【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
明かりを消した部屋で、空中に投影された映像から光が発せられる。
映像の中の人間たちが動いて、私はそれらを確認しながら手を動かし続けた。
カタカタとパネルを叩きながら、収集した記録映像を解析する。
この船に仕掛けたカメラの映像を一つ一つ見ながら。
様子のおかしいものはいなかったか調べる。
マサムネに最も近しい人間であるゴウリキマルとショーコといったきな臭い女は真っ先に調べた。
しかし、ウィルスが流し込まれた時間に二名が部屋から出た形跡はない。
いや、そもそも狙われているゴウリキマルが仕掛ける事で得られるメリットは薄い。
奴は除外しても良かったが……何となく、私は奴を疑った。
二人が最初から部屋にいなかった可能性もあるだろう。
だが、時間を戻して調べてみれば確かに部屋に二名が入っていったのが記録されていた。
誰かと接触して交代した可能性もあるが、それらしき人間はいない。
精々が作業服を着た整備班の人間か、東源国とU・Mのスタッフが部屋の前を通るだけだ。
カメラに発見されずに部屋から出る方法もあるが、あの部屋から人一人が出られるような空洞は存在しない。
あったとして換気用のダクトであり、アレを通って部屋から出ることは不可能だ。
精々が小型犬くらいのサイズのものくらいしか通れない……が、そんな物が通れたところで意味はない。
部屋の前を通る人間はペアで話をしていたり。
靴ひもが解けてその場で屈んで紐を結んでいるなど。
特にこれといって怪しい人間はいない。
ウィルスを仕掛けた敵は少なくとも二名いる。
ブリッジのスタッフを外へと誘導する役割の人間と、ウィルスを端末から流し込む人間だ。
あの犯行は二人でなければ不可能だ。それは理解している。
一人で行おうとすればどこかで無理が生じて、予定外の人間に発見されるリスクもある。
ウィルスを流し込んだ人間の特徴は大まかには掴めた。
背格好からして成人済みの男であり、年齢は比較的に若いかもしれない。
と言っても、二十代後半か三十代前半……だが、不可解な点も幾つかある。
それはウィルスを直接流し込みに来た人間にしては妙に落ち着いている事だ。
プロであるのなら、ある程度の事には動揺しないだろう。
しかし、どんな人間であれ常に自然体でいられるかと問われれば、私は否と答える。
どんなに経験を積もうとも、ある程度の緊張感は抱いている筈だ。
だらけ切って戦闘が出来るのなら、そいつは心がないか愚かなだけだ。
この敵は少なくとも愚かな人間ではない。
動きに一切の無駄が無く、仕込みを終わらせればすぐに退散していた。
足音は聞こえないが、その立ち姿と歩き方から一切のブレがない。
「……怯えがない……いや、何も感じていない?」
画面越しな上に音が聞こえないから判断は下せない。
しかし、明確な違和感として私の目には映った。
こいつは人間なのか……いや、ロボットなら何故、人間の姿をしている?
フードに隠れて顔は見えない。
しかし、露出している部分には人間の皮膚が存在する。
アンドロイドだとしても、そんなものが紛れていればすぐに気づく。
疾風のヴォルフの噂は耳にしている。
抜け目のない男であり、常に仕事をする時は万全の態勢で臨んでいたと。
不確定要素がある中では、極力仕事を受けず。
風のように仕事を終わらせることから疾風という名がついたと聞いている。
そんな男が、不明なアンドロイドを船に入れる可能性は低い。
……いや、あの女に誑かせられてなら話は別だが……その線は薄い。
あの場所に着て、あの女とヴォルフは協定を結んでいた。
他のスタッフもその話は聞いていた筈だ。
しかし、自分が殺されるかもしれないという状況で。
あの時の会話を明確に覚えている人間は少ないだろう。
記憶にあったとしても、自分には関係のないことだと割り切る筈だ。
唯一、私だけが奴らの会話を記憶して、貴重な手札として隠していた。
眠るふりをして聞いていたが、予想よりも複雑な話ではあった。
これであの女を脅しても良かったが……あの女はそれを狙っている可能性がある。
私への情報の開示を拒むあの女がだ。
ぺらぺらと私の前で意味深な言葉を吐いていたのだ。
私じゃなくても交渉の材料に使うのは明らかで。
それを恐れているのなら、事前にいくらでも手を打てた筈だ。
それをしなかったのはする”必要が無い”からで……何を考えている。
シナリオ? 彼とは誰だ?
奴らはシナリオと呼ばれるものを頼りにして行動している。
まるで、今の事態ですらもその中の一部に過ぎないと言わんばかりに。
彼と呼ばれる人間は恐らくはゴースト・ラインの中で最も重要な存在だ。
それは一人しかおらず、奴らの”頭”であることは確かだ。
ボスが描いたシナリオ通りに事を進める。
それが正しいのであれば、敵が攻めてきたのも奴らの計画通りという事になる。
だが、ブリッジで指示を飛ばすあの女を監視していたが不審な点は無かった。
本気で焦っているような顔であり、アレは演技では出せない表情だった。
その事から考えて、あの襲撃は想定の範囲内で。
違いがあったのなら、あの有人機に乗っていた幹部が”本気で船を沈めようと”していた事か。
「……全てが思い通りじゃない……だったら、今はどういう状況だ……ショーコの提案でカルトペグニオへと来た。これが奴らの計画の内の一つなら、とっくに発見されている筈……あの有人機のパイロットが襲ってこないのはどうして? 消されたか、或いは身動きを封じられたか……バネッサは危険だ。でも、あいつを殺せば切り札を失う。これも奴らの狙い通りなら……計画の中心にいるのはマサムネ。なら、オーバードもその内の一つ……もしかしたら、奴らと私は利害が一致しているのか……邪魔をしないなら興味ない、けど……癪には触るな」
奴らの掌の上で踊るつもりは毛頭ない。
あのショーコとかいう女も、バネッサの事もどうだっていい。
しかし、このままあの青いメリウスに乗ったパイロットのような存在が襲ってこない保証はない。
奴らはそのシナリオの中でのイレギュラーなのだろう。
ただで殺されるつもりはないし、来るのなら返り討ちにする自信もある。
だが、無駄な戦闘に時間を掛けている暇はない。
一刻も早く墓場へと戻り、ゴウリキマルの鍵を手に入れる。
そうして、アレを扱える可能性が最も高いマサムネが乗り込む。
神の如き力と評されるものであれば、如何にアルフォンスといえども勝てる筈がない。
絶対的な力を手にしたマサムネであれば、奴を殺すことも出来る……ただ、足りない。
「……力を手にしても、動機が無ければアイツは行動しない……アルフォンスに強い恨みを持っているのは私。身の上を話せば……いや、意味はない。同情させるだけだ……なら、同じような感情を抱かせれば……その方が効率がいい」
同じ苦痛を与えて、奴に対して強い殺意を抱かせる。
それをするのは簡単であり、問題はタイミングだろう。
如何にして、奴の殺意をアルフォンスへと向かせるか。
時と場所、そして決定的な証拠がなければ意味がない。
カメラの映像を解析しながら、私はゆっくりと息を吐く。
そうして、頭の中で一つの計画を立てた。
「……プランは一つだけ……ただ、最悪の場合にだけ実行することになる……鍵を失い。オーバードが奴の手に渡る時……最悪で、最も可能性のある機会……アレは、マサムネの怒りに触発されて作動する……結。彼を縛り付ける鎖を与えたのはお前だ」
私の頭の中で邪悪に笑う少女が浮かんだ。
兄様兄様と狂ったように兄を求める女。
アイツが兄を思って作った技術が、紛い物を破壊する。
本物が偽物に叶う筈などない。それを証明する日は確実に迫っている。
オーバードを手に入れれば確実に殺せる。
しかし、オーバードの鍵を奪われた状況でも奴を殺せるかもしれない。
常に二つ以上のパターンを頭に入れて、私は行動する。
最悪の状況でも、最高の結果を得られるように……。
私は一枚の映像を映し出した。
ブリッジのカメラであり、解像度と明度を上げる事に成功し拡大する事がようやく出来た。
そうして、暗闇の中でフードを被っている男の顔をアップにした。
徐々にその輪郭が露になっていく。
暗闇に隠れていた男の表情がクリアになっていき、目や鼻や口が露になる。
その男は笑う事も怯える事もせずに、後方を確認していた。
その顔には見覚えがあり、私は薄く笑みを浮かべる。
「……見つけた」
敵を発見した。
しかし、まだ焦る時ではない。
あと一人を見つけ出さなければいけない。
私は冷静に、時を戻してスタッフがブリッジへと入ってきた人物に視線を向けた映像で止める。
そうして、また立体にしてから、その人物が立っている場所へとある人物のデータをアップする。
姿が見えない靄のような存在が、その人物の形を成していく。
そうして、データの中で再現されたのは――ショーコだった。
「……お前だ。お前しかいない……さぁ、どうだ」
スタッフの視線の角度とうっすらと出ている影から照合する。
これでハッキリとする。
あの女は裏切り者で、マサムネの行動を阻害する存在だと。
邪魔にならなければ無視するつもりだった。
しかし、貴重な時間を浪費させるのなら絶対に排除する。
データの照合が開始されて、暫く待ち――結果が出た。
「……エラー……そう簡単には尻尾を出さないか……まぁ、いい……こいつを絞れば、吐き出すだろう」
ショーコとの照合は失敗した。
だが、犯人の一人は突き止めた。
この男は今、マサムネと共に島へと上陸している。
何を企んでいるのは知らないが、このまま逃走する恐れもある。
私はデータを保存して、システムをシャットダウンする。
そうして、ホルスターと拳銃を”その場に”置く。
これらを持っていく必要はない。必要なのは……これらだけだ。
ナイフを一つ手に取る。
そうして、それをブーツの中に仕舞う。
そうして、拘束用の結束バンドが入った小さなケースをジャケットのポケットに入れる。
部屋の明かりを消して外に出る。
そうして、私は船外へと出るために歩いていく。
マサムネに連絡する必要はない。
私が個人的に動いて、奴から情報を聞き出す……まぁ予想が正しければ、奴は”何も”知らないだろう。
「……知っていれば殺す……知らなければ……自由を奪っておく必要がある」
マサムネの為に。そして、私の目的の為にも――邪魔な人間は始末する。