【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
センサーを動かして敵の機影を捉える。
背後を取ろうとしてくる敵を振り切ろうと機体に無理な動きをさせた。
垂直に曲がれば機体から悲鳴が鳴り、スラスターは甲高い音を奏でた。
耳に響く嫌な音だが消す事はしない。
己に対して常にプレッシャーを与える。
危機感を常に抱かせながら、自らの限界を超えようとした。
体を押しつぶしてくる負荷に、意識が遠ざかっていきそうな感覚。
それら全てを肌で感じながら、俺は笑みを深めた。
まだだ、まだだ――もっともっと速く成れる筈だ。
フルスロットルであり、止まる事を知らない。
敵の弾丸の音が一瞬だけ聞こえるが、すぐに消えて。
それを感じ取る前にレバーを操作してギリギリで回避しようとした。
装甲を削っていく音が聞こえて、軽く被弾した事を知らされる。
完璧に避ける事が出来ない。が、致命傷ではない。
だったら、それで十分だ。速度を緩めるな。
緩めるくらいなら軽いジャブくらいなら受けてやれ。
激しく機体が揺れて風の抵抗を強く受ける。
景色が瞬く間に変わり、俺たちは雲の中へと突っ込んでいった。
分厚い雲の中を通れば、風の音が聞こえて。
凄まじい風の暴力を全身で体験しながら、不気味な空気の鳴き声を聞く。
機体が小刻みに揺れて手がピリピリと痺れる。
光が漏れ出る場所を目指して、全速力で飛翔して。
敵の殺気を背後から感じながら、俺は更に加速した。
進んで、進んで、進んで一条の光へと突っ込んで――光が一気に広がった。
雲を切り裂き飛行して、音速を超えるほどの機動で敵との戦いに挑む。
雲から抜け出して一面に広がる大空に出る。
太陽が眩しく横で輝いていて。
俺はニヤリと笑いながら、更に上へと上昇していく。
猛追してくる敵の気配を感じながら、成層圏のギリギリで機体を操る。
重力の間で水星の如く速さで疾走した。
深く暗い青を視界に入れながら、俺は静かに呼吸をしていた。
生きている。生きている。この世界で、俺は生きている。
背後から弾が放たれた未来が見えた。
視えた一瞬の光景とと己の勘だけで避ける。
一瞬だけ見える未来の景色。それを勘で補いギリギリで回避した。
機体からアラートが鳴り響き、敵からのロックオンを知らせる。
少しでもミスをすれば弾が装甲を撫でていく。
金属を削る音とコックピッドの揺れで被弾した事は分かる。
それを全身で感じながら、俺は徐々にダメージを増やしていく。
小さなダメージであっても、蓄積していたら大きなものになる。
先ずは敵の追跡を振り払い、此方が後ろを取る必要があった。
近くを通り抜ける弾丸を回避しながら、俺は機体を回転させながら弾を敵に放つ。
空気の壁を突破しながら、俺の機体は空を駆けた。
回避しながら背後を向いて、流れるように弾を放った。
突撃砲が火を噴いて、一瞬の動きで弾が飛んでいく。
軌道を予測されないようにブラフも混ぜていた。
ロックオンをせずとも関係ない。
敵の未来視だって完ぺきでは無いのだ。
奴の移動予測地点を計算してそこに弾丸をぶち込む。
ガラガラと音が鳴って薬莢が舞う。
マズルフラッシュと共に弾丸は勢いよく飛ばされて、敵は回避行動を取った。
奴の背中のスラスターから赤黒い光が放たれて、奴は機体を激しく回転させて弾を避ける。
何発かが装甲を軽く撫でて火花が散る。
しかし、致命傷ではない。ギリギリで回避して、最小限のダメージに抑えた。
が、確実に速度は落ちた――此処だッ!!
俺は短距離ブーストを連続で使用した。
爆発的な推進力により、体はシートに強く押しつけられる。
歯が砕けそうなほどに噛みしめて、退き剥がれそうになるレバーを強く握った。
目玉が飛び出しそうになり、口内がカラカラに乾く。
機体内のアラートが遠くに聞こえるほどに意識が薄れる。
体からミシミシという音が響いて、視界は一気に流れていく。
飛びそうになる意識を留めながら、敵との距離を離してからレバーを操作した。
連続で機体を曲げて、大きく離した奴の機体に向かっていく。
限界を超えて飛行し、更なる加速に挑んで。
目を細めながらニヤリと笑い敵に銃口を向ける。
敵も俺へと銃口を向けていて、俺たちは急速に距離を縮めていく。
ガラガラと弾をバラまいて。
敵と俺は最小の動きで回避する。
速度を緩める事無く、互いに真っ向勝負を挑む。
お互いの装甲に弾が当たって弾かれて火花が散る。
ほのかな星の光が見える成層圏で、俺たちは手にした銃を限界まで酷使した。
バレルが赤熱して、飛んでいった薬莢が後ろへと流れていく。
装甲が傷つけられて罅が入り、それでもセンサーは強く発光する。
敵の殺気を全身で浴びながら、俺は闘志を剥き出しにして笑った。
ぐんぐんと加速して、瞬きの合間にすぐそこに敵が迫り。
俺たちは得物から鉛球をしこたま撃ち込んだ。
撃って、撃って、撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って――撃ち続けた。
急激な負荷と風の抵抗。そして、距離の計算が間に合わない。
俺も敵もロックオンを解除されて、狙いがつかない弾を俺たちは紙一重で回避する。
奴は大きく機体を回転させながらがら、ブレードのチャージを終わらせる。
大きく振りかぶられたそれは遠心力が加わり、大きな刃を形成し頭上から振り下ろされた。
視界一杯に奴の赤黒い光が埋め尽くす。
危険な色がスローモーションに感じる世界で迫って来た。
熱い。恐ろしほどの熱量であり、機体を通して感じる。
目の前に奴の赤黒く発光するブレードが振り下ろされていく。
バチバチと激しく光が迸って、鋼鉄をも容易く溶断するそれが向かってくる。
命を刈り取るそれを見つめながら、俺は一気に――レバーを引いた。
スラスターが更に甲高い音を奏でた。
エネルギーを一気に消費して、コアからの熱で機体はサウナのように熱い。
上方への噴射であり、残量も計算しないヤケクソに近い行動だ。
しかし、洗練した動きよりもこういう荒っぽい方が俺は好きだ。
迫りくるブレードが俺の機体の頭部を軽く撫でた。
映像が乱れて、コックピッド内が激しく揺さぶられた。
機械のアラートと共に、AIから機体の損壊状況を報告される。
それを聞きながら斜め下へと突っ込んでいく。
体からバキバキという骨が折れる音が響いて、俺は口から血を流す。
吐血はしなかったが、あばらが何本か逝ったか。
でも、そんなのは――関係ないッ!!
奴の動揺が手に取るように分かる。
無茶な飛行であり、本来であればこんな行動何てしない。
だが、その行動が功を奏して奴の動きに隙が生まれた。
俺は機体を操作して勢いよく機体を反転させてから、奴を追いかけた。
一気に距離を縮めながら、前を走っている奴を見つめる。
ターゲットサイトを合わせれば、断続的に機械音が鳴り響く。
青色の円が敵への狙いをつけて、徐々に一つに収まっていった。
敵は俺から逃れようと必死に機体を揺さぶっていた。
しかし、俺は絶対に奴を逃がさない。
骨はくれてやった。今度は俺に捧げてくれよ。
ターゲットサイトが重なり、短い機械音が響く。
それを聞きながら、俺はボタンを強く押した。
軽い音と共に、敵に向けた銃口から勢いよく弾が放たれる。
確実に当たる。これで勝負は決まる――とは、思っていない。
奴のスラスターから悲鳴のような音が鳴る。
そうして、バチバチとスパークして赤黒い光が迸った。
機体全体を包み込み、奴の機体が危険な空気を発していた。
俺の心が全力で警鐘を鳴らしている。アレは危険だと。
その瞬間に奴の機体は凄まじい推力を手にして宙を舞う。
人間の限界を超えた機動であり、奴は俺の弾丸を全て回避してから空に軌跡を描いた。
暗闇の中で奴の通った道が赤黒い線を描いていた。
それを見つめながら、俺は――口角を上げた。
俺は笑う。笑いながら、レバーを一気に前に倒した。
「――いいぜ。付き合ってやるよッ!!」
最期まで、付き合ってやるさ。
俺はペダルを強く踏みつける。
エネルギー残量も気にしない。
満タンだったエネルギーは半分以下であり、こいつとの戦いでこれほどの消費量だ。
こいつを倒してもまだ無人機がいたらどうする?
あの特別製の無人機が襲ってきたらどうする?
不安や迷いはあるかって――知らねぇよ。
どうでもいい。
関係ない。此処で全力を出さなかったら俺の負けだ。
出し惜しみなんてして負けた日には、死んでも死にきれない。
だったら後先考えないで、全部を出し尽くしてやるよ。
最後の最後まで、全ての力を出し尽くすほどに戦ってやる。
腹の探り合いも思考の読み合いも無しだ。
溜まりに溜まった鬱憤と共に、俺の全てを奴に叩き込む。
闘争本能が戦えと叫んでいる。それに従うように笑みを深めた。
すると、俺の機体にも変化が現れた。
赤黒い光が迸る。
危険な光であり、心の奥底から何かが浮上してきた。
アレだ。アレが来ている。
俺の心を飲み込み、主導権を握ろうとするアレが。
嫌な気配で、吞み込まれれば最期だろう。
機体全体に紫電が走って――違う。
この力じゃない。
全てを破壊する力なんていらない。
俺が欲しいのは何処までも飛んでいける翼だ。
ただ自由に本能のままに、彼方まで飛んでいける翼が――俺は欲しいッ!!
俺は力を否定した。
すると、心から湧き上がって来る何かが形を変えた気がした。
全てを飲み込むような破壊衝動。
本来であればそれに俺は身を預けていただろう。
しかし、俺はゴウリキマルさんに誓った。
彼女を守る。彼女のヒーローになると。
俺は敵を殺す為に戦うんじゃない。
仲間を、大切な人を――愛する人を守る為に戦うッ!!
瞬間、毒々しい光を発していたエネルギーが変化した。
赤黒さがそぎ落とされて、白い光に満たされていく。
穢れの無い純粋な光であり、心から温かいと思えた。
気持ちがいい。体の痛みが消えていく。
機体全体を白い光が包み込み、体の負荷や重みが消えていった。
これなら、この力なら――何処までも羽ばたいていけるッ!!
スラスターから勢いよくエネルギーが噴射されて。
俺の視界は勢いのまま流れていった。
凄まじい圧だ。殺人的な加速であり、流れていく景色は線となっている。
しかし、全てが見えていた。
俺の目には流れていく景色が全て見えていた。
星の輝きも落ちて消えていく落下物の光も、風の動きも敵の機影もハッキリと見える。
全ての情報が頭の中に流れ込んできて、俺はその一つ一つをハッキリと認識できていた。
俺は笑みを深めながら、レバーを操る。
赤黒い光を発する敵。そして、白い光を纏う俺。
勢いよく加速した俺の機体は、宙を舞う敵へと迫る。
奴のセンサーが強く光って、俺へと敵意をぶつけて来た。
それを一心に受けながら、俺は奴の機体へと突っ込んでいく。
互いに機体をぶつけながら、得物を向けて火を噴く。
衝突し、エネルギー同士が激しく火花を散らせる。
互いの反発し合うエネルギーが、互いの心を相手に認識させた。
感じる。敵から強い怨念のような感情を。
だが、敵は理解している。それが何も生まない虚無であると。
奴は理解して戦いを挑んでいる。
己の間違いを認識しながらも、譲れないものの為に戦っている
――瞬間、脳内に知らない人間の声が響く。
『愛していた。貴方を心の底から……セブンさん。俺もすぐに貴方の元に』
『ダメだ。お前には、まだやる事が残っているだろ?』
二人の人間の声が聞こえた。
若い男の声と女の声で。
二人の心は通い合っていない。
男には女の声が聞こえていないのだ。
それを理解しながらも、女は必死になって男を止めていた。
俺はすぐに理解した。この女の声は、この声の主は――分かった。
俺は自らのやるべき事を理解した。
自分が進んだ道だ。救えるのなら救う。
俺はもう悲しみを生み出したくはない。
必要以上に苦しみを与えるなんて真っ平ごめんだ。
《――頼む》
「――任された」
限界まで目を見開く。
そうして、男の未来を見た。
時間を進めて更に先を。
あらゆる可能性を見て、進む道を精査する。
救う為の道を照らし合わせれば、鼻から何かが垂れていく感覚がした。
脳が熱く、口の中に入ったそれは鉄錆の味がして。
俺は笑みを浮かべながら、機体を操作した。
激しくぶつかりながら、俺たちは敵へと得物を向ける。
放たれた弾丸は敵の命を奪う為に殺到して、エネルギーの壁に阻まれながらも何発かは被弾した。
互いの弾が装甲に当たり火花が散って、装甲が砕けて飛んでいった。
機体の各部からスパークが発生して、煙が出ている。
だが、まだ俺たちは止まる訳にはいかない。
見ているのだ。互いに、大切に想っている存在が見ている。
男は見栄っ張りだ。好きな女には格好いいところを見せたい。
死ぬまで治らない大馬鹿者で――俺たちはそっくりだった。
俺の心を感じ取って、奴は敵意を増大させる。
似ていない。自分は愚かじゃない。
奴の否定の感情を感じて、俺は鼻血を垂らしながら大きく笑った。
敵のセンサーは光を増して俺を睨みつける。
そんな敵を見つめながら、スタン弾を空中に放つ。
前方に向けて放ったスタン弾、敵は咄嗟に回避する。
俺はシステムを一瞬だけ全て切った。
AIが俺の思考を呼んで即座に行動して、俺はジャミング弾を強引に突破する。
一瞬の暗闇。しかし、すぐに光が戻って来た。
未来視が発動して、敵の行動が見えた。
一瞬だけシステムを停止した俺に接近してくる。
そうして、腕のブレードで仕留めて来るのか。
一瞬でそれを理解して、俺は機体を操作した。
回避行動ではない。敵の攻撃を”受けてやる”のだ。
俺は機体を回転させて迫りくる敵にセンサーを向けた。
もうすぐそこに迫っている敵のブレードへ俺は武器を向けた。
攻撃を放つ為じゃない。武器自体を”空中に投げ出した”。
《――ッ!?》
奴が動揺しながらも、武器事ブレードで斬りつけて来た――それが狙いだよ。
限界まで酷使して、武器には高濃度のエネルギーが纏わりついていた。
内部には限界まで熱が籠っていて。
そんな武器を斬ればどうなるか――答えは、”爆ぜる”んだよ。
斬ったブレードが大きく爆ぜた。
マガジンの弾が四方八方に飛んで。
黒煙が広がっていく。
俺はブーストして機体を動かして奴のブレードから逃れる。
飛んできた弾丸によって、奴の機体は大きく損傷を受けて。
それでも戦う意思の衰えない奴は俺の機体を探すだろう。
俺は全てのシステムを停止して、目を瞑った。
暗闇の中で、俺は存在する未来を静かに見ていた
「3、2、1――此処だ」
目を開いてシステムを再起動させる。
そうして、俺は黒煙の中を移動した。
勢いよく煙の中から飛び出せば、すぐ目の前に敵の背中が見えていた。
がら空きの背中であり、俺はそんな奴の背中に向けて突撃砲を向ける。
奴は悟っている。
自分が死ぬ事を。これで終わる事を。
ゆっくりと振り向く敵を見つめながら、俺は僅かに口角を上げる。
そうして、ボタンを押して弾を放った。
「――勝手に、終わってんじゃねぇよ」
突撃砲の弾が奴のスラスターを精確に穿つ。
そうして、頭部や右腕を弾き飛ばしながら、奴は羽を捥がれた虫のように落ちていく。
背中から激しい黒煙を上げながら、強者がひらひらと落下していった。
成層圏から脱して、奴の機体全体が徐々に速度を速めて地上に向かって落下していく。
俺はそれを見つめてから、機体を動かして奴へと接近する。
身長に奴の近くへと言ってから、手から突撃砲を手放した。
俺は奴の燃えているスラスターに手を置いた。
機体の腕の出力を上げて、奴の使い物にならなくなったスラスターを強引に引き剥がした。
バキバキと音がしてそれを取り除いて、適当に捨てた。
そうして、空いた手で奴の機体を掴みながら下へと落ちていく。
両手で軽量級の機体を抱えながら、俺は丁度いい所でスラスターを逆噴射してその場に留まる。
AIに指示を出して船への案内を頼む。
すぐに計算して船への道を示してくれて、俺は船へと戻っていった。
「……心配か。まぁいいか」
見れば、あの無人機も大人しくついてきていて。
一定の距離を保ちながら俺の機体を追随してきている。
攻撃の意思は無いようであり、奴からは敵意を感じなかった。
それを一瞥してから、俺は音声コマンドによって仲間との通信を繋ごうとした。
掛けた相手はトロイであり、確認を取れば無人機たちは機能を停止して墜落していったらしい。
「……最初から、これが狙いだったのか。セブンさんよ」
《――》
声を発する事の無い無人機。
しかし、彼女が俺に感謝をしたような気がした。
俺はそれを受けながら笑って、腕の中で眠るこいつをどうするかを考えた。
持って帰ったところで大した情報は得られないかもしれない。
まぁ、別にいい。
俺がしたくてしただけだ。
責任は取るつもりであり、反対されたら……その時はその時だ。
敵を救って、船へと持ち帰りながら。
俺はスタッフたちの反応を想像して苦笑する。
きっとこの行動は正しい。
殺すだけが全てじゃない。生かす事で得られるものもある。
俺は頭の中で綺麗な笑みを浮かべるツバキを想像した。
俺を生かしてくれた母。
俺を殺した母。
最期まで責任を持っていた彼女を、俺は心から尊敬している。
だから、俺も責任を持つ。それが――生きると言う事だから。