

 彼の優しさに感謝しながら、俺は立ち上がる。

 そうして、端末を操作してファストトラベルを使う。

 一瞬で周りの景色が切り替わって、目の前にはミネルバが立っていた。

 仏頂面で俺に頭を下げてきたミネルバは、俺に座る様に促す。

 薄暗い部屋の中には、既にサイトウさんがいる。

 椅子に座りながら、説明が始まるのを待っていた。

 

 椅子に座って、俺はミネルバからの説明を待った。

 しかし、その前にサイトウさんが何かを机の上を滑らして渡してくる。

 受け取って見れば新しい端末で、俺は古い端末をサイトウさんに返した。

 

「……メールのコードは触らなくて正解だった……それと、位置を追跡できるコードが端末に組み込まれていた……心当たりは?」

「……いえ、ありません」

 

 位置を追跡できるコードが組み込まれていた。

 それはつまり、第三者が俺の端末に触れたか。

 あるいは何かを起動させて組み込んだのか……本当は一つだけ心当たりがある。

 

 それはショーコさんから渡された秘匿コードで。

 アレが起動条件となって、俺の端末から俺の居場所を追跡しようとしたのか。

 可能性はあるが、ショーコさんが何故、そんな事をするのか。

 彼女の性格から考えて誰かを騙して出し抜くような人間じゃない。

 正直に話してくれるのが彼女で……あの言葉か?

 

 ショーコさんと会った時に、彼女は自分が嫌な女であると言っていた。

 それはつまり、俺を騙して場所を特定しようとしていたからか。

 そうだと思えば、あの発言の意味も理解できる。

 うしろめたさを感じて発言したのだろうけど……やっぱり正直な人だ。

 

 彼女を責める事はしない。

 彼女のお陰で、船の爆破を防ぐ事が出来たから。

 もう連絡を取る機会は無いかもしれないが、もしも会えたのなら笑い話になるのだろうか。

 そんな事を考えて、ミネルバから声を掛けられていた事に気づく。

 俺は謝罪しながら、説明を始めるようにお願いした。

 

 ミネルバは咳ばらいをしてから、ゆっくりと端末を操作する。

 すると、机の中央にある投射機から立体映像が出る。

 丸い球体の映像であり、それはこの星であるとすぐに分かった。

 幾つかの赤いポイントがあり、俺の読みが正しければそのポイントは例のあの場所だろう。

 

「……海底神殿の場所を突き止めたのか」

「はい……ですが、複数個所、ポイントは存在します。ご覧の通り、合計で六ケ所存在します」

「……全部回るつもり?」

 

 サイトウさんが眉を顰めながら聞く。

 彼女からすれば、余計な時間は使いたくないのだろう。

 ただでさえ海中の、それも大渦の中にある神殿の調査だ。

 用意する物は多く、一度のチャレンジだけでもかなりの労力が必要になる。

 そんな中で、六ケ所もチャレンジをする事になれば、嫌でも時間が掛かってしまう。

 何年で済めばいいが、場合によっては何十年も掛る事になる。

 それだけ大渦の中にダイブするのは危険で、今の科学力をもってしても出来るかどうかは分からない。

 

 耐久力のある装甲に加えて、浮上するだけの力もいる。

 入るだけならいけるかもしれないが、戻って来るのが大変だ。

 俺たち現世人ならファストトラベルがあるから戻れるかもしれないが……サイトウさんはそうはいかない。

 

 サイトウさんを残していくのか?

 いや、それはやめておいた方が良い。

 何があるかも分からない神殿の調査を単独でするのは危険だ。

 それに、大渦の中に潜る為の機械を操縦する人間やメンテナンスをする人間も欠かせない。

 数名のスタッフと共に潜るのであれば、やはり帰還用の機能も必要だ。

 後は、オーバードを見つけた場合にサルベージする為の機械か。

 

 天子が何に使うのかは分からないが、持っていかなければ意味が無い。

 引き上げるにしても大渦の中を引っ張っていくためにはどうすればいいのか。

 船によって牽引するにしても渦の中に引き込まれてしまえば終わりだ。

 バルーンか何かで浮上させるにしても、渦の中には何があるか分からない。

 万が一、それでバルーンが破損してオーバードが海の中に消えていけばまた厄介なことになる。

 

「いえ、ある程度の情報を集めてから、特殊な潜水艇によって調査ならびに回収を行っていただきます」

「……その情報は? また俺たちに情報収集をさせるのか?」

「はい……ですが、今回は簡単ですよ。貴方もよくご存じの方から、話を聞いてもらうだけですから」

「……何? それはどういう……いや、それは後でいい。特殊な潜水艇を作るのにどれほど掛る?」

「設計から初めて急ピッチで作るので……約四か月ほど……それと並行して、我々もオーバードの調査を進めます」

 

 特殊な潜水艇の設計の構想は出来ているのか?

 

 そうでなければ四か月で潜水艇が作れる筈がない。

 まさか、こういう場合を想定して予め作っておこうとしたのか。

 考えても分からない事だが、早く出来るのならそれに越した事は無い。

 つまり、俺たちはその四か月を使ってオーバードの情報を更に集めなければならないのか。

 

 長いようで短い期間であり、その時間で海底神殿が眠る大渦を割り出せるのか……やるしかないか。

 

 俺は考えを纏めてから、ミネルバに誰から話を聞くのか問い詰めた。

 俺の良く知る人間の中で、オーバードの情報を持っていそうな奴などいなかったが……。

 

 ミネルバは俺の顔を見て薄く笑う。

 まるで、そんな顔をするだろうと思っていた顔で。

 俺は背筋に怖気を走らせながら、奴の言葉を聞いた。

 

 

 

「マサムネさんには――ゴウリキマルさんから話を聞いてきてもらいます」

「……は?」

 

 

 

 言っている言葉の意味が理解できなかった。

 何故、ゴウリキマルさんの名前が此処で出たのか。

 いや、それよりも彼女は無関係で、この件に巻き込めるはずがないと――

 

「いえ、彼女はもう無関係とは言えません」

「……どういう事だ」

 

 俺は目を鋭くさせながら、ミネルバに聞いた。

 すると、奴は眼鏡を指で上げながら恐ろしい事を告げた。

 

「彼女は全ての勢力から狙われています。告死天使にゴースト・ライン……此処に来て、彼女の持つ物が重要となってきました」

「彼女の持つ物だと? 彼女が何を持っていると言うんだ。何故、彼女を」

「――鍵です。オーバードを手に入れる為に必要な鍵。それを彼女は持っています」

「……何処から得た情報だ。そんな事がある筈が」

「情報源に関しては言えません。が、信用は出来ます。彼女は確実に鍵を持っています」

 

 ミネルバの言葉に出かけた言葉を詰まらせる。

 鍵と呼ばれるものを彼女が持っている。

 そんな話は一度も……いや、ある。

 

 かつて、ゴウリキマルさんは告死天使とバディーを組んでいた。

 その時に、告死天使から色々と聞かれてたと言っていた。

 あの時はあまり重要に思っていなかったが、彼女は確かに”鍵”と言っていた。

 

 その時より、告死天使はオーバードを探していた。

 そして、最初からゴウリキマルさんが鍵に繋がる情報を持っているであろうと当たりをつけていたのか。

 しかし、当初の目論見が外れて告死天使は彼女を用済みだと……繋がったな。

 

 鍵は確かに存在するのだろう。

 ゴウリキマルさんは知らないだけで、彼女の記憶の中には鍵に繋がる情報があるのかもしれない。

 それを求めて、他の陣営の人間たちが動き出している。

 

「……分かった。すぐに行く」

「助かります。では――」

 

 ミネルバの説明を聞きながら、ギュッと拳を握る。

 どんな顔で彼女と会えばいいのか。

 そんな事を考えながら、俺は独り怯えていた。

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