【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
取るに足らない雑兵――が、少し違った。
吹き荒れる暴風のように、目の前の男が乗るメリウスが俺を襲う。
未来視を使って相手の攻撃の予測する事は可能だ。
しかし、今までとは違いそれが完全には機能していない。
予測不能。常人であれば予想すら出来ないような突飛な動きで此方をかく乱してくる。
巨大な拳が音を置き去りにして振るわれるのだ。
その剛腕であれば、どんなものでも容易く破壊する事が出来るだろう。
今までの戦闘データには無い動きで、中々に楽しませてくれる。
限界などは疾うに超えているだろう。
残像が発生するほどの動きで飛び回り。
音速を超えた必殺の一撃を何度も放ってくるのだ。
当たれば即死であり、敵にしておくのは惜しい人材だとは思った。
生かして捕えたいが、今はそれほどの余裕はない。
親からの命令で、俺は動いている。
なればこそ、命令を完遂する事だけを考えよう。
惜しくはあるが、こいつの命は重要じゃない。
今最も需要なのは鍵を回収する事であり、奴らの位置情報は既に手に入った。
奴からの攻撃を捌きながら、俺は秘匿回線を繋いでゼロ・ツーに指示を出す。
脳波による通信により、ゼロ・ツーは此方の意図を完璧に理解した。
今此処にはゴースト・ラインという組織の中で最も力のある男がいる。
我々の任務は此処へやって来て、奴を撃破する事だ。
精確に言うのであれば、奴の機体からコアを抜き出して回収する事である。
今後の作戦において、あの機体は色々と邪魔になる。
だが、コアを回収し解析する事が出来れば、逆に此方の作戦の手助けになるだろう。
”ロストテクノロジー”という”存在しない企業”が生み出したメリウス。
第三世代型の機体でありながら、その性能の高さはこの目で確認できた。
親であるアイツも、ロストテクノロジーの技術を求めていた。
それは恐らく、マザーに最も近い可能性があるからだ。
神薬も奴の機体も、元はロストテクノロジーの技術である可能性が高い。
俺自身も欲しい。マザーに近づければ、奴を掌握できる力を手に出来れば……俺は”人間”になれる。
「寄越せ。欲する物は全て、この力で――奪い取る」
《ははは! 物騒だなッ!! だが、益々気に入ったッ!!》
奴が更にギアを上げて来た。
限界は既に超えた筈だ。
それでも尚、奴の機体性能は上がっていく。
まるで、限界など無いように奴の底なしの力が様々な可能性を俺に見せて来る。
未来視が、定まらない。
確定した未来が現れずに、幾つもの分岐した未来が見えていた。
奴は掌からのエネルギー砲で此方のセンサーとレーダーをかく乱してくる。
既に目に見えるものでは奴の動きは捉えきれない。
未来視による可能性、それらを取捨選択して己の勘で機体を操作する。
ブレード振るいながら、俺は機体を回転させた。
下へと降下していきながら、四方八方から襲い来る敵の攻撃を捌き続ける。
右からの攻撃を刃で受け流し、反撃に出る――が、手応えが無い。
続いて、背後からのエネルギー砲を予測してブーストして回避――装甲が軽く焼けた。
未来視により左右からの攻撃が来る。しかし、俺はそれらを無視して正面に斬りかかる。
瞬間、奴のフェイントが破られて奴の肩にブレードが当たった。
確かな手応え。が、致命傷には至らない。
寸での所で機体を操作して衝撃を流された。
奴の姿がブーストによって消える。
耳障りなほどの甲高い音。
奴のスラスターから発せられるそれとブーストによる負荷で。
奴の機体は今にも壊れてしまいそうなほどだった。
発せられる熱が空間を歪ませて、奴の機体を視認し辛くさせる。
残像を置き去りにして、奴は縦横無尽に宙を駆けていた。
速い、誰よりも速い。賞賛に値するほどに――奴は強い。
だが、機体は既に限界を超えている。
それほどの速さで動き回れば、自ずと負荷は強まっていく。
一瞬見えた奴の機体が、肩からに掛けてひび割れていた。
分厚い装甲には亀裂が走って、俺が与えたダメージがじわじわと奴の機体を侵食する。
――が、それでも奴は止まらない。
奴の機体から発せられる殺気。いや、これは闘気か。
それが時間が経過するにつれて増していく。
洪水によって決壊したダムのように、奴の闘気が強くなっていった。
凄まじい物だ。敬意すら抱くほどには、奴は”上等”だ。
得難い経験であり、これほどのデータは中々取れないだろう。
我が糧になってくれる上等な餌に感謝しながら、俺はくすりと笑う。
そうして、機体を操作しながら地面までの距離を測る。
互いにスピードを上げた事によって、天上から地上に降りるまでにそれほどの時間はかからない。
迫りくる地面を未来視で見ながら、俺はゆっくりと息を吸う。
そうして、心の波を鎮めながら――レバーとペダルを操作した。
スレスレに迫った地面。
それを見る事無く、回避した。
水平に地上を飛んで見せれば、砂埃が宙を舞う。
奴も拳を地面に叩きつけて強引に軌道を変えて俺を追跡してくる。
地鳴りのように地面が揺れて、奴の赤い単眼センサーが強く発光した。
まるで、巨人だ。
巨人のように純粋な力を持っている。
究極の暴力マシーンであり、誰よりも自由な男に見えた。
乗っている奴自身は”人間ではない”。
だが、俺が欲するものを奴は持っている気がした。
「皮肉だな。人間から程遠い貴様が、一番人間らしい」
《嬉しい事を、言ってくれる、じゃないかッ!!》
歯でも剥き出しにして笑っているのか。
奴の笑みが手に取るように分かる。
それを予想しながら、俺は朽ちた壁の隙間を潜り抜けた。
そうして、荒廃した街の内部へと侵入する。
奴は舌を鳴らしてから、変則的な機動による攻撃を断念した。
こうも障害物が多ければ、得意の機動力も発揮できない。
俺は障害物を避けながら、スラスターを逆噴射する。
そうして、間近に迫った奴の機体に向けてブレードを振りかざした。
奴は動揺する事も無く、ブレードに己の武器を合わせて来た。
接触した瞬間、凄まじい衝撃が俺を襲う。
確かな手応え、握った操縦レバーが激しく振動するほどの衝撃だ。
――が、それは既に慣れた。
ペダルを操作して、今度は俺が奴に連続して斬撃を放つ。
脳波コントローにより理想通りの動きを機体がフィードバックして。
四方八方から奴に向けて斬撃が飛んでいった。
奴の機体を細切れにする為、機体のパフォーマンスを最大限に発揮する。
奴は両腕を交差させてガードをしていた。
エネルギー残量が尽きたのか。
攻撃をする事も出来ずに一方的に斬られていく。
此方の攻撃にも絶えれた頑丈な腕だが。
渾身の力でブレードを振るえば、奴の腕にも確かな傷跡が刻まれていく。
甲高い鉄を削る音が何度も何度も響いて、奴の機体がボロ雑巾のようになっていった。
その様を眺めながら、俺はもう終わりなのかと落胆した。
容易い、脆い、儚い――空しいな。
熱が急速に冷めていく。
火照った体が冷えていって、嫌に目の前の光景を冷静に分析していた。
得意の機動力を削がれて、エネルギー残量が尽きて。
奴は万策尽きて成すがままに斬られていた。
雑兵とは思わない。が、期待以上の動きは見せなかった。
あの娘が予測した通りの未来だ。
勝つのは俺であり、その事実は変わらなかった。
俺はエネルギーをブレードに流し込む。
最後の一太刀で終わらせる。
これでお前を楽にしてやれる。
そう思いながら、赤黒く発光する光の剣を振るい――奴の姿が消えた。
否、消えてなどいない。目の前にいる。
「――」
一瞬にして奴の機体が砲弾と化した。
ガードしていただけじゃない。
ただ万策尽きてやられていた訳では無かった。
奴はエネルギー残量が消えたように見せかけて。
残りのエネルギーを貯めていた。
すぐにでも攻撃に転用できるエネルギーを態々貯めていたのだ。
それは何故か――
奴の凄まじい加速によって、俺の機体は後ろに吹き飛ばされる。
障害物を巻き込んで、機体が特大級の質量に押しつぶされていた。
一瞬の動きそれにより連続して響く破壊音と体に感じる強い衝撃。
システムが淡々と被害状況を知らせて、コックピッド内に火花が散った。
映像が激しく乱れて、俺は軽く息を吐いた。
被害状況はそれなりに悪いだろう。
今も尚、機体のダメージは増加して言っている。
抜け出そうにも、これほどの加速力だ。
容易には抜け出せず。奴は自分事、俺の機体を障害物に当てていった。
腕部の関節がスパークを起こしながら、奴の機体を掴む。
しかし、吹き荒れる暴風により腕が思うように動かない。
足のギミックも使えず。此方は成すがままだった。
奴は腕の仕掛けを起動させて更に加速して見せた。
障害物を全て破壊して、古城を吹き飛ばしても更に進んでいく。
やがて、上へと軌道を変えて機体が上昇していった。
体には強烈なGが加わり、今にも体がミンチになりそうなほどで。
人間であれば吐き気を覚えながらもだえ苦しみ死んでいく感覚を抱くだろう
俺はその強烈な負荷を受けながら――静かに笑った。
「楽しい時間はあっという間だ」
《……そうだな。実に、楽しかった。君は今まで戦って来た誰よりも――強かった》
「あぁ、そうだろう。そして、それを覆す人間は現れる事は”未来永劫”無い」
《随分な自信家だ。それは何故》
俺は笑みを深めた。
そうして、奴に対して”宣告”した。
「――さようならだ。灰の巨人よ」
俺の呟きと共に、機体に搭載されたシステムが起動する。
”ミラージュ・システム”が起動して、俺の機体は煙のように四散した。
そうして、先ほど通った場所へと機体が一瞬にして移動する。
奴はそれに気が付いたが、もうどうする事も出来ない。
機体を停止させようとした――が、それは悪手だ。
「――やれ」
《了解》
遥か離れた場所から、強い光が発せられた。
暗闇に包まれた空が一瞬にして昼間のような明るさになり。
その光は一つに集約されて――巨大な線となって放たれた。
俺の命令を受けて、遠方より凄まじい熱量を伴ったレーザーが放たれる。
赤黒いエネルギーがレーザーとなり、射線に入ったものを全て蒸発させた。
灰の巨人は、すぐにその攻撃を察知した。
だが、間に合わない。
奴はレーザーを真面に喰らう。
激しい熱を伴ったエネルギーの塊をぶつけられて。
奴の機体の装甲が溶断されていく。
手足がもがれて、奴の機体はズクズクに溶けていく。
しかし、奴は全壊する寸での所で、レーザーの射線から脱した。
残された力を振り絞って、死の未来に抗った。
奴のスラスターが最期の輝きを見せて、静かに火を消していった。
その未来は見えていなかった。
奴は一瞬ではあるが、俺の未来視を上回ったのだ。
誇ってもいい、胸を張ると良い――お前は、強者だ。
赤い単眼センサーが此方に向く。
バチバチと奴の機体がスパークして、両腕は捥がれて片足は半ばから溶けていた。
それでも尚、奴の纏う闘気は衰えない。
あの状態でまだ戦う意思が残っている――素敵だ。
紛う事なき強者は、羽を捥がれた鳥のように落ちていく。
それを見つめがら、俺はゆっくりとブレードを構えた。
終幕の時だ。素敵な時間をありがとう……静かに、眠れ。
スラスターからエネルギーを噴かせる。
そうして、落ちていく奴のコックピッドへとブレードを突き立てて――ほぉ。
ブレードを突く瞬間。妙な違和感を抱いた。
だからこそ、ミラージュを起動して突く瞬間に距離を取った。
その判断は正しく。奴の機体が大きく変形した。
一瞬にして奴の機体が圧縮されて、周りを飲み込む裂け目を生み出した。
暗く深い底なしの穴。宇宙に存在するブラックフォールのように、全てを飲み込んでいく。
その穴から離れながら、俺はある場所に目を向けた。
そこにはパイロットスーツを着た人間が浮かんでいて。
奴は片手を頭に置きながら、ひらひらと此方に手を振っていた。
満面の笑みであるが、肌の一部が溶けて”金属”が露出していた。
灰の巨人、そのパイロットは――生きる事を選んだ。
「……愉快な、男だ」
最初から死ぬつもりなど無かった。
戦う事に集中はしていても、死ぬ覚悟など初めから無かったのだ。
奴は一瞬にして機体を自壊させて、自分自身は安全圏に避難する。
殺そうと思えば殺せるが……逃走手段も用意済みか。
遥か彼方より高速で接近する何か。
それは一瞬にして空中に浮かぶファーストの傍を通る。
そうして、展開されたアームで奴の体を受け止めた。
戦闘機のような形状をしたメリウス。
恐らくは可変式であり、アレは移動用のフォルムだろう。
一瞬にしてファーストを回収し。
それは此方など一切見る事無く戦域を離脱していった。
迅速な判断であり、奴は最善の行動を取った。
凄まじい速さであり、今の我々では追いつくことは出来ないだろう。
俺は穴から離れた場所で機体を地面につけた。
ブレードを地面に差してから、機体の戦闘モードを解除した。
その瞬間に、排熱口から熱が一気に噴出した。
コックピッドは熱せられた鉄鍋のような熱さで。
溜まりに溜まった熱がゆっくりと除去されていく。
俺はゆっくりと熱いレバーから手を離す。
そうして、グローブ越しの己の手を見つめた。
「……機会を逃したか……まぁ、いい……余興は終わりだ。次の仕事だ」
《……了解。はぁ……》
ゼロ・ツーの零したため息は無視する。
そうして、楽しい余興を頭から除外する。
遂に、此方の作戦が大きく前進するのだ。
コアの回収は出来なかったが、それはどうでもいい。
鍵だ。鍵を手にすれば――全てが揃う。
オーバードは全ての望みを叶える。
不可能を可能にする神の力がもうすぐ手に入る。
その時こそが、我が使命が果たされる時で――全てを終わらせる時であろう。