【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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191:不夜のカルトペグニオ

 システムを全て初期化した。

 船の防衛装置は一時的に無力になり、バネッサ先生は急いで船を反転させた。

 船が大きく傾いて、転覆するような勢いで曲がる。

 俺たちはしっかりと備え付けられた柵に捕まってそれに耐えた。

 そうして、大きな船が曲がって全速力で来た道を引き返していく。

 これに意味はあるのかは分からない。

 しかし、敵の目を欺くのなら、相手が予想できないような事をする必要がある。

 

 ゴースト・ラインは俺たちが来た道を戻るとは考えない筈だ。

 それも人目があるような場所へと寄る筈は無いと。

 それを逆手に取って、俺たちは敢えて逆走しカルトペグニオで補給を済ませる。

 食糧の問題はこれで解決できる。船の修繕も出来るのなら、これも解決だ。

 一時的な寄港にはなるが、必要な事は重々承知の上だった。

 

 俺は進みゆく船の中で、広い大海原を静かに見つめていた。

 

 

 §§§

 

 

 船は進んでいき、ゆっくりと停止する。

 甲板に出た状態で周りを見れば、すっぽりと船が施設内に収まっていた。

 海底の石油や天然ガスを採掘する為に作られた油田プラットフォーム。

 その根元に機体を隠して、即座にスタッフたちが動いて隠蔽用のネットを掛け始めた。

 周りに同化するような作りをしており、俺も手伝ってネットを船に被せていく。

 大きな船一つを隠す為に、明かりも付けずに作業をして……何とか出来た。

 

 隠蔽用のネットを被せた事によって、周りからは朽ち果てた鉄の残骸のように見えるだろう。

 夜間の作業だったから、少しは空気は冷えていたが体は熱い。

 俺たちは汗を拭ってから、ゆっくりと視線を島へと向けた。

 

 遠く離れた島からは、目がチカチカするほどの灯りが迸っていた。

 もうとっくに人は寝ている時間の筈なのに、あそこは昼間のような明るさだった。

 俺はオッコに何故、あんなに明るいのかと質問した。

 

「……カルトペグニオにはカジノとか娯楽施設が多い。昼間は静かだが、夜は昼間みたいな明るさだ。中には違法な賭博場もあるらしいが、あそこの警官たちは常に周りに目を向けている。騒ぎは極力起こさない方が身のためだぜ」

「……カジノか。それで……」

 

 賑やかそうだとは思ったが、カジノなどがあるのか。

 賭け事に熱中すれば、それこそ諍いも絶えないだろう。

 警官たちの苦労は目に見えており、常に周囲を警戒しているのも頷ける。

 沿岸警備隊のようなものは見当たらないが、すんなりと島に上陸出来るとは考えにくい。

 俺はオッコにどうやって島へと上陸するかと尋ねた。

 すると、彼はポケットから端末を取り出して何かを表示させた。

 それはU・Mのエンブレムであり、下には細かい字で色々と書かれていた。

 

「これを使う。マサムネちゃんは知らないと思うけど。色んな所で調査をする時にこれを見せれば、あら不思議……現地民は協力的になってくれるのさ」

「俺がいた時は無かった……最初からあったのか?」

「いんやぁ。マサムネちゃんの活躍や俺たちの功績が認められてさ。他の国々は積極的に彼らに協力する様にって、指示を出したんだ……ま、知らない国もあるかもしれないけどさ」

「大丈夫なのか?」

「あぁ、まぁ、やってみるしかないんじゃない? 今から他の島へ行くには時間が掛かるし」

 

 オッコは為せば成ると言いながら端末を仕舞う。

 そうして、島へと上陸する為のボートを探しに行った。

 俺も奴の後ろをついていき、ボートの場所を教える。

 既に誰が上陸するかは決めていた。

 昼間に行っても良いが、オッコの口ぶりからして昼間は彼らは寝ているかもしれない。

 昼夜が逆転している彼らの為に、此方も柔軟に対応しなければいけないだろう。

 

「メンバーは?」

「オッコとトロイにボートを見張ってもらう。俺とレノアとショーコさん。それとゴウリキマルさんで食料の調達と資材の手配をしに行く」

「おいおい、良いのか? 仮にもお姫様は守られる立場だぜ……お前は良いのか?」

「……不安はある。だけど、彼女はジッとしていられる性格じゃない。だったら、彼女の望むように仕事を与えるだけだ」

「……全くよ。お似合いだこって……はぁ、行くぞぉ」

 

 彼女がしたいようにさせる。

 俺がそう発言すれば、オッコは片手で顔を覆う。

 そうして、もう片方の手をひらひらさせながら歩いて行った。

 俺は笑みを浮かべながら、端末を取り出して他の人間にメッセージを一括で送信した。

 今から小舟に乗って島へと上陸するどんな危険が待ち受けているかは分からない。

 俺はゴウリキマルさんたちの安全を守る事に集中するつもりだ。

 彼女たちには彼女たちの役割があり、それを果たしてもらう。

 

 物資に関しては彼女たちに任せて。

 俺は護衛に徹しよう。そう考えながら、船の前に立つ。

 オッコが被せられたシートを取り払い。俺に帽子やサングラスを被る様に指示してくる。

 俺はそれを受けて、異空間に仕舞っておいた帽子とサングラスを出して装着した。

 ディアブロから貰った変装道具があれば、こんなものをつけるよりも良かったが……アレは没収されてしまった。

 

 回収しておきたかったが、その時間は無かった。

 サイトウさんも装置を取られた状態で……まぁもう死んだ扱いになっているから大丈夫だとは思うけど。

 

 ロープで吊るされているボートへと乗り込んで状態をチェックする。

 穴は無い。損傷も無く、海上を進むのに問題は無かった。

 モーターの方も問題なく使えそうであり、俺はオッコにそれを伝えた。

 すると、そのタイミングで他のメンバーたちが集まって来た。

 

 トロイは眩しい島を見つめながら、うるさそうだと言う。

 レノアはまだお菓子の恨みがあるのか、トロイを後ろから睨んでいた。

 ショーコさんはカジノがあると知っていたのか、遊びたそうにしていて。

 ゴウリキマルさんはボードに何かを書きこみながら、ぶつぶつと何かを言っていた。

 

 俺は船に乗り込むように彼ら言って。

 ショーコさんやゴウリキマルさんの手を取って船に乗り込ませた。

 全員が船に乗り込んで、オッコは備え付けのボタンを押して船を下ろす。

 牽引ロープが下へと垂れていき、船はゆっくりと海面に向かって――着水した。

 

 ロープを切り離してから、俺はモーターを起動させる。

 紐を引っ張れば勢いよく音が鳴ってエンジンが掛った。

 俺はモーターを動かして島へと向かって船を進ませた。

 

「……そういえば、バネッサ先生には言ってるのか?」

「あぁ出発する事は伝えてある。すぐにでも食料を調達してきて欲しいってさ」

「……腹が減ったなぁ。何か食ってからにしねぇか?」

「ダメだ。皆も同じなんだ。我慢しろ」

「うへぇ……ま、そうだよな」

 

 トロイが晩飯を食べたいと言ったがダメだと言ってやる。

 すると、最初こそは反対しようとしていたが奴は納得してくれた。

 素直な奴だと思いながら、俺はボートを操作して進んでいく。

 

 モーターボートの音が静かに響いて。

 ガタガタと船が揺れながら、波をかき分けて進んでいく。

 昼間のように明るい島を目指していれば、灯台何て不要だと分かる。

 島から発せられる音が微かに聞こえてきて、ショーコさんはワクワクしていた。

 

 徐々に島へと近づいて行って、周りにもちらほらと船が見えて来た。

 クルーズ船が多く、船の上で酒盛りをしている人間がほとんどだ。

 大音量で曲を垂れ流しながら、裸になった男たちがシャンパンを振って叫んでいた。

 中には男女がダンスをしながら……盛り上がっている。

 

 レノアやショーコさんは口をあわあわさあせながら、そんな様子を見ていた。

 俺はぼそりとまじまじと見るなと忠告する。

 しかし、彼女たちに俺の声が聞こえている筈も無い。

 俺ははぁっと大きなため息を零しながら、楽しそうな彼らの船の脇を通って船を進めていく。

 

 もうすぐ上陸できる。

 そう思っていれば、遠くからライトを当てられた。

 眩しそうに片手で光を遮りながら、何だと思って目を向ける。

 すると、案の定、相手は沿岸警備隊でありサングラスを掛けた警官が此方を見ていた。

 

《そこのボート。いますぐ停船しなさい》

「……来たか」

 

 やはり見つかったと思いながら、指示に従って船を停止させた。

 高速艇は俺たちの横へと近づいて、ゆっくりと橋がかけられて警官がやって来る。

 銃は携行しているが此方を狙っている様子はない。

 警戒心はあるが、そこまで高い訳ではない無いようだ。

 

 青い制服を着て、黒い肌をした女性警官が俺たちの前に立つ。

 そうして、何の目的でこの海域に入ったのか質問してきた。

 

「許可証があるのなら見せてください。ないのであれば、貴方たちには罰金を支払って貰い。その後に、この海域から退去してもらう事になります……その何方もが不可能な場合は、貴方方の身柄を拘束させてもらいます」

 

 警官は淡々と説明してくる。

 オッコはそんな警官の説明を聞いてから、許可証ならあるとアレを提示した。

 警官はそれを静かに見つめて、ゆっくりとサングラスをずらした。

 青い瞳でそれをジッと見つめてから「これは本物」と呟いている。

 

「本物だ。俺たちはU・Mからの極秘任務でこの島に寄った。予定には無いが、別に荒事を起こす気は無い。食料とか必要な物資を手配したら、すぐに此処から離れる……それでもダメかな。お姉さん?」

 

 トロイはわざとらしい声でお姉さんと呼ぶ。

 警官は少しだけ眉を顰めながらも、大きくため息を吐いてオッコの端末を返却した。

 

「……行ってもいいです……あまり、目立つことはしないでください」

「はいはい。分かってますよぉ……さて、行くか」

 

 警官が船へと戻り、橋を撤去してから去っていく。

 俺たちはそれを見届けてから、再び船を動かして島を目指した。

 本当にアレが効力を発揮するのかは半信半疑だったが、上手くいって良かった。

 

 島が近づくにつれて、明るさも音も大きくなっていく。

 港らしきところに着く頃には、島の騒々しさがすぐに分かった。

 昼間のような明るさに加えて、お祭りのようなムードで。

 警官隊が目を光らせているのも頷けるだろう。

 

 適当な場所にボートを止める。

 そうして、ロープで船を固定してから俺は手を払った。

 

「……今から食料の調達と船の修理に必要な資材を手配しに行きます……くれぐれも勝手な行動は控えてくださいよ。ショーコさん」

「えぇ? 何であーしなのぉ……もう、分かったよぉ」

 

 ガックリと肩を落としながら、ショーコさんは人差し指を突き合わせる。

 涙目の彼女は不憫に思えるが、孤立して敵に襲われない保証はない。

 俺はこれで彼女も勝手に動かないだろうと考えた。

 オッコとトロイの二人に留守番を頼み、俺たちは島の中へと向かって足を動かす。

 ゴウリキマルさんを中心にしながら、彼女を隠しながら進む。

 敵からの攻撃を警戒しながら、俺は賑やかな歓楽街へと視線を向けた。

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