【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
スラスターから甲高い音が鳴り響く。
風を切り裂き宙を舞い、敵と入り乱れる。
ブレードの刃が装甲を撫でれば、体がひりひりと痛みを発した。
それを耐えながら、マシンガンの照準を合わせて発射する。
しかし、奴は縦横無尽に空を駆けて私の攻撃を意図も容易く避けて見せた。
格が違う。何もかもが桁違いだ。
それでも、諦める訳にはいかない。
運命に抗う。定められた未来を変えて見せる。
これが、私の――選択だッ!!
強く、強く、強く強く強く――勝利を願う。
コアから発せられる熱。
全身に高濃度のエネルギーが駆け巡り。
血が沸騰したかのように熱い。
その熱を感じながら、私は己の壁を越えていく。
目に見える景色が勢いよく後ろへと流れていった。
視界で奴の機体を捉えるよりも早くに体が反応する。
まるで、"未来でも見えている"かのように体が勝手に動く……まさか、これが。
未来視何て大層なものじゃない。
私の目には未来何て見えていない。
しかし、これもイレギュラーとしての力だ。
私は覚醒しかけている己の力を自覚して笑みを深めた。
まだ、戦える。まだ、抗える。
全力で、最速で――この男に勝つッ!!
機体をジグザグに移動させれば、機体全体に強い負荷が掛かった。
装甲が軋み、今にも空中分解しそうだ。
荒れ狂う風が襲い掛かり、冷たい風が機体を凍えさせる。
強烈な力が加わり、呼吸が苦しくなっていく。
息を吸っても吸っても酸素が足りない。
いや、足りないんじゃない。呼吸を忘れてしまうほどに、機体と一体となっていく。
己が人間じゃなくなる感覚。頭の中がぐちゃぐちゃになって、戦う事だけを考える機械になる。
体は熱いほどに熱を発しているのに、頭は冷静になっていっていた。
これが戦うと言う事か。これがマサムネの見ていた世界か。
痛みがどんどん強くなっていく。
感覚が研ぎ澄まされて、機体の装甲を撫でるもの全てを知覚で来た。
痛いさ。痛いほどに、私は今を生きている。
しかし、この程度の痛みは関係ない。
もっと、もっと、もっとだ――ッ!!
私に追走する告死天使を突き放す。
そうして、一方的な攻撃で仕留めてみせる。
両肩のプラズマ砲とマシンガンを後方に向けて放った。
プラズマが空中で爆ぜて閃光が迸り、マシンガンの弾丸が赤熱して線を描くように飛ぶ。
それら全てを見極めて、告死天使がギリギリで回避する。
神業と言っても過言ではない操作技術。
敵である私が舌を巻く程だが、恐れる事はしない。
加速、加速、加速――更に加速。
スラスターの音が更に高くなり、悲鳴のように聞こえて来た。
装甲が激しく軋み、周囲の景色は真面に認識する事すら出来ない。
流れて流れて、流星となって動いていく。
だが、そんなものは見えなくたってどうでもいい。
奴だ。奴さえ見えていればそれでいい。
「ついてきて、みろッ!」
《……ふっ》
進行方向を変えた。
そうして、朽ち果てて膝をついている第一世代型のメリウスの元へと飛ぶ。
一気に距離を縮めて、その体を縫うように飛行した。
眼前に迫った脚部を紙一重で避ければ、足裏がそれの装甲に当たり火花が散る。
ギャリギャリと削りながら、それの脚部に向けてプラズマ砲を放つ。
そうすれば、脚部が破壊されて残骸が奴に迫っていく。
轟音を立てて残骸が舞う。
鉄の塊が勢いよく飛来して、奴の進行方向を遮った。
センサーが一瞬だけ強く光った。
奴はブレードを一瞬で振りかぶり、迫った塊を一刀のもとに切り伏せた。
そうして、残りの残骸を躱して此方に接近してくる。
ブーストにより距離を縮められて、奴のブレードが視界に入った。
瞬間、私はマシンガンを盾にした。
バターでも切る様にマシンガンが斬られて――爆ぜた。
お互いにゼロ距離で爆発を受けた。
告死天使は後退し、私も距離を離す。
胸部装甲が軽く焼けて黒くなり、私は強い痛みを感じた。
ズキズキと胸が焼けるような痛みを感じている。
痛い、痛い、痛い痛い痛い――それがどうした。
「まだだ。まだ、終わっていないッ!」
機体を動かして上昇する。
奴も私を追いかけて来る。
後ろから感じる強烈なプレッシャー。
それを受けながら、私は賭けに出ようとする。
「一か八かだッ!!」
機体の出力を限界まで底上げする。
シンクロ率は百パーセントに達して。
心臓は痛いほどに鼓動を早めていた。
喉がカラカラに乾いて、視界がぼやけつつある事を認識する。
しかし、それを無視して上へと上昇した。
限界まで、限界を超えて、全てを出し切るまで――ッ!!
機体内のアラートを切る。
うるさいだけのそれに意味なんて無い。
機体全体が軋み、強い吐き気に襲われる。
それでも私は加速して、分厚い雲へと機体を突入させた。
視界不良の中で、強い閃光が迸る。
強烈な音と共に、機体に電流が浴びせられた。
ビリビリと振動し、機体が激しく揺れて強い痛みを感じる。
肉体が焼け焦げるような感覚。拷問を受けた時も、これほどの痛みは感じなかった。
しかし、これでいい。
強い電流を浴びて、コアに更なる力が加わる。
外からの刺激によって、コアが活性化された。
限界以上の動きを見せて、更なるエネルギーが機体全体に駆け巡った。
吐き気を超えて、何も感じなくなっていく。
視界はぼやけているが、敵の位置は分かっている。
機体を加速させる。
そうして、奴を置き去りにして――雲を突破した。
分厚い雲を抜ければ青い空が広がっていた。
眼前に広がるそれを見ながら、私は後方に向けて――プラズマ砲をパージする。
両肩のプラズマ砲を二つパージした。
そうして、雲を抜けて来る奴の姿を”見た”。
マシンガンの弾丸をそれに向けて放つ。
限界ギリギリまでチャージしたプラズマ砲だ。
攻撃を当てて爆発させれば、特大級の爆弾と同じだろう。
「喰らって、くたばれッ!!」
マシンガンの弾が当たる。
そうして、プラズマ砲に亀裂が走った。
ぴしりと音が聞こえて、奴が遅れて雲を突破した。
奴のセンサーがプラズマ砲に向けられる。
回避しようとも間に合わない。
プラズマ砲が爆発して、青い閃光が周囲一帯を埋め尽くした。
爆発に巻き込まれた奴を――見る事無く加速する。
瞬間的に機体を加速させた。
そうして、爆発の中を突っ切っていく。
電流以上の痛み。そして、強烈な熱を感じた。
全身が痛みを発していて、失った感覚が痛みだけを認識させる。
意識が消えかけている。それでも、私は――勝ちたいッ!!
爆発を抜ければ――奴の機体がいた。
ファーストから聞いていた。
奴の機体には奥の手が存在す事を。
爆発による攻撃を回避できないのであれば、必ず使うと予想していた。
私は強く叫んだ。自らの勝利を手繰り寄せる為に叫ぶ。
そうして、奴の機体に体当たりをして一緒に降下していく。
「あああああぁぁぁぁ!!!!」
《――ッ!!》
マシンガンをゼロ距離で放つ。
薬莢が飛び散り弾けて、弾丸が奴の装甲を穿つ。
ガガガガと音を立てながら、奴の命を終わらせようと攻撃を続けた。
終わらせる。決着をつける。最期の一滴を出し切るまでは、まだ死ねないッ!!
叫ぶ。魂からの叫びが木霊する。
そうして、雲を抜けてもまだ弾を放ち続ける。
激しい火花が散って奴の深紅の装甲が削られて行った。
パラパラと舞う奴の装甲の破片を機体全体で受け止めながら、私は更に加速した。
限界を超える。全てを出し切る。
マサムネの為に、ゴウリキマルの為に。
信じてくれた仲間の為に――私が負の連鎖を断ち切るッ!!
奴がブレードを振るう。
最後の抵抗であり、切れ味のいい奴の武器が肩に刺さる。
鋭い痛みが駆け巡り、まるで肩から出血でもしたかのようにオイルが飛び散る。
くぐもった声を上げながらも、私は攻撃を続けた。
手を止めはしない。絶対に離さない。お前は此処で私が殺す。
地上が迫って来る。
それを見ながら、私は全ての弾丸を奴に見舞う。
そうして、ギリギリのタイミングで奴の体を離した。
その瞬間に、奴の機体は凄まじい轟音を立てながら地面に激突した。
土煙が柱のように上がって、私は機体を地面に滑らせながら停止させた。
片膝をつきながら、私は奴を見つめる。
忘れていた呼吸を再開しながら、私はジッと煙の中を見つめた。
確実に殺した。全てを出し切った。
これで、決まらなければ……。
土煙が晴れていく。
見れば、奴の機体が大破していて。
センサーから光を失いながら、ゆっくりと機能を停止させていった。
「……勝った、のか?」
運命に打ち勝ったのか。
最悪の未来を、私が終わらせたのか。
臨んだ勝利を掴む事が出来た……それなのに、この違和感は何だ?
可笑しい。変だ。
何かが違う。私は何かを見落としている。
最初に戦ったのは告死天使のかつての仲間をコピーした紛い物だ。
仲間の情報から戦い方をコピーさせた。
なら、何故、何故、奴らは――気づいた。
《所詮は紛い物か……余興としては十分だ》
「……そん、な……馬鹿なッ!」
新たな敵影をキャッチした。
視線を向ければ、塔の上から見下ろしている。
深紅の機体で、さきほどの敵以上のプレッシャーを感じた。
アレは間違いない。間違いなく――告死天使だった。
先ほどまで私が戦っていたのは紛い物。
奴の戦い方をコピーさせた偽物で、奴は五体満足で生きている。
仲間をコピーできるのに、一番強い奴をコピーしないなんて事は無い。
その可能性を考えたくなかったから、私はそれから目を背けていた。
背けた結果が……これだ。
最悪だ。最悪のパターンだ。
これ以上、アカンサスでの戦いは難しい。
機体の損傷は自動修復機能である程度まで修復する事は出来る。
しかし、私自身の体がこれ以上の戦闘を容認させない。
もう痛み以外の感覚が希薄であり、視界も薄くなっていた。
戦えない、運命に抗えない――この戦いに意味は無かったのか?
「ご、めん。ごめん……皆」
膝をつき、私の心が折れかける。
もう戦えない。もうこれ以上は何も……。
告死天使が迫って来る。
私の命を終わらせようと迫って来る。
それを感じながら、私は目から涙を零して――
《諦めるなッ!!!》
「――え?」
何かが勢いよく告死天使にぶつかる。
見れば、蹴りを放っていて、告死天使はそれブレードで受けてはじき返す。
後退したそれが私の前に立ちはだかり、その大きな背中を見せて来る。
ちらりと此方の顔を向けてきて、センサーが光った。
ダークオレンジのカラーリングで。
何時も見ていた彼の愛機が目の前にいる。
何故、どうして、何で――折れかけた心が戻って来る。
《諦めないでください――俺がついてます》
「……そうだね。そうだ……おじさんがいるんだ」
限界を超えて、動かない筈の機体。
不思議な力でも湧き上がってきたように、重い体が持ち上がる。
再び戦う力が、勝ちを望む意思が蘇る。
私はマサムネの隣に立ちながら、マシンガンのマガジンを交換する。
最後の一つであり、片手にはギミックを解放してレーザーブレードを展開する。
腕を振り下ろせば、棒状のそれの先に青いレーザーの刃が飛び出した。
《奴を、倒しましょうッ!》
「うん!」
彼がいれば何も怖くはない。
彼がいれば、呪われた運命も変えられる。
死ぬはずだった私の未来が変わって、彼と肩を並べて戦える。
告死天使は空を飛びながら、両手のブレードを下ろす。
そうして、片手のブレードの切っ先を私たちに向けながら――静かに宣言した。
《来い。今度こそ――殺してやろう》
《やれるもんなら、やってみろッ!!》
スラスターを噴かせて敵に向かっていく。
告死天使も機体を動かして向かってきた。
私たちは手にした武器を向けて弾を発射する。
それを受けながら、告死天使はブレードで弾丸を弾く。
これが、私にとっての最期の戦いだ。
やってやる。成し遂げて見せる。
だって、隣に――彼がいるのだから。