【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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234:お前は、本物の人間だ

 過去を思い出す。

 今まで彼女と歩んできた人生。

 多くの経験をして、多くの事を学んできた。

 

 夜空の下で、満天の星の下で語り合う。

 彼女が話して、俺が相槌を打って。

 今度は俺が話して、彼女が静かに聞く。

 

 それを繰り返しながら、俺たちは……最期の時間を過ごす。

 

 過去の俺はあまり良い人間じゃなかった。

 俺は何も知らない子供の様で。

 彼女に沢山迷惑を掛けて、彼女に色々とサポートをしてもらった。

 彼女はそんな俺を見て呆れていたかもしれない。

 それでも、彼女は俺を見放すことなく近くでいてくれた。

 

 悲しい事もあった。

 大切な人を失くしたり、大切な彼女の元から離れてしまったり。

 嫌だった。悲しかった。辛かった。

 それでも、彼女はずっと俺の事を想ってくれていた。

 どんなに遠く離れていようとも、どんなに彼女を遠ざけようとも。

 彼女は変わらない想いを胸に抱いて、ずっと俺の事を探し続けてくれた。

 

 初めての出会いは、それほど良い事は無かったかもしれない。

 お互いに会った事も無い相手であり、最初のコンタクトは最悪だったのだろう。

 俺はただ機体が欲しくて、彼女に大雑把な依頼を投げつけて。

 彼女自身もそんないい加減な依頼を出した俺を怪しんでいただろう。

 

 

 ――だけど、俺たちは出会った。

 

 

 彼女が俺の為に、最初に作ってくれた機体は紫電で。

 紫電に乗って俺は色々な戦いを繰り広げた。

 嵐の中を飛び回り、多くの敵を倒して帰還して。

 アンダーヘルのあの兄妹とも戦って、そうして彼女が俺の活躍を聞きつけてやって来た。

 

 最初は二十歳を超えているなんて信じられなかった。

 見かけは小さな女の子であり、そんな子が行き成り俺とバディーを組むと言い出したのだ。

 不安だったし、本当に大丈夫なのかとも思った……でも、それは杞憂だった。

 

 彼女は真面目で、俺の為に色々と手を尽くしてくれた。

 最適な武装を選んでくれて、安全そうな依頼を選定してくれて。

 一緒に公国のセントラルパークへと行って買い物にも行った。

 ちょっとした旅行気分であり、本当に楽しかった。

 

 

 マクラーゲンさん達とも出会えて、その後に受けた依頼で――俺たちの人生は一変した。

 

 

 無人機を破壊するように指示された依頼を受けて。

 俺は単身で向かい無人機を何とか撃破した。

 それから彼女はおかしくなって、アイツが俺の前に現れた。

 

 告死天使の力は圧倒的で、奴にはかすり傷一つ与える事は出来なかった。

 思えば、ショーコさんがあの時に撃破されて……彼女はそこから別人だったのだろう。

 

 でも、良い。

 例え、別人であったとしても彼女と歩んだ道は本物だ。

 決して消える事の無い思い出だ。

 

 ゴウリキマルさんの過去を知り、彼女の願いを聞いた。

 そうして俺は、何となく生きようとしていた人生を一変させて。

 彼女と共に巨大な組織に戦いを挑むことになった。

 

 マイルス社長の支援を受けて、俺はそれから更なる戦いに身を投じていった。

 己自身が何者であるのかも分からない状況で。

 ただ彼女の願いを叶える為に、俺は危険な戦地へと向かって行った。

 

 

 戦って、戦って、戦って……本当に、色々な事があった。

 

 

 戦いの終わった荒れ果てた街で。

 その地に住む人間たちの表情を見た。

 悲しみ、怒り、絶望し……そんな中で、あの少年だけは違っていた。

 

 失くしたものへの後悔じゃない。

 足を止めて泣きじゃくる訳でもない。

 ただ託された意思を受け継いで、彼は前へと足を進めていた。

 誰からの賞賛も得られないかもしれないのに、彼はただ正しい事をしていた。

 

 

 

 俺は憧れた。俺は彼のように――本物の人間になりたかった。

 

 

 

 初めて出来た夢であり、これから先で自分の行動に影響を与えるであろう願い。

 それを聞いていたショーコさんは、俺なら出来ると言ってくれた。

 そうして、俺は多くの犠牲を出しながらも仲間たちと共に魔神を倒した。

 アレを倒す為の力をくれたのは、他でもないゴウリキマルさんで。

 再会した俺たちは固い握手を結んで、互いの熱を感じた。

 温かかった。温かくて、とても心地よかった。

 

 それからは、バネッサ先生が記憶消去をされて。

 俺たちはモルノバへと行って行方不明の諜報班を探した。

 オリアナと出会い。彼女を失って、それでも俺は前へと進んでいった。

 大罪人になろうとも、仲間から疑念を向けられようとも。

 俺はひたすらに前へと進んでいった。

 

 マクラーゲンさんを失った。

 世界の敵になった。

 大切な相棒を突き放して、俺は孤独になってしまった。

 その時はそれが正しい事だと思っていた。

 だが、心はひどく冷たかったのを覚えている。

 

 多くの戦いを経験して、温かくない食事を取って。

 真っ暗な部屋で眠りについて、常に孤独を感じていた。

 瞼を閉じれば、何時もショーコさんとゴウリキマルさんがいた。

 彼女たちの無事を祈りながら、俺は何時も頬を涙で濡らしていた。

 

 マイルス社長が死に、俺は再び彼女の元へと戻った。

 彼女は怒っていたが、俺を責める事はしなかった。

 俺はそんな彼女の優しさに甘えていたのかもしれない。

 甘えていたけど、彼女は本当に優しかった。

 

 真実を知って、俺はひどく打ちのめされた。

 本物の人間になりたいと願っていた俺は、人間ですらなかった。

 気丈に振舞っていたつもりでも、心の中はぐちゃぐちゃで。

 思い出す度に、心臓がズキズキと痛みを発していたのを覚えている。

 

 

 ――でも、彼女はそんな俺の様子にも気づいていた。

 

 

 俺の足が止まりそうなれば、決まって彼女が傍にいた。

 彼女は俺の心を鼓舞して、俺に勇気を与えてくれた。

 前へと進む勇気を、戦う為の力をくれた。

 だからこそ、今までも戦ってこれた。

 負ける事もあったが、それでも生きていられた。

 

 怒ってくれた、泣いてくれた。

 笑ってくれた、喜んでくれた。

 

 彼女は色々な表情を俺に見せてくれて。

 俺の見る世界は美しく、その中心には彼女が立っていた。

 

 どんなに辛い現実が襲ってきても。

 どんなに苦しい状況になったとしても、俺には彼女たちがいた。

 

 もっともっと、一緒にいたい。

 もっともっと、色々な世界を見たい。

 彼女と共に、この世界で生きていたい。

 そう強く願って、彼女を絶対に守ると誓った。

 

 

 彼女がいたから、彼女が傍に立っていてくれたから……彼女を見る。

 

 

 彼女の呼吸はか細くなっている。

 あんなにも熱く感じていた彼女の熱は、今ではほとんど感じられない。

 首から侵食している痣が広がっていて。

 彼女は苦しそうにしながらも、ずっと笑っていた。

 俺に心配を掛けまいと笑っている。

 俺を絶望させない為に、気丈に振舞っている。

 

 その姿を見るだけで、心臓がキュッと締め付けられる。

 代わりたい。今すぐに彼女の代わりに、俺が痛みや苦しみを肩代わりしたい。

 強く願う。しかし、願ったとしても、それが叶う事は決してない。

 

 俺は無力だ。

 彼女が苦しそうにしていても、どうする事も出来ない。

 ただ祈りながら、彼女を温める事しか出来なかった。

 

 彼女の話を黙って聞いていた。

 一緒になって昔を思い出して笑っていた。

 しかし、彼女は、もう……彼女が咳き込む。

 

 がふりと吐かれたのは真っ赤な液体で。

 彼女の血が、彼女の衣服を赤黒く染め上げる。

 俺のスーツにもついたが、そんな事はどうでもいい。

 俺は彼女を心配して、無理をすることは無いと言った。

 しかし、彼女はゆっくりと首を左右に振る。

 

「……無理なんて、して、ない……お前には、まだ、色々と伝えなきゃ、いけないからな」

「……っ。でも」

 

 彼女は目を細めながら、俺を見つめる。

 彼女は手を動かして、俺の頬を撫でた。

 

 

 

「……マサムネは……本当は、ロボットなんだろ?」

「――ッ!」

 

 

 

 彼女は確信を持っている。

 確信を持ちながら、ハッキリと言った。

 俺は動揺して、言葉を詰まらせた。

 そんな俺を見ながら、彼女はくすりと笑う。

 

「そっか。やっぱり……でも、いいんじゃないか」

「……え?」

 

 彼女は俺を否定しない。

 彼女は真っすぐに俺を見ながら、それでもいいと言った。

 そうして、手を震わせながら動かして俺の心臓を指さす。

 

「お前の過去なんて関係ない――お前は、人間だよ」

「――」

「心臓が鼓動している。お前の心は、此処にある。私の目に映るお前は、心の無い機械じゃない。馬鹿で、間抜けで……どうしようもないくらいにお人好しな、私の相棒だよ」

「……なん、で。そんな、こと――っ」

 

 目に水が溜まっていく。

 彼女の顔が見たいのに、彼女の表情が見えない。

 瞳の先が水面のように揺れていて。

 心臓がズキズキと痛みを発していた。

 目からはポロポロと水が零れ落ちていって、彼女の頬に落ちていく。

 彼女は微笑みながら、俺の目から零れ落ちる雫を指で拭う。

 

「泣くなよ。まだ、早いって……はは、死にたく、ねぇな」

「……ごめん。ごめん、なさい。ごめん」

「……お前は悪くない。お前は何時だって最善を尽くしていた」

「違う。違います。俺はショーコさんも、貴方でさえも、救え、なかったッ! 俺は何も」

 

 彼女の手が再び俺の頬に触れる。

 涙でしめりけを帯びた冷たい手で。

 彼女は真っすぐに俺を見ながら、ハッキリと言葉を発した。

 

 

 

「お前は、私を救ってくれたさ。あの病室で私の手を取ってくれたじゃないか」

「――!」

「闇の中で苦しんでいた私の心を晴らしてくれたのは……マサムネ。お前だよ」

 

 

 

 彼女は笑みを浮かべながら、そう言った。

 その場しのぎの言葉じゃない。

 雰囲気に当てられて出た薄い言葉ではない。

 本心からの言葉であり、彼女の言葉が俺の心にしみわたった。

 

 彼女の瞳からは、徐々に光が失われていく。

 彼女は辛そうにしながらも、最期の力を振り絞って伝えようとしてきた。

 

「……船に、戻ったら……棚を見てくれ。アルバムの、中に……あの手紙を、挟んである……」

「ゴウリキマルさん、もういいです。喋らなくても――ッ!」

「いいから、聞け……私は迷っていた。アレをお前に渡すべきか、どうかを……でも、今のお前を見て安心した」

「何を」

「――お前には、私の言葉がちゃんと伝わっている。だから、安心して渡せる」

 

 彼女はそう言って瞼を動かす。

 閉じかけている眼で俺を見ながら。

 彼女はゆっくりと言葉を続けた。

 

「名前、言いたかったけど……それよりも、言いたいことが、一つあるんだ」

「……っ!」

 

 俺は鼻を啜る。

 涙がとめどなく流れて、鼻水が垂れそうになる。

 ぐちゃぐちゃの顔が、彼女が最期に見る顔ではあってはいけない。

 乱暴に片手で顔を拭ってから、俺は笑みを浮かべた。

 彼女を不安にさせたくない。彼女には安心して欲しい。

 

 

 悲しい。辛い。でも、彼女には最期まで――笑っていて欲しい。

 

 

 彼女は俺の笑みを見て、頬を緩める。

 優しい表情で俺を見ながら、軽く頬を手で撫でた。

 弱弱しい動きであり、もうとっくに限界を迎えている事は理解している。

 それでも、俺は笑いながら、彼女の言葉を待った。

 

 彼女はゆっくりと息を吸う。

 そうして、目を細めて笑いながら――言葉を送ってくれた。

 

 

 

「お前は、本物の人間だ。私がお前を認めてやる――胸を張って、生きろ。マサムネ」

「――!」

 

 

 

 俺の夢を、彼女が認めてくれた。

 俺の願いを、彼女が叶えようとしてくれた。

 誰も認めない。誰も肯定してくれないと思っていた想い。

 それを彼女が――肯定してくれた。

 

 嬉しかった。嬉しくて、胸が張り裂けそうだった。

 他の誰でも無い、彼女が俺を認めてくれた。

 

 

 

「ゴウリキマルさん。ありが――っ!」

 

 

 

 お礼を伝えたかった。

 彼女に認められた事が嬉しくて、自然と言葉が出そうだった。

 しかし、俺がお礼を言う前に、俺の頬に当てられた手が動く。

 ゆっくりと時が進んで、彼女の手がハッキリと見えていた。

 

 

 

 彼女は、静かに俺に微笑んで――彼女の手がゆっくりと滑り落ちていった。

 

 

 

 雪に手が当たって、彼女は瞳から光を消していく。

 白い吐息がかき消えて、彼女は小さく口を開けていた。

 彼女は苦しくて痛い筈なのに、ずっと笑っていた。

 

 

 

 笑って、笑って……動かなくなった。

 

 

 

 呼吸は、完全に止まった。

 

 心臓の鼓動も、完全に停止した。

 

 その手が俺に触れる事は無い。

 

 もう二度と、彼女の体温を感じる事は無い。

 

 

 

 やり直せる。彼女は現世人だから――そうじゃない。

 

 

 

 隠していても、分かる。

 彼女の体から伝わる情報が、彼女を本物だと認識させる。

 彼女の魂は、既にこの世界に固定されている。

 だから、彼女が生き返る事は無い。

 彼女がケロッと生き返って、俺を茶化してくる事も無い。

 

 笑う事も、怒る事も無い。

 楽しかった過去に戻る事は出来ない。

 彼女たちは行ってしまったのだから。

 

 

 これで、終わりだ。

 これで、彼女の人生は幕を下ろした。

 全てを解決して、皆で笑い合う筈だった未来は存在しない。

 彼女の本当の名前を聞くことも、もう出来ないのだ。

 

 大きく目を開けながら、彼女の名前を呼ぶ。

 しかし、彼女が俺の言葉に応える事は無い。

 瞳から完全に光を消して、小さく揺すっても反応はしない。

 物言わぬ抜け殻であり、彼女の魂は既にこの世には存在しない。

 

 

 理解した。ゆっくりと理解した。

 現実を、目の前の光景を、頭で理解した。

 

 

 

 今まで傍にいた大切な存在が二人――俺の前から旅立った。

 

 

 

 胸にぽっかりと穴が空いた。

 恨みも何も感じずに、ただジッと彼女を見つめていた。

 呆然と彼女の亡骸を見つめる。

 

 そうして、ゆっくりと心に感情が溢れていく。

 強い喪失感。強い悲しみ。強い――後悔。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 ぐちゃぐちゃになった感情が俺を襲う。

 俺は彼女の亡骸を両手で抱きしめながら、山の頂で声を上げて泣いた。

 誰にも聞こえない。誰も救ってくれはしない。

 俺は独りで、泣き続けた。

 

 強く、強く、彼女の体を抱きしめた。

 そうして、天を仰ぎ見ながら俺は叫び続けた。

 何も聞こえない、何も感じない。

 雪の冷たさも、彼女の体温も感じない。

 

 そんな中で、俺は声を上げて泣き続けた。

 体の中の水分を出し尽くしても構わない。

 動けなくなるまで感情を吐き出してもいい。

 今はただ、泣きたかった。泣いて、泣いて、彼女を失った悲しみを受け止めたい。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 苦しみも、悲しみも、後悔も、全て流していく。

 これを持っていく事は出来ない。

 この感情はこの場所に置いていく。

 未来に連れていく事は出来ない。

 

 

 

 未来で俺は――戦うと誓ったから。

 

 

 

 

 

 

 泣いた。泣き続けた。

 涙は枯れ果てて、喉はガラガラに渇いていた。

 ズキズキと頭が痛みを発しているが、視界はどこまでもクリアになっている。

 気が付けば、山の向こうから陽が昇ってきている。

 山の間から、温かな光を発するそれが昇っていく。

 朝日を静かに見つめながら、俺は彼女を抱いて立ち上がる。

 

 闇は晴れていく。

 目に見えるもの全てに、色がついていく。

 雪の白さも、山を彩る枯葉も、陽光の輝きも俺の目にはハッキリと映っていた。

 

 迷いは無い。俺は俺のすべきことをする。

 彼女が最期の俺にくれた言葉が、俺に勇気をくれた。

 怒りや復讐に呑まれてはいけない。

 俺はそんな感情で戦ってはいけない

 俺は大切な人たちの想いを受け継いで、未来を掴み取る。

 彼女たちが守りたかったものを、彼女たちが信じたものを――俺が守って見せる。

 

 

 光が満ちていく世界で、俺は静かに前を見つめた。

 

 

 俺は戦う。彼女が俺の夢を叶えてくれた。

 なら、今度は俺の番だ。俺が彼女の願いを叶える。

 この先の未来で、誰も悲しまない為に。

 不幸の連鎖を断ち切り、誰も悲しまない世界を作る。

 

 

 そうして、オーバードをこの手で破壊する。

 

 

「行ってきます」

 

 

 俺は小さく頭を下げた。

 そうして、そこにいるであろう彼女に言ってくることを伝えた。

 声は聞こえない。誰も俺の言葉には応えてくれない。

 だが、それでいい。彼女の想いは――俺の心に届いているから。

 

 頭を上げて、彼女を大切に抱えながら歩いていく。

 背を向けて歩けば、風が吹いて俺の背を軽く撫でる。

 それがまるで、彼女に背を押されているように感じて――俺は小さく笑った。

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