【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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195:甘さを捨てろ

 トロイたちと合流し、オッコの提案で街で宿を取った。

 船との連絡は常に取りながら、何か危険があればすぐに戻る。

 何度も何度も船と島を往復していれば、誰かに船の位置がバレる恐れがあるからだ。

 船には不測の事態を想定してサイトウさんを残している。

 オッコたちは疑っていたが、利の無い事で殺しをするような人じゃない。

 馬鹿正直にそう説明する事は出来なかったが、何とか信じてもらって。

 俺たちはセキュリティが万全なホテルにチェックインした。

 

 念の為に、二人一組で宿泊する事にして……何故か、俺とゴウリキマルさんが相部屋になった。

 

 互いに緊張しながら部屋で眠りについた。

 俺もドキドキしていたが、彼女もドキドキしていたに違いない。

 それに気づいたのは、一夜が明けて眠りから覚めた時で。

 彼女は目をギンギンにさせて、目の下にクマを作っていた。

 平静を装っていたが、完全に寝られなかった証拠で。

 俺は申し訳なさを感じながらも、この後はどうするかと彼女に聞いた。

 

 黄色味掛かった壁紙の小綺麗なホテルの一室で。

 俺たちはベッドに腰かけながら見つめ合う。

 彼女は俺の質問の意図が理解できないのか首を傾げていた。

 

「此処でダッチが依頼を完遂するまで待つことも出来ます。でも、それだとゴウリキマルさんも落ち着かないでしょう。もしも部屋から出たいなら、俺が同行します。勿論、簡単な変装はしてもらいますよ。日が昇っていますからね」

「……私は、別に……いや、そうだな。その機械たちの墓場まで、陸に上がる事も無いかもしれねぇし……今の内に、気晴らしをしておくのもありかもしれねぇな」

 

 彼女は欠伸をしながら目を擦る。

 そうして、にししと笑いながら、何処へ行こうかと考えている様子だった。

 俺は小さく笑いながら、彼女にこの島の地図を渡す。

 ホテルのフロントに置かれていた観光客用のマップで。

 料理店やお土産屋など、色々な有名な所が記載されていた。

 本当は人が集まる場所に行くのは危険だろう。

 しかし、この島が賑わうのは主に夜であり、昼間は人通りは疎らであると事前に調べている。

 顔を隠しておけば、この土地の人間がジロジロと見て来る心配も無い。

 油断している訳じゃないが、あまり気を張り詰めさせるのも得策じゃないから。

 

 俺はマップを広げて吟味している彼女を見ながら、端末を取り出した。

 メッセージが入っており、差出人はサイトウさんであった。

 俺は彼女に断りを入れてから、部屋の外に出る。

 カードキーを取って部屋を出てから、しっかりとロックされたのを確認して。

 俺は彼女に連絡を繋いでみた。

 

 

 ワンコール、ツーコールと鳴って――電話が繋がった。

 

 

「……何かありましたか? すぐに連絡を繋げなんて」

《……犯人が分かった》

「……記録の修復が出来たんですか?」

《違う。私が仕掛けたカメラに記録が残っていた》

「…………別にカメラを仕掛けていたんですか?」

《ん》

 

 

 彼女が言った事に少なからず驚く。

 まぁ彼女が誰かを信用するとは考えられない。

 予防線を張っていた可能性も考えていたが、まさか此処でそれが活躍するとは思っていなかった。

 俺は疑問が思わず口に出たが、それ以上の追及はやめておいた。

 そうして、誰が犯人だったのかと聞いた。

 すると、彼女は無言で俺に記録されたい映像を送って来た。

 

 俺はそれを暫く見つめてから、ゆっくりと再生した。

 

 自動操縦によって船が巡航している。

 勿論、その場には何名かのスタッフがいた。

 暫くして、誰かがブリッジへと入って来る。

 姿は見えないものの、スタッフたちは入ってきた人物をチラリと見ていた。

 姿が見えない人間は、スタッフたちに何かを言っている。

 しかし、音声が全く聞き取れなかった。

 俺はどうして音声が聞き取れないのか彼女に質問した。

 すると、彼女は「その機能だけ故障していた」と言う。

 

 無音の中で、スタッフたちが画面外へと歩いていく。

 そうして、無人になってしまったブリッジ。

 暫くすると、入れ替わる様に何者かが入室してきた。

 フードを目深く被った人間であり、その人間は手に端末を握っている。

 フードの人間は端末からコードを引っ張り出して、それをブリッジの機器へと接続した。

 数秒の間、そいつは黙ったまま立っていた。

 そうして、何かの確認を終わらせてコードを抜いて足早に去っていく。

 また少し時間が経って、スタッフたちが帰って来た。

 しかし、様子がおかしい。

 確かな違和感を抱いた。まるで、夢遊病の患者のように彼らはゆっくりとした足取りで持ち場に戻った。

 映像はそこで終わっていて……俺は彼女に質問した。

 

「こいつが犯人ですか?」

《そう……今は解析中。でも、性別は男で。比較的若い事は分かっている》

「……男で、若い……サイトウさんは誰だと思っているんですか」

《マサムネに近しい人間。あのトロイとオッコが怪しい……もしかしたら、その二名かもしれない》

「トロイとオッコが……いえ、あり得ませんよ。奴らに動機なんて」

《……本当に、そう言い切れるの?》

「――ッ!」

 

 彼女は俺の心に揺さぶりを入れて来た。

 本当に言い切れるのかと問われて、俺は即答する事が出来なかった。

 それもその筈であり、マルサス君の事がある。

 それにバネッサ先生だって、結果的にはゴースト・ラインと通じていた。

 絶対何てあり得ない。あり得ないが……俺は彼らを疑う事が出来ない。

 

 トロイは真っすぐな奴であり、誰かを騙す事なんて出来ない。

 嘘をつけない性格であり、馬鹿だが確かな信念を持っている男だ。

 そんな奴が、スパイ何て真似が出来る筈が無い。

 

 オッコもそうだ。

 奴は俺たちと共に死線を潜り抜けて、マルサス君の正体を見破った。

 此処に来て奴が裏切ったとして、何のメリットがあるのか?

 裏切るチャンスは幾らでもあった筈で、此処でオッコがウィルスを仕掛けるのは奇妙に思える。

 

 絶対に無いとは断言できない。

 しかし、二人は俺にとってかけがえのない友人だ。

 白狼に乗って襲い掛かった時も、彼らは俺の事を信じてくれていた。

 あの時に本気になって俺を撃墜する事も出来ただろう。

 そうせずに俺を生かして、こうして一緒に危険な旅に同行してくれた。

 そんな勇敢な友達を、どうして疑う事が出来ると言うのか。

 

 俺には出来ない。

 出来ないし、そんな事はしたくない。

 だからこそ、俺はサイトウさんに対して重い口調で彼らは仲間であると伝えた。

 すると、彼女は重いため息を吐いてから、ぼそりと言葉を発した。

 

《……死ぬのは一瞬だよ。後悔する時間も無い……マサムネは、甘すぎる》

「……俺は……切れたか……」

 

 彼女は俺の言葉を聞くことも無く通話を切る。

 俺はゆっくりと端末を見つめて、口を噤んだ。

 どうする事も出来ない。俺の心は仲間を信じたいと思っている。

 甘い事は百も承知であり、これが後に響くかもしれないなんて理解している……でも、それでも……。

 

 俺は端末をポケットに仕舞う。

 そうして、両手で頬を強く叩いた。

 頬はジンジンと痛みを発して、俺は無理やりに笑みを作る。

 

 若い男性というだけだ。

 まだ、オッコやトロイが犯人だと決まった訳じゃない。

 だったら、まだ信じてもいい筈だ。

 

 俺は指で頬を上げる。

 そうして、笑みを作ってから足を動かした。

 部屋の前に立ち、カードキーを差した。

 すると、ピピっと音がしてロックが解除された。

 部屋の中へと入れば、ゴウリキマルさんが……眠っているな。

 

 彼女はすぅすぅと穏やかな寝息を立てている。

 吟味している間に睡魔に襲われて眠ってしまったのだろう。

 俺は彼女の近くに寄ってから、彼女を横抱きにしてベッドの真ん中に置く。

 彼女の体を持ちあげれば想像以上に軽かった。

 こんな華奢な体で、今まで俺の事を……彼女の体にシーツを掛ける。

 

 静かに眠る彼女の寝顔を見つめてから。

 俺は自分のベッドに戻って、脇にカードキーを置いた。

 両腕を頭の下に置きながら、俺は天井を見つめる。

 カーテンは閉められていて、天井の電気が小さく光を発していた。

 エアコンが効いている部屋で、俺は自分の未来を考えた。

 

 彼女を守る。

 彼女を機械の墓場へと導いて、彼女の鍵を見つけて……それでどうする?

 

 オーバードを求めているのはゴースト・ラインや告死天使。

 東源国の天子やファーストなど。

 バネッサ先生も求めているが、彼女は俺こそがそれを持つに相応しいと言った。

 

 本当に俺にオーバードが扱えるのかは分からない。

 扱えたとして、俺はそれを何に使えば良いと言うのか。

 世界平和に興味はない。世界の支配者になる事も同じだ。

 世界を創造する力を手にしたところで、俺が何に使うというのか……くだらないな。

 

 自分を神と思った事なんて一度も無い。

 それになりたいと思ったことも無い。

 俺はただ大切な人たちを守りたかった。

 彼女たちの幸せを守り、俺は本物の人間に憧れて……今となっては無意味な夢だった。

 

 俺はどう頑張っても人間にはなれない。

 元は意志を持つロボットであり、人間とは程遠い存在で。

 世界を闇に染め上げるほどの大罪人である自分に、人間になる資格など無い。

 夢は夢として終わった。叶える事は俺には出来ない。

 

「……だったら、せめて……守りたい」

 

 目を細めながら呟く。

 俺の言葉に反応する者はいない。

 大罪人である自分に出来る事は、今いる人間を守る事だけだ……過去を変える事は、出来ないから……。

 

 過去を思い出す度に、ズキズキと心臓が痛みを発する。

 俺はギュッと心臓の辺りを掴みながら、体を赤子のように丸める。

 忘れる事は出来ない。忘れたら、俺は本物の怪物だ。

 痛みが生きている証拠で、苦しみが死なせた人間への贖罪となる。

 俺は呼吸を乱しながら、ただただ痛みに耐える。

 吐き気を覚えるほどの強い痛みに耐えながら、俺は心の中で謝罪を繰り返した。

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