【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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233:変わらない優しさ

 雷切が地面に着地する。

 ずしりと振動が伝わって来て、俺は手早く操作をしてハッチを開かせようとした。

 

 眠っていた自分が告死天使を殺そうとして。

 俺はそれをただ眺めていた。

 奴を殺せと、奴を粉々にしろと、俺の心が叫んでいた。

 

 破壊衝動に呑まれて、出鱈目な力で暴れまわった。

 理不尽なまでの暴力で、現実世界の俺のように力を振るった。

 その自覚はあった。ぼんやりとだが、奴が黒いエネルギーを使って暴れていたとのも見えていた。

 無数のメリウスを従えて、破壊の限りを尽くしていた。

 もしかしたら、告死天使も殺せていたかもしれない。

 ショーコさんの殺したアイツを、この手で殺せたかもしれない。

 

 忌み嫌っていた過去の自分。

 あの時の再現をして、目の前の嫌な光景が広がっていた。

 でも、俺は一切止めなかった。

 止めるつもりは無く、心の底から奴を殺してやりたかった。

 

 ショーコさん殺したのだ。

 彼女の未来を断って、彼女の将来を奪った。

 アイツが憎かった。たまらなく憎くて、その終わりが見たかった。

 どす黒い感情に呑まれながらも、俺の意識はハッキリとしていて。

 絶対に奴を殺してやろうと考えていた。

 

 だが、今はそれどころじゃない。

 彼女がいた。彼女が放り出されて、俺は冷静ではいられなかった。

 豆粒のような小ささであっても、すぐに彼女だと理解した。

 その瞬間に、俺の心を覆っていた黒い感情が一瞬で晴れて。

 すぐに彼女を助けに向かって、何とか彼女の体を機体の手で受け止める事が出来た。

 優しく地面に着地してから、俺はコックピッドを開いて彼女の元へと駆け寄る。

 

 地面に手を降ろさせながら、ロープから降りて急いで駆け寄る。

 すると、彼女は熱にうなされているようで。

 呼吸は荒くて、だらだらと汗が噴き出していた。

 辛そうであり、今にも……違う。そうはさせない。

 

 俺は彼女の体を横抱きにする。

 そうして、雷切の手でコックピッドまで運ばせた。

 機体内へと戻ってから、俺は彼女を足の上に座らせる。

 

 システムをチェックすれば、まだ十分に飛行は可能だ。

 エネルギー残量も回復していて、俺はレバーをしっかりと握りながら。

 ゆっくりと機体を上昇させた。

 

「待っていてください。すぐに、医者に」

「……っ」

 

 うなされている彼女を安心させながら。

 俺は逸る気持ちを抑えて、機体が不安定にならないように飛行した。

 真っすぐに、真っすぐに――俺は飛び続けた。

 

 

 

 AIが復旧して、俺の身を心配してくる。

 しかし、俺はその言葉を無視して一番近い街を教えるように命令した。

 AIは状況を察して、一番近い街の位置情報をマップに示す。

 俺はそれを確認してから、スラスターを噴かせて機体を加速させた。

 姿勢は一定で、彼女に負荷を掛けないように移動する。

 ぐんぐんとスピードを上げながら、近づいていく街の灯りを確認した。

 時刻は既に夜であり、俺はあの場所で長い時間戦っていたのだろう。

 彼女を何とか救出し、彼女を運んで何時間も飛び続けて。

 やっとの事で街へと着こうとしていた。

 

 しかし、この場所はもはや中立地帯でも不可侵地帯でもない。

 

 帝国の領土であり、見つかればただではすまないだろう。

 だが、そんな事を気にしていられる状況ではない。

 今は一刻を争う時で……くッ!

 

 彼女の顔をチラリと見た。

 すると、首から赤黒い何かが広がっていっている。

 火で炙られたような跡であり、それが彼女の体を蝕んでいるのは明らかだ。

 俺はダメもとで彼女の病気について何か知らないかとAIに聞く。

 すると、AIは彼女の体をスキャンしてから病名について教えてくれた。

 

《重度の”熱能汚染症”だと思われます。感染症ではありませんが、人体に有害なエネルギーを大量に摂取する事で罹患し、僅か数時間で死に至らしめます》

「治せるのか……っ」

《医療環境が整っていれば、人体から有害物質を取り除く事によって完治する事が可能です……ただ、後遺症は残ると思われます》

「……分かった」

 

 俺は一株の望みに掛けた。

 そうして、街灯の灯りが灯った街の中心部に機体を着陸させた。

 街の人間たちは行き成りメリウスが降りて来た事で激しく困惑していた。

 俺はそれを無視してハッチを開いて外に出る。

 ハッチのへりに足を掛けながら、彼女を横抱きにして民衆に顔を出した。

 

「誰かッ!! 医者の所へ連れて行ってくれッ!! 病人がいるんだッ!!」

 

 俺は声を張り上げて強く願った。

 誰でもいい、早く医者の元へ連れて行ってくれと。

 すると、住人の何名かが前に立つ。

 コートを着て帽子を被った初老の男性であり、彼は自分は医者だと言う。

 俺は笑みを浮かべながら、これで助かると感じた。

 

「今、そっちにおり――ッ!!」

 

 雷切の手が動き出す。

 そうして、俺たちの前に手を持っていった。

 何かが雷切の手に当たり、バチバチと火花を散らせていた。

 攻撃を仕掛ける人間がいて、それらは治安部隊の制服を着ていた。

 

 奴らは声を張り上げて、俺の正体を民衆に明かす。

 すると、民衆は悲鳴を上げて逃げ出した。

 ハッとなって医者と名乗った男を見れば、恐怖に染まった顔で俺を見て――脇目も振らずに逃げだした。

 

「待ってくれッ!! 待って――クソッ!!」

 

 敵の攻撃が激しさを増していく。

 俺はコックピッドの中へと戻る。

 そうして、スラスターを点火して上へと上昇した。

 地上からは治安部隊の人間が攻撃を続けていて。

 何処かへと連絡を繋いでいた。

 

 見れば、治安部隊のメリウスが俺の方に飛んできている。

 舌を鳴らしながら、俺は腕を敵に向けた。

 そうして、隠し腕を展開してジャミング弾を放った。

 

 放たれたそれが空中で爆ぜて、敵のセンサーが誤作動を起こす。

 その隙を使って、俺は一気に敵から距離を離して離脱する。

 後ろから敵が追って来るが、あの程度では追いつける筈がない。

 俺はぐんぐんと距離を離しながら、AIに指示を出して次の街への経路を提示するように命令した。

 すると、AIは一番近い街への経路を教えてきたが……ダメだ。これでは間に合わない。

 

 俺は再検索を要求する。

 AIは何かを悟ったように一呼吸開けてから要求を呑んだ。

 俺は強い焦りを覚えながら、歯を噛みしめて恐怖に耐えた。

 

 まだだ、まだ、終わらせはしない。

 彼女を生かす。生きて、これからも一緒に――手が触れる。

 

 彼女は真っすぐに俺を見つめていた。

 優し気な目であり、その瞳は何かを悟っているような光を灯していた。

 彼女の言いたいことが伝わる。彼女の願いが分かった。

 俺は静かに頷きながら、一気に機体を加速させて街から離れていった。

 夜空の下を駆けながら、俺は強く唇を噛んだ。

 

 

 

 街から離れて、山の頂に機体を下ろす。

 雪が降った後なのか、白いそれが少しだけ積もっている。

 外へと出れば、吐く息が白くて。

 俺は彼女の体を抱きしめながら、ゆっくりと外に出た。

 

 雷切の手に乗って地面へと降りて。

 雪を踏みしめながら、地上に降りる。

 高い山の頂から見える景色は見事だが、そんなものに感動している余裕はない。

 俺は彼女を抱きしめながら、これで少しは楽になるかと考えた。

 

 間に合わない。次の街へ行っても、彼女は助からない。

 彼女もそれを理解して、自分を下ろすように目で訴えかけてきた。

 少しでも、彼女を蝕む熱を取り除こうと山の上に連れて生きて。

 俺は必死に笑みを浮かべながら、彼女に声を掛け続けた。

 彼女はゆっくりと目を開いてから、首を動かして周りの景色に目を向けた。

 

「……良い、ところ……だな」

「……はい。とっても……綺麗です」

 

 目頭が熱くなる。

 泣いてはいけない。泣いちゃダメだ。

 彼女はまだ此処にいる。

 俺の腕の中で呼吸をしているのだ。

 

 離しはしない。決して離しはしない。

 彼女を強く抱きしめながら、俺は彼女の顔を見つめていた。

 彼女はゆっくりと俺に視線を向けて来る。

 

 あの日、彼女と出会った時と変わらない。

 温かくて優しい視線で、俺の心は安らいでいく。

 俺は微笑みながら、彼女をジッと見つめた。

 

 儚い笑み、今にも消えてしまいそうな笑みで。

 彼女の体を抱きしめて伝わって来る熱。

 それを取り除くことが出来たらどれほど良かったか。

 

 叶う事なら、彼女の罹っている病気を肩代わりしたい。

 彼女の命を終わらせようとする病魔を、この手で殺してやりたい。

 憎い。憎い、憎い、憎い――ただ、ひたすらに憎かった。

 

 勝手に病気に罹る筈なんて無い。

 十中八九が、告死天使たちの仕業で。

 彼女を殺す事で、俺の戦意を喪失させようというのか。

 しかし、そうなる事は無い。

 

 

 逆だ。戦意を喪失するのではない――殺意が溢れ出る。

 

 

 奴らを殺せと心が叫ぶ。

 奴らを潰せと本能が呼びかけて来る。

 殺せ、殺せ、殺せ……あぁ、その通りだ。

 

 奴らを生かしておいても良い事は無い。

 俺のように、彼女のように、不幸になる人間が出てくるだろう。

 負の連鎖を断ち切るのならば、奴らは殺さなければいけない。

 アイツ等は生きていていい人間じゃない。

 この世には不要であり、体を蝕む癌細胞のようなものだ。

 

 俺が殺す。俺がアイツ等の息の根を――止めてやる。

 

 黒い感情が心の底から溢れ出て来る。

 そうして、眠っているアイツが俺に囁きかけて来た。

 

 

 

『憎いか? 殺したいか? 言ってみろ』

 

 

 ――憎い。殺してやりたい。

 

 

『なら、何をする? お前は無力だ。一人では殺せんぞ』

 

 

 ――力を貸せ。俺たち二人でアイツを殺す。

 

 

『ははは! いいぞ。そうでなくては、なら――俺に主導権を譲れ。そうすれば望みを』

 

 

 

 乾いた音が響いた。

 軽い音であり、俺の額が少しだけ痛みを発した。

 意識が強制的に戻されて、俺は視線を彼女に向けた。

 すると、彼女は小さく笑いながら目を細めて俺を見ていた。

 頬を赤らめながら、白い吐息を吐き出しながら、彼女は俺の額に指をぶつけた。

 

「……そんな顔、するな……笑え。幸せが、逃げちまうぞ?」

「……でも、貴方は奴らに――っ」

 

 彼女の手が俺の頬に触れる。

 温かな手であり、彼女の温もりが頬を通して伝わってきた。

 俺は彼女を見つめながら、彼女の手を握る。

 零れ落ちないように、しっかりと握りしめた。

 

「……話をしようか……久しぶりに、二人だけ、で……ふふ」

「えぇ……えぇ……話をしましょう。気が済むまで、ずっと」

 

 俺は笑う。彼女が笑えと言ったのだ。

 だったら、彼女の言う通り笑おう。

 例えぎこちなくても不格好でも関係ない。

 俺は笑った。笑いながら、彼女の顔を網膜に焼き付ける。

 

 この時間を、この一瞬を記憶する。

 忘れないように、失わないように。

 彼女はゆっくりと口を動かして、他愛の無い会話を始めた。

 俺はそんな彼女の言葉を、静かに聞き続けた。

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