【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
集落の内部へと入り、虚数空間へと島を戻した。
流れゆく星を見た仲間たちは、皆一様に感嘆の息を零していた。
幻想的、摩訶不思議、この世の物とは思えない……予想通りの反応だ。
彼らの反応を見て、拒否反応は起こしていない事を確かめた。
これから暫くは此処にいる必要がある。
少なくとも、鍵を手に入れてオーバードを破壊するまではいなくてはならない。
取りあえず、外敵からの攻撃を遮断する事が出来た。
一先ずは安心であり、次にやるべき事は”鍵”を見つける事だった。
敵たちが狙っているオーバードを手に入れる為に必要な鍵。
祠や神殿にて使う事が出来るであろう鍵を探さなければならない。
俺はゴウリキマルさんにお願いして、持っている物を全て見せてもらった。
今は、皆でバネッサ先生の住んでいた家に集まり。
机に広げられたそれらを見ていた……でも、現在でも収穫は無い。
島についてから、既に三日ほどは経っているだろう。
一日目はバネッサ先生から集落についての説明を受けた。
この島には動物もいて、ロボットたちが家畜の世話をしている。
牛乳や肉については心配いらず、川へ行けば魚も獲れるらしい。
市場のように魚を売っているロボットもいて、彼らに落ちているネジやナットを渡せば魚をくれると言っていた。
野菜についてもロボットたちは収穫して備蓄をしている。
食料についての問題は無く、何もしなくれも食べてはいけるようだった。
二日目になって鍵を探し始めた。
最初は、彼女が持っている何かが鍵ではないかと考えた。
彼女の部屋に行って、片っ端から調べてみた。
が、鍵らしきものは無かった。
見せてくれないものもあったが……まぁ、それは彼女の名誉に関わるものだから、うん。
三日目は彼女が普段、持ち歩いている物を調べようとした。
しかし、何も収穫は無い。
仲間たちと意見を言いながら、色々な角度で見てみたが鍵らしきものは無い。
半ば諦めているトロイやレノアは集落の見回りに出かけて、オッコは船の様子を見に行った。
此処にいるのはゴウリキマルさんとショーコさんとサイトウさんだけだ。
バネッサ先生は船に待機しているスタッフの様子を見に行った。
残された俺たちは互いに沈黙しながら、机に並べられた彼女の私物を見ていた。
「……ショーコさんはどう思いますか?」
「……」
「……そ、そろそろ。何か喋ってくれても……」
「……」
ショーコさんはこの島についてからこれである。
ずっと何も喋らないで本を読んでいた。
ぺらぺらとページを捲る動作を一定のペースで繰り返している。
そうして、一時間か二時間か経てば本を閉じてふらりと出かけに行くのだ。
俺もついて行こうかとすれば、サイトウさんに引き留められた。
放っておけと言われて、俺は何も出来ずに今に至る。
ゴウリキマルさんも薄々何かを感じている様子で……いや、怪しんでいるのか?
彼女はジッとショーコさんを見ている。
まるで、別の何かを見ているようで。
スッとゴウリキマルさんが立ち上がる。
何をするのかと見ていれば、彼女は徐に手を伸ばした。
すると、彼女に触れた手が――沈んでいく。
「え?」
「……やっぱりな。これは作業用のロボットだ……おい、ショーコは何処だ」
「ん?」
「……惚けるなよ。お前は知ってるんだろ。さっさと言えよ」
ゴウリキマルさんはサイトウさんを睨みつける。
すると、サイトウさんは呆けたような顔をしたかと思えば――くすりと笑う。
「教える必要は無い。奴は自ら選んで進んだ」
「……何を言ってるんだ」
「そのままの意味。奴が望んでした事。私も何もしていない」
「……どう思う、マサムネ」
ゴウリキマルさんが視線を向ける事無く聞いて来た。
俺は静かに頷いて彼女を観察した。
「……嘘は言っていないと思います……ショーコさんは何か考えがあって行動したんじゃないかと思います」
「はぁ? それは何だよ。アイツが何をしに……ちょっと待て。お前、何か隠してるな」
「……すみません」
「…………いいよ。何となくは分かるから……ショーコの奴、何で勝手に……」
ゴウリキマルさんは頭をがしがしと掻いてから席に戻った。
イラついていはいるが、今しなければならない事を分かっている。
俺もそうだ。ショーコさんの事は気になる。
でも、彼女が勝手に行動を起こしたのなら、何か考えがあっての事だろう。
敵だと言っていても、彼女は俺を信じてくれた。
絶対に彼女の秘密を話したりしないという約束を守ると信じてくれていた筈だ。
だからこそ、俺たちから離れて行動する危険も冒せた。
今、ショーコさんは何かをしようとしている。
それはきっと俺たちにとって良い事な気がする。
確証はない。断言だって出来ない。
――でも、仲間を信じているから。
俺は机の方に歩み寄る。
そうして、ライトの下に置かれたそれらを手に取った。
彼女が持っているものは愛用のスパナなどが入った工具入れのポーチ。
そして、今は此処には無いが大蔵研究所に関するアルバム。
後は、何て事は無い財布やハンカチなどで……あ、そう言えば……。
「あの、意識を失う前……アルバムを渡してきた時に、手紙がありませんでしたか?」
「……あぁ……悪い。アレは……忘れた。島に置いてきちまったんだ」
「……そう、ですか……うん。まぁ、大丈夫でしょう」
手紙が鍵である可能性は低い。
何故ならば、明らかにアレは紙であり、鍵としての機能は無さそうだった。
アレがもしも鍵であったのなら大変だが……まぁ違うだろう。
気になるのは、手紙について聞いた時に明らかにゴウリキマルさんが目を逸らした事だ。
アレは聞いて欲しくなかったと思っている人間の目の動きだった。
彼女は何かを隠している。隠した上で、手紙が此処に無いと言った。
その真意までは分からないが、彼女は手紙に関して俺に聞いて欲しくないのだろう。
……多分。アルバムを見て意識を失ったから、手紙を見てまたそうなると思っているのかな。
心配を掛けてばかりであり、申し訳なくは思う。
しかし、それを此処で謝罪しようとは思わなかった。
何度も何度もくよくよして謝っていたら、ゴウリキマルさんだってイラつくだろう。
小さい事を気にしてはいけない。俺は彼女からそれを学んだ。
だからこそ、謝罪はせずに。手紙についての考察もそこで終わらせた。
俺は再び、視線を机に戻した。
気になる物が無いかと見ていたが……何故だろうか……ポーチが気になった。
「……すみません。中を見てもいいですか?」
「ん? あぁ、いいぜ。まぁ特に変わったもんはねぇけどさ」
俺は断りを入れてから、ポーチを手に取って再び中身を調べた。
ごそごそと中身を探れば、色々な物が入っていた。
ドライバーや金づちに、変わった形の機械や絶縁テープなど。
他には無いかと漁っていれば、彼女が何時も手に持っていたスパナが現れた。
それを手に握って顔の前に持っていく。
ライトに翳しながら動かして観察する。
年季が入ったスパナであり、かなり前から使っているのだろうとは思う。
それこそ、何代も前から使っているようで……でも、綺麗だな。
所々、傷や汚れはある。
でも、かなり頑丈な素材で作られたのか壊れるとは微塵も思えない。
ジッと見ていれば、銀色のそれは僅かに”発光”しているように見えた。
「……光っているのか?」
「え、光ってるって? 何言ってんだ? 普通のスパナだろ?」
「え、でも……あれ、消えてる……おかしいな」
スパナが光っていたように見えた。
しかし、ゴウリキマルさんに視線を向けて戻して見れば、光は消えていた。
幻覚だったのか。確かに光っているように見えたけど……違う、かな。
スパナをゆっくりとポーチに戻した。
そうして、静かに息を吐いた。
「……さっきのスパナが気になったのか?」
「え、あぁ、まぁ……アレは何処で買ったんですか?」
俺が無難な質問をすれば、彼女は乾いた笑みで「分からねぇ」と言う。
「アレはじいちゃんから貰ったんだ。何でも、先祖代々、大事に大事に使っていたものだそうだ……それこそ、大蔵研究所にいたっていうご先祖様も使っていたかもしれねぇな……ま、それはあり得ないだろうけどさ」
「まぁ、そうですよね……そんなに長持ちする道具は……」
あのスパナからは何かを感じた。
不思議な感覚であり、少しだけ気にはなった。
ゴウリキマルさんは冗談で遥か昔の御先祖も使っていたと言ったが……もしかしたら、もしかするかもしれない。
もう一度調べようとも考えた。
しかし、あんなに触って色々な角度から見ても鍵と呼べる特徴は無かった。
光っているように見えたが、二人は全く見えていなかったようで。
恐らくは俺の気のせいであり、これ以上調べても意味は無さそうだった。
また、行き詰ってしまった。
どうしたものかと頭を捻って……サイトウさんが声を出す。
「……先祖代々か……他にも、譲り受けたものは無いのか」
「あぁ? 藪から棒に何を……あぁ、あるな……ごめん。肌身離さず持ってたから忘れてた……と、これだ」
ゴウリキマルさんは何かを机に置く。
それは、小さな袋に入れらた何かだった。
年季の入った袋であり、紐が通されている事からお守りか何かだと考えた。
彼女にこれは何かと聞けば「お守りだ」と答えてくれた。
「……親父から貰った物だ。先祖代々って言ってたから、これも候補に入るかもしれねぇ……マサムネ?」
「――」
俺はジッとお守りを見つめる。
何故だかは分からない。ただ、これを見ていると不思議な力を感じた。
まるで、光に吸い寄せられる羽虫のように、俺の目は釘づけて。
俺はゴウリキマルさんからの言葉も待たずに、紐を解いて中身を掌に出した。
ころりと転がったそれは、丸い形をした玉だった。
綺麗とは到底呼べない、真っ黒な塊で。
まるで、底なしの闇の様にそれは黒かった。
何もかもを飲み込むブラックホールのように、俺の意識はそれに吸い込まれそうで。
俺は黙ってそれを見つめて――変化が起きた。
玉から光が発せられた。
白い光が広がって玉に亀裂が入る。
ビキビキと音を立てながら、玉が割れそうになっていた。
俺は咄嗟に二人に声を掛けた。
しかし、二人は全くと言っていいほど反応しない。
いや、反応しないんじゃない――時が、止まっていた。
自分だけが動ける世界で、俺は玉に視線を戻した。
すると、玉は卵の殻を破るように砕けた。
辺り一面に白い光が満ちていく。
俺は咄嗟に目を閉じた。
玉が砕けて、白い光が世界に満ちる。
俺はゆっくりと目を開けて何が起きたのかと確認した。
すると、目の前には誰かが立っている。
姿は見えず。輪郭だけのそれはゆっくりと俺の前に立つ。
そうして、掌に握った何かを俺に差し出してきた。
「……これは?」
『鍵だ。イザナギを解放する為の鍵』
「――喋れるのか」
『あぁ、だが、長くはいられない』
輪郭だけの存在が、俺の手に鍵を握らせた。
イザナギとは、オーバードの事か?
それは黒い板のようになった鍵で、青白い光が線となって浮かび上がっていた。
俺はそれを確認してから、声の主に何者なのかと問いかけた。
『時間が無い。私の正体は何れ分かる――その鍵を使えば、お前は選択を迫られる』
「選択? どういう事だ」
『オーバードは決して誰もが望むようなものではない――アレは”呪い”だ』
「呪いって、何を言って――ッ!」
俺の体が消えていく。
足元から砂粒にでもなったかのようにさらさらと消えていった。
俺は驚きながら、何が起きているのかと声の主に聞いた。
しかし、奴は時間が惜しいと言わんばかりに必要な事だけを伝えて来た。
『選ぶ時が来る。呪いを受け入れるか、呪いを拒むか――お前が正しいと思う方に進めばいい』
「待ってくれ! まだ何も」
視界が薄れていく。
体が消えていく中で、意識が朦朧としていった。
そんな中で、声の主は最後の言葉を俺に送った。
『決して消える事の無い呪い。お前の犯した大罪が――お前を”怪物”へと変えるだろう』
「――っ」
意識が覚醒する。
ハッとなって掌を見れば、そこには声の主から渡されたカードのようになった鍵があった。
俺がそれを見ていれば、ゴウリキマルさんが声を上げる。
俺はチラリとゴウリキマルさんを見た。
すると、彼女は目を擦りながら、”突然現れた”と言わんばかりの反応をしていた。
「え、え? こ、これ? か、鍵、なのか? え、え?」
「……見えなかった。何が起きた?」
二人は戸惑うような言葉を発した。
それだけで、今しがた起きた現象について二人が理解できていないとすぐに分かる。
時が止まった空間に、白い光に満ちた世界にいた輪郭だけの存在。
透き通るような声をした男であり、アレは一体何だったのか……?
俺は目を瞬かせながらも、手にある鍵を握りしめた。
何も理解できないし、何も納得できていない。
しかし、鍵を手に入れた。それは紛う事なき事実だ。
「……祠に行きましょう。答えは、そこにあるかもしれません」
「……何が何だか分からねぇけど。行くしかねぇな」
「……遂に、この日が……」
二人の声を聞きながら、俺は足を動かした。
鍵を手に入れて、オーバードへの道が開けた。
強大な力に興味はない。だが、あの声の主の言葉には興味がある。
呪いだと彼は言った。
そうして、その呪いが俺を怪物に変えるとも言った。
彼には何が見えているのか。
まるで、”未来の出来事”でも話すように彼は一方的な話をした。
その言葉の意味を確かめる為にも、祠へと行く必要がある。
長きに渡り封印されたオーバード。
それは一体どんなものなのか。
そして、声の主は一体何者なのか――俺は答えを求めて、祠へと向かった。