【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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220:禁秘を明かす鍵

 甲板に出て、船が進む先を見つめる。

 長いようで短い航海が終わって、ようやく機械たちの墓場へと戻る事が出来た。

 甲板には他にバネッサ先生も出ていて、耳にイヤーバッドをつけてブリッジにいる人間と連絡を取り合っていた。

 その手には端末が握られていて、あの不思議なマークが浮かび上がっている。

 恐らくは、これから機械たちの墓場をこの世界に浮上させるのだろう……はぁ。

 

 結局、狐の面の男について教えてくれなかった。

 サイトウさんもサイトウさんであり、食事を持っていって渡そうとすれば自分を出すように言ってきた。

 何故、もう出る事を決めたのかと聞いたが、何も言わなかったしな。

 

 神薬で命令されたのかと一瞬だけ思ったが、ショーコさんが行き成り俺を襲うように命令するとは思えない。

 少しだけ不安だったが、言われた通りに出した。

 出て来たサイトウさんの状態は……その、色々と酷かった。

 

 トイレなどはついていたから問題ない。

 だが、三日間シャワーに入っていなかったからな……まぁ彼女は何とも思っていなかったからいいけど。

 

 食料を渡せば素直に受け取ってくれた。

 しかし、端末を返しながら中のファイルについて聞いても教えてくれなかった。

 そんなに勿体ぶるのには理由があるのか?

 

 よく分からなかったが、俺はそのままショーコさんの元に向かった。

 彼女の部屋を訪ねて質問すれば、彼女は「教えない」とだけ言った。

 いや、そうだとは思ったけどさ……もっとこう、ねぇ?

 

 謎ばかり増えて、俺は何一つ解消できていない。

 モヤモヤとした気持ちを抱えながら、結局ここまで戻ってきてしまった。

 本当はもっと爽快な気持ちで戻ってきたかったが、文句を言っても仕方ないだろう。

 

 チラリと横を見れば、ゴウリキマルさんが立っている。

 俺の服の袖を掴みながら、ジッと前を見つめていた。

 気になるからと出てきたのは良いが……流石に敵はいないよな?

 

 周囲を警戒して見る。

 しかし、太陽の下で輝く海しか存在しない。

 てらてらと海面が光っていて、波の音が静かに聞こえるだけだ。

 敵影は視認出来ないし、嫌な感じもしない。

 もしも攻撃を仕掛けるのであれば、此処が絶好のタイミングだ。

 一度機械たちの墓場に入り虚数空間に行けば、告死天使も容易には手出し出来ない筈だ。

 

「……予感はするけどな」

「あ? 何か言ったか?」

「あ、いえ……その、気のせいだと思うので、はい」

「……また何か悩んでんのかぁ? たく、しょうがねぇな……ほら」

 

 ゴウリキマルさんはそう言って手を差し出してきた。

 ぷいっとそっぽを向きながら、俺に左手を差し出してくる。

 顔は見えないものの、髪から覗く耳が少しだけ赤い気がした。

 俺はくすりと笑いながら、ゆっくりと彼女の手を握った。

 

 柔らかい手であり、掌を通して彼女の熱を感じる。

 温かくて、心がホッとして……やっぱり、好きなんだな。

 

 彼女の手を握っただけで、嫌な感覚が消えていく。

 まるで、この行為だけで俺の心が安らぐようで。

 自分自身の事ながら、本当に単純だとは思った。

 

 そんな俺の手を彼女はそっと握り返してきた。

 互いの熱を交換しながら、俺たちは前を見つめる。

 すると、光が現れて島の輪郭を作っていく。

 

 大きな虚像が実体化して、目の前に自然が広がる島が現れた。

 それを見ながら、俺はゴウリキマルさんに声を掛ける。

 

「これが、機械たちの墓場です」

「……すげぇな。こんな技術があるのかよ」

 

 感心したようにゴウリキマルさんは呟く。

 俺はそんな彼女の手を優しく引いて、島へと案内しようとした。

 チラリとバネッサ先生を見れば、彼女はブリッジにいる人間と話をしながらひらひらと俺に手を振る。

 先に行け、そう言っているようであり俺は小さく彼女に会釈をした。

 

「……行きましょうか」

「……あぁ、頼む」

 

 彼女と手を繋ぎながら歩いていく。

 機械たちの墓場から暫く離れていたが、何か変わった事はあっただろうか。

 何事も無ければそれでいい。

 俺は不安をかき消しながら、彼女と共に小舟を目指して歩いて行った。

 

 

 

 島へと上陸を果たして進んでいく。

 バネッサ先生たちも船を接岸させて直に降りて来るだろう。

 その前に、彼女に集落を案内しようと思ったが……アレは、変だよな。

 

 ボートに乗って来る前に、俺はふと違和感を抱いてボートの数を確認した。

 すると、何故かボートが一隻だけ消えていて。

 何処に行ったのかと思ったが……勝手に消える筈なんて無いよな。

 

 不思議だった。不思議ではあったが、ボートが消えただけだ。

 小さな違和感であり、それが無かったとしてもどうという事は無い。

 仲間たちの中で消えている人間はおらず。

 昨日の時点では、全員いた筈だった。

 ショーコさんも部屋にいて、今日の事を確認する為に行けば彼女は疲れたから寝ると言っていた。

 インターホン越しであり、姿は見ていないが声はちゃんと聞こえた。

 まだ寝ているのかは分からないが、恐らくは部屋にいるのだろう。

 

 仲間は消えておらず、事件も起きていない。

 だったら、小舟が消えた理由は何か。

 不安があると言えばあるが、そこまで気にする事じゃない。

 だからこそ、ゴウリキマルさんにも伝えていない。

 

 彼女だって不安な筈だ。

 幾ら、敵の侵入する隙が無い虚数空間であっても危険はあるかもしれない。

 知りもしない土地で生活を強制されるようなものだ。

 隠しているだけで、絶対に不安は感じているだろう。

 

 俺はそんな彼女の不安を煽らないようにしていた。

 極力、解決できる事は自分の力で解決して。

 万が一の事が起きる事が無いように、大きな変化だけは伝える。

 それ以外は気にしないようにして、今までの航海を生き抜いた。

 アレから事件は起きず。誰一人として欠ける事も無かった。

 

 ざくざくと土を踏みしめて歩いていく。

 木々の隙間から陽光が差して、鳥たちが羽ばたいていく。

 ふと前方を見れば、蓑を被ったロボットが歩いていた。

 彼は灯りを手に持ちながら、俺たちの脇を通っていく。

 ゴウリキマルさんは目を丸くしながら、小声で「アレは誰だ?」と聞いてくる。

 

 俺はくすりと笑って答えた。

 

「アレは此処の住人ですよ……まぁロボットですけどね」

「え? アレ、ロボットなのか? 機械たちの墓場って……そういう意味なのか?」

 

 どういう意味なのかは分からない。

 だけど、ゴウリキマルさんが考えている事は何となく分かる。

 俺はそういう認識でも間違いない事を伝えながら、ゆっくりと足を前に進めた。

 

 彼女と並びながら歩いて行って、ようやくあの門の前についた。

 アンバランスな門であり、妙な圧を感じるそれ。

 ゴウリキマルさんは眉を顰めながら「これは?」と聞いてくる。

 

 俺は簡潔に、この島の防衛装置だと伝えた。

 そうして、彼女の手をしっかり握りながら離れないようにお願いする。

 彼女はしっかりと頷いてから、ゆっくりと進んでいった。

 

 門に触れる時に波紋が広がって。

 彼女は驚いて目を閉じてしまった。

 そんな彼女の手を優しく引きながら中へと誘導する。

 

 波紋の中へと身を投じれば、記憶にある集落が俺たちを出迎える。

 オレンジ色の光が灯った鉄の花が咲いていて、金属で作られた建物群。

 蓑を被った子供や大人が働いていて、彼らは一言も喋る事無く手を動かしていた。

 ゴウリキマルさんはゆっくりと目を開けて、驚いて言葉を失っていた。

 人間のように働いている彼らを見ながら、彼女は目を丸くして驚いていた。

 

「……これ全部、機械、なのか?」

「……はい。全員、機械です……嫌ですか?」

 

 俺は少しだけ不安になった。

 彼女がもしも嫌悪感を抱いていたら、俺は悲しくなってしまう。

 そんなのは嫌であるが、聞かずにはいられなかった。

 彼女は何を言っているんだという目で俺を見てきて――にしりと笑う。

 

「嫌な訳ないだろ。寧ろ、技術屋としてはこんなに多くの機械体を見れて嬉しいよ……触ったら怒るかな?」

「……そうですか……ふふ、どうでしょうかね。怒らないとは思いますけど、聞いて見ましょうか?」

「……うーん。まぁ別に、後でもいいけどさ……でも、気になるなぁ」

 

 ゴウリキマルさんはチラチラと動いている機械たちを見ていた。

 そわそわと落ち着きがない様子であり、彼女の心はうずうずしているのだろう。

 俺は彼女が拒絶反応を起こしていないと知って安堵した。

 そうして、その内調べさせてくれるだろうと言いながら、バネッサ先生の家に向かう。

 

 ざくざくと土を踏みしめて、村の中を歩いていく。

 機械たちはそんな俺たちを見つめている。

 いや、俺たちではない。彼らは”俺を”見ていた。

 

 感情の無いロボットだ。

 そのセンサーの輝きだけでは気持ちは分からない。

 怒っているのか喜んでいるのか。

 それとも、悲しんでいるのか……俺は彼らを見て懐かしさを覚えた。

 

 この村も、住んでいる彼らにも懐かしさを覚えた。

 恐らく、俺と彼らには深い関りがある。

 俺の考えが正しければ、彼らは”現実世界のバトロイド”だろう。

 何故、現実世界の存在がこの世界にいるのかは分からない。

 だけど、彼らを見て懐かしさを覚えるのであればそれ以外に考えられない。

 

 先ほどはどんな感情なのか分からないと思った。

 しかし、実際には何となくは分かる。

 

 俺の所為で、彼らは人々を虐殺した。

 命令されるがままに、多くの命を屠ったのだ。

 指令を渡した俺を彼らがよく思っている筈は無い。

 十中八九が恨んでいる筈で……いや、考え過ぎか。

 

 自律思考を持たないロボットだ。

 命令を絶対として動くロボットに感情は無い。

 頭では分かっている。しかし、俺の心はそれを否定する。

 

 どんな存在であろうとも、心は確かにある。

 目に見えないだけで、彼らも感情を持っているのだと。

 希薄なそれが表に出ないだけで、彼らは怒ったり悲しんだりする。

 その証拠に、彼らは命令にない行動をしている。

 

 まるで、自分たちが奪った命に報いる為に。

 彼らが出来なくなった仕事を請け負うように……俺も同じだ。

 

 人間の真似をして、人間のように振舞う。

 人間にはなれないと知りながら、本物の人間に憧れた。

 彼らも夢を見ているのかもしれない。

 頑張って働いて、人間のように生活すれば人間になれると。

 

 

 健気で儚く――脆い存在だ。

 

 

 憧れを止める事は出来ない。

 不可能であったとしても、機械でさえ夢を抱く。

 俺はそんな彼らを見ながら、小さく笑う。

 

「……マサムネ?」

「え、はい。何ですか?」

「……お前……いや、何でも無い」

「ん?」

 

 彼女が俺に声を掛けて来た。

 視線を向けて反応すれば、彼女は気まずそうに視線を逸らした。

 まるで、今は聞くべき時じゃないと言うような表情で……彼女は、何かに気づいているのか。

 

 首を傾げて不思議そうにしながら。

 俺は自分の秘密を打ち明けるタイミングを伺っていた。

 何時かは話さなければいけない。

 彼女はずっと待つと言ったが、その言葉に甘えていてはいけない。

 

 

 話そう。この場所で――絶対に。

 

 

 俺は決心した。

 彼女に秘密を打ち明けると。

 これ以上、隠しておくことは出来ない。

 俺と真摯に向き合ってくれる彼女の心に報いる為にも。

 

 俺はギュッと彼女の手を握る。

 すると、彼女も優しく手を握り返してくれた。

 互いの熱を感じながら、俺たちは冷たい集落の中を歩いて行った。

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