【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

180 / 302
179:秘密と伝えるべき事

 ゴウリキマルさんやショーコさんと話をして。

 気が付けば、二時間ほど経っていた。

 時間も忘れて話をしていたら、部屋のインターホンが鳴る。

 ゴウリキマルさんが出ようとしたので代わりに俺が出た。

 カメラを起動して外を確認すれば、扉の前にいたのはヴォルフさんとバネッサ先生だった。

 バネッサ先生は笑顔で手を振っていて、ヴォルフさんはどこか表情が固い。

 俺はすぐに扉のロックを解除して、二人を招き入れた。

 

 扉がスライドして自動で開かれる。

 ゆっくりとヴォルフさんが入室して、その後からバネッサ先生が入ってきた。

 俺はバネッサ先生を解放してくれた事について礼を言う。

 すると、ヴォルフさんは俺から視線を逸らしながら気の無い返事をした。

 

 彼女と話しをして何かあったのか?

 

 俺が訝しむような視線を向ければ、バネッサ先生は何処まで説明できたかを俺に聞いて来た。

 

「……大体の事は理解してもらえました。墓場まで移送する事も了承してくれて……ただ」

「ただ?」

「……その、俺とサイトウさんだけだと不安なので……護衛を数名つけてくれないかとヴォルフさんにお願いしよと思っていたんです」

 

 俺がそう先生に説明して、チラリとヴォルフさんを見た。

 彼は静かに俺の話を聞いていて、ゆっくりと頷いてくれた。

 

「……護衛は此方で手配する。トロイ、オッコ、レノア……ショーコに任せる」

「やった!」

 

 ヴォルフさんは重い口ぶりで護衛を担当する人間の名を教えてくれた。

 以前と変わらない表情だと思う……ただ、この違和感は何だ?

 

 今まで多くの人間の表情を見て来た。

 怯え、恐怖、怒り、後悔、悲しみ。

 色々な感情が込められた顔を見てきて、彼の表情の変化に違和感を抱いた。

 何時もの自信に満ちた表情ではない。

 今の彼の顔には、少しだけ――後悔の色が見て取れた。

 

 何を後悔している。

 何を躊躇っているのか。

 彼は確実に俺たちに何かを隠している。

 悟られないように振舞っても、彼の心は嘘をつけない。

 仲間に対して、嘘を吐くような男ではないからだ。

 

 俺は迷った。

 此処で彼に対して質問をするべきか。

 何を隠しているのかと聞けば、彼は教えてくれるかもしれない。

 この先に進むのなら、少しでも不安要素を消しておくべきだ。

 米粒ほどの疑問も残しておいてはいけない。

 

 

 でも、本当にそれでいいのか?

 

 

 彼が、俺たちに対して隠し事をする意味。

 それは俺たちが知ってはいけない事があるからじゃないのか。

 仲間にでさえ隠さなければいけない情報で。

 それを俺たちが知れば、ヴォルフさんは困るんじゃないか。

 

 無人機の生産工場を叩く時も、彼は敢えて情報を伏せていた。

 それは仲間の中に裏切者がいる可能性があったからだ。

 信頼できる人間にだけ情報を明かして、結果的には作戦は成功した。

 

 今回も、彼なりの考えがあるんじゃないか……でも、それなら……。

 

 あの時は、俺とオッコには本当の作戦を明かしてくれた。

 しかし、今回は俺にも隠している事を明かさない。

 それは俺が信じられないからか……いや、違う。

 

 彼が俺を疑っているのなら、そもそも俺を自室に招いたりしない。

 バネッサ先生たち同様に、俺も監禁していた筈だ。

 それをしなかったのは俺を信頼していたからだ。

 

 ならば、何故、情報を隠すのか……彼女しかいない。

 

 バネッサ先生に話を聞きに行くと出ていって。

 戻って来てから彼の表情に変化が起きた。

 それは彼女から何かを聞いて、その情報を俺たちに知られてはいけないと判断したからだ。

 つまり、バネッサ先生がヴォルフさんに何かを吹き込んだ事になる。

 

 彼女は明らかに俺たち以上に情報を持っている。

 俺自身の事も、彼女は知っているような口ぶりだった。

 何を知っていて、何を隠しているのかは分からない。

 船の上で聞こうとした事も聞けなかったのだ。

 今更、彼女に質問をしたところで答えてくれるかは怪しい。

 

 俺は悩んだ。

 僅かな時間の間に頭を働かせて――俺は頭を下げた。

 

「ありがとうございます……必ず。彼女を守ります」

「……あぁ、頼んだ……マサムネ」

 

 ヴォルフさんは俺の肩を優しく叩く。

 俺は、彼に質問をするのはやめた。

 彼の口から情報を聞き出しても、意味は無いだろう。

 そもそも、彼が隠し事をしている確証はない。

 問い詰めたところで素直に教えてくれるかどうかは賭けに近い。

 偽の情報を渡してくる事はほぼ無いだろうが、これで空気を悪くしたくはない。

 周りにはゴウリキマルさんやショーコさんもいて、彼女たちを疑心暗鬼にさせる訳にはいかないのだ。

 

 此処では聞かない……でも、彼女は違う。

 

 チラリとバネッサ先生を見れば笑みを浮かべている。

 彼女には何があっても情報を聞き出す必要がある。

 ヴォルフさんが言えない事でも、彼女なら話す気がした。

 あの時も、俺についての情報を明かそうとしていた。

 それは彼女が情報を隠そうとしていないのだと理解できた。

 

 何故、彼女は重要な情報を簡単に話そうとするのか。

 何故、彼女はヴォルフさんの心を惑わすような言葉を吐いたのか。

 

 彼女はこの状況を楽しんでいるのか。

 いや、それは違うだろう。

 彼女は誰よりも真剣であり、テロリストであった時代の話も本当だ。

 少しでも嘘が混じっていれば、何となくは分かる。

 だからこそ、あの日、彼女が語った内容に嘘は無いと確信を持てた。

 迷いの無い瞳であり、自分の行動に後悔しない人間の目をしていた。

 

 ヴォルフさんは俺の前を通り過ぎて、ゴウリキマルさんとショーコさんに説明をした。

 彼女たちはヴォルフさんの説明を聞きながら、それぞれの意見を言っている。

 俺たちが乗って来た船に乗って移動をするとして、どのルートで航行すべきかなど。

 ヴォルフさんは端末から海図を展開して、幾つかの航行ルートを提示していた。

 俺は隣に立つバネッサ先生を見て、島の位置を教えたのかと目で訴えかけた。

 すると、バネッサ先生は眼鏡を上げながら「まぁね」と言う。

 

「……彼は信頼できる。君もそう思うだろ?」

「……まぁ……貴方は俺に何を隠しているんですか?」

 

 俺はぼそりと呟いた。

 すると、彼女は笑みを浮かべながら静かに呟く。

 

「私は何も隠していない。問われていないのだから、答える事は出来ないだろう?」

「……なら、俺が質問すれば何でも答えるんですか」

「……ふむ、それは君次第だね」

 

 彼女は腕を組みながらそう答えた。

 俺は目を細めながら、彼女から離れた。

 そうして、ゴウリキマルさん達の話し合いに加わる。

 

「航行ルートはこの三つが最も適している……だが、敵に情報が洩れる恐れがある」

「……船を襲撃された時のように、敵がまた襲ってくる可能性があるんですよね」

「あぁ、奴らは独自の情報ネットを持っている。どのようにして、我々の行動を予測しているのかは不明だが。間違いなく、この島を出れば襲撃されるだろう」

「……だけど、此処にいても何れは見つかる。そうだろ?」

 

 ゴウリキマルさんの言葉に、ヴォルフさんは静かに頷く。

 すると、ショーコさんは何かを考えている様子で首を捻っていた。

 俺は彼女に視線を向けながら、何を悩んでいるのかと問いかけた。

 

「……いや、態々、船で行かなくても。二人でファストトラベルを使って行けばいいんじゃないの? 今まで、あんまり使ってこなかったけどさ。そっちの方がノーリスクな気がしない?」

「――っ!」

 

 ショーコさんの言葉に何故かゴウリキマルさんが驚く。

 唇をキュッと結んでいて、言葉が出ない様だった。

 そんなに驚く事なのかと思いながら、俺はショーコさんに対してそれは出来ないと説明した。

 

「機械たちの墓場は、基本的には虚数空間にあるんだ。だから、島が表の世界に出現していない今。島にファストトラベルしても意味は無い……近くの島にならとも思ったけど。そこからボートで移動しなきゃいけない上に、島をこの世界に呼び出す為にはバネッサ先生が必要なんだ……俺にも原理は不明だけど、一度、島を呼び出した時にあったものが消えてしまっていたから」

 

 俺はバネッサ先生に視線を送る。

 ディアブロから渡されたチップ。

 そこに保存されていた座標と表示されていた印が綺麗さっぱり消えていた。

 これでは島に戻れないのではないかと思ってみれば、案の定、島には戻れないらしい。

 しかし、彼女はそれを知っていた筈だ。

 

 彼女をジッと見つめていれば、彼女はくすりと笑う。

 すると、彼女は手をひらひらとさせながら「アレは使い切りのチケットだよ」と説明した。

 つまり、俺とゴウリキマルさんが先に行ったところで意味は無い。

 島を自由に呼び出せるのはバネッサ先生であり、彼女の協力無くして島に戻る事は不可能だ。

 

 彼女が島の出現方法を明かしてくれるのなら、話は変わって来るが……先生がくすりと笑う。

 

「申し訳ないが。君たちに話したところで、島を呼び出す事は出来ない。”管理者”になる以外に、島を呼び出す事は不可能なんだよ」

「管理者って何だよ? 島の管理人なんて誰が決めるんだ?」

 

 ゴウリキマルさんがその瞳に不信感をありありと出す。

 彼女はそんな視線を柳のように受け流しながら、ピンと人差し指を立てた。

 そうして、狐のような顔で笑いながら彼女は言葉を発した。

 

「――神様だ。神様が、管理者を決めている。私は偶然、選ばれただけだ」

「あぁ? 神様だぁ? 何を言って……いや、まさか……マザーが?」

 

 ゴウリキマルさんは神様とやらの正体に気づいたようだ。

 俺自身も神様と聞いて、真っ先にマザーを思い浮かべた。

 しかし、何故、マザーが島の管理者をバネッサ先生に託したのか。

 気まぐれなのか。それとも、何か考えがあったからか。

 何方にせよ。管理者を決めるほどには、あの島はマザーにとって重要な場所であると分かる。

 俺はぶつぶつと言っているゴウリキマルさんに声を掛ける。

 すると、彼女はハッとしたように我に返った。

 

「……今はその話はよしましょう。説明されたところで、俺たちでは完璧に理解する事は出来ないと思います」

「あ、あぁ。そう、だな」

「……兎に角、ショーコさんが言ったようにファストトラベルで行くことは出来ません。バネッサ先生は既にこの世界の住人ですから、ファストトラベルは使えません……なので、比較的、安全な航路を選んで島を目指すしかありません」

「……うん、分かった。それじゃ、私以外のメリウスを船に積み込もう。私のタンクじゃ、海上戦は不利な気がするしねぇ」

「……分かった。では、私からオッコたちに説明をする……マサムネも来てくれるか?」

「えぇ勿論……じゃ、俺は皆に顔を見せに行くので」

 

 俺は二人に頭を下げてヴォルフさんと共に部屋を出ようとした。

 バネッサ先生も俺たちの後をついてきて――ゴウリキマルさんが俺を呼び止める。

 

 振り返れば、彼女が手を中途半端に伸ばしていた。

 俺は首を傾げながら、どうしたのかと問いかけた。

 

「…………後で、また此処に来てくれ。話したいことが残ってるんだ」

「……? 分かりました。出来るだけ早く来ますね」

「あぁ、頼む……」

 

 彼女は意を決したように発言した。

 話が残っているとはどういう意味か。

 俺は彼女が何を話したいのかを考えつつ、部屋から出ていった。

 そうして、ヴォルフさん達と長い廊下を進んでいく。

 清潔で無機質な廊下には俺たちの足音だけが静かに響いて――俺は少しだけ不安を感じていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。