【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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198:信じた者の顔(side:ゴウリキマル)

 マサムネと一緒になって街を散策した。

 美味しいものを食べて、この街で流行っているゲームを体験して。

 此処で暮らすいろんな人間と交流し、様々なものを見た。

 摩天楼のようなビルたちは見上げれば首が痛くなりそうだった。

 しかし、下に目を向ければ愉快な人間たちが暮らしていると分かる。

 

 歯抜けの靴磨きの少年は二カッと笑えば愛らしい。

 ホットドックの店の主人は太ってはいるが手先は器用だ。

 テンキュウ・アップルを売ってくれたおばちゃんは口が上手く、アレなら店が潰れることは無いだろう。

 犬の散歩をしているをしているおばあちゃんに近づいて犬を撫でさせて貰った。

 犬の毛はふわふわで温かくて、マサムネにも撫でてみろと言ったが奴は遠慮していた。

 動物が苦手なのかと思ったが、奴はしきりに周りを気にしていた。

 

 奴自身は気づいていないかもしれない。

 だが、私から見ればバレバレだった。

 明らかに周りを警戒し過ぎている。

 肩に力が入っていて、アレでは三日後には肩こりで苦しむ事になるだろう。

 

 最初にこいつに会った時とは大違いだ。

 あの頃は、未来なんて考えてないといった顔をしていて。

 私は能天気な奴だと思っていた。

 よく言えばマイペースな人間で悪く言えば……いや、悪くはなかった。

 

 今のこいつも過去のこいつも私は好きだ。

 例え考え方が変わったとしても、こいつを遠ざけるつもりは無い。

 だけど、明らかに島を出てから様子がおかしい。

 

 私を守ると誓ったからか?

 それとも、ショックで意識を失うほどの過去の記憶が影響しているのか?

 

 分からない。私には何も分からない。

 それは単純にマサムネが私に話してくれないからだ。

 聞けば、奴は優しいから教えてくれるかもしれない。

 いや、心配を掛けまいと嘘を言う可能性もある。

 何方にせよ。私の口から、奴に無理に話しをさせる事になってしまう……それは嫌だった。

 

 私はアイツが嫌がるような事をさせたくない。

 アイツが悲しむような事を思い出させたくない。

 例え、何も分からないままでいたとしても、アイツが傷つかないのなら、それで……いや、嘘だ。

 

 本当は話してほしい。

 深く思い悩んでいるアイツを想像すると、助けになってやりたいと思ってしまう。

 それはアイツが私の為に、今までどれほどもの困難に立ち向かってくれたからだ。

 

 私自身が作り上げた無人機という怪物。

 人間の魂をコアに変える事によって人が乗らずとも動くことが可能なメリウスを作り上げた。

 私が作り上げた時点では、それは無垢な子供の魂でしか作れない筈だった。

 しかし、今まで相対してきた無人機は、私が開発した時よりも更にアップグレードされていた。

 

 恐らく、もう子供を使う必要は無い。

 奴らは次の段階に進んでいて、オッコの調査でそれも判別していた。

 奴らは子供ではなく名のある傭兵の魂を解析してコピー品を生み出している。

 工場を破壊したことによって無人機を生み出すことも出来なくなった筈だ。

 しかし、奴らは無人機の開発を今でも続けていて、この前の襲撃でも数多くの無人機を使っていた。

 

 一機一機はマサムネにとっては大した相手ではない。

 しかし、並のパイロットであればアレを一体相手にするだけでも苦戦を強いられるだろう。

 恐らくは、Bランクの傭兵かAランクの下位に位置する力をアレ等は持っている。

 

 だが、それも全てではない。

 あの青い機体と並び立って戦っていた無人機。

 マサムネから回収した戦闘データを元に調べてみたが、従来の無人機の発する波形とは全く異なっていた。

 無垢な子供でも、傭兵のコピー品でもない……アレは紛れもなく生きていた。

 

 生きた人間か死んだ人間かは重要じゃない。

 人間の魂を再構築し、機体のコアに変えたのだ。

 それも私の考えが正しければ、記憶なども保持した状態でだ……狂っている。

 

 人としての肉体を持っていた人間の魂を。

 何も感じることのない機械に変えてしまったのだ。

 アレは紛れもなく人間で、息はしなくとも呼吸の仕方を覚えている筈だ。

 そんな人間を、あんな、あんなおぞましい姿に……私の罪だ。

 

 私が無人機のコアを開発してしまったから。

 ゼロからイチを生み出してしまったから、地獄のような研究が続いた。

 その結果、本物の怪物をこの世に生み出してしまったのだ。

 

 責任を全く感じないことなんて無い。

 寧ろ、あんなものを見せられて気が狂いそうだった。

 強い吐き気に襲われて、実際に胃の中のものを全て便器に吐き出した。

 涙は勝手に溢れて零れて、感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 でも、それでも、私が苦しんでいる暇はない。

 

 こうなってしまったのなら、もう進むしかない。

 後悔して後ろを振り返る暇なんてないのだ。

 ショーコから私は進む勇気を教わった。

 だから、私は涙を拭って戦う覚悟を決めた。

 

 私の罪は、私自身の手で清算する必要がある。

 これ以上、悪魔のような研究を続けさせる訳にはいかない。

 ゴースト・ラインを潰して、私は過去に犯した罪を全て消し去る。

 

 

 ――それが私に出来る唯一の贖罪だから。

 

 

 オーバードというものはまだ理解できない。

 だけど、これがゴースト・ラインや告死天使の手に渡ってはいけない事は分かる。

 これ以上、奴らの好きなようにはさせない。

 オーバードの鍵を死守して、私たちが誰よりも先にオーバードを手に入れる。

 

 

 そうして、私はオーバードを――破壊する。

 

 

 神の如き力を持った機体だ。

 大勢の人間がそれを欲して争いが起こる。

 現に私は多くの人間に狙われていた。

 強大な力を求める人間の争いなんて見たくない。

 これ以上、関係のない人間たちの血を流させる訳にはいかない。

 そして、奴らの企みを阻止する為にも、オーバードはこの世から消さなければならない。

 

 マサムネはオーバードを誰かに譲渡しようとしている気がする。

 恐らくは、東源国の人間と取引をしたのだろう。

 奴には悪いが、争いの種は未然に消しておいた方がいい。

 

 私は公衆トイレの個室から出て、洗面器の前に立つ。

 そうして、手を洗ってからハンカチを取り出して手を拭った。

 

「……よし」

 

 考えは大体纏まった。

 これからもマサムネを気遣いながら、奴が過去を話してくれるのを待つ。

 そうして、オーバードの鍵が何なのかを見つけ出して、私はオーバードを手に入れて破壊する。

 正直なところ、技術屋としては勿体ないと思うこともあるが……こればっかりはやめた方がいい。

 

 過ぎたる力は身を亡ぼす。

 初めからそんなものは無かったと思えばいい。

 私はそう自分を納得させながら、公衆トイレから出て――ピンク髪の女が前を通り過ぎていく。

 

「……あ、おい!」

「……ん?」

 

 思わず、私は声を掛けてしまった。

 しまったかと思ったが、振り返って見えたその顔を見てホッと胸を撫でおろした。

 何時もと違って髪型はストレートになっているが、その顔は紛れもなくショーコで。

 私は笑みを浮かべながら、どこで何をしていたのかと問いかけた。

 

「あ、いや、私たちは別に遊んでいた訳じゃねぇからな? その、ちょっと……そう! 情報収集をしていたんだよ! 敵の情報は多い方がいいからな、それで」

「――何、言ってんの?」

「……あ?」

 

 ショーコは訝しむような目を私に向けてくる。

 何時ものニコニコとした表情はなりを潜めて。

 目の前の人間を信じられないと言いたげな目で見ていた。

 私はその他人を見るような目つきにムカッとして、そんな態度を取るのは怒っているからなのかと聞いた。

 

「いや、私も悪いと思ったよ。けどさ、その態度はあんまりなんじゃ」

「いや、意味わかんないから……新手の勧誘? 私、宗教とか興味ないから。じゃ」

「あ、おい! 何処に行くんだよ!」

 

 手をひらひらとさせて迷惑そうな顔をしたショーコ。

 奴は踵を返してどこかへ行こうとした。

 私は咄嗟に奴の手を掴んで、何処に行くんだと問い詰めた。

 

 

「ちょ、放してよ! 警察呼ぶよ!?」

「はぁ!? 警察って、お前どうしたんだよ! 私の事忘れちまったのか!?」

 

 私はショーコの記憶が消えたのかと思わず考えた。

 そんな突然、記憶が消える筈はないが。

 奴の目に映っている私は、ひどく怯えたような表情をしていた。

 

 私たちの争う声を聞いて、通りがかった人間が此方に視線を向けてくる。

 周りの視線が集まっていく中で、私は取り乱すようにサングラスを取ろうとした。

 そうして、私はすぐに船に戻って調べてもらおうと言って――乱暴に手を振りほどかれた。

 

 私は地面に尻もちをついて痛みを発する尻を摩る。

 そうして、視線を上にあげれば――そこには見たこともない”怯えた視線”を私に向ける友人がいた。

 

「……アンタなんて私は知らない……本当に、気味が悪い」

「……え?」

 

 ショーコは吐き捨てるようにそう言って、走り去っていく。

 私は友人から言われた言葉に強い衝撃を受けた。

 そうして、暫くの間、その場で無様に座っている事しか出来なかった。

 

 アレはショーコだった……でも、アイツの目に、私は映っていなかった。

 

 まるで、別人だ。

 顔が瓜二つの違う人間を相手にしたような……アレは、ショーコじゃないのか?

 

 声も、顔も、仕草も、全てアイツと同じだ。

 それなのに、私との思い出が消えていて、私を敵のように見ていた。

 間違える筈が無い。アレは紛う事なきショーコ本人だ。

 でも、奴からは……何時も感じている温かさも、柔らかさも感じなかった。

 

 アレは、誰だ?

 アレは、何なんだ?

 アレは、アレは、アレは、アレは、アレは――肩を強く揺さぶられた。

 

「ゴウリキマルさんッ!! ゴウリキマルさんッ!!」

「――マサムネ?」

「あぁ、良かった……立てますか? この場を離れましょう」

「あ、あぁ」

 

 目の前にマサムネがいて、私は奴の言葉に従って立つ。

 そうして、その場をそそくさと離れていった。

 多くの人間からの好奇の視線を浴びながら、私は奴に守られらてその場を去っていく。

 マサムネは私の肩を抱きながら、そっと耳打ちをしてきた。

 何があったのか、敵の襲撃にあったのかと……私にも、何が何だか分からなかった。

 

 私はゆっくりとマサムネに視線を向ける。

 そうして、震える声で奴に事実だけを話した。

 

 

「……ショーコがいた……でも、アイツは、私を覚えていなかった……私は夢でも、見ていたのか?」

「――っ!」

 

 

 私の言葉を聞いて、マサムネは大きく目を見開いた。

 しかし、足を止めることなく進んでいった。

 奴は何かを考えている。考えながら、私を守っていた。

 奴は暫く考えてから、ゆっくりと言葉を発した。

 

「……きっと間違いです。きっと……」

「……っ」

 

 マサムネは間違いだと言った。

 私の見間違いだと。

 でも、奴の目を見てそれが嘘であることはすぐに分かった。

 私は奴の嘘を見破っていた。しかし、何も言えなかった。

 もしもそれを指摘すれば、私たちの友情が崩れると思って……私は怖くなった。

 

 互いに口を噤んで、足だけを動かしていく。

 奇妙な出来事によって、私の心には大きな不安が生まれた。

 ショーコと会って、お前なんて知らないと言われたらどうすればいい?

 

 私は友人と会うことに恐怖を感じて、ただただ震えていた。

 どんな顔で会えばいいのか、彼女は私を覚えているのか――日常が、音を立てて崩れていくのが分かった。

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