【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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212:己の覚悟を示す時

 医務室の一角。

 感染症に掛った患者を隔離する為のスペースに、それは眠っていた。

 体中に包帯を巻きつけて、口に酸素マスクを付けた男。

 短く切り揃えた緑色の頭髪に、細みながらも引き締まった体をした青年で。

 彼を大破したメリウスから出した時に、何となくだが顔を覚えていた。

 髪型や顔つきが少し変わっているように見えたが、記憶が正しければ帝都博物館にいたあの青年だ。

 ファーストの付き人の様に従っていた青年で、彼があの青い機体のパイロットだった。

 確証は無かったが、声から予想はしていた……気の毒には思う。

 

 強い殺意を抱くことがあったのだろう。

 それは恐らくは、マイルス社長の一件だと思う。

 彼の指示したミサイル攻撃によって、彼にとっての大切な人間が死んだ。

 不思議な光の衝突で、彼の心の記憶を見る事が出来た。

 その中には赤髪の女性がいて、それがその”セブン”という女性なのだろう。

 

 彼にとっての大切な人を俺たちは奪った。

 彼が恨みを抱くのは当然だ。

 しかし、こうなるまで戦ったのには理由がある。

 彼は、この戦いで自分の気持ちにけじめをつけようとしていた。

 やり場の無い怒りも、激しく煮えたぎる恨みも……彼はこの一戦で終わらせようとしていた。

 

 それは自分自身の死で持ってなのか。

 残念ながらそこまでは分からなかった。

 だが、あの特別製の無人機から託されてしまったのだ。

 殺すなと。生かして欲しいという強い願いを受けた。

 一度引き受けてしまったのなら、やるしかないだろう。

 

 頭をボリボリと掻いてから、俺は大きくため息を零す。

 強化ガラス越しに見える男の顔は安らいでいて……気持ちのいい夢でも見ているんだろうなぁ。

 

「人の気持ちもしらないで……まぁ、いいけどさ」

 

 取り敢えず、意識が戻るまではこの部屋に隔離する。

 武器の類は予め回収して、部屋の中に凶器になりそうなものも置いていない。

 まぁ点滴の針などを抜いて使うかは……いや、そこまで考える必要は無いか。

 

 念の為に手足は拘束させてもらっている。

 患者が暴れても大丈夫なように設計された頑丈なベルトで。

 アレならば、どんな大男であろうとも容易く外す事は出来ないだろう。

 早く意識を取り戻して欲しいとは思うが、暴れられるかもしれないと思えば少し不安だ。

 あの戦いでけじめはつけただろうが……まぁいい。

 

 ケージの数に余裕はなく。

 あの無人機は取りあえず、急ごしらえの固定器で押さえてある。

 彼が乗っていたメリウスの残骸は、整備班が余裕のある時に調べると言っていた。

 もしも何か分かればすぐに知らせると言われて。

 無人機は暴れる事無く沈黙し、青年は意識不明の状態だ。

 一先ずは安全だが、決して油断は出来ない。

 また刺客が来る可能性は十分にある……が、今は体を休めよう。

 

 青年から視線を逸らす。

 そうして、俺は端末を取り出して全員にメッセージを送った。

 それは俺の部屋に集まって欲しいという内容で。

 彼らからの返事も待たずに、俺は足を進めて移動を始めた。

 コツコツという自分の靴の音を聞きながら、俺はポケットに手を突っ込む。

 医務室の扉が自動で横にスライドして、俺は廊下に出た。

 体は痛い。骨が折れており、あばらの辺りがズキズキと痛む。

 治るまでは安静にしておけと言われたが、そうも言ってられない。

 今は鎮痛剤で痛みを誤魔化しながら、やるべき事をする為に行動を起こす。

 幸いにも俺は現世人以上に傷の治りが早い。

 一週間もすればこの傷も完治している事だろう。

 

 俺は笑みを浮かべながら、ぼそりと呟く。

 

「……やるべき事。先ずは一つ目だ」

 

 ゴウリキマルさんのお陰で見えた道。

 その細く頼りの無い道を希望であると俺は認識した。

 普通の人間であれば選ばない道で。

 俺はそんな危険な道を歩む覚悟を決めながら、静かに言葉を発した。

 

ケ・セラ・セラ(なるようになるさ)……ってな」

 

 本で読んだ希望の言葉。

 それを口ずさんで俺は微笑む。

 危険な道でも、この言葉だけで俺にとっては希望に満ちた道に思えた。

 

 §§§

 

「……それで、俺たちは何で集められたんだ?」

「もももももしかして、この中にスパイが!!?」

「……早計だぜ。レノアちゃん……ま、聞こうじゃないか。リーダーの言葉を」

 

 俺の部屋に集まった仲間たち。

 トロイは首を傾げていて、レノアは不安を煽る言葉を吐く。

 オッコはそんなレノアを諫めながらも、俺の言葉を待っていた。

 ショーコさんは椅子に座りながらニコニコと笑っている。

 ゴウリキマルさんも椅子に座って、ジッと俺を見ていた。

 

 仲間たちからの視線。

 それを一心に受けながら、俺は伝えるべき事を伝えようとした。

 

「……先ずは謝りたい。俺は皆を信用しないで、勝手な行動を取っていた。サイトウさんと一緒になってこの船に潜んでいる敵を見つけ出そうとしていた……本当にごめん」

「……いいさ。俺だってそうするさ。やりたくはないけどねぇ」

「じゃ、じゃ……本当に敵が? でも、誰が」

 

 オッコの言葉で俺は頭を上げた。

 レノアが不安そうにしているから、俺は自分の考えを伝える事にした。

 

「……正直、分からない。本当に敵がいるのか。いたとしても、俺はこう思った……”お前たちじゃない”ってな」

「……何でそう思ったの?」

 

 ショーコさんが聞いてくる。

 俺は彼女の目を真っすぐ見つめながら笑う。

 そうして、心を指さしながらハッキリと答えた。

 

「俺の心がそう言っているから。今まで背中を預け合って死線を潜って来た仲間は、絶対に敵じゃないってな」

「……それだけで? たったそれだけで、本当に信じられるの?」

「あぁ! 当然だ! つまりだ。この船に敵はいない! 俺はそう思った!」

「敵がいない……そうなのか!?」

「……はぁぁぁ、そう来るか……いや、予想はしてたけどねぇ」

 

 トロイが瞳を輝かせながらオッコを見つめる。

 オッコは片手で眉間を抑えながら首を左右に振った。

 ため息を零していたが、その顔には笑みが張り付いていた。

 

 俺は堂々と、調査を止めると宣言した。

 敵がいる筈なのに、いないと断言してしまったのだ。

 それを聞いた仲間たちの反応はそれぞれ違っていた。

 

 レノアは怯えていて、ショーコさんは真顔で。

 トロイは一人で頷いていて、オッコは好きにしろと言いたげだ。

 ゴウリキマルさんは俺を優しい目で見つめている。

 お前の選択を信じる、そんな顔だった。

 

「……でも、敵がいないってどう証明するんですか?」

「簡単さ。俺は部屋の扉を開けっ放しで過ごす。生きていたら敵はいないって事だ!」

「ししししし死んでたら!?」

「……はは!」

「ひぃぃ!」

 

 もしもゴースト・ラインの刺客がいたら真っ先に俺を襲うだろう。

 殺されなくても薬を盛られて操られるかもしれない。

 そうなってしまえば一巻の終わりで。

 仲間たちはそこまでする事は無いと俺を止めて来た。

 だが、俺は決めたのだ。

 仲間たちを疑うのはもうやめで、俺は仲間たちを信じると。

 その為には、俺自身の命を懸けて証明する必要がある。

 この船に敵はいないと。もう誰も疑う必要は無いと。

 

 この負の連鎖を断ち切る為に、俺は自らが行動を起こす。

 覚悟を決めた俺の瞳を見て、全員が言葉を詰まらせる。

 俺はそんな彼らを見ながら、念の為にサイトウさんからの情報を共有した。

 存在するかもしれない敵は、神薬以外の薬物を所持しているかもしれないと。

 ガスによって使って来る可能性もあり、俺が敵がいない事を証明するまでは空調を切っておくように指示する。

 そして、扉の隙間も埋めておくようにと。

 

「……兎に角、ガスに注意してくれ。俺からはそれだけだ」

「……本当にいいのか? ハッキリ言って無謀だぜ。それでもお前は」

「――決めたんだ。仲間を信じるって」

 

 俺は歯を見せて笑う。

 親指を立てながら不安げなオッコに宣言する。

 すると、奴は少しだけ目を見開いてから微笑んだ。

 

「……だったら、俺が口を出す事は無いな」

 

 オッコは俺の決心を受け入れてくれた。

 レノアやトロイも不安そうだったが納得してくれた。

 ショーコさんに視線を向ければ、彼女は静かに頷く。

 笑みを浮かべている。しかし、その瞳はひどく――悲し気であった。

 

 彼女が今、何を思っているのかは分からない。

 何と言葉を掛けて良いかも分からないのだ。

 しかし、それでも俺は笑う事が出来る。

 ニカっと笑って、彼女を安心させるように親指を立てた。

 考えるのは止めだ。仲間を疑うのはこりごりだ。

 俺は昔みたいに、馬鹿みたいに笑っていたい。

 仲間との思い出が俺にとっての宝物で、彼らと歩んだ道に後悔なんて無い。

 だから、俺は自分が死ぬその時まで、仲間として命を預ける。

 

 これが、俺の――覚悟だ。

 

 俺は手をパンと叩く。

 話は終わりであり、この事を他の皆にも伝えてくれとお願いした。

 すると、トロイは俺が知らせて来ると言って走って部屋から出ていった。

 レノアはぺこりと頭を下げてから「信じてます!」と言って去っていく。

 オッコは俺に近づいてきて、ポンと軽く肩を叩いた。

 

「……お前は、最高の仲間だよ……俺はお前を誇りに思う」

「……ありがとう」

 

 オッコはそれだけ言って去っていく。

 手をひらひらと掲げて部屋を後にして。

 残されたショーコさんとゴウリキマルさんは互いに視線を向けた。

 彼女たちは互いに見つめ合ってから、ニコリと笑う。

 

「ショーコ、手伝って欲しい事がある。時間はあるか?」

「もち! 何時でもいいよぉ……おじさん! 怖くなったら言ってね! すぐに駆け付けるから! 絶対だよ?」

「はは、分かりました。その時はお願いします」

 

 俺は彼女に笑みを向けながら手を振る。

 ショーコさんとゴウリキマルさんは俺に手を振りながら去っていった。

 残された俺は、ゆっくりと手を下ろした。

 そうして、ベッドの縁に腰を掛ける。

 

 手を顔の前に持っていけば、僅かに手が震えている。

 これは恐怖から来るものだ。

 俺の心は仲間を信じると言ったが、本当のところは恐怖を感じている。

 襲われるかもしれない、殺されるかもしれない。

 二十四時間、気を張り詰めておくことなんて出来ないのだ。

 扉を開けっ放しでいると言う事は、何時でも誰でも入って来れると言う事で……怖いさ。

 

 この行動に意味は無いかもしれない。

 例え生きていたとしても、それは機を見計らっているだけかもしれないのだ。

 俺が証明するその時まで息を潜めて、油断したところを襲うかもしれない。

 そう考えれば、自分の行動が無意味であると理解できる。

 

 でも、それでも、俺は信じたい。

 俺の行動で、仲間たちが救われる事を。

 俺の覚悟で、仲間が”変わってくれる”ことを。

 

「……怖い、けど……俺は信じている。仲間を、皆を」

 

 敵がいない事を証明する為に。

 仲間たちの身の潔白を証明する為に。

 俺は敢えて、自らを餌に撒く。

 ゴースト・ラインにとって俺が何なのかは分からない。

 しかし、排除できるのならとっくにしているだろう。

 そのチャンスを敢えて作り出し、俺は試してやるつもりだった。

 

 死んだらそれまでだ。

 けど、きっとそうはならない。

 俺は死なない。死ぬつもりは無い。

 約束した。彼女を絶対に守ると。

 道半ばで絶える事はしたくない。

 

 だから、俺はこの勝負にも――勝つ。

 

 仲間をこれ以上失わせはしない。

 誰にも傷ついて欲しくない。

 俺は俺の行動で、負の連鎖を断ち切って見せる。

 

 手を見れば震えは収まっていた。

 俺はギュッと拳を握る。

 硬く、硬く、拳を握って俺は心に”火”を灯した。

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