【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
「……こいつはどういう事だ。なぁジーン」
「へ、へへ。そ、そのぉ」
俺の前で手をすり合わせながら気持ちの悪い笑みを浮かべる男。
手に持った資料に書かれた情報によれば、こいつが管理する店の売り上げが先月よりも二十パーセント落ちている。
いや、それだけならまだいい。
問題なのは、こいつが裏でディアブロの幹部と話していた事だ。
部下に調べさせてみれば、こいつは収益の一部を奴へと流していた。
それも俺が店を任せた直後からで……俺は拳銃を抜く。
間抜けの眉間に銃口を向けてから発砲。
奴の頭を精確に撃ち抜いて、アホは地面に倒れた。
どくどくと頭から血を流して、間抜けな顔のまま死んだアホ。
俺は控えていた部下に指示を出して、汚い死体を処理させる。
ゴミを掃除して、俺はあの店の管理を別の人間に任せる事を指示した。
「このカスのせいで、俺は赤っ恥だ……クソ、ムカつくぜ。ディアブロの首さえ奴らに差し出せば、俺は大臣も夢じゃねぇのによ」
オッドバルドの親父が裏で治安部隊と取引していたのは知っている。
その話は二人で会った時に聞いたからな。
親父は奴らと密に連絡を取り合って、ディアブロを始末する算段を立てている。
恐らくは、近々俺や他の幹部も招集が掛るだろう。
どんな作戦を立ててあのカスを追い込むのか……楽しみで震えが止まらねぇな。
笑みを深めながら、俺は机においたボトルを持つ。
栓が開いたそれを一気に飲んで、口元を手で拭う。
芳醇な香りのワインであり、上物は一気に飲むに限る。
オッドバルドの親父はこれからどんどん勢力を拡大していくだろう。
この国で売っているドラッグのほとんどは俺や他の幹部が考案したものだ。
従来の古臭い葉っぱなんざ目じゃねぇ。
時代は機械化であり、あの筒に取り付ける為のカートリッジを売り捌けば金は湯水のように出て来る。
違法なドラッグを取り締まっている税関も、このカートリッジは見抜けねぇ。
見かけはただのチップであり、この中に快楽物質を増幅させる効果がある事を誰も知らない。
今はまだこの国と、一部の小国家としか取引はしていない。
だが、国として正式な認可さえ降りれば、俺たちはこれを大手を振って他国に売りさばける。
「……依存度を高めつつ、安価な値段にして数を捌けば……ちんけなキャバレーなんざどうでもいい」
大金を稼ぐならドラッグしかない。
俺は明るい未来を夢に見ながら、部下に命令して新しいボトルを持ってこさせた。
コルクを抜いて、一気に飲んでいく。
次第に体が熱を持って、気分が高揚してくる。
クズのせいで不快な思いをしたが、今は最高にハッピーだ。
「俺たちの時代が来る。そうだよなぁ?」
「はい。ボス」
「……はは、この島は楽園だぁ」
うざったい警察もいなければ、追いかけまわしてくる賞金稼ぎもいない。
この島に目をつけてやって来て、親父が俺に目を掛けてくれた。
全て俺が想い描いた通りに物事は進んでいく。
計算して、想像通りに事が運ばれていくのは実に気分がいい。
俺の命令に従順な兵隊は出世させて、逆らう奴は殺す。
そうする事によって、俺と親父を中心にした”社会”が出来上がる。
もっとだ。
もっともっと俺は偉くなる。
今は一派閥の幹部だが、行く行くは大臣になって――俺が王になる。
親父についてきたのも良い夢を見させてもらう為だ。
良い夢を見させて貰って、最後は俺が全部をかっさらっていく。
それまでは従順な犬になりきって、尻尾を振ってやるさ。
信じ込ませて信じ込ませて――ズドンだ!
「それまでは長生きしてくれよぉ。ひひひ」
「……っ」
ぐびぐびとワインを飲みながら俺は悦に浸る。
親父の長生きを心から祈って、障害となる奴らをどうすれば消せるか考えた。
ディアブロは親父の計画で確実に消せるとして。
もう一つの派閥であるロッキーニはどうする?
奴らは目立った動きはしていない。
ドラッグの販売もしていなければ人身売買にも手を出さない。
だが、奴らは少しずつだが勢力を拡大していっている。
聞いたことも無い宗教に手を出した事をきっかけに勢力を伸ばしていったらしいが……薄気味悪い奴らだ。
神なんぞを信じるだけで利益を得る。
信じる者は救われるなんて言うが、誰が救ってくれるんだ?
神なんてものが今までの人生の中でちっぽけな人間を救った事なんて無い。
そもそも、神の教えっていうものに逆らっている俺たちクズが裁かれていないのだ。
金だけ払って、あるかも分からない救いを待つなんざバカみてぇだ。
他人を裁きたいなら銃を買えばいい。
鉛弾一発で神罰の真似事が出来る。
幸福になりたいのなら、誰かを出し抜けばいい。
他人に自分の幸福を譲ってもテメェは幸せにならないんだからな。
他人の幸せを奪うからこそ人間だ。
信者が金を払えば教祖が幸せになる。
会社で成り上がる為に他人を蹴落とせば自分が出世する。
社会ってのは与えるんじゃない。奪う事で成り立ってきた。
残酷だが、シンプルで清々しい。
奪えば奪うほど俺は幸福になっていく。
他人の未来なんざどうでもいい。
そんなもので俺自身がどうなるのかは決まらない。
神様は裁かねぇし、弱者は恐怖で震えるだけだ。
知恵と力でのし上がる。
その為なら、どんなに汚い仕事でもやる。
昨日までの友人も、喜んで殺せるだろう。
全ては未来への投資だ。
俺という人間が幸福になる為の投資で。
捧げるのは他人の幸せだ。
「ぎゃははははは!!」
高らかに笑いながら、幸せのサイクルを喜ぶ。
俺に幸せを運んでくる弱者たち。
糧となってくれる奴らに対して尊敬と感謝の念が……いや、ねぇな。
そんな時間は無い。
そんな事に割くリソースも無い。
運ばれてくる幸せを奪い続ける――ただそれだけだ。
持ってこさせたワインを全部飲み干す。
最後の一滴まで飲み干してから、ボトルを叩きつける。
そうして、新しい物を持ってくるように命令した。
だが、返事が無い。
視界に映ったのはいつの間にか開かれていた扉で。
風に吹かれて揺れるそれを見ながら、俺は声をあげた。
「おい。さっさと新しいのを――は?」
背後を振り返れば、立っていた筈の部下がいない。
それもその筈であり、床に倒れていた。
苦悶の表情を浮かべながら、喉から血をドクドクと流している。
ぴくぴくと魚のように痙攣していて――俺は銃を抜く。
外にいる部下を呼ぼうとした。
警戒心を最大まで引き上げながら、襲撃者を殺そうとする。
しかし、俺は銃を握る事が出来なかった。
銃を握ったと思った。
しかし、一瞬で感覚が無くなった。
何故かと思って視線を向ければ、俺の手が宙を待っている。
「あ――ッ!!?」
激しい熱と痛みで悲鳴を上げそうになった。
しかし、口元を背後から塞がれた。
腕の切断面からは血が噴き出している。
じたばたともがけばもがくほど、血が噴き出していた。
背後に立つ人間は作業のように切れ味の良いナイフで俺の喉を掻っ切る。
噴水のように血が噴き出して俺はソファーから転げ落ちた。
机を巻き込んで倒れて、空いたボトルが床に転がる。
俺は必死に喉を押さえて息をしようとするが、ひゅひゅーと音が鳴るだけだった。
息が苦しい、意識がどんどん遠のいていく。
痛い、熱い、痛い、熱い、痛い熱い痛い熱い熱い熱い痛い――背中に何かが刺さる。
ずぶりと肉を抉られる感触がした。
最早、痛みすら感じなくなってきた。
俺はゆっくりと視線を襲ってきた人間に向ける。
ボヤケル視界の中で映ったのは長身の女で。
見え辛くとも分かるほどに濁り切った目をしていた。
今まで多くの人間を見てきたが、こんなにも不気味な目をした奴はいない。
女はゆっくりと近づいてきてナイフを上げる。
俺は最後に思ってしまった。
他人から幸福を奪い続けてきた俺。
その最期は、俺自身が幸福を奪われる事で。
この世に神は存在しないと思ったが、本当は存在するのかもしれない。
「……ぁ……ぅ……」
目の前の死神に視線を向け続ける。
そうして、俺の目には奴のナイフが迫って――