【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
戦いが始まり、至る所で火の手が上がっている。
轟轟と燃え盛る炎が紅蓮に輝いて、歪だった街は破壊されていく。
頭上からは爆撃機による攻撃が始まって、此処にも爆弾が降り注いできた。
しかし、バリアに阻まれて爆弾は消滅してしまう。
私はただただ、目の前に広がる光景を目に焼き付けていた。
タワーの頂上からその光景を眺めながら、私は片手で髪を押さえた。
強い風が吹いて髪が靡いて、控えている兵士たちが私に手を伸ばそうとする。
私はそれを片手で制しながら、黙って地上を見つめていた。
カルロもメイも頑張ってくれている。
あのマサムネという青年も、私が想像していた以上の力を持っていた。
アレだけの力があれば、奴らに怪しまれる心配も無い。
計画は現在進行形で進んでいて、滞りなく順調だった。
敗色が濃厚な戦場で、自らの命の灯が消えようとしている。
それでみ私は笑みを浮かべて、映画でも見るように地獄を見つめていた。
風が吹きすさぶ中で、護衛の人間たちが銃口を後ろへ向ける。
何者かが扉をこじ開けて入ってきたようで。
笑みを浮かべながら視線を向ければ、武装した人間たちがなだれ込んできた。
私を護衛する人間たちは、私の指示を待つことなく発砲した。
敵も応戦してきて銃撃戦となる。
控えていた他の部下が私の前に防弾ケースを広げて守りに入った。
ガツガツとケースに弾が当たって弾かれる中で、私はやはり来たのかと思う。
治安部隊からの攻撃を受けて。
一番街の様子が見えるこの場所で戦いを眺めていた。
そうすれば、嫌でも兵士たちの異様な動きに気づいてしまう。
私の部下たちは熱心に敵へと攻撃を続けていて、向かってくる敵を撃ち落していた。
マサムネ君やメイたちが守る海岸線はまだ侵入されておらず。
あのまま攻撃を続けていれば暫くは保つだろうと思っていた。
しかし、別のところに目を向ければ一部の兵士が攻撃の手を緩めている。
周りに怪しまれないように攻撃は続けていた。
しかし、その攻撃は敵に掠りもしていない。
まるで、敵を墜とす為に弾を発射したのではなく――見せかけの攻撃の様で。
二つの派閥の人間からの協力要請。
自分たちも治安部隊と戦いこの島を守ると言っていた。
まぁ鼻からそんな言葉なんて信用していない。
最初から彼らは奴らと戦う気なんて無い。
彼らは奴らをこの島へと招き入れて、私の部下共々私を殺す気でいた。
その証拠に、一部の人間に私がタワーの最上階から戦況を見ていると教えれば。
敵が徒党を組んで此処へと流れ込んできた。
このタワーともう一つのタワーに住んでいる非戦闘員は避難させている。
街に住んでいる人間たちも戦いには慣れていて。
今頃は安全な場所で身を隠しているのだろう。
なだれ込んできた兵士たちは攻撃の勢いを強めていく。
そうして、部下に弾が被弾して血しぶきが舞う。
脳天を撃ち抜かれて脳漿をまき散らし魚のように痙攣する者。
体中をハチの巣にされて、だらりと四肢を投げ出す者。
次々に部下の死体が詰みあがっていく。
敵の数も減っている。しかし、倒れていく兵士の数は此方の方が上だ。
私の部下は次々に血を吹き出して倒れていった。
自分が作った血溜まりの中で倒れる部下たち。
私を守っていた部下たちも眉間を撃ち抜かれて最上階から落ちていった。
顔に部下の血がべったりと付きながらも、私はただただ笑っていた。
静かに落ちていった部下を見届けてから、私は敵の兵士が守っている男に目を向けた。
ライフルを構えながらその男を守っている兵士たち。
男は兵士たちをどかせてから、ニタニタと笑って私の前に姿を現した。
短い金髪に火傷を負った顔の男で、醜悪な顔で私の事を見ている。
コートを着込んだ男は高いだけで無価値な葉巻を吹かせながら、やれやれと言った感じで首を振る。
「ディアブロよ。私はお前を買いかぶり過ぎていたようだ……まさか、お前がこれほどまでに愚かだったとは」
「愚か? どういう事かな――ブロンズ・オッドバルド」
私は彼が嫌う呼び名で彼を呼んだ。
すると、彼は眉を顰めさせながら大きく息を吐く。
そうして、腰に付けたホルスターから拳銃を取り出して弾を放つ。
警告も無しに放たれた弾丸は、精確に私の右足を撃ち抜いた。
ぽっかりと空いた穴から血が噴き出して。
ドクドクと流れる赤い液体はズボンを汚して地面に流れていく。
痛くて熱い。傷口が熱した鉄棒を押し付けられたように痛い。
私はそれでも笑みを浮かべながら、何とか立ったまま彼を見つめた。
彼は無表情でゆっくりと言葉を発する。
「私はブロンズではない。ゴールドだ。苦しみながら死にたくないのなら、口を慎め」
「……これはこれは失礼した。名前を間違えるのは無礼だったね……ただ」
「ただ?」
オッドバルドは首を傾げる。
銃口を私に向けながら、何を言うのかと見つめて来る。
私は笑みを深くしながら、ゆっくりと人差し指を彼に向けた。
「――君は黄金ではない。黄金になれるような器なんて持っていないだろ?」
「……」
せせら笑いながら言ってやれば、オッドバルドは無言で引き金を引く。
乾いた銃声が鳴り響いて、もう片方の足も撃ち抜かれた。
私は溜まらずに両膝をついて、呼吸を大きく乱した。
両足の空いた穴からとめどなく血が流れていって大きく広がっていく。
呼吸が苦しくなっていって意識が今にも飛びそうだった。
それでも私は笑みを絶やすことなく、オッドバルドを見つめていた。
オッドバルドは舌を鳴らす。
どんなに苦しめても、どんなに痛めつけても笑みを絶やさない私。
奴にとっては私は化け物のように映っているのかもしれない。
長くこの島を統治して、住民からも信頼されてきた。
そんな私をこの男は、昔から殺してやりたいと思っていたのだろう。
初めて会った時から、彼の目には嫉妬の炎が見えていた。
権力、地位、名声――全てを欲する人間の目だ。
欲する物を手に入れる為に、この男はあらゆる事をしてきた。
私が苦手とするような分野にも手を広げて。
率先して汚れ役を買って出るこの男についていった人間も数多くいる。
己の力で伸し上がって、何時の日か私の全てを奪いに来る。
信頼する部下を与え、意味のある地位を与えて。
多くの金を渡し、欲したものは与えていたつもりだ。
それでも彼は、それ以上を欲していた。
その結果が、私という人間から全てを奪う計画に繋がる。
懐かしい記憶だ。
野心のある人間は数多く見てきたが、生き残る事が出来たのは彼くらいだろ。
生きて生きて、奪って喰らって――私の番が来た。
彼が死神となり、私の全てを奪いに来た。
愛するこの国と、愛する部下の命を。
そして、それらを確実に手に入れる為に私の命を生贄として捧げようとしている。
欲深い。何処までも深い暗闇のような心だ。
だからこそ、彼は今までも生き残って来た。
泥水を啜ってでも生きると決めた人間は強い。
黄金になれる器は間違いなくないだろう。
しかし、彼は誰よりも伸びしろがあった。
叩けば叩くほど、彼は何処までも成長していく事が出来る。
私はそんな彼が気に入っていたからこそ手を貸した。
その結果、私は自分の飼い犬に殺されそうになっている。
可笑しかった。可笑しくて可笑しくて溜まらない。
私は笑うという行為を止める事が出来ず。
天を仰ぎ見ながら、大きな声で笑った。
両足は燃えるように痛い。
吐き気もして、意識も飛びそうだった。
それでも、この瞬間は今まで経験したどんな事よりも面白い。
自分が今から殺される。
死という概念だけは経験したことが無かった。
それは当然だ。普通なら死ねばそれで全てが終わる。
動き続ける機械の電源を落とすように、何も出来なくなるから。
四肢から力が抜け、呼吸すらも出来なくなる。
何も感じず、ただ暗闇が広がる空間で浮き続けるのか。
何も、分からない。
分からないからこそ、楽しみで仕方がない。
未知とは恐怖を感じるものではない。
未知とは好奇心が強くなるものだ。
知らないものを見て感動し、知らない場所に行って達成感を抱く。
未知というものが人間に自信をつけて。
初めての体験というものが、人間に大きな一歩を歩ませる。
オッドバルド君は何が可笑しいのかと私に問いかける。
チラリと彼を見れば少しだけ震えていた。
彼の部下の目にも恐怖がありありと浮かんでいた。
私はそんな彼らを見ながら、ゆっくりと両手を大きく広げた。
「面白いからさ。人生が面白かったから。何も悔いが無かったから――新たな人生が楽しみで仕方ないのさ」
「……狂人が。お前に次何て無い。地獄で閻魔に裁かれろ……私も何れはお前の元に行こう」
「……そうか。君も来るのか。楽しみが、また一つ増えた……ありがとう。オッドバルド」
私は自然な笑みを彼に向ける。
すると、彼は目を細めながら銃を両手で握った。
外さないように、殺し損ねないように狙いを定めて――
「――さよならだ。親父」
別れの言葉と共に、彼の銃口から弾が放たれた。
火薬が爆ぜて、鉛の弾がゆっくりと進む。
死の弾丸が私の人生を終わらせようとしている。
死ぬ時の時間はゆっくりとなると聞いていたが本当だったようだ。
ゆっくりゆっくりと進む弾丸。
私は瞼を閉じて、暗闇に身を預けた。
オッドバルドは立派に成長した。
立派な悪党として、私の命を奪いに来た。
最期の時には私を父と呼んでくれて、また会いに来ると言った。
しかし、息子よ。私には会えないだろう。
次に君が私に会う時は、君が死ぬ時だ。
私は死神となって蘇り君の命を終わらせに行く。
君が私に会う事は出来ない。
君が会う私はもうかつての私ではない。
似通った魂を持つ、全くの別人だろう。
しかし、それでも――嬉しかったよ。
自分の人生の最期は、息子に殺される運命で。
血は繋がっていなくとも、彼は私にとって本物の息子だ。
ありがとう。そして、さようならだ。
眉間に何かがめり込んで、刺すような痛みを感じた。
強烈な痛みを一瞬で感じて、頭をのけ反らせた。
思わず目を開ければ、赤い月が目に映った。
最期に見た月は今までのどれよりも美しい。
私はそのまま意識を闇へと沈めて、死というものを――