【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
バネッサ先生を引き連れて、一度東源国へと戻った。
道中、敵に襲われる事も無ければ治安部隊に拘束される事も無い。
彼女自身も、現実とは違ってこの世界では指名手配はされていない。
死んだ人間の手配書を持って奴らが俺たちを捜索をする訳も無いのだ。
その為、俺たちは無事に東源国へと戻ってミネルバを通して天子に報告を済ませた。
俺たちはすぐにU・Mの母艦が寄港している島へと急ごうとした。
しかし、ミネルバはそんな俺たちを止めてドッグへ向かうように言う。
これからの戦いでは、今までのようにその場その場で調達したメリウスや武器で戦うのには限度があると。
だからこそ、ミネルバは俺とサイトウさんの機体を一緒に持っていくように提案した。
俺たちはその提案を受け入れて、ミネルバと共にドッグへと向かった。
東源国内にあるドッグでは、俺とサイトウさんの機体が格納されていた。
無数の整備スタッフが動き回り、格納されているメリウスの整備をしている。
その中には俺が実権の協力をした白狼も置かれていた。
それを見ながら、俺は灰色の床の上を歩いていく。
コツコツと靴の音を響かせながら、ミネルバを先頭にして歩いていき――見つけた。
俺とサイトウさんの愛機がケージの中に格納されている。
見ただけで分かったが、その機体の見た目は別の物に変わっていた。
俺の雷切は、装甲を増設されて肩に取り付けられたキャノン砲を排除されている。
以前の雷切のようなシュッとした印象も無くなって、頭部は円錐形になっていてブレードアンテナも排除されていた。
背中にはプロペラントタンクと一体化したスラスターが二つ……ミネルバから渡された資料を見る。
資料によればアレは普通のスラスターではないらしい。
東源国の推進ユニットの開発者たちを総動員して作り上げた”ソル・スラスター”で。
従来のスラスターよりもエネルギーの消費効率を改善した事によって少ないエネルギーで長時間の戦闘が可能らしい。
しかし、資料によれば消費量は抑えられたがその分、出力を大幅に上げる為にその効果もプラマイゼロになったようだ。
その為、プロペラントタンクと一体化する事によって長時間の戦闘を無理やりに可能にしたようだ。
機体の装甲の増設に加えて、スラスターの改良。
発揮できるパフォーマンスに関しては、限界飛行速度は変わらないが。
その分、機体の操作性の安定度を高めたようだ。
高機能AIによる補助と脳波制御によって細やかな調整も従来通り必要ない。
改めて機体を見れば、少しだけ肉付けされてがっしりとしていて何より――機体の色を見て笑みを浮かべてしまった。
機体のカラーリングは黒では無くなった。
ゴウリキマルさんから貰った時と同じダークオレンジを基本として灰色の塗装が施されている。
これを指示したのは天子かミネルバか……分からないが、嬉しかった。
また、雷切として戦える。
相棒と共に大切な人を守る為に戦う事が出来る。
俺は返ってきた相棒を見つめながら、ミネルバに向き直った。
そうして、彼女に深々と頭を下げた。
「……世話になった。ミネルバたちがいなかったら、俺は今頃」
「――やめてください。今生の別れでもないんです。それに、貴方にはまだ仕事が残っています」
「……分かっている。俺はお前たちとの約束を守る。オーバードを見つけて、必ず届ける」
「……分かっているのなら良いです……その墓場とやらにオーバードがあるのかはまだ分かりませんが。此方は渦の中へと侵入できる潜水艇の開発を急ぎます。貴方は鍵を持つ人間の元に速やかに向かってください……くれぐれも、無茶はしないように」
「……ありがとう」
ミネルバは眼鏡を上げてから去っていく。
カツカツと靴の音を鳴らして去っていく彼女。
その後ろ姿を見てから、俺は生まれ変わった相棒である”
サイトウさんは既に自分の愛機である富嶽へと乗り込んでいて。
船に搬入する為に、ケージから移動用の特殊車両に機体を載せていた。
俺もケージの階段を登りながら、降りていく作業員に頭を下げる。
彼らは笑みを浮かべながら、機体へと向かう俺の肩を叩く。
此処に至るまでに色々な事があった。
苦しみも悲しみも、喜びも怒りも経験した。
カツカツと一段ずつ階段を登りながら俺は上を見る。
見慣れた灰色のケージを登っていけば、雷切のコックピッドが俺を待つ。
俺は戻って来た愛機と共に、彼女を救いに行く。
一度は離れる事を選択して彼女を悲しませた。
しかし、それでも彼女は俺を見つけ出そうと行動していた。
彼女を拒絶した俺が今更彼女の前に出て何を言おうとも無駄だろう。
それでも、俺は彼女を”心”に報いたい。
最後まで俺を信じて、今も探してくれている彼女の心に。
「……今度こそ救って見せる。もう二度と誰も死なせない」
拳をギュッと握りながら、俺は階段を上がっていった。
そうして、俺がコックピッドの近くに立てば自動的にハッチが開かれる。
俺はその中へと入り込んで、システムを起動させた。
《おかえりなさいませ……また、良き出会いがありましたか?》
「……かもしれないな……また、一緒に戦ってくれるか?」
《勿論です。役目を終えるその日まで、お供致します。マサムネ様》
「……ありがとう。頼りにしているよ」
レバーを優しく撫でてから、俺はギュッと握る。
そうして三百六十度、全ての景色が映し出された。
ケージが開かれてから、俺は大きな一歩を踏み出す。
ずしりと音が鳴って機体が動いて、俺は掴んだレバー越しに愛機の”鼓動”を感じていた。
船への機体の搬送を終わらせて、俺たちは船の一室に集まる。
部屋の中にはサイトウさんとバネッサ先生がいて。
先生は端末をテーブルに置いてから、今から向かう島の説明を始めた。
端末からは立体映像が投影されて、島の全貌を映し出す。
鬱蒼と生い茂る木々に、建物らしきものは何一つとしてない。
山も無ければ、目立つようなシンボルも一つも無い。
これといって特徴の無い大きくも小さくも無い島で。
彼女は立体映像に視線を向けながら、言葉を発した。
「この島は公式では誰の管理下にも置かれていない無人島になっている。見た通りの何も選定されていない木々が無数に生えているだけで、珍しい動植物はいない。資源となるようなものは特にないからこそ、買い手も付かずに放置されているとされている……が、実際はこうなっている」
映像が切り替わって、次に映し出されたのは島の断面で。
木々が生い茂っている島の下半部には幾つもののブロックに別たれた空洞が存在した。
よく見れば島の外側には何かを出迎える為のエリアも存在している。
大型の船を幾つも搬入出来そうであり、これは何かと俺は彼女に質問した。
「この島全体は機械化されている。この植物も生息している生物も全て機械だ。カモフラージュの為に用意されたもので、船が入港する時は島全体の姿が変わって船を入港させる為の港が出来上がる」
映像が動き出して、やって来た船を確認した瞬間に島の形が変わっていく。
木々が生えていた大地が別たれて、一定の高さに伸びていた木々が揺れ動く。
そうして、ドームのように盛り上がったその中に船が入って。
不自然な盛り上がり方を見せていたそれは、船を下へと引き込みながらまた形を戻していった。
こうして、断面通りの大きな空洞が水中に出来上がる。
排水作業も自動であり、空気の入れ替えも完璧に出来ているのだろう。
地上には目立つ物が無い分、島の下に地下施設を築いていたのか。
つまり、あの島自体がカモフラージュする為だけに用意されたものだ……恐ろしいほどの技術力だな。
金は勿論かかっているだろう。
長い時間を掛けて作られた島であり、これでは早々に見つかることも無い。
彼女がそこにいれば安全だと思う反面、見つかった時の事も心配になる。
カモフラージュとしては完璧だが、敵を迎撃する為の装置はあるのか?
白い椅子に腰かけながら、俺は湯気の昇るカップを持つ。
そうして、温かいコーヒーを静かに飲みながら考えた。
島に目立つものを置けないのなら、迎撃用のシステムは無いと仮定した方が良い。
そもそも、敵の襲撃を受けない事を念頭において設計されたのだろう。
だからこそ、万が一が起きた時の対処は期待できないと思った方が良い。
ほろ苦いコーヒーを胃の中に流し込んでから、俺はカチャリと音を立ててコップを置いた。
壁に掛けられた時計を見れば、時刻は午後四時であり、座標に記された島へと向かうのなら……凡そ72時間ほどか。
丸三日掛けて行けば島へと着く。
バネッサ先生に接触するまでに多くの時間を費やした。
ゴウリキマルさん達がいるかは賭けになるかもしれない。
東源国への報告をしなければ良かったのかもしれないが、彼女の助力が無ければ島へと向かうのも厳しいだろう。
メリウスを数機積み込めるほどの大型の船を提供してくれて、優秀なスタッフも数名つけてくれた。
決して報告の為に東源国へと寄った事は無駄ではない。
恐らくは、ゴウリキマルさんと接触して彼女を保護してから……敵と戦う事にもなるだろう。
彼女の安全を万全にする為には、バネッサ先生の提案通りに動く必要がある。
鍵を受け取れば、オーバードは俺たちで探しに行く。
その間に彼女を匿う為の安全な場所が必要で、それがあの”機械たちの墓場”という訳だ。
あの機械たちの墓場ならば、普通の人間は近寄る事が出来ない。
彼女はその秘密についてはまだ教えてはくれないが、安全は保障できると言っていた。
薄々だが、俺もその安全に関わるものについての見当はついている。
それは俺たちがあの墓場へと足を踏み入れる時に、サイトウさんを弾き飛ばしたバリアのようなもので。
恐らくは、あの墓場の何かの条件を満たしていない限り、何人たりとも侵入する事は出来ないのだろう。
良くは分からないが、俺はその条件をクリアしていた。
そして、条件をクリアしている俺がサイトウさんの手を握って中へと進めば彼女も侵入する事が出来た。
それはつまり、条件をクリアするか。条件をクリアした人間が付き添っていれば侵入できると言う事だ。
バネッサ先生は、恐らくゴースト・ラインも告死天使たちも侵入できないと言っていが……。
島の説明をしているバネッサ先生をチラリと見る。
彼女は真剣な表情で説明をしていて嘘をついていないと分かった。
だからこそ、その秘密について隠すのは何故なのかと思ってしまう。
条件をクリアする方法を最後まで出し渋っているのは、情報が敵に漏れる事を恐れているからか。
それはつまり、俺たちの事を未だに信用していないということで……いや、違う。
彼女が信用していない人間は――サイトウさんだ。
彼女だけがオーバードの情報を求めて彼女に刃を向けた。
それはつまり、情報を得る為ならば彼女を殺しても構わないという事を教えたようなものだ。
バネッサ先生は自らが殺されない為。そして、裏切られた場合の事を想定しているのか。
そうだとしたら、俺が無理やりに彼女からその条件を聞き出す事はやめておいた方が良い。
俺自身はサイトウさんの事を信用しているが、彼女にもそれを強要するのは違う気がする。
信用していようがいまいが、今は関係ない。
俺はクリアしていて、俺がいれば中に入れると分かっている。
だったら、今はそれで十分だった。
説明を聞きながらバネッサ先生を見ていれば、彼女は俺の視線に気づいて笑う。
「……君の考えている事は大体わかる……だが、私は何も言えない。分かってくれるね?」
「……はい。俺は先生を信じています……今はそれで十分だと思っています」
「……ありがとう……オーバードも重要だが、ゴウリキマル君の命も重要だ……君は彼女の身を守る事に集中した方が良い。選択する時が来れば、迷うことなく彼女を選びなさい。迷いは最悪の結末を招く……先輩からのアドバイスだ」
「分かっています……必ず。守って見せます」
俺は笑みを浮かべながらしっかりと頷いた。
決して迷わない。俺は俺の心に従って――全力で彼女を守る。