【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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206:巧妙に仕組まれた罠(side:サイトウ)

 船の中を駆けていく。

 障害物を躱して、階段を一気に降りる。

 擦れ違う邪魔な人間たちを目障りに思いながら、浄化装置がある部屋を目指す。

 右に左へ曲がって、風をきるように移動した。

 

 速く。もっと速く。

 最短で、最速で、床を蹴りつけて走って行き――ようやく目的の場所に着く。

 

 呼吸を乱すことなく真顔で部屋の扉を見つめる。

 厳重なセキュリティーが掛けられていて、指紋認証の他にIDカードの提示も要求されるだろう。

 おまけにテンキーらしきものも設置されていて……これは時間ごとに変わるパスコードの入力か。

 

 時間はあまり残されていない。

 本来であればハッキングでもして侵入する所だ。

 手荒な真似をすれば船の人間に知らされて、此方の立場も危うくなる。

 あまり周りの目などは関係ないが、過度な警戒心を持たれるのは本意じゃない……が、やむを得ないか。

 

 セキュリティーが仕込まれたパネルを掴む。

 そうして、力任せに引っ張り引き剥がす。

 ぶちぶちと配線が千切れて、スパークが起きる。

 船の警報システムが作動して、赤色灯が赤く光り始めた。

 私はそれを無視して、中に指を突っ込んで幾つかの配線を千切る。

 無数の配線を目視で確認しながら、一つ一つを選別して千切るか残すかを選択する。

 そうして、残った配線を器用に繋ぎ合わせれば……開いた。

 

 扉が横にスライドして中への道が開かれる。

 このエリアにマサムネたちが来るまでにはまだ時間がある。

 一度捕まってしまえば説明を要求されるのは自明の理だ。

 そんな時間を使っている暇は無い。

 私は部屋の中へと侵入してから、ポケットに入れたライトをつけた。

 

 薄暗い部屋の中。

 侵入者を歓迎することも無く、部屋は薄暗さを保っている。

 様々な機械が設置されていて、稼働中である事を示すように低い音が部屋に響いていた。

 

 機械から発せられる青い光。

 ランプが点灯しているという事は浄化装置は問題なく稼働しているという事だ。

 機械自体を遠隔操作によって止める方法も考えたが、それはあまりにも時間が掛かり過ぎる。

 いや、そもそもハッキング出来るかも怪しいだろう。

 船の人間にとって生命線となる水だ。

 その管理は厳重であり、遠隔からの操作など基本的には不可能だ。

 

 まぁ、直接確かめなければ意味が無いというのもある。

 証拠となる薬を探し当てて、それを私の手で回収する。

 恐らくは、裏で手引きしている人間に繋がる重要な手掛かりだろう。

 何でもいい。皮膚のカスでも、髪の毛一本だろうとも。

 発見出来さえすれば特定は難しくはない。

 恐らく、薬は元々はゴースト・ラインからの刺客が持って管理していた筈だ。

 受け渡しをしたのであれば、何かを経由していようとも小さな痕跡は残る。

 それを手に入れるという目標もあって、私は危険を冒して直接来た。

 

 敵の襲撃を警戒しながら進んでいく。

 色々な機械が置かれているが、目的の機械は奥に設置されている。

 私は慎重に進みながら、周りに視線を向ける。

 そうして、身長でありながらスムーズに移動して……これだ。

 

 緑色のランプが灯っている機械。

 七メートルはありそうな大型の機械で。

 それに見合う大きなパイプが接続されている。

 この機械を経由して、海水を真水に変えたものを船の人間が使用する。

 その大まかな利用法は飲料やシャワーに関する事で。

 それによって、誰も知ることなく口や鼻から薬入りの水が体内に入り込む。

 一度体内に入り、完全に体に溶け込んでしまえば除去する事は困難だ。

 少なくとも、この船の設備ではとてもではないが除去手術は受けられない。

 

 マサムネの安全を守る為に……滑稽だな。

 

 何故そこまでしてあの男に拘るのか。

 私自身もよく分かってはいない。

 ただ可能性があると言うだけで、私は奴を守る為に動いている。

 女男の穢れた関係には興味が無い。

 私はあの男を……アルフォンスを殺してくれるのなら、誰だっていい。

 

 その為の投資と思えば、安い物だ。

 奴の知らないところでアイツを助けておけば、奴は恩義を感じて私のやる事を手伝う。

 逃がしはしない。一度結んだ縁は、切っても切れないものだ。

 私が死ぬか、アルフォンスが死ぬまで、奴を絶対に離しはしない。

 

 ライトを口に加えてから、私は機械を指でなぞる。

 すぅっと指でなぞっていき、目的の浄化タンクの蓋を発見した。

 小さなバルブを閉じてから、大きなバルブも動かして閉じる。

 硬く重いバルブではあったが、私にとっては赤子の手を捻るようなものだった。

 バルブを完全に閉じた事によって、タンクへの給水は一時的に遮断された。

 これで一先ずの危機は去った。

 後は、タンク内部に投入された袋に入れられた薬を回収するだけで――いや、待て。

 

 

 おかしい。妙だ……あり得ない事だ。

 

 

 私がこの部屋に入って、小さな疑問を幾つか感じた。

 それは部屋をライトで照らしていた時に。

 部屋に設置されている筈の監視カメラが消えていた事だ。

 映像を確認していた時には、確かにカメラはまだあった筈だ。

 それなのに、この部屋に入って来た時にはカメラは消えていた。

 そんな筈は無いと思った。暗くてよく見えなかったのではないかとも思った。

 だが、今確認してもカメラは影も形も無い。

 

 二つ目の疑問点はバルブだ。

 小さなバルブは問題なく動かせた。

 しかし、大きなバルブに関してはそれなりの力を要した。

 恐らく、手応えからして成人男性三人分の力は必要なほどの硬さだ。

 これをあの女が回したのは考えられない。

 奴の体に触れて、何度も生体データを分析したから分かる。

 奴の筋量では明らかにパワーが足りていない。

 

 タンクの蓋を開ける為には、バルブを閉じて中の水を一時的に出す必要がある。

 不純物が混入すれば一大事であり、その為の安全策とも言える。

 完全に中の水が無くなった時に、タンクの蓋は自動的に開閉される仕組みで。

 浄化された水をタンクへと流し込み、簡易的な検査に掛けられてパイプを通って水が供給される。

 だが、この簡易的な検査の中には神薬が混入したかどうかを調べる機能は無い。

 本来であれば、このエリアには信用された人間のみが入る事を許される。

 それこそ東源国からのスタッフの中で、天子が権限を委譲できるほどの人間が。

 

 しかし、この船にそれほどの権限を持った人間は乗船していない。

 つまり、メカニックであろうとも容易に侵入する事は不可能な筈だ。

 

 私は完全にそれを見過ごした。

 船の浄化装置であえれば、メカニックが定期的にメンテナンスをすると思い込んでいた。

 しかし、この船は天子が手配をして作らせたものだ。

 奴が有象無象を信用する筈がない。

 最初からこの部屋には誰も入らせるつもりなど無かった。

 それは何故か。それは奴自身も、神薬の危険性を知っていたから。

 

 碌に眠らなかったがつけが此処にきた。

 私としたことが、こんな初歩的な罠に引っかかった。

 普段であれば絶対にあり得ないミスだ。

 

 黒幕は、何らかの方法を用いて私の設置したカメラにハッキングして偽の映像を流した。

 精巧に作られたフェイク動画であり、焦りからか私はそれを見過ごした。

 今頃敵は、私の部屋に侵入し、証拠となる映像や残りのカメラの位置を確認しているだろう。

 私は端末を取り出してから、PCとの接続をシャットダウンした。

 そうして、端末を操作して手に入っている情報を全てマサムネの端末とあのゴウリキマルという女のPCに送る。

 女のPCの情報は既に入手していたから送り付けるのは簡単だ。

 後は手元に残った端末のロックを厳重にし、完全スリープモードに移行する。

 タイマーを設定しておき、三日経過するまでは私であろうとも起動できないようにした。

 取り敢えずは、これで保険は取れたが……さぁ、アレはどこだ?

 

 カメラが消えている理由だけは、未だに分からない。

 部屋に侵入した形跡が無いのだ。

 一体どこに……これは?

 

 カメラがあった真下に、何かの溜まりが出来ていた。

 ライトを片手に持ちながら近づけば、何かが溶けた跡が残っている。

 恐らくは、カメラの残骸で……高温で熱せられてズクズクに溶かされたのか。

 

 その時に、気配を感じた。

 

 私は咄嗟に隠し持っていた暗器を気配のした方に投げた。

 すると、何かに当たり壁に張り付いていたそれが半壊して落ちて来た。

 ライトを向ければ、クモのような形をした機械であると分かった。

 もぞもぞと動いていたそれは、やがて完全に機能を停止してぐったりとした。

 自動操縦型の遠隔デバイスで……これか?

 

「……まさか、これを侵入させてカメラを……待て。それなら、オッコに擬態したロボットも……時間切れか」

 

 足音が聞こえてくる。

 焦っている人間たちの声も聞こえてきて、私はライトを仕舞って立ち上がる。

 すぐに部屋の前に人の気配が集中して、中になだれ込んでくる。

 何名かは私に強い恨みの籠った目を向けてきて、私は小さく鼻を鳴らした。

 背後から明かりを向けられながら、私は両手を上げて無抵抗である事を示す。

 先頭にいるマサムネは何故、このエリアにいるのかと私に聞いて来た。

 

「……多分、言っても無駄。証拠も消された筈」

「証拠? まさか、例の事で此処に?」

「……此処にいない人間の事を記憶しろ。そして、この残骸を回収しておけ……敵は頭が切れる」

「……連行しろ」

「は、はい!」

 

 バネッサが指示を出してスタッフを動かす。

 怯えて震えているスタッフは、慣れない手つきで私の錠を嵌めた。

 私はそれを冷めた目で見てから、マサムネに視線を送る。

 奴は戸惑いを大きく表していて、ひどく不安定に見えた。

 

 足を動かして歩いていく。

 そうして、奴の横を通る時に、私は囁くように言葉を発した。

 

 

 

「――最後に信用できるのは、自分だけだ」

「……っ」

 

 

 

 敵の狙いは私を船の中で孤立させる事か。

 手の込んだ真似をしてくれたが、今はどうでもいい。

 これでハッキリとした。

 船への妨害に加えて私をかく乱するような動きを見せて。

 ここまでされたのなら嫌でも分かってしまう。

 

 

 奴は、この事件の黒幕は――私の計画にとって邪魔になる。

 

 

 絶対に見つけ出して殺す。

 殺して私を嵌めた事を後悔させる。

 誰を敵に回したのか理解できていない敵へ狙いを定めながら。

 私は薄い笑みを浮かべて、震える職員と共に歩いて行った。

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