【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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228:暗闇を照らす一条の光(side:ショーコ)

 スラスターから甲高い音が鳴り響く。

 風を切り裂き宙を舞い、敵と入り乱れる。

 ブレードの刃が装甲を撫でれば、体がひりひりと痛みを発した。

 それを耐えながら、マシンガンの照準を合わせて発射する。

 しかし、奴は縦横無尽に空を駆けて私の攻撃を意図も容易く避けて見せた。

 

 格が違う。何もかもが桁違いだ。

 それでも、諦める訳にはいかない。

 運命に抗う。定められた未来を変えて見せる。

 

 

 

 これが、私の――選択だッ!!

 

 

 強く、強く、強く強く強く――勝利を願う。

 

 

 

 コアから発せられる熱。

 全身に高濃度のエネルギーが駆け巡り。

 血が沸騰したかのように熱い。

 その熱を感じながら、私は己の壁を越えていく。

 

 目に見える景色が勢いよく後ろへと流れていった。

 視界で奴の機体を捉えるよりも早くに体が反応する。

 まるで、"未来でも見えている"かのように体が勝手に動く……まさか、これが。

 

 未来視何て大層なものじゃない。

 私の目には未来何て見えていない。

 しかし、これもイレギュラーとしての力だ。

 私は覚醒しかけている己の力を自覚して笑みを深めた。

 

 まだ、戦える。まだ、抗える。

 全力で、最速で――この男に勝つッ!!

 

 機体をジグザグに移動させれば、機体全体に強い負荷が掛かった。

 装甲が軋み、今にも空中分解しそうだ。

 荒れ狂う風が襲い掛かり、冷たい風が機体を凍えさせる。

 強烈な力が加わり、呼吸が苦しくなっていく。

 息を吸っても吸っても酸素が足りない。

 いや、足りないんじゃない。呼吸を忘れてしまうほどに、機体と一体となっていく。

 己が人間じゃなくなる感覚。頭の中がぐちゃぐちゃになって、戦う事だけを考える機械になる。

 体は熱いほどに熱を発しているのに、頭は冷静になっていっていた。

 これが戦うと言う事か。これがマサムネの見ていた世界か。

 

 痛みがどんどん強くなっていく。

 感覚が研ぎ澄まされて、機体の装甲を撫でるもの全てを知覚で来た。

 痛いさ。痛いほどに、私は今を生きている。

 しかし、この程度の痛みは関係ない。

 もっと、もっと、もっとだ――ッ!!

 

 私に追走する告死天使を突き放す。

 そうして、一方的な攻撃で仕留めてみせる。

 両肩のプラズマ砲とマシンガンを後方に向けて放った。

 プラズマが空中で爆ぜて閃光が迸り、マシンガンの弾丸が赤熱して線を描くように飛ぶ。

 それら全てを見極めて、告死天使がギリギリで回避する。

 神業と言っても過言ではない操作技術。

 敵である私が舌を巻く程だが、恐れる事はしない。

 

 加速、加速、加速――更に加速。

 

 スラスターの音が更に高くなり、悲鳴のように聞こえて来た。

 装甲が激しく軋み、周囲の景色は真面に認識する事すら出来ない。

 流れて流れて、流星となって動いていく。

 だが、そんなものは見えなくたってどうでもいい。

 奴だ。奴さえ見えていればそれでいい。

 

「ついてきて、みろッ!」

《……ふっ》

 

 進行方向を変えた。

 そうして、朽ち果てて膝をついている第一世代型のメリウスの元へと飛ぶ。

 一気に距離を縮めて、その体を縫うように飛行した。

 眼前に迫った脚部を紙一重で避ければ、足裏がそれの装甲に当たり火花が散る。

 ギャリギャリと削りながら、それの脚部に向けてプラズマ砲を放つ。

 そうすれば、脚部が破壊されて残骸が奴に迫っていく。

 

 轟音を立てて残骸が舞う。

 鉄の塊が勢いよく飛来して、奴の進行方向を遮った。

 

 センサーが一瞬だけ強く光った。

 奴はブレードを一瞬で振りかぶり、迫った塊を一刀のもとに切り伏せた。

 そうして、残りの残骸を躱して此方に接近してくる。

 ブーストにより距離を縮められて、奴のブレードが視界に入った。

 

 瞬間、私はマシンガンを盾にした。

 バターでも切る様にマシンガンが斬られて――爆ぜた。

 

 お互いにゼロ距離で爆発を受けた。

 告死天使は後退し、私も距離を離す。

 胸部装甲が軽く焼けて黒くなり、私は強い痛みを感じた。

 ズキズキと胸が焼けるような痛みを感じている。

 痛い、痛い、痛い痛い痛い――それがどうした。

 

「まだだ。まだ、終わっていないッ!」

 

 機体を動かして上昇する。

 奴も私を追いかけて来る。

 後ろから感じる強烈なプレッシャー。

 それを受けながら、私は賭けに出ようとする。

 

「一か八かだッ!!」

 

 機体の出力を限界まで底上げする。

 シンクロ率は百パーセントに達して。

 心臓は痛いほどに鼓動を早めていた。

 喉がカラカラに乾いて、視界がぼやけつつある事を認識する。

 しかし、それを無視して上へと上昇した。

 

 限界まで、限界を超えて、全てを出し切るまで――ッ!!

 

 機体内のアラートを切る。

 うるさいだけのそれに意味なんて無い。

 機体全体が軋み、強い吐き気に襲われる。

 それでも私は加速して、分厚い雲へと機体を突入させた。

 視界不良の中で、強い閃光が迸る。

 強烈な音と共に、機体に電流が浴びせられた。

 ビリビリと振動し、機体が激しく揺れて強い痛みを感じる。

 肉体が焼け焦げるような感覚。拷問を受けた時も、これほどの痛みは感じなかった。

 

 しかし、これでいい。

 

 強い電流を浴びて、コアに更なる力が加わる。

 外からの刺激によって、コアが活性化された。

 限界以上の動きを見せて、更なるエネルギーが機体全体に駆け巡った。

 吐き気を超えて、何も感じなくなっていく。

 視界はぼやけているが、敵の位置は分かっている。

 

 機体を加速させる。

 そうして、奴を置き去りにして――雲を突破した。

 

 分厚い雲を抜ければ青い空が広がっていた。

 眼前に広がるそれを見ながら、私は後方に向けて――プラズマ砲をパージする。

 

 両肩のプラズマ砲を二つパージした。

 そうして、雲を抜けて来る奴の姿を”見た”。

 

 マシンガンの弾丸をそれに向けて放つ。

 限界ギリギリまでチャージしたプラズマ砲だ。

 攻撃を当てて爆発させれば、特大級の爆弾と同じだろう。

 

「喰らって、くたばれッ!!」

 

 マシンガンの弾が当たる。

 そうして、プラズマ砲に亀裂が走った。

 ぴしりと音が聞こえて、奴が遅れて雲を突破した。

 奴のセンサーがプラズマ砲に向けられる。

 回避しようとも間に合わない。

 

 プラズマ砲が爆発して、青い閃光が周囲一帯を埋め尽くした。

 爆発に巻き込まれた奴を――見る事無く加速する。

 

 瞬間的に機体を加速させた。

 そうして、爆発の中を突っ切っていく。

 電流以上の痛み。そして、強烈な熱を感じた。

 全身が痛みを発していて、失った感覚が痛みだけを認識させる。

 意識が消えかけている。それでも、私は――勝ちたいッ!!

 

 爆発を抜ければ――奴の機体がいた。

 

 ファーストから聞いていた。

 奴の機体には奥の手が存在す事を。

 爆発による攻撃を回避できないのであれば、必ず使うと予想していた。

 私は強く叫んだ。自らの勝利を手繰り寄せる為に叫ぶ。

 そうして、奴の機体に体当たりをして一緒に降下していく。

 

「あああああぁぁぁぁ!!!!」

《――ッ!!》

 

 マシンガンをゼロ距離で放つ。

 薬莢が飛び散り弾けて、弾丸が奴の装甲を穿つ。

 ガガガガと音を立てながら、奴の命を終わらせようと攻撃を続けた。

 終わらせる。決着をつける。最期の一滴を出し切るまでは、まだ死ねないッ!!

 

 叫ぶ。魂からの叫びが木霊する。

 そうして、雲を抜けてもまだ弾を放ち続ける。

 激しい火花が散って奴の深紅の装甲が削られて行った。

 パラパラと舞う奴の装甲の破片を機体全体で受け止めながら、私は更に加速した。

 限界を超える。全てを出し切る。

 

 マサムネの為に、ゴウリキマルの為に。

 信じてくれた仲間の為に――私が負の連鎖を断ち切るッ!!

 

 奴がブレードを振るう。

 最後の抵抗であり、切れ味のいい奴の武器が肩に刺さる。

 鋭い痛みが駆け巡り、まるで肩から出血でもしたかのようにオイルが飛び散る。

 くぐもった声を上げながらも、私は攻撃を続けた。

 手を止めはしない。絶対に離さない。お前は此処で私が殺す。

 

 地上が迫って来る。

 それを見ながら、私は全ての弾丸を奴に見舞う。

 そうして、ギリギリのタイミングで奴の体を離した。

 その瞬間に、奴の機体は凄まじい轟音を立てながら地面に激突した。

 土煙が柱のように上がって、私は機体を地面に滑らせながら停止させた。

 

 片膝をつきながら、私は奴を見つめる。

 忘れていた呼吸を再開しながら、私はジッと煙の中を見つめた。

 確実に殺した。全てを出し切った。

 これで、決まらなければ……。

 

 土煙が晴れていく。

 見れば、奴の機体が大破していて。

 センサーから光を失いながら、ゆっくりと機能を停止させていった。

 

 

「……勝った、のか?」

 

 

 運命に打ち勝ったのか。

 最悪の未来を、私が終わらせたのか。

 臨んだ勝利を掴む事が出来た……それなのに、この違和感は何だ?

 

 

 

 可笑しい。変だ。

 

 何かが違う。私は何かを見落としている。

 

 最初に戦ったのは告死天使のかつての仲間をコピーした紛い物だ。

 

 仲間の情報から戦い方をコピーさせた。

 

 なら、何故、何故、奴らは――気づいた。

 

 

 

《所詮は紛い物か……余興としては十分だ》

「……そん、な……馬鹿なッ!」

 

 

 

 新たな敵影をキャッチした。

 視線を向ければ、塔の上から見下ろしている。

 深紅の機体で、さきほどの敵以上のプレッシャーを感じた。

 

 

 アレは間違いない。間違いなく――告死天使だった。

 

 

 先ほどまで私が戦っていたのは紛い物。

 奴の戦い方をコピーさせた偽物で、奴は五体満足で生きている。

 仲間をコピーできるのに、一番強い奴をコピーしないなんて事は無い。

 その可能性を考えたくなかったから、私はそれから目を背けていた。

 背けた結果が……これだ。

 

 最悪だ。最悪のパターンだ。

 これ以上、アカンサスでの戦いは難しい。

 機体の損傷は自動修復機能である程度まで修復する事は出来る。

 しかし、私自身の体がこれ以上の戦闘を容認させない。

 もう痛み以外の感覚が希薄であり、視界も薄くなっていた。

 戦えない、運命に抗えない――この戦いに意味は無かったのか?

 

「ご、めん。ごめん……皆」

 

 膝をつき、私の心が折れかける。

 もう戦えない。もうこれ以上は何も……。

 

 告死天使が迫って来る。

 私の命を終わらせようと迫って来る。

 それを感じながら、私は目から涙を零して――

 

 

 

《諦めるなッ!!!》

「――え?」

 

 

 

 何かが勢いよく告死天使にぶつかる。

 見れば、蹴りを放っていて、告死天使はそれブレードで受けてはじき返す。

 後退したそれが私の前に立ちはだかり、その大きな背中を見せて来る。

 ちらりと此方の顔を向けてきて、センサーが光った。

 

 ダークオレンジのカラーリングで。

 何時も見ていた彼の愛機が目の前にいる。

 何故、どうして、何で――折れかけた心が戻って来る。

 

《諦めないでください――俺がついてます》

「……そうだね。そうだ……おじさんがいるんだ」

 

 限界を超えて、動かない筈の機体。

 不思議な力でも湧き上がってきたように、重い体が持ち上がる。

 再び戦う力が、勝ちを望む意思が蘇る。

 私はマサムネの隣に立ちながら、マシンガンのマガジンを交換する。

 最後の一つであり、片手にはギミックを解放してレーザーブレードを展開する。

 腕を振り下ろせば、棒状のそれの先に青いレーザーの刃が飛び出した。

 

《奴を、倒しましょうッ!》

「うん!」

 

 彼がいれば何も怖くはない。

 彼がいれば、呪われた運命も変えられる。

 死ぬはずだった私の未来が変わって、彼と肩を並べて戦える。

 告死天使は空を飛びながら、両手のブレードを下ろす。

 そうして、片手のブレードの切っ先を私たちに向けながら――静かに宣言した。

 

《来い。今度こそ――殺してやろう》

《やれるもんなら、やってみろッ!!》

 

 スラスターを噴かせて敵に向かっていく。

 告死天使も機体を動かして向かってきた。

 私たちは手にした武器を向けて弾を発射する。

 それを受けながら、告死天使はブレードで弾丸を弾く。

 

 これが、私にとっての最期の戦いだ。

 やってやる。成し遂げて見せる。

 だって、隣に――彼がいるのだから。

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