【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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226:葬られた芸術(side:ショーコ)

 マサムネとの通信を切断する。

 そうして、私は端末の電源を切った。

 目の前に設置されたダストボックスに端末を入れれば、破砕機が作動して端末を粉砕する。

 今まで出会った人間たち。共に戦った仲間たちの思い出が破壊されていく。

 嫌な音を聞きながら、私はゆっくりと息を吐いた。

 

 ファーストは告死天使との戦いで敗北した。

 しかし、彼のお陰で奴の機体に取り付けた発信機から奴の居場所を特定する事が出来た。

 船から離脱して、待機していた輸送機に乗り込んで。

 私は今から、敵が潜んでいる場所へと向かう。

 

 パイロットスーツのジッパーを上にあげる。

 そうして、控えていた作業用のロボットからヘルメットを受け取った。

 それを脇に抱えながら、私は輸送機の中に眠る”メリウス”を見た。

 

 アームで固定されて、作業用のロボットたちが最終メンテナンスを行っている。

 青藍のカラーリングの機体であり、角ばったフォルムをした機体。

 頭部のセンサー部分は大幅に強化されて、メインと補助を合わせて三つの赤いラインが光っている。

 肩部は頭部より上に突き出していて、足は爪が前方に三つと後ろに一つ。

 姿勢制御や加速時に使用する小型のバーニアが計十基搭載されている。

 メインの背中の中心部より伸びるスラスターは一つになっているが、その推力は現行のスラスターの性能を遥かに凌駕する。

 肩にマウントさせた二連式のプラズマ砲二門。

 最大出力で放てば、エネルギー耐性のある機体であっても大破させる事が出来るほどの威力があると聞いた。

 私の指示によりメインの武装は、弾数が多く連射性能の高いマシンガンにしている。

 マガジンも特別製のものを使用していて、一回での戦闘で弾が尽きる可能性は無い。

 

 かつて存在したロストテクノロジー社。

 それが開発した機体を回収し、私でも乗れる機体に調整した。

 ロストテクノロジー社の技術はゴースト・ラインにとってはどれも未知の領域で。

 一度だけでは理解できないものも多かったが、今に至るまでの過程で幅広く活用された。

 情報は不確かだが、ロストテクノロジー社はマザーの関与があったとされている。

 ボスは何も教えてくないが、私はボスがマザーと関りを持っているのではないかと考えていた。

 深く詮索する事はしないし、本人から聞かされる情報以外は信用しない。

 この機体だって、ボスが用意したもので……私の棺となるメリウスだ。

 

 ボスだって、私があの男に勝てない事なんて百も承知だろう。

 それでも、少しでも勝率を上げる為に、貴重なロストのメリウスを手配させた。

 負荷は大きく、寿命を縮めると言われるロストのメリウスだが。

 これを使えば、少しだけでも勝率は上がる。

 もしも、奴と戦って私が勝てば、マサムネはオーバードを使う必要も無くなる。

 私が勝てば、これ以上の損失は生まれなくなるのだ。

 

 私が犠牲になれば、私が決着をつければ……責任が重いな。

 

 ただの諜報員が、これほどまでの責任を負う。

 国に忠誠を誓っていた時には考えられない事だ。

 奴らにとっては私は替えの効くパーツであり、死んでもさしたる影響は無かった。

 だが、ゴースト・ラインに属している今。

 私という人間は、未来を変えるほどの影響力を持っていると言っても過言ではない。

 

 勝率は限りなく低いが、決してゼロではない。

 勝てばこれ以上の不幸が生まれなくなる。

 奴を倒せば、破滅の未来は消滅する。

 

 

 勝てばいい。勝てば終わる。勝てば、勝てば、勝てば――っ。

 

 

 強い吐き気に襲われた。

 口元を抑えながら、ふらついた体を抑える。

 

 胃の中の物を吐き出さないようにしながら。

 私は心臓の鼓動を抑えようとした。

 ドクドクドクと激しく脈打つ心臓。

 呼吸が自然と荒くなり、視界がぐにゅりと歪んでいくような気がした。

 

 まだだ、まだ、倒れる訳にはいかない。

 始まってすらいない。戦いは、まだ先だ。

 

 怯えている。恐怖している。

 これから始まる最強との戦いを前にして。

 私は心の底から恐怖を感じていた。

 

 一度相対すれば、虫を潰すように殺される。

 通常のメリウスでは戦いにすらならない。

 正真正銘の化け物と、今から戦おうとしているのだ。

 

 命を削って、多大なる代償を払って。

 やっとの事で戦いとして成立する。

 ファーストですら敵わなかった相手だ。

 私如きでは足元にも及ばない。

 そんな事は百も承知の上だった。

 

 それでも、私は戦わなければいけない。

 戦って、勝たなければいけない。

 マサムネには時間稼ぎと言ったが、私は本気で勝つつもりだ。

 勝って自分の運命を覆して、ゴウリキマルを救う。

 

 それが、最後まで信じてくれた仲間たちに対しての――償いになると信じているから。

 

「……行こう」

 

 ヘルメットを被り、ゆっくりと足を動かす。

 これから死地へと一緒に向かう機体――”Acanthus(アカンサス)”を見つめる。

 

 脈打つ心臓のように、アカンサスのセンサーが点滅する。

 そうして、私を招き入れる為にコックピッドのハッチが展開されて。

 ロープが垂らされて、私の前に降りて来る。

 グローブ越しにロープを握りしめながら、私は棺の中へと自らの意思で進んでいく。

 

 上へ、上へと運ばれて……私は開いたハッチに体を潜らせて中へと入る。

 

 ゆっくりとハッチが閉じられて、暗闇が場を支配する。

 暫くの静寂の後に、ディスプレイに光が集まっていく。

 

《パイロット情報を更新。アカンサスの搭乗権を移行します》

「……前の搭乗者は」

 

 何となくAIに質問した。

 すると、AIは簡潔に答えを提示してきた。

 

《高濃度のエネルギー汚染により心肺機能を停止――ロストしました》

「……そう……」

 

 まるで、お前もそうなると言わんばかりで。

 きっとそれは私の気のせいだろう。

 どんなに高度な知能を持とうとも、このAIには心が無い。

 私の未来なんてどうでもいいのだろう。

 ただ自分の与えられた役目を果たす為に、これは存在する。

 

 愛機なんて呼べない。

 相棒とも言えない。

 私たちはただ、たった一回の戦闘の為だけに手を組むだけだ。

 それ以上でも、以下でも無い。

 

 私はそれでいい。

 マサムネたちのような信頼関係を築けなくてもいい。

 ただ勝つ為だけに――こいつを使う。

 

《データリンク開始。戦闘システムの再構築中――完了》

「……戦闘システムを起動」

《音声コマンド受信。戦闘システム起動します》

 

 戦闘システムの起動。

 それを受けて、私は首の挿入部を展開した。

 人工皮膚を張り付けて偽装した挿入部が露出する。

 そうして、シートに取り付けられたコネクターが首の挿入部に接続される。

 鈍い痛みを感じて一瞬だけ表情が曇った。

 しかし、それも一瞬であり――次の瞬間には、強烈な痛みが全身を駆け巡った。

 

「う、あぁぁぁ!!?」

《データリンク完了。意思伝達ユニットとのシンクロ率95パーセント》

「――はぁ、はぁ、はぁ……ぅ、あぁ」

 

 熱くも無いのに全身から汗が噴き出す。

 私は必死に呼吸を整えて、広がった視界の中で機体を動かした。

 意思伝達ユニットとの接続で、機体とのシンクロ率は問題ない。

 手の開け閉めだけでもディレイが無いと分かった。

 しかし、この脳内を掻きまわされるような不快感には何時まで経っても慣れない。

 久しぶりの操縦とはいえ、負荷はかなりのものだった。

 

 一般的な機体であるのなら、高くてもシンクロ率は八十パーセント以下だ。

 それを九十パーセント以上にも引き上げている。

 機体へのダメージだけでも、脳が焼き切れるほどの負荷を感じるレベルだ。

 少しでも勝率を上げる為とはいえ、生き残ったとしても植物状態になるリスクが高かった。

 だけど、これを指示したのは他でも無い私だ。

 

 私が戦う。だったら、私が機体を調整するのも当たり前だ。

 可能な限り勝率を上げていく。

 その為ならば、多少のリスクには目を瞑る。

 

 ロストテクノロジーの機体を使うだけではない。

 意思伝達ユニットを使ってでも勝利を掴もうとする。

 それでも、此処までやってもまだ勝率は半分も無いかもしれない。

 それほどまでに告死天使は誰よりも強い。

 

 この世界で最強の称号を手にして、一度の敗北も無いのだ。

 ファーストでも敵わなかった男との戦いで、私は命を削る。

 例え体が動かなくなったとしても構いはしない。

 勝って死んだとしても、悔いはない。

 

 

 私は勝つ。勝って――自らの運命を変える。

 

 

 受け入れられないよ。

 受け入れられる筈がない。

 どんなに心を偽ろうとも、運命を呪わずとも。

 抗う事もせずに受け入れる事なんてしたくない。

 

 変えられるのなら、変えてやりたい。

 それが私の最後の願いで、最後に残された希望だから。

 

 輸送機は進んでいく。

 死地へと向かい、私を連れて行ってくれる。

 私は送られてくる映像から、空の下の景色を思い浮かべた。

 

 そんな時に、誰かから通信が繋がる。

 

《どうも。セカンド様。お久しぶりです》

「……ハイドか……どうしたの?」

《いえいえ、特に用事は無いのですが……機体の調子はどうですかな?》

 

 通信を繋げて来た人物はスキンヘッドのハイドだった。

 そういえば、この機体を寄越してきたのはハイドらしい。

 という事は、管理していた人間も彼になる。

 今までは敵同士という事で極力接触は避けていたが……あぁそういう事か。

 

 神薬の研究も彼とその同僚が行っていた。

 ならば、ロストテクノロジーの機体の管理も彼が行うべきだろう。

 恐らく、ボスがそう判断して任せていたに違いない。

 

 初めて会った時から不思議な空気を纏う男だとは思っていた。

 のらりくらりと動いて、幹部よりも長くボスといるのに、私たちに従う不思議な男。

 上に昇りつめたいという野心は感じず、ただ組織の為に忠誠を誓っていた。

 そんな男が管理していたメリウスに、今、私は乗り込んでいる。

 

 良い機会だ。彼に、聞いて見よう。

 

「……ハイドは、私が勝つと思う?」

《……これはまた、難しい質問ですねぇ》

 

 ハイドは悩むような素振りを見せる。

 意地の悪い男だ。普通の構成員であれば、私を持ち上げるような発言をする。

 しかし、この男は考え込むようにして悩んでいた。

 それはつまり、私が勝つと断言できないと言う事だ。

 

 私が黙って待っていると、ハイドはゆっくりと言葉を発した。

 

《恐らく――勝てないでしょう》

「……そう。まぁ、そうだよね……》

《ただ、私個人の意見を言うのであれば……貴方には勝って欲しいです》

 

 珍しい事もあったものだ。

 あのハイドが、自分の意見を言ってきた。

 道化のように振舞っていた男が、やけに真面目な声色でそう言ったのだ。

 私はくすりと笑いながら、それは応援のつもりかと聞いた。

 すると、ハイドは「いいえ」と否定する。

 

《今の貴方に応援なんてものは必要ありません。必要なのは――強い意思です》

「意思、ねぇ」

《はい。私はイレギュラーの研究もしていたのですが……彼らは強い意思によって、自らの運命を変える事もあるようです。まるで、神の定めた運命に背くように……貴方にもイレギュラーの適性がある筈です。勝つという強い意思があれば、きっと……あぁ、これ以上は無粋でしたね。失敬》

「……ありがとう」

 

 私は彼のさりげない心に感謝する。

 すると、彼は「自分は何も」と言って謙遜していた。

 もう間もなく、作戦領域に入る。

 作業用のロボットは既に退避していて、真っ赤な回転灯が回り始めた。

 下のハッチが展開されて、機体を固定するアームが動いてそれを外へと出す。

 凄まじい勢いで流れる風を機体全体で感じながら、私はハイドに行ってくることを伝えた。

 

《……貴方の未来に幸運を》

「……ハイドの未来にも幸運を」

 

 彼へと言葉を発して通信を切断する。

 そうして、私は呼吸を整えて――アームの固定が外される。

 

 スラスターを点火して、空中を舞う。

 赤い粒子が宙を舞い、全身が沸騰するような高濃度のエネルギーが駆け巡っていく。

 思考がクリアになっていき、遠くの景色が鮮明に映った。

 

 巨大な白銀の塔が聳え立つ天霊地。

 無数のメリスウの墓場であるその地で、奴らは神殿に向かう為の準備を整えている。

 その計画を阻止する為。そして、友を救う為に私は機体を加速させた。

 すると、レーダーが敵の接近を知らせて来る。

 

 無数の機影であり、情報通りであれば敵が生み出した”無人機”だろう。

 此方の技術を盗み取り、自分たちで開発した機体。

 その機体に積まれているコアには、奴らの仲間のデータがインプットされていると聞く。

 レーダーの反応だけでも、五機のメリウスの反応がある。

 

「運命を変える……強い、意思をッ!」

 

 マシンガンを構えて敵に突っ込んでいく。

 迫って来る敵が弾丸を放ち。

 それを避けながら、私も弾を放った。

 連続して響く炸裂音を聞きながら、私は強い意思で勝利を願った。

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