【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
酒場で飲みながらサイトウさんを待つこと二時間ほど。
新しいローブを着込んだ彼女が扉を開けて入って来る。
その手には酒場に最初に入るまでに来ていたローブで包んだ何かを持っていた。
ちょうど人の頭が入りそうな大きさで……はぁ。
サイトウさんは何食わぬ顔で隣の椅子に座る。
そうして、真顔で店主に注文をしていた。
「バーボン、ストレート」
「……チッ」
隣に座った彼女は、店主に注文をする。
カウンターに包まれた何かを置くと赤いシミが広がっていく。
店主はカウンターを汚された事に苛立ちを覚えたのか舌を鳴らしていた。
乱暴にグラスをカウンターに置いている。
そうして、後は勝手にやれとバーボンを置いて俺たちから離れていった。
彼女は指で摘まむだけでボトルの注ぎ口を破壊する。
栓を抜くことが面倒だったのだろう。
彼女はそのまま破壊された注ぎ口から酒を注いでいた。
仕事終わりの一杯か。
彼女は一気にそれを飲み干してから静かに息を吐いた。
美味しいと感じているのかは疑問だが、俺に何も言うことなく二杯目を飲もうとしている。
俺は彼女の肩をちょんちょんとつついた。
彼女はチラリと俺を見てから「何」と言う。
「……それは?」
「首。見る?」
「……誰の?」
「牛」
「……はぁ」
何やら外が騒がしい。
声が聞こえてくるが、何を言っているかは分からない。
そんな時に扉を開けて男が入って来た。
慌てた様子であり、男は火事だと叫んでいた。
男の声に皆が一斉に笑いだしていた。
「火事なんて珍しくねぇだろ! 何慌ててんだよ! はははは!」
「お前の女房が燃えてんのかぁ? この酒で良かったらやるよ! ほら!」
汚い声で野次を飛ばす男たち。
女たちもくすくすと笑っていた。
そんな野次など気にせずに、男は叫ぶように言葉を発した。
「クソ野郎がッ! 燃えているのは暴牛の事務所だぞッ!? 今にオッドバルドの手下が来るぞッ!!」
「……おい、ずらかるぞ」
野次を飛ばしていた男たちが黙る。
そうして、金をテーブルに置いてから足早に去っていく。
女たちも荷物を慌てて背負って出ていった。
チラリと隣に座っているであろうディーノに目を向けた。
すると、奴は冷や汗を流しながらサイトウさんが持ってきた包みを見ていた。
「……やったのか?」
「ん」
ディーノの言葉に簡潔に答えたサイトウさん。
ディーノは頭を抱えて重いため息を吐いた。
「嘘だろ。冗談だって言ってくれよ。たった二時間だぞ? 二時間で幹部を殺してきたのか? ガキのお使いじゃねぇんだ。お前ら、どういう神経してんだ? 頭のネジが二,三本飛んで行っちまってるのか?」
「正常」
「なわけあるかボケ……チッ、仕方ねぇ。行くぞ」
「……助けてくれるのか?」
「あぁ? 助けるも何も俺も関わっちまってるんだ。情報を渡した俺まで報復されるよ……おい、親父。絶対に話すなよ。お前も殺されるからな」
「クソッ! 今日は厄日だ! さっさと裏口から出ていけ疫病神共!」
「ありがとよ!」
ディーノに言われるがままに彼の後を追う。
サイトウさんはバーボンのボトルを手に持っている。
もう片方には暴牛の首が入った布で。
彼女は移動しながら器用に酒を飲んでいた。
一気に全てを飲み干して、空のボトルを捨てるサイトウさん。
ディーノは再び重いため息を吐いてから、裏口を出てついてくるように言う。
俺は走りながら、ディーノに何処に行くのか尋ねた。
「決まってるだろ。ディアボロの所だよ。こうなりゃ、奴にその首を渡して匿ってもらうしかねぇ。それが生き残る為の唯一の道だ」
「……これで足りるのか?」
「あぁ!? 知らねぇよ! 神様にでも祈ってろ!」
危機から逃れる為にディアブロの所へ行こうとするディーノ。
俺は好都合だと思いながら、手土産をチラリと見る。
首一つで信用されるかは分からない……いや、無理だろう。
恐らくは、他に何か条件を言われる筈だ。
幾ら憎い相手を殺してやったとしても、それだけで俺たちを信用する筈が無いから。
しかし、相手が出してくるであろう条件が分からない。
考えろ、考えろ。
移動しながら頭を働かせる。
この地へ来る前に調べてきた情報を整理する。
何があって、この島の住人はしていたか。
違法な事は勿論の事、娯楽の様なものも盛んで。
中でも賭け事によって大金が日夜動いていたと聞く。
スロットやカードというギャンブルではない。
この場所にはコロッセオと呼ばれる戦う場所が存在する。
そこではメリウス同士を戦わせて……いや、まさか。
コロッセオで戦わされるのか?
可能性としては無くは無い。
ディアブロが運営するコロッセオで俺が挑戦者として出る。
奴は勝率の高い方に賭ければ儲かり。
客足も増えてより収益に繋がるだろう。
噂では、コロッセオでの試合は中継されており、金持ちも試合を見るらしい。
ネットでも賭けをさせて、一試合だけでもすれば多額の金が動く。
ディアブロは俺を試そうとするだろう。
信用に足る人間かは首を差し出せば分かる。
だったら、後は本当に実力があるかを確かめる筈だ。
その場所としてうってつけなのはコロッセオ以外にない。
俺はそうなるのではないかと予想を立てながら走っていく
ディアブロの配下の人間が駐屯する事務所に着く。
外で煙草を吸っていた人間に訳を話して首を見せれば。
男はだらだらと汗を流しながら、急いで報告に行っていた。
すぐに男は帰って来て、俺たちに中に入る様に促す。
中に入れば部屋の中は煙たくて目が痛くなりそうだった。
それを我慢しながらソファーに座って待つ。
男はパソコンを用意してからそれを俺たちの前に置く。
そうして、電源を付けてからカタカタと操作する。
何をしているのかと見ていれば、ウィンドウが表示される。
真っ暗なウィンドウの中には誰がいるのかも判別がつかない。
しかし、その中にいる人間はゆっくりと言葉を発した。
《暴牛を仕留めてくれたヒットマンは君たちだね? 先ずはお礼を言わせてほしい。本当にありがとう》
「じゃ、じゃ俺たちを匿って」
《ん? それはまだ無理だ。君たちを私は完全に信用したわけではない。そんな人間を懐には入れられないからね》
「そ、そんな」
ディーノが顔色を悪くさせる。
俺はどうすれば信用してもらえるのかと奴に聞く。
すると、奴は一つだけ方法があると言った。
《コロッセオで戦ってくれないかな。君の実力が見たい》
「……俺だけでいいのか?」
《あぁ、そこのお嬢さんの実力は分かっている。そこの彼はほぼ無関係。後は君だけだ。君の実力さえ分かれば……私も会いたいと思うかもしれないよ》
「……分かった。他には?」
《特に無いよ。そこにいる人間に案内と説明を一任するから。君は思う存分暴れてくれ。期待しているよ
それだけ言うとぶつりと奴は通信を切る。
会ってくれるのかは賭けだが、会えれば勝機はある。
奴と対面さえすれば、後は何とかして見せよう。
パソコンを閉じた男は、俺に説明をする。
コロッセオで使うメリウスは第三世代のメリウスで名を”ヴァルダー”という。
武器は基本的に片手用のブレードだけだと言う。
機体が大破するかコックピッドを破壊するまで試合は終わらない。
試合で死ぬ確率は八十パーセントを超えていて、今はチャンピオンが連戦連勝だと。
奴に勝てればボスから信用されるかもしれないと男は言う。
「ま、勝てる訳ねぇがな。チャンプは傭兵時代は名付きだったからな。それもSランクの傭兵だ。勝てる筈がねぇ。くくく」
「……そうだな」
そんな情報で俺が恐怖すると思っているのか。
俺は平静を装いながら、男から渡された端末を見る。
そこにはヴァルターの情報が載っていて。
第三世代らしい装甲の厚さであり、足回りが太く両肩にはシールドがついている。
格子状になったセンサー部分を保護するメットに機体全体を冷却する為に作られたパイプ。
口元を隠すように覆われ、胴体部にもベルトのように巻き付いている。
説明によれば、機体を酷使させてオーバーヒートを起こしかけるとそのパイプから冷却材が噴出するらしい。
元々は、帝国で使用されてる予定だった試作用のメリウスだったらしいが。
冷却パイプは現在では使われていない事から、実用性が無いと却下されたのか。
まぁ露出していれば、冷却をする前に壊れて使えなくなるのが普通だ。
ヴァルターは試作用だが、この地に流れ着いて独自の改修が施された。
背中にはブースターが取り付けられているが、飛行用としては使われない。
コロッセオで戦う事を前提に設計されているからか。
地上戦用にチューンナップされているという訳だ。
端末をスクロールしながら情報を見ていけば、男は追加で説明する。
「チャンプのヴァルターは改造されているからよ。並みのヴァルターと同じだと思わない方がいいぜ。パワーも機動性も段違いだ。気の毒だが、お前のヴァルターは並みだ。この意味、分かるか?」
「……健闘するよ」
「はは、足掻いてくれよ。じゃなきゃ、賭けにすらならねぇからよ」
男からの言葉を聞き流しながら、俺は全ての説明を読み終える。
第三世代だから操作は複雑だが、第五世代でそれなりに慣れた。
問題があるとすれば、第三世代は機嫌を悪くしやすい事で。
適度に調整をしながら、様子を見る以外に方法は無いだろう。
まぁ、扱いやすいようにある程度の改造はしていると書かれているが……忘れよう。
先ほど見た情報の内容では、コックピッド内の改造は独特で。
第五世代のように操作できるようにする為といって、色々と増やしていた。
無駄に思えるようなレバーやボタンで、逆に複雑さが増しているように思える。
そんなものをぶっつけ本番で操縦して、対戦相手のチャンピオンに勝てと言うのか。
ある意味で恐怖を覚えるシチュエーションで、俺は薄く笑みを浮かべた。
男から渡された端末が震える。
男は俺の手から端末を奪って声を発した。
「……あぁ、あぁ……分かった。今から行く……あぁ、そうしてくれ。じゃあな……よし、行くぞ」
準備が整った様であり、俺たちはソファーから腰を上げた。
ディーノを見ればため息を吐きながらボリボリと頭を掻いている。
情報を聞こうとしただけなのに厄介事に巻き込んでしまった彼には申し訳ないが、もう少し付き合ってもらう。
俺は案内してくれる男の背を追っていきながら、コロッセオへと向かう。
チャンピオンがどんな奴かは知らないが、勝てと言うのなら――勝って見せるさ。