【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
《どう?》
「……どうって……まぁ頑張りますけど」
コロッセオへと入場し、強面の男たちに無理やりコックピッドに押し込まれた。
半ば強制的にとはいえ、これから死ぬかもしれない戦いに行くのだ。
もう少し、説明やら練習の時間を与えてくれたって言いと思う。
しかし、相手は平気で人を殺すような人間たちだ。
逆らえばプッツンして銃弾を浴びせて来る恐れもある。
下手に刺激せず、俺は言われたとおりに機体を操作して入場ゲートの前に立つ。
コックピッドの中で計器を確認する。
エネルギーの残量を表すメーターやオートバランサーなどのスイッチ。
比重を自動で調整し、機体のバランスを保つもののようだ。
これがあれば歩行の時に機体がバランスを崩すことも無い。
第三世代にはこういう機能があったのだと思いながら、俺は操縦レバーを軽く操作する。
前へ後ろへと倒しながら指の部分のスイッチを操作した。
すると、レバーの動きに連動する様に腕のマニュピレーターが動く。
こういうところは第五世代と変わらない。
「……問題なのは、他のアクションを行う時の操作だな」
機体の姿勢が崩れた場合にオートバランサーは邪魔になる。
機体の比重を保とうとして、回路が焼き切れる恐れがあった。
一度切ってから手動操作によって噴射口を起動させて、適切な出力で機体を立て直す必要がある。
レーダーの類は存在しない。
コストが掛るからつけていないのか。それとも、狭い空間で戦うから必要ないと判断したのか。
極端にディスプレイも狭い上に、型が古い為にセンサーの精度も低い。
ノイズは走っていないからまだマシだが、少しばかり手を焼きそうだ。
鉄製の柵が降りている入場ゲート前。
光が漏れ出すそこから見えるのは、無造作に地面に刺された太い鉄製の柱だ。
無数に刺されたそれはメリウスで移動する人間にとっては邪魔でしかないだろう。
そんな物を態々刺していているという事は、アレも試合を盛り上げる為の道具の一つか。
ただの闘技場では盛り上がりに欠けると思ってあんなものを刺している。
それはつまり、ずぶの素人でも上手くアレらを利用すれば勝てると思わせるようで……そんな訳は無いのにな。
アレらを上手く扱えるのはどう足掻いても此処で連戦連勝中のチャンピオンだけだ。
素人がどんなに頑張ったところで勝率は一パーセントも無いだろう。
通信を繋いだ状態で、俺はサイトウさんにオッズはどうなっているか聞いた。
すると、1:9であり勿論の事、挑戦者である俺は1であった。
誰からも期待されていないし、勝てるとも思われていないのだろう。
通信機越しに聞こえる実況者の声を聞けば、俺が如何に無謀なチャレンジャーかと語っている。
命知らず、ブレーキの無いドラッグマシーン、チャンプへの供物……言いすぎだろ。
ぼろくそにコケ下ろしてくる実況者。
その声を聞いて静かにため息を零す。
すると、無駄に長い前説が終わってゆっくりと鉄柵が上がっていく。
ギャリギャリと上がっていくそれを見ながら最終チェックをする。
「エネルギー稼働率問題なし、各部の噴射口も異常なし、マニュピレーターの感度……やや鈍いか。誤差は……時間が無いな」
最低限のチェックを済ませる。
そして、早く出て来いという野次に従って動き出す。
三つのスイッチを起動させて、システムを戦闘モードに移行する。
噴射口からエネルギーが噴き出して、コアから発せられる熱のお陰でコックピッド内が僅かに温かくなる。
指のスイッチを押しながらレバーを前に倒す。
重く硬いヴァルターの脚部がゆっくりと動き出して、ズシズシと地面を踏みしめながらコロッセオ内に侵入する。
光が一気に広がって俺は目を細めた。
狭い視界の中でセンサーを動かして周りを見る。
すると、円形になったコロッセオには沢山の観客がいた。
殺し合いが見たくて見たくて溜まらない異常者がわんさかいやがる。
俺は此処の恐ろしさを眼に焼き付けながら、ゆっくりとセンサーを前に向けた。
試合開始のゴングを待って――ブレードを横に構える。
危機感が働いて、咄嗟にレバーを操作した。
腕を上げてブレードでガードした瞬間に武器に何かが当たる。
凄まじい衝撃であり、機体が横へとスライドした。
計器から警報が鳴って、機体のバランスが崩れそうになる。
噴射口から勢いよくエネルギーを噴射しながら持ちこたえた。
そうして、ギャリギャリと地面を滑りながら、センサーを横へと向ける。
しかし、そこには誰もいなかった。
「……もしかして、ゴングとかは無いんですか?」
《うん》
「……教えてくださいよ。殺されてましたよ?」
《知らない》
「……そうですか」
淡白なサイトウさんの返事にため息を吐く。
ため息を吐けば吐くほど、幸せが無くなっていくようで――ブースタを点火する。
緊急回避を試みて、重い機体を前に動かす。
何かが背後に迫って背中を軽く撫でた。
軽く撫でた筈のそれによって機体のバランスが崩れる。
機体が大きく傾いて、地面にセンサーが向きそうになった。
転がりそうになった機体を安定させるために、俺は瞬間的に幾つかのボタンを押す。
事前に見た情報で操作方法は分かっているが――慣れないなッ!
オートバランサーを一時的に切り機体の重さの比重を戻す。
オートによる姿勢制御も切ってから、レバーを二に切り替えて腰の噴射口を起動。
ギアを回して出力を調整し、噴射量を上げる。
倒れそうになった機体を持ち直して、レバーを三に切り替える。
肩部の噴射口が起動して重い体を安定させて地面を滑っていく。
砂埃が舞って、レバーの位置を戻してオートバランサー再起動させた。
比重が安定した事によって、持ち直した機体は勝手に直立する。
一瞬の出来事であり、機体が倒れそうになっただけでこれだけの操作をしなければいけない。
面倒な改造をしたものであり、慣れない人間が戦って死ぬのは当然だと思えた。
敵がズシズシと地面を揺らしながら接近してくる。
俺は姿勢を安定させながらブースタで距離を取った。
相手のブレードが目の前で振られるが、紙一重で避ける事が出来た。
敵はそのまま自らのブースターを使って柱の合間に機体を滑り込ませる。
センサーで追いかけようにも、此方の機動よりも相手の機動の方が上だ。
ブースターから発せられる音。敵の足裏が地面を擦れる音を聞く。
レーダーが無いのであれば、音などの情報で敵の接近を感じ取る他ない。
「……センサーが無いから敵の接近も分かり辛い。視界は極端に狭い……ちょっと練習するか」
本番だというのに練習をする事を決めた俺。
それを知らないチャンピオンは柱の隙間を移動しながら俺を攻撃してくる。
ブレードに相手の武器がかち当たる度に機体が大きく揺れた。
単純な出力では圧倒的に不利であり、強引に刃を押し込まれれば負けるだろう。
機動力も向こうが上であり、攻撃に対応してから振り向けばもうそこにはチャンプはいない。
ヒット&アウェーの戦法を取っているのは確実な勝利を得る為か……いや、違うな。
何となく相手がどんな気持ちで戦いを挑んでいるのか分かる気がする。
動きからして余裕があり、戦い自体を楽しんでいる。
まるで、追い詰められた獲物をいたぶって反応を楽しんでいるようで。
良い性格をしていると思いながら、俺は背後からの攻撃にも対処する。
半身をズラして回避。しかし、機体の動きに誤差があり胸部装甲が抉られる。
ヴァルターの茶色の装甲が削られて、残骸が宙を舞う。
損害は軽微であるものの、今ので冷却装置が作動したかけた。
俺はこんなものは邪魔だと冷却装置を切っておく。
そうして、目を細めながら機体の動きの誤差を計算して――通信が強制的に繋がされる。
《おいおいおいぃ。もっと楽しませてくれよぉ。こんなんじゃ俺は燃えないぜぇ?》
「……随分と余裕があるな」
《あぁ? そりゃそうだろ。兎を相手に全力を出す狩人はいねぇよ……いや、兎ですらねぇな。テメェはただの案山子だ。ぎゃははは!》
「……案山子はまだ立っているぞ?」
《はっ! 口だけは一流らしいが……もう少しだけ遊んでやるよ!》
敵の機体の音を聞く。
ブースターの音が強くなって、出力を更に上げたと理解した。
俺もブースターを点火して移動を始めた。
柱を避けながら移動して、周囲に目を向ける。
柱の位置や高さ、他に存在する物や柱同士の間隔など。
狭いディスプレイから見える情報。
柱の合間を通り抜けていく風の音も聞こえる。
音の反響によって俺の頭の中にコロッセオの地形が見えて来る気がした。
柱だけじゃない。
地面に転がっている残骸も存在する。
錆ついたブレードやメリウスの足や腕に頭部。
碌に掃除もされていないひどい戦場で。
俺はそれらを避けながら、一つ一つの情報を頭に叩き込んでいった。
それを確かめている間にも敵からの攻撃は続く。
ディレイが生じる中でブレードを動かして何とか敵の攻撃を凌いでいった。
しかし、機体には傷が増えていって。
損壊度も徐々に上がっていった。
出力の違いによって、相手の攻撃を完全には往なしきれていない。
回避しようにも障害物がある中では機動力を完全に活かす事は出来ないだろう。
前の挑戦者の機体の残骸が無残に散らばっており、下手をすればつまずいて機体が転がる恐れもある。
もしも、一度でも機体を転倒させればお終いだ。
立ち上がる前にコックピッドを潰される未来しか見えない。
「……性能差を埋めるには……ディレイは1.2秒……相手の出力は……」
《ははは! 何をぶつぶつと言ってやがるんだ!? もう可笑しくなっちまったのか!》
頭の中で情報を整理して――大きく目を見開く。
その瞬間に敵の動きの先が見えた。
背後から迫った敵はブレードを振っている。
未来を見たことによって、機体を一気に回転させた。
腰の噴射口からエネルギーを放出して、ギャリギャリと地面を滑る。
機体から嫌な音が響く中で、俺は敵の攻撃を見つめた。
背後から迫った敵のブレードが俺の機体に振りかざされる。
しかし、回転によって機体が動いたことによって軽く肩が削られるだけに留まる。
――問題ない。このまま進む。
噴射口を作動させる事によって機体が揺れるのを防いだ。
そうして、ブレードを振るって敵の体を斬りつけた。
俺が振るったブレードが敵の腕に当たる。
甲高い音を立てて金属同士がかち当たった。
相手のヴァルターの装甲を抉ったが、深手は追っていない。
出力が弱い事もあるが、刃自体に切れ味が無い。
腕の形状を軽く変形させるだけ終わった俺の攻撃。
それを見た敵は危機を感じて後ろへと下がる。
そうして、再び柱の間を移動して姿を消した。
俺はブレードを見つめながら、軽く振る。
この程度の問題なら――関係ないな。
《へ、へ! ラッキーパンチか! だが、もう二度とお前にチャンスは》
「――もう慣れた」
《あ? 何を言って――ッ!?》
柱の間を移動しているチャンプ。
その進路を予測して前に躍り出る。
チャンプは驚きながら進路を変更した。
俺は足元の残骸を蹴りつけて、ヴァルターの頭部の残骸をチャンプにぶつける。
足に命中したことによって、チャンプの機体が揺れた。
どんなに整備していようとも、基本的な操作は変わらない筈だ。
そして、機体を安定させる時に決定的な隙が生まれる。
一気に近づいてブレードを振り上げる。
チャンプは機体を安定させながら、腕を盾にして俺のブレードを防ぐ。
軽く凹んだ腕。それを気にする事無くチャンプは持ち前の出力の高さを生かして俺を弾き飛ばした。
コックピッドが大きく揺れて再び計器から警報が鳴る。
空中に機体が浮いて、チャンプの笑い声が聞こえた。
鈍重なヴァルターが宙に浮けば格好の的で――俺は笑う。
俺の落下位置に先回りしてブレードを刺突の構えで持っているチャンプが見えた。
未来ではそのまま俺はコックピッドを刺されて負ける。
しかし、そうはならない。
オートバランサーを切り、噴射の出力を最大にする。
レバーは二であり、腰から凄まじい勢いでエネルギーが噴射された。
ブースターもフルで点火して、機体を激しくねじる。
そうする事によって機体が激しく回転した。
チャンプは驚きながらも、ブレードを突き刺してきた。
俺はその刃の機動を予測して機体の位置を微調整する。
丸みを帯びた場所へとブレードが接触して、そのまま刃に沿うように機体が移動。
ギャリギャリと刃の上を無理やりに移動すれば激しく火花が散った。
糸を巻き取る様に相手の攻撃の衝撃を流して、驚いているチャンプの頭部に蹴りを入れた。
回転と機体の重さが足に載った一撃が、チャンプの頭部に命中する。
頭部が大きく凹んでチャンプの機体は柱に叩きつけられた。
チャンプの機体の破片が飛び散る。
バチバチとスパークを起こしながらも、チャンプは機体を操作して逃げる。
センサーは完全に壊せなかった。
バランサーを切った状態で重さが載った一撃を見舞って、柱に叩きつけた。
しかし、それでも機体が動いているという事は相手の機体の耐久力の高さを表している。
真顔のまま一直線に進んで――地面から何かが出る。
逃げていったチャンプの先から現れた箱のような物。
それがガチャリと開いて、両隣から何かが突き出す。
それは俺の目が腐っていなければ、間違う筈も無く突撃砲で。
ブレードを捨てたチャンプは、その突撃砲を両手で掴んだ。
ガシャリと音を立てながら、二丁構えてから笑うチャンプ。
銃口を俺へと向けながら、彼は余裕の笑みでも浮かべているのだろうか。
《ははは! これでテメェは終いだ!》
「……プライドは無いのか?」
《あぁ!? 勝てばいいんだクソがァ!!!》
突撃砲の銃口が火を噴く。
そうして、弾が乱射されて俺に向かってくる。
俺は機体を柱へと隠して奴の様子を伺っていた。
銃を手にした瞬間に強気に戻って、自分の勝ちを確信している。
あんなものを用意していたのは誤算だったが……これでも勝てと言うのか?
鈍ら一つと鈍重で操作が複雑な機体が一つ。
これで勝てと言うのは鬼畜で。
俺は重いため息を零した。
耳元では奴の狂った笑い声が響いていて。
集中の邪魔だから切りたいと激しく思っていた。
切れない通信は諦める。
こんな鈍ではアイツを倒すには時間が掛かる。
俺は再び頭の中で計算する。
勝つ為に何をすればいいかを考えて――動き出す。
柱から飛び出して移動する。
ブースターをフルで稼働させるが、それでも動きは遅い。
チャンプは姿を現した俺へと銃弾を浴びせて来る。
柱から柱へ移動しながら、敵の銃弾を避けていく。
そうして、落ちていた敗北者のブレードを引き抜いた。
一本増えたところで戦況は変わらないが、やるしかない。
《俺の星になれやァァァァ!!!》
「……はぁ」
うるさい声で頭痛を覚える。
命を懸けた戦いなのに今いちしまらない。
チャンプなのに三下のような言葉を吐く奴を哀れに思いながら。
俺は観客の野次を無視して、二つのブレードを構えてスラスターを噴かせた。
ぴりぴりと激しい振動によって手が痺れる。
銃弾が周りへと飛んでいき、風を切る音が聞こえた。
そんな音を聞きながら――俺は笑みを深めた。