【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
カツカツと靴の音を鳴らしながら歩いていく。
俺の手には端末が握られていて、表示されている物を見せる為にメイの部屋を目指していた。
黒いタワーの中を歩いていけば、煙草を吸っている男たちがいて。
何をそんなに険しい顔をしているのかと聞いてくる。
俺はそんな言葉を無視して歩いていく。
拳銃で遊んでいる子供も無視して歩いて行って、メイの部屋の前に着く。
俺は軽くノックをして返事を待った。
しかし、返事は返ってこなかった。
扉のパネルに触れれば、ロックは掛かっている。
中にいるのか外に出ているのかは分からない。
俺はいら立ちを隠すことなくガシガシと頭を掻いた。
そうして、拳銃から弾を放って缶を撃っている子供に声を掛けた。
「メイは何処かに行ったのか?」
「……知らなーい」
「……ほら、小遣いだ」
知らないふりをしているのは一目瞭然だった。
だからこそ、俺は財布を出して紙幣を出した。
それをガキに渡してやれば、にししと笑って受け取る……守銭奴め。
「メイならカルロと一緒にドッグに行ったよ。あ、ドッグは此処から西の方にある……あれだよ。あの青い屋根の所」
「……何でドッグに行った? 俺を監視するんじゃ」
「知らないよ。メイもカルロもいい加減だし……面倒臭くなって機体を見に行ったんじゃない?」
「……そうか。ありがとう」
「じゃーねー!」
ガキに手を振り返して去っていく。
監視役が監視対象から離れるのはどういう事か。
いや、監視してもしなくても俺が逃げないと思っているのか?
サイトウさんとディーノを人質に取って。
俺は二人が今何処で何をしているのかも知らない。
そんな状況の中で、俺が一人で逃げるとは考えていないのか。
だとしたら、奴らは相当な間抜けで……いや、逃げられないけどな。
ディーノだけならまだいい。
出会って間もないからそこまで情も湧かないから。
それに奴は悪党であり、何人も平気で殺しているのだろう。
ディアブロとの繋がりを作ってくれた恩はあるが、それでも命をかけるような相手ではない。
問題なのはサイトウさんで。
彼女がいなければこの先の戦いも厳しくなるだろう。
ただでさえ告死天使と敵対して、ゴースト・ラインのファーストも敵となった今。
頼りになる戦力は一人であろうとも手放せない。
それに個人的にはサイトウさんの事は好きであり、恩師のように思っている。
必要ない知識も教え込まれたが、役に立っていない訳ではない。
彼女はあんな感じだが、俺の事は気遣ってくれていた。
例え、何かの目的の為に利用しようと考えていたとしても、彼女ならば命を懸けてもいい。
恩を仇で返す事はしない。
恩には恩で報いるのが人間だ。
俺はそう思いながら、サイトウさんの無事を心の中で祈っていた。
……と、言っても。そのサイトウさんが自ら進んで捕まったのは解せない。
俺の気持ちを汲み取って捕まったのか。
それとも、やはりディアブロと裏で取引をしたのか。
何方にせよ、彼女なりの考えがあり何かをしようとしているのか。
何も分からないが、俺は俺で進むしかない。
ディアブロの計画に載って、依頼を完遂すれば彼女に会える。
確証は無いものの、ディアブロは約束を破らないような気がした。
俺を罠に嵌めて殺すつもりだったのなら、玉座の間で始末している筈だ。
それをしなかったのは、奴らにとって俺は利用価値のある存在だったと言う事で。
計画を進めながら、俺をどうしたものかと考えているのか……嫌な予感はするがな。
このまま進んでいけば良くない気はする。
しかし、俺には選択肢が無い。
逃げればサイトウさんの身が危険で、ディアブロを脅迫しようにも奴は俺の前に姿を現さない。
最早、爆弾は重いだけで無駄だと悟った。
解除は済ませて、部屋の中に置いてある。
何事も上手くはいかないものだと思いながら、俺は進んでいく。
エレベーターの前についてボタンを押して扉を開けた。
そうして乗り込んでから、ボタンを押して扉を閉める。
ゆっくりと下へと降りていく中で、俺は重いため息を吐いた。
もう会わないだろうと思っていた。
しかし、俺は自らの意思でゴウリキマルさんの元へ行こうとしている。
仕方ない事と言えばそれまでだが。
彼女は鍵と呼ばれるものを持っていて、敵対している組織はそれを狙っている。
何としても奴らよりも早くゴウリキマルさんと接触して彼女を守らなければならない。
鍵を奪われるだけならまだマシだが、彼女が捉えられるのは避けたい。
俺にとっては鍵よりもゴウリキマルさんの命の方が何倍も価値がある。
だから、俺は彼女を――チンと音が鳴った。
一階へと付いたようで、扉が開いていく。
開いていく扉の先を見つめて――大きく目を見開いた。
「やぁ」
「……どうして此処にいる」
エレベーターの扉の先にはディアブロが立っている。
うすら寒い笑みを浮かべながら片手を上げていた。
彼の両隣には兵士が立っていた。
チラリと上を見れば、立体映像を投射する為のドローンが浮遊していた。
今回もただの映像で、俺はこんな手の込んだ事をしてまで会いに来た理由を尋ねた。
すると、ディアブロは笑みを浮かべながらゆっくりと説明した。
「記事を見たんだろう? 君は我々に不信感を抱いて、今からメイの元に向かおうとしている……当たりかな?」
「……なら、答えてくれ。こうなる事を最初から分かっていたのか」
俺は端末を奴に翳した。
そこには最新の記事が書かれていて。
モーランバレスにて治安部隊が襲撃を受けたことが記載されていた。
奴らは身を引くと言う選択肢を取るどころか徹底抗戦の構えを見せている。
攻め込む為の大義名分を手に入れて、大群で此処に攻め込んで来ようとしているのだ。
これでは奴らの侵入を防ぐのではなく、島の防衛戦になってしまう。
苛烈な戦いになるのは簡単に想像できる。
これを予想していたのなら、この先に何をしようとしているのかを俺は問いかけた。
すると、奴は静かに頷いてから俺に道を譲る。
「詳しくは車の中で話そうか……来てくれるかな?」
「……分かった」
奴の提案に載って歩いて行った。
奴の映像は消えてドローンは兵士に回収される。
靴の音を鳴らしながら外へと歩いていけば、扉の前に車が停まっていた。
装甲車や護送車ではないただの高級車で。
自動で開いた扉を見つめてから、誰に促される訳でも無く自ら進んで乗り込んだ。
高級車というだけあってシートは革張りで、天井からモニターが降りて来た。
兵士が乗り込むのかと思っていれば誰も車には乗りこんでこない。
運転席を見れば自動で光がついて独りでに動き始めた。
完全自動操縦の車であり、よほど他の人間には聞かれたくないのだろう。
モニターが点灯して椅子に座ったディアブロが映る。
奴はにこにこと笑いながら、乗り心地はどうかと尋ねて来た。
俺はそれを無視して、先ほどの話の続きを話すように促した。
ディアブロは笑みを崩すことなく頷く。
そうして、足を組みながら静かに言葉を発した。
《マサムネ君。お願いがるんだ――死んでくれないかな》
「…………何?」
奴の言葉に少なからず驚く。
車の乗りこむ前にチャックしたが、危険なものは無かった。
此処で俺を殺すつもりは無く。
映像越しの奴の目を見ても、一切の殺気を感じなかった。
恐らく、死ねという言葉には意味がある。
俺は無言で奴の話の続きを待った。
すると、奴はゆっくりと説明を始めた。
《こうなる事は分かっていた。彼らは理由をつけて何時かは攻め込んでくるとね。私は、彼らに分かり易い理由を与えてあげた。恐らくは明日にでも敵が攻め込んでくるだろう……だが、私が死ぬ事は無い》
「……」
自分が死ぬ事は無いだと?
なら、治安部隊は誰を標的に来るのか。
それを考えていれば、奴はゆっくりと話の続きを喋った。
《簡単な事だよ。彼らは襲撃を計画した人間を粛清したい。自分たちの利になる人間を生かして、自分たちにとって害となる人間を殺す……なら、利益を齎す人間たちが互いを殺すように願えばどうなると思う?》
「……まさか」
俺は奴の言葉を理解した。
恐ろしい計画であり、奴の狙いは治安部隊を消す事ではない。
初めから他の勢力を潰し、自らが王になる事を計画していた。
その為の生贄として、首謀者を差し出して――俺すらも生贄に捧げようとしていた。
奴らにとっての利益。
それは奴らにとって一番の敵となる人間の首を差し出す事だ。
障害となる人間を始末してやれば、奴らは喜んで協力する。
国としての認可も、これから行う取引すらも……奴は笑っていた。
有効的な笑みは浮かべている。
しかし、その目は一切笑っていない。
本気であり、俺を確実に殺そうとしている。
逃げる事は出来ない。サイトウさんが彼の手に捕まっているから。
しかし、俺はサイトウさんがいなくとも逃げようとは思わなった。
奴は初めに俺に取引を持ち掛けてきた。
ディアブロという人間が本物の悪党で、心までも悪魔の様な人間だったのなら。
俺は奴と話す間もなく殺されていただろう。
しかし、奴は俺を殺すことなく計画の一部として利用した。
それはつまり、取引が終わっておらず。まだ俺との約束を果たそうとしている証拠だった。
ディアブロは足を組んで手を置く。
そうして、笑みを浮かべながらゆっくりと言葉を発した。
《もう一度だけ言おう。マサムネ君――私の為に死んでくれないか?》
「……」
奴の計画何て分からない。
俺は知能派では無く、知略を巡らす事は奴の方が上手だ。
死んでくれという言葉を素直に受け止めるのならば、文字通り死ぬのだろう。
復活できるかも分からない状況で死ぬのは高いリスクが生じる。
もしも生き返らなければ、俺の人生はそれで終了だ。
だが、俺は奴の言葉を聞いて頷いた。
奴の考えは分からない。
しかし、額面通りにその言葉を受け取る事はしない。
公正で公平な取引をする悪魔ならば、俺も信じてやろう。
狂気に身を置き、命をチップとして賭けなければこの世界では生き残れない。
俺が頷いたことによって奴は満面の笑みを浮かべた。
そうして、ゆっくりと進んでいく車の中で計画の全てを話してきた。
俺はその内容を静かに聞きながら、徐々に目を見開いて行った。
この男は、本物だ。
本物の悪魔であり――王の器があると感じた。
悪魔の言葉に驚きながら、俺は奴の計画を頭の中に刷り込んでいく。
そうして、この作戦が終わった時に待っている結末に俺は静かに震えていた。