【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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192:二重の歩く者

 港から島へと入れば、そこには煌びやかな世界が広がっていた。

 海からも何かの建物が見えていたが、それがようやく分かった。

 幾つもの高層ビルが立ち並ぶ中で、中心部にあるビルだけは異様な圧を放っていた。

 最も輝いていると言えるほどの光量を発しながら、三百メートル以上はありそうな大きな白いビル。

 ピカピカに磨き上げられて、下から当てられたライトによって光沢を放つそれ。

 あんなにも眩しいのであれば、あの中にいる人間は蒸し暑くはいのか?

 

 周りの人間たちは高そうなスーツを着た初老の男性やその護衛で。

 純金の腕時計をつけている小太りの男や純白のスーツを着て葉巻を吹かす厳つい男など。

 それらの人間ばかりが目につくが、よく目を凝らして見れば路上に蹲っている痩せ細った男などもいる。

 夢を見る人間たちばかりで、ボロを纏って寒さをしのぐので必死な彼らは夢破れた者たちということか。

 

 中心のビルに目を戻す。

 最上階からは長いスロープのようなものがグルグルと渦を描きながら下へと伸びていた。

 何やら水が零れだしていて、何かが流れ落ちていっているように見える。

 恐らくはアレも娯楽の一つであり、ウォータースライダーか何かか。

 あの高さから滑り落ちて行けば相当な速さになると思うけど、安全は確保されているのか。

 あまり乗りたいとは思えないものであり、俺は視線を逸らした。

 

 ビルだけじゃない。

 街全体が光を発しているように錯覚してしまう。

 巨大な立体映像が空に投影されて、電光掲示板の代わりとして機能している。

 街の至る所で煽情的な格好をした美女が客を呼び込んでいる。

 キャバレーにスナックに、風俗店や酒場……何でもありだな。

 

 機械化された街であり、通っていく車の運転席には誰も乗っていなかった。

 横断歩道も赤の時は簡易的なバリアを発生させて通行人をシャットダウンして。

 青に変われば、それが解かれて住人たちが歩いていく。

 

 人の通りは驚くほどに多い。

 それほどの大きさの島には見えなかったが。

 この人口の多さで、島の大きさを錯覚してしまいそうだった。

 

 昼夜が逆転した島。

 夢を求める人間たちが集まる場所。

 赤や緑に青など。色とりどりの光を発する黄金のような街。

 夜が無い島であり、不夜の島と呼んでおこうか。

 

 ゴウリキマルさんを守りながら歩いていく。

 怒声や悲鳴が聞こえるが、誰かが暴れている訳ではない。

 賭けに負けて怒っている人間が物に当たっているだけで。

 レトロなゲームの筐体を置いている店の主人は泣き叫びながら、物に当たる客を羽交い絞めにしていた。

 

 色々な人間がいると思いながら。

 俺は周りを警戒しながら歩いて行って、何かに当たる。

 小さくて見えなかったが、視線を下に向ければ筒状のロボットがいた。

 彼は無機質な音声で謝罪してきて、そそくさと去っていく。

 

 筒状のロボットも徘徊しているが……アレは掃除ロボットか?

 

 街の至る所に落ちているゴミを回収している。

 埃や紙くずなどの小さなものは下のブラシで回収する。

 そうして、比較的大きく硬いゴミはサブアームが掴んで体の中に取り込んでいた。

 ゴリゴリと音がしている事から、中には小型の破砕機でもあるのか。

 

 興味深そうに見ていれば、肩を誰かに叩かれる。

 気配が全く感じなかった事に驚いて振り向けば。

 そこに口も鼻も無く、目の辺りが液晶パネルになったロボットが立っていた。

 

《お困りですか?》

「……えぇ、まぁ」

 

 人型をしたロボットが今、目の前に立っていた。

 服は何も着ておらず。銀色のボディーが露わになっているが彼は気にしていない。

 腕には文字が刻印された電子腕章が巻かれている。

 彼も警察組織の一員なのだろうか……いや、ただ困っていそうだから声を掛けたのだろう。

 

 俺は丁度いいと考えて、彼に幾つか質問した。

 

「食料を調達したい。一つ二つでは無く大量に必要なんだ。何処に行けばいいか教えてくれるか?」

《検索ワードを受け付けました――検索完了。北東三百メートル先にあるダッチ商会をお勧めいたします。精確な位置情報を送るので端末の提示をお願いします》

「ダッチ商会……そこは、船の修復に必要な資材も取り扱っているか?」

《はい。ダッチ商会はこの島を拠点に活動する商会で、その取引先は帝国や公国などの他に小国家や個人の活動家など多岐にわたります。取り扱っている商品も武器や食料品。その他、オーナーであるダッチ・クロマンテが売れると思ったものを販売しています。彼にお金を積めば、何でも手に入るとこの島の住人たちは考えています》

「……やけに詳しいな。誰の情報だ?」

《はい。ダッチ・クロマンテご本人様からの情報です。自らの会社について聞かれたらこう答えて欲しいと要望がありましたので》

 

 ロボットの正直な話に頷く。

 そうして、俺はチラリとゴウリキマルさんを見た。

 そのダッチ商会は分かったが……信じてもいいのか?

 

 誰かからの口コミなら理解できる。

 しかし、本人がペラペラと語った事で。

 そんな商会に行って、本当に目当ての物が手に入るのか。

 食料はまだしも、船の修復材料を揃えるのならそれなりの店でなければいけない。

 専門店なら確実にあるが、何でも売ると言うような輩がすぐに用意できるのか。

 不安であり、その店を除外して考えてもいいような気がした。

 

 そう考えて、彼女に視線を向けたのだが――彼女は笑う。

 

「そこに行こう。大丈夫だ。私に任せろ」

「え、あ、はい……え?」

 

 彼女はものすごく悪い顔で笑っていた。

 まるで、今から金を巻き上げにいく不良の顔で。

 俺は心の底から嫌な予感をさせながら、止めた方が良いのではないかと思った。

 そのダッチ・クロマンテさんとどういう関係なのか……まぁ甘酸っぱい関係ではないだろう。

 

 あの悪人顔なのだ。

 恐らくは、そのダッチ・クロマンテさんは……いや、止めておこう。

 

 彼について考察できることは何も無い。

 会った事も無ければ、名前だって聞いたことが無いのだ。

 そのダッチ商会がどれほどの規模の会社なのかは分からない。

 しかし、ゴウリキマルさんは思い当たる節があって、何かを企んでいる。

 俺は寒くも無いのに体を震わせて、彼女がくつくつと笑う声を聞かないようにした。

 

 俺は端末を提示して位置情報を送ってもらった。

 そうして、案内係のロボットに礼を言って去っていく。

 彼女は邪悪な笑みを浮かべながら、舌なめずりをしていた。

 

「懐かしいなダッチ。私の事を忘れていたら……殺す」

「ひ、ひぃ」

「あはは、ヤバいね!」

「……ダッチさんの健闘を祈ろう」

 

 レノアが悲鳴を上げて、ショーコさんはただヤバいと言う。

 俺は諦観しながら、そっと両手で合掌しておいた。

 会ったことも無いダッチさんに親近感を覚える中で――足を止めた。

 

 

 俺は今一瞬、視界に映った何かを見つめた。

 

 確かに見えた。しかし、雑踏に紛れてもう姿は見えない。

 

 行き成り足を止めた俺を見て、三人が心配そうな視線を向けて来た。

 

 

「……すみません。行きましょうか」

 

 俺は笑みを作って先に進もうと言った。

 彼女たちは不安そうにしながらも足を進める。

 俺はさきほど見えた”アレ”を頭の隅に追いやる。

 

 きっと気のせいだ。

 それか偶然、似ている何かが通っただけだ。

 ほんの一瞬であり、誰だって見間違いはある。

 

 俺はチラリとショーコさんに視線を向ける。

 彼女はニコニコと笑いながら鼻歌を歌っている。

 何時もの彼女であり、共に戦ってきた戦友だ。

 

 間違えるはずがない。

 間違ってはいけない。

 ほんの一瞬であろうとも――彼女に似た人間が見えたなんて言えない。

 

 俺は自分の錯覚だと自分に言い聞かせる。

 しかし、心臓の鼓動はドクドクと強くなっていた。

 まるで、心の内の不安が現れそうになっているようで。

 俺は硬く強く拳を握りしめながら、不安を頭の中から消そうと必死になった。

 

 

「おじさん」

「――え?」

 

 

 彼女が俺の手を握った。

 彼女のひんやりとした手に握られて、手が柔らかい感触に包まれる。

 俺は彼女の手を見つめて、ゆっくりと彼女に視線を送った。

 彼女はにししと笑いながら、指を指して「遅れてるよ?」と言う。

 

 先を急いでいる二人。

 俺は足並みが乱れてしまった事を謝罪した。

 彼女は首を左右に振って気にしていないと言う。

 そうして、優しく手を引きながら元気よく「行こう!」と言ってくれる。

 

 彼女の笑顔は本物だ。

 彼女の想いに嘘偽りはない。

 サイトウさんの言葉やウィルスの所為で疑心暗鬼になっていた。

 

 そうだ。仲間を信じるんだ。

 今まで一緒に戦ってきた仲間だぞ?

 

 俺が疑って、誰が彼女らを信じるんだ。

 誰も疑う事なんて無い。

 仲間たちは命を懸けてくれている。

 その想いに疑念を抱くのは、無礼極まりない。

 

 信じろ。信じるんだ。

 俺はゆっくりと頷いてから口角を上げる。

 そうして、彼女に聞こえる声量で小さく声を掛けた。

 

「ありがとう」

「……」

 

 彼女は何も言わない。

 聞こえていなかったのか?

 

 皆と合流すれば、ゴウリキマルさんが鬼の形相で俺を見る。

 何をイチャイチャしているのかと詰め寄られて。

 俺は両手を振りながら必死に誤解を解こうとした。

 しかし、彼女の手にはスパナが握られていて――彼女は笑っていた。

 

 お腹を押さえながら笑っていて、目じりに溜まった涙を指で拭っている。

 彼女のままだ。何も変わらない。

 俺は不安が消えていくのを感じながら、サイトウさんの言葉を頭から消していった。

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