【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
背後から接近する敵メリウス。
凄まじいスピードで水の中を泳ぎながら、下部に取り付けたレーザー砲を向けて来る。
敵のエネルギー反応が増大したことをシステムに知らされた。
俺の勘が働く。すぐさまレバーを操作して機体を左右に揺らす。
流れる水が機体を大きく揺らして、敵も同じように機体を揺らしていた。
照準を定めているようであり、俺は薄く笑みを浮かべた。
激しい水の流れ、線となって水をかき分けていく。
スラスターから甲高い音が鳴り響き、暗い海の中で静かに反響する。
水が高温のエネルギーによって蒸発して気泡を発していた。
視界が悪い中で、敵はジッと狙いを定めていた。
獲物を狙う狩人のように、背後から隙の糸を掴もうとしている。
敵のレーザー砲の反応が強くなっていく。
エネルギーをチャージしており、砲塔が赤く発光していた。
それをバックカメラで確認しながら、俺はレバーを強く握る。
敵がレーザーを放つ瞬間を見極めろ。
一秒でもズレれば此方が消し炭にされるだろう。
冷やりとした感覚を抱く。怖気を走らせながら、体中がゾクゾクとした。
命を狙われ、一撃で殺される可能性を秘めた兵器を向けられている――素敵な展開じゃないか。
更にペダルを踏んで加速する。
敵を置いていくつもりでスピードを上げた。
機体が海の中をかき分けて、両脇に激しい水流が発生する。
そうして、暗く深い深海を目指して進んでいった。
コックピッド内で警報が鳴り、ガタガタと揺れて。
計器を見ればぐんぐんと深度が上がっていった。
今にも圧壊しそうな音が鳴る。
ギチギチと装甲を締め付けるような音で。
静かに小さく響くそれを聞きながら、俺は鼻を鳴らしてレバーを強く押した。」
――耐圧性を信じよう。限界を超えてくれよッ!
機体から光が発して周りを照らす。
暗く冷たい海の中を泳ぐ魚も蹴散らして、俺と敵は何処までも深い海を泳いでいった。
スラスターからは甲高い音が鳴っていて、勢いよく気泡を発生させていた。
死の気配が濃厚な戦場で、敵からのプレッシャーを肌で感じる。
何処まで加速しても、何処まで逃げようとも奴は追って来る。
執念のようなものを感じた。
怒りや恨み、怨念が混じった殺気だ。
濁り切った泥を掛けられたような不快感を感じながら、俺は目を細めた。
どんなに機体を揺らしても、どんなにスピードを上げても食らいついてくる。
危険な警報が耳にしながら、揺れるコックピッドの中でレバーを握った。
汗ばんで振動によって痺れた手で、俺は機体を操作する。
一切スピードを緩める事無く、危険な海底へと突き進んでいく。
狂気に身を落とし、機体の限界を超えようと加速した。
相手がどれほどの機体性能を持っていて、どれだけの深度に耐えられるかも分からない。
それでも俺は危険な賭けに自らの命をチップとして投げ入れる。
奥歯を強く噛みしめながら、背筋を這う怖気に心を高揚させた。
命の危機、限界の縁で戦う事。
体全体で、心でスリルを楽しむ。
どんなに危ない経験をしようとも、この感覚は忘れられない。
危機に陥れば陥るほどに、生きようとする意志が強くなる。
限界を超えて、その先へと進んだ時に得られる達成感は――何よりも得難い。
警報が鳴り響く中で、敵にロックオンされたことを知らされる。
だが、まだだ。まだ奴は撃ってこない。
ギリギリのチャンスを狙っている。
奴の考えが手に取る様に分かった。
未来を見なくとも、敵の強い執念から確実な死を俺に送ろうとしているのが分かった。
大きく目を見開く。
未来視を使って数秒先の未来を見た。
すると、敵がレーザーを放ってくる未来が見えた。
チャージした時間とエネルギーの上昇度を瞬時に計算――五秒後だ。
敵が撃ってくるタイミングを予測。
ビリビリと手を痺れさせながら操縦レバーを握る。
体全体が振動して、機体が俺の手を操縦レバーから放そうとしてくる。
俺は鬱血するほどの力でレバーを握りながら、海底を移すディスプレイを見つめた。
バックカメラから、奴の赤い単眼センサーが光を強めて俺を睨んだのが見える。
激しい水流を発生させながら、二つの金属の塊が潜航していく。
セイレーンの限界は水深600メートル。
現在、俺と敵は500メートルを通過した。
機体から嫌な音が聞こえてくる。
外側からの強烈な力によって押しつぶされていくような音。
装甲が軋み、凄まじい水圧によって機体を潰そうとしてくる。
心なしか警報の音が強くなったように感じるが気のせいだろう。
闇より深い暗闇の中へと突入しながら、機体が照らす光を頼りに進んでいく。
背後からは死神が迫って来て、その砲塔で俺を狙っている。
どんなに揺さぶりを掛けようとも、敵は冷静に俺を狙い定めていた。
ドクドクと心臓が早鐘を打って、三途の川が見えてくるような気がした。
メット越しに吸う生暖かい空気。
息苦しさを感じながらも、メットを外す余裕は無いから無視する。
冷たい海の底であっても、体全体は強い熱を発していた。
体から出る熱気でコックピッド内はサウナのように熱い。
そんな中で笑みを浮かべながら、敵を静かに見つめていた。
まだこいつの限界は超えていない。
通信も繋がらなくなった。この先は死地であり、敵もそれを理解している筈だ。
それでも奴はグングンとスピードを上げて接近してくる。
互いに限界を超えて、地獄へと進んでいく。
何方が死に何方が生きるかは、神のみぞ知る。
残り2秒――奴がすぐそこまで迫る。
砲塔をしっかりと向けながら、奴のチャージはほぼ完了している。
限界までレンヂを狭めて、最大出力で俺を堕とす気だ。
敵からのプレッシャーが強くなっていく。
それを感じながら、俺は大粒の汗を額から流した。
残り1秒――レーザー砲の光が強さを増す。
放たれる。
このままでは確実に墜とされる。
それを理解しながら、俺は笑みを深めた。
そうして、備え付けられたボタンを――全て切った。
全てのライトを消した。
すると、一瞬で俺の機体は真っ暗闇に包まれる。
スラスターも停止させて完全な闇に染まる。
光が差し込むことも無い海底で、俺の機体は海の一部として溶け込んだ。
敵からの光も、発生していた泡によって屈折して届かない。
俺はレバーを動かして手足を動かした。
そうする事によって僅かに機体が進む方向を変える。
敵が動揺しながら光線を放ってきた。
移動中に機体を完全に停止させる愚か者。
そんな人間など見たことが無いだろう敵は、俺の進路を見誤った。
勢いよく放たれた細く収束されたレーザーが俺の機体を掠めていく。
右腕を掠めて装甲が軽く溶かされた。
損壊度は軽微であり、移動には問題ない。
敵の機体が凄まじい勢いで通過していった。
奴のスクリューから大量の泡が発生して、奴の移動の軌跡を描いていた。
今のレーザーの照射の光によって俺の位置を再び見つけた敵は、ミサイルポッド回転させて俺に向ける。
そうして、搭載された魚雷が勢いよく俺の機体へと放たれた。
俺は一気にスラスターを点火した。
そうして、機体が圧壊する前に急速に浮上する。
追って来る魚雷を見つめながら、ハープーンガンの照準を定める。
凄まじい勢いで迫って来るそれへと弾を放ち撃ち落す。
爆発が起きて、周りの魚雷の機動が変わる。
俺は魚雷をひらりと躱して方向転換しようとしている奴にハープーンガンを構えた。
「お返しだ」
ハープーンガンを連続で放つ。
三発の弾丸が気泡を発生させながら突っ込んでいく。
奴の進行の変更は予測している。
あの機体の形状からして曲がるのであれば大回りになるだろう。
水中では大抵の機体が小回りが利かないものだ。
直進の移動に重きを置いたフォルムなら尚の事だ。
敵は回避しようとした。
一発目は回避され、二発目がミサイルポッドを穿つ。
軽い爆発を起こしながら、三発目が奴のレーザー砲を貫通した。
激しい爆発。それによって発生した気泡によって奴の機体が消える。
レーダーからも反応が消えて――悪寒が走った。
嫌な気配。奴のプレッシャーが消えていない。
それどころか強さを増して――機体を浮上させる。
沈んでいく敵から視線を逸らして戻ろうとした。
あの泡の中に突っ込んでいくのは危険だ。
だからこそ、深い負いする事無く逃げる事を選択した。
しかし、それは間違いだった。
光が迸る。
目の前で強い光が発生した。
目を細めながら何が起きたのかと見れば、機体に強い衝撃を感じた。
センサーから確認すれば、赤い単眼センサーが目の前で光っている。
レーダーから反応が消えた筈だ。
それなのに、奴は俺の前に立ち塞がって。
隠し腕を展開して俺の両腕を拘束している。
まさか、俺の真似をしたのか――ッ!!
ギリギリと奴のアームの力が強まっていく。
拘束を抜け出そうとするが、まったく身動きが出来ない。
俺が舌を鳴らしながらレバーを握っていれば通信が繋げられた。
ディスプレイに映ったのはパイロットスーツを着た男で。
奴はシールド越しに笑みを浮かべながら、危険な瞳で俺を見つめる。
《く、くく……我ら教団の敵になる者は排除する……私が、私が、お前を地獄へ導いてやろう》
「……教団。不死教か」
《は、ははは! 不遜なる人間に死をッ!!》
腕の装甲から嫌な音が鳴る。
そうして、手からハープーンガンが滑り落ちていった。
このままでは腕がイカれて拘束を抜け出す事も出来なくなる。
ギチギチと腕から軋むような音が聞こえて、出力が下がっていった。
俺は狂ったように笑う男を見つめながら、かちりとボタンを押した。
すると、脚部のミサイルポッドが展開して中から一発の魚雷が放たれた。
至近距離にて奴のセンサー部に命中した魚雷。
軽い爆発が起きて、奴との通信が乱れた。
《な――ぎょら――無い、筈ッ!!?》
「六発全部使わなくても、船は墜とせる……臆病な人間が生き残るのが世の常だろう?」
アームの拘束が緩む。
俺にも少なからずダメージがあり、コックピッド内で火花が散る。
今ので胸部の装甲に亀裂が走ったようだ。
浸水しかけており、俺は薄く笑みを浮かべながら両腕を奴の頭に向けた。
エネルギーのチャージは既に完了している。
奴が俺を静止しようとしているがその声は無視した。
先端が青く発光しながら、銃口の周りの水が蒸発していく。
俺は深い笑みを浮かべながら奴に最期の手向けを送った。
「地獄へは一人で行ってくれ」
《ま――……》
放たれたレーザーが奴を穿つ。
コアを射抜いて、奴の機体を蹴り飛ばしながら離れた。
すると、スパークを起こしながら遅れて奴の機体から爆発が起きて今度こそ完全にセンサーから光を消した。
ぼこぼこと泡を出しながら沈んでいって、アルミ缶を潰すように機体を変形させていく。
奴からの言葉によって、あの見知らぬ機体のパイロットが不死教の人間だと理解した。
治安部隊からの襲撃かと考えていたが、不死教も関りを持っているようだ。
誰からの命令か?
ファーストたち幹部からの命令か。
それとも、不死教の人間の独断行動か。
いや、それは無いだろう。
特殊な水中戦用のメリウスを持ってきたのなら、バックに強力な後ろ盾がいる筈だ。
この地に不死教の手が伸びている事には違和感を抱くが……今は気にしていられないな。
機体を浮上させながら、俺は迎えの船が来るポイントに急いだ。
カルロとメイは無事だろう。
二人は手練れであり、負けるとは思えなかった。
もし負けたとしても、彼らは現世人だから復活できる。
その為、心配何てしておらず。寧ろ、こんな状態で助けに行けば邪魔だろうと思っていた。
「不死教……三つの陣営……ディアブロの狙いは……」
新たな情報によって少しだけ混乱しそうだった。
俺は生暖かい空気が流れる空間で息を吐く。
そうして、蒸し暑さを感じながらメットを脱いで放り投げた。
少しだけ息苦しさが緩和されたことによって、俺は気持ちを落ち着かせる。
ディアブロは治安部隊が邪魔だから消そうとしている。
しかし、兵力も資金も恐らくは奴らの方が上で。
こんな事をしたとしても、奴らを排除する事なんて到底出来ないと思えた。
メイは段階的に作戦を進めて、最終的な作戦も既に立てられている言っていた。
それはつまり、ディアブロにはこの戦いの終わりが見えていると言う事で……不死教の介入も予測しているのか?
ディアブロの考えは分からない。
しかし、終わりが見えているという言葉に嘘は無いだろう。
どんな作戦で、どんな終わりが見えているのか。
俺はディアブロの底の見えない瞳を思い出しながら操縦レバーを強く握る。
「……敵なら、俺は奴を……」
水面ギリギリを進みながら、レーダーに映った船へと近づく。
そうして、初めての水中戦を終えた俺はもやが掛ったような頭で決意を固めていった。