【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
赤いメッシュの男の名はディーノ。
五年前にこの島へと流れついて、用心棒の仕事をしているらしい。
この酒場の他にも用心棒として守っている店があり。
そこへは彼の仲間が定期的に巡回したり駐在したりしているようだ。
会社のようなものかたと聞けば、彼はそんな大層なものではないと言う。
「所謂、流れ者の集まりさ。俺はそれの纏め役……って言っても、トップらしい事は何もしていないがな」
グラスに入った酒を飲みながら、男は笑う。
店内には目つきの鋭い人間がわんさかいる。
女もいるが、誰もが銃を携帯している。
この島の住人にとって銃とは必需品で、肌身離さず持つ物のようだ。
治安の悪さを物語っているだけではなく、怒らせれば平気で引き金を引くのだろうと予見させる。
チビチビと酒を飲みながら、俺はディーノの話を聞いていた。
ディーノは五年前から此処で活動しているだけあって色々と詳しい。
遂最近起きた事件から、この島を牛耳っている人間。
そして、派閥が形成されて皆がディアボロの後釜を狙っていると。
「噂では、治安部隊と手を組んだ輩もいるらしい。治安部隊は例の大悪党を狙っているけど、悪人としての格で言うのならディアブロも負けていない。いや、寧ろ上だと言ってもいい」
「……何故、治安部隊と手を組んだ。この島にとって正義を振りかざす奴は敵じゃないのか?」
俺は失礼かと思ったが聞いてしまう。
すると、ディーノは眉を顰めながらも答えた。
「……まぁそうだな。正義ってのは俺は嫌いだ。そんな曖昧なもんで人の生き死にを決めようとしちまう。人間ってのは偽善の塊だ。大義名分が無いと罪悪感で死んじまうんだろうさ。もっとシンプルに、ムカつくからぶっ殺すくらいでいいのによ……だが、何も正義の味方になりたいとかいうクソもみてぇな理由で治安部隊と組んだ訳じゃねぇだろうよ。ちゃんとした理由がある」
「……ディアブロか?」
俺が奴の名前を言えば、ディーノは指を鳴らす。
当たりのようであり、他の派閥の人間はディアブロを生贄に差し出そうと言うのか。
しかし、そんな事をして何の得があるのか。
トップがいなくなれば、少なからず混乱は起きる。
その派閥の人間だけで解決できるなら良いが、ディアブロの仲間から報復をされる恐れもあるだろう。
いや、それだけならまだいい。
問題なのは治安部隊がディアブロを捕らえた後に彼らが取る行動で。
武力介入によってこの国を一気に制圧してくる恐れもある。
空からの侵入が無理でも、海上から圧倒的な物量で襲い込まれれば太刀打ちできない。
どんなに戦に慣れた兵士であろうとも、百人の兵士には敵わない筈だ。
俺が怪訝な顔をしていれば、ディーノは説明する。
「あくまで推測だが、ディアブロの首を渡そうとしている奴らは治安部隊に取引を持ち掛けた筈だ。誰だってタダで鉄火場に飛び込んだりはしないからな」
「何を狙っているんだ?」
「……この国の王座。国としての統治を世界から認可されていないこの国で本物の王様になるつもりだろうさ。治安部隊の幹部には三大国家の内の二つが選んだ人間がいる。絶大な影響力のあるそいつ等なら、トップを動かす事も出来る。ディアブロの首さえあれば、認可させる事も朝飯前なのさ」
「……犯罪者が王になるのか?」
「そうさ。罪人が王になって、この国を本物の楽園に変えちまおうとしているのさ。ドラッグ、人身売買、違法なパーツの取引……誰もが嫌う汚れ仕事を一手に引き受ける国。少なくとも需要はあるだろうさ」
ディーノの言葉に納得する。
今までは国としての認可が無かった。
だからこそ、取引に関しても大規模なものは出来なかった筈だ。
しかし、正式に国として認められれば、少なくとも容易には手出しが出来なくなる。
法律に詳しい人間がこの国にいるのなら尚の事だ。
奴らはコソコソと裏で商売をする事に嫌気がさして、堂々と表で商売をする気なのか。
個人的にはそんな未来は嫌だ。
犯罪者の楽園なんてものが認められれば、世界に混乱が起きる。
法の裁きを受けさせる事も出来なければ、暴力や権力によって何も発言できなくなるかもしれない。
そうなれば、独裁国家と同じような末路を辿る事になる。
誰も幸せにならない。誰も得をしない未来だ。
そうなってはダメであり、阻止したいと思った。
だが、今はそんな事をしている暇は無い。
何とかしてディアブロと接触して、奴から彼女の情報を聞き出す必要がある。
切り札は用意しているが、これが通用するかは賭けだ。
もしも失敗すれば、俺は確実に死ぬことになる。
いや、もしかしたらサイトウさんも巻き添えを食う事になるかもしれない。
彼女は自力で逃げられると言っていたが……まぁ信じるしかないか。
ジョッキに注がれたビールを飲んでいるサイトウさん。
豪快な飲みっぷりであり、顔色に変化は見られない。
ぐいぐいと先ほどか何杯も飲んでいて、少しだけ心配になる。
危険な場所に潜入して、これから裏社会の親玉に会う事になるのに。
彼女からは微塵も恐怖や焦りが感じられなかった。
常に平常心であり、死を恐れていないように感じる。
これも、告死天使と共に多くの戦場を渡り歩いて来たからこそ身に着いたものなのか。
俺は彼女から視線を逸らしてから、ディーノに対して質問をした。
「……ディアブロに会うにはどうしたらいい」
「……おいおい。お前野心家かぁ? やめておけ。取り入ろうとしても奴には会えないぜ。奴は信用できる人間としか会わない……まぁ奴が邪魔だと思っている人間の首を持っていけば、話は別だがな」
「誰?」
ディーノが薄く笑みを浮かべながら軽口を叩く。
すると、サイトウさんが話に割り込んできた。
真顔で誰を殺せばいいのかと聞く彼女ははたから見ても異常だ。
先ほどもそうだが、彼女は殺しに関して一切の躊躇いが無い。
俺でさえも、目の前で知らない人間を撃ち殺すという判断は下せない。
濁り切った瞳でディーノを見るサイトウさん。
ディーノは喉を鳴らしながら冷や汗を掻いていた。
言うべきかどうか悩んでいる様子で。
俺自身もそんな話を聞いたところで、どうするのかと思ってしまう。
「……三つの派閥の内の一つ。オッドバルドっていう男が頭をしている派閥に”暴牛”の異名を持つ幹部がいる。奴は、数日前にディアブロが可愛がっていた部下を殺している。オッドバルドは関与を否定しているが、ディアブロは暴牛の仕業だと分かっている。今のところは報復は考えていないようだが、フリーの殺し屋を雇うかもしれねぇな」
「何でそんな情報をお前が持っているんだ?」
「あぁ? あぁ……まぁこの島にも手配書みてぇなもんはあるのさ。誰もが命を狙われる島国。もしかしたら俺の命も狙われているかもしれねぇな。ははは…………なぁ、あの女はどこ行った?」
ディーノは笑みを凍り付かせる。
隣に目を向ければ、サイトウさんは影も形も無くなっていた。
足音はせず、動いた気配すら感じなかった。
話を聞いた後に出ていったのか……いや、それはない。
恐らくは、暴牛というワードだけ聞いて飛び出していったのか。
彼女の事を考えれば、次にどのような行動をするのかは想像がつく。
碌な情報も無かったが、彼女ならば自分で調べてターゲットを見つけ出すだろう。
今から連絡してももう遅い。きっと彼女はターゲットを殺すまで連絡に応じないだろう。
俺は無言で酒を飲んでから、時間を確認した。
店内の壁に掛けられた時計を確認して……そうだな。
「……まぁ二時間か」
「二時間? 二時間って何だよ。おい、おいってば!」
肩を揺らされながらも、俺は黙って酒を飲んでいた。
頼れる仲間が飛び出していって仕事を終わらせるまので時間。
そうハッキリと言えばこの男はどんな顔をするのか。
足がつかないようにしてくれる事だけを心の中で祈りながら、俺はひたすらに心を無にした。