【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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 俺は船へと戻った。

 凍える体で、大切な彼女にコートを掛けて。

 ゴウリキマルさんを連れて戻って、彼らに託した。

 仲間たちは全てを察して、辛そうな表情をしていた。

 泣きたかっただろう。叫びたかっただろう。

 俺みたいにずっと泣いて痛かったかもしれない。

 でも、誰も俺の前では泣かなかった。

 

 強く拳を握りしめながら、彼らは笑みを浮かべて。

 ゴウリキマルさんを託せば、皆は最期の別れをする為に去っていく。

 

 勿論、ショーコさんの事も話した。

 彼女は俺と一緒になってゴウリキマルさんを救おうとした。

 しかし、告死天使の攻撃から俺を庇う為に死んだ。

 

 本当は彼女も連れて帰りたかったが、騒ぎを聞きつけた治安部隊が塔のあった場所を包囲している事をAIから教えられて。

 彼女の遺体の回収を断念して、俺はゴウリキマルさんを連れて帰って来た。

 一気に二人の仲間を失って、皆が皆、悔しさを滲ませていた。

 皆辛い。それでも、アイツ等は俺に笑みを向けていた。

 

 分かっている。アイツ等が俺を気遣っていた事は。

 優しくて、頼りになる仲間たちで……本当に誇らしいよ。

 

 俺は今、ゴウリキマルさんが使っていた部屋にいた。

 彼女の最期の言葉通りに、彼女が置いていった手紙を取りに来た。

 部屋の電気をつけてから中へと入る。

 そうして、彼女が言っていた棚の前に立った。

 そこには大きなアルバムが一冊だけ置かれている。

 他に何かあるのかといえば、俺やショーコさんの写真が飾ってある。

 写真の中の俺たちは楽しそうで、俺は思わず笑みを零してしまった。

 

 写真立てに入ったそれを撫でる。

 愛おしそうに恋しそうに撫でて、俺はゆっくりと手を離した。

 そうして、目的のものであるアルバムを手に取った。

 

 もう、これを恐れる事はしない。

 だから、意識を失うような事も無い。

 彼女がいなくても、俺は前へと進む。

 

 アルバムを開いてから、俺はゆっくりとページを捲る。

 そうして、パラパラと捲りながら手紙を探した。

 すると、真ん中あたりのページにしおりのようにそれが挟まっていた。

 俺はゆっくりとアルバムからそれを抜き取った。

 

 汚れもシミも無い綺麗な便せんで。

 俺はアルバムを元の場所に戻してから、手紙を見つめた。

 これがゴウリキマルさんの言っていた手紙で。

 彼女が俺に渡す事を躊躇っていたものだと理解した。

 封は開けられていない事から、まだ誰も中身を見ていないのだろう。

 真っ赤な封蝋が施されたそれを見つめてから、俺はゆっくりと置かれていた椅子に座る。

 

 カチカチと時計の秒針の音が聞こえる。

 鼻を鳴らせば、ゴウリキマルさんの匂いがする。

 此処に長くいれば、俺は足を止めそうだ。

 彼女を感じ過ぎて、ずっと此処にいたくなってしまう……でも、それはダメだ。

 

 本当は悠長に手紙を読んでいる暇は無い。

 しかし、これを読まずに先に進むのは何故だか、ダメな気がした。

 見なければいけない。読まなければいけない。

 不思議とそんな気がするのだ。

 

「……よし」

 

 俺は意志を固めて、封を開けた。

 中身を取り出して開いてみれば、綺麗な文字で文章が書かれている。

 俺はその文章をゆっくりと読み進めていった。

 

 

 

『マサムネへ。この手紙を貴方が読んでいる事を信じています。きっと貴方はひどく困惑している事でしょう。何百年と経って、遥か未来で生まれ変わった貴方は、色々な経験を積んだと思います。幸せも、悲しみも、怒りも、絶望も。私はマザーの未来演算の結果を見て、強い確信を持ちました。貴方は間違っていない。貴方は未来に必要な存在です。貴方がこれから起こす間違いも、貴方がいれば正す事が出来ます。私は待っています。貴方が過去を修正し、良き未来を創ってくれるまで。私は貴方が生み出す可能性の先で待っています。今度は、本当の親子になりましょう――ツバキ』

「…………ツバキが、これを?」

 

 

 

 手紙の内容は理解した。

 差出人の名前を見て、少しだけ驚いた。

 

 いや、理解したと言っても話の内容だけで意味までは分からない。

 だけど、ツバキが書いた文章だという事は分かる。

 そして、ツバキは俺がこの世界に生まれる事を理解していたという事になるだろう。

 

 マザーの未来演算という事は……それを使ってこの未来を予測していたのか?

 

 ブラドレン・アザーロフにより俺が操られて。

 世界を恐怖のどん底に貶める事を理解していた。

 それを止めなかったのは……いや、止められなかったのか。

 

 未来が分かっていたとしても、止める事は出来ない。

 可能性はあっただろうが、マザーはそれをしなかった。

 何故、早くからツバキたちにコンタクトを取らなかったのか……分からないが、この言葉の意味は理解できる。

 

 良き未来を創って、か。

 簡単に言ってくれるな……でも、ツバキらしい。

 

 彼女は何時も、俺とアルタイルを信じてくれていた。

 俺たちなら何でも出来ると信じてくれていたのだ。

 だからこそ、俺をこの世界に送り込む事も承諾したのか。

 

 手紙には、必要最低限の言葉しか綴られていない。

 しかし、書かれている文字からして焦っているような感じがした。

 恐らくは、この手紙を書いてから……俺を終わらせに行ったのだろう。

 

 ツバキは何時も、俺とアルタイルを想ってくれていた。

 あの日、彼女の姿が見えなかったのは、もしかしてマザーが関係しているのか?

 

 アザーロフが仕向けたと思っていたが、マザーかもしれない。

 何方にせよ。マザーは何かを俺に託したのか。

 未来演算を使って奴が見た世界。

 その世界で、人の体を手にして生まれる存在が俺だ。

 奴は、俺を使って何をさせたいのか……奴の思考を読むことは出来ない。

 

 だけど、やはりこの件に関してはマザーが深く関わっている。

 マザーの未来演算がどれほど優れているかは理解している。

 千年先をも見通す力を持っていて、今も俺たちの行動を見ているのかもしれない。

 奴にとって俺たちはただの駒に過ぎないだろう。

 しかし、奴はその駒を使って何かをさせようとしている。

 

 俺の個人的な考えだが、マザーとゴースト・ラインは根本的な部分で繋がっているのだろう。

 未来演算が出来るマザーに、シナリオと呼ばれるものを作って駒を動かす奴らの親玉。

 奴らが手を組んでいるのかは分からないが、共通している部分は多くある。

 その一つが未来が分かる事で、それを使ってゴースト・ラインのボスは世界を守ろうとしていた。

 もしも、マザーも同じ考えだとしたら……いや、それなら何故、こんな周りくどい事をするんだ?

 

 マザーはこの世界の神であり、そんな事をせずとも邪魔な存在は消せる筈だ。

 告死天使であろうとも、あの少女であろうとも関係ない。

 それをしないのか。それとも出来ないのかは分からない。

 ただ、俺が考えた結果は、しないでも出来ないでもない――そう仕向けたんじゃないかと思った。

 

 マザーはこの世界を救うだけじゃない。

 もっと別の理由があって、俺たちを野放しにしているんじゃないのか。

 この手紙を見て、それが何となく分かった気がする。

 未来を創るのは分かるが、過去の間違いを正すとはどういう意味なのか。

 

 

 

 ――オーバードを使えば、”過去”も”未来”も変えられるのか?

 

 

 

 それは最早、科学でも何でもない……奇跡を起こす魔法だ。

 

 そんな物が本当に存在するのなら。

 この世には戦争も貧富の差も存在しないだろう。

 圧倒的な力を持った個人が、全てを支配する。

 告死天使たちが世界を終わらせようと企んでいるとして。

 奇跡を起こせるオーバードが本物であるのなら……実現できるのかもしれない。

 

 不可能を可能にする力。

 それを使って、奴らは世界を終わらせようとしている。

 いや、世界を終わらせるだけじゃない。

 奴らはその先を考えているのだろう……分かっている。アルタイルの事だから、理解しているさ。

 

 アイツは、今も俺を想ってくれている。

 不可侵領域で会った時から、アイツは兄を追い求めていた。

 世界を終わらせようとしているのも、全て俺の為だ。

 

 俺がアイツの手を払ったから、妹は狂ってしまった。

 妹は俺がいなくなった後に……想像を絶する苦しみに襲われたのだろう。

 

 

 孤独、周囲の悪意、人々の恐れ……アルタイルはずっとそれに晒されてきた。

 

 

 俺が悪い。俺が全ての元凶だ。

 どんなに謝っても意味はない。

 どんなに償おうとしても、償いきれない。

 俺の謝罪も誠意も意味はない。

 

 でも、俺には責任がある。

 兄として、家族として、俺がアイツを元に戻す。

 俺がアイツの心を狂わせてしまったのなら、俺はそれを正さなければいけない。

 アルタイルが俺を愛してくれている様に、俺も妹を愛しているから。

 

 まだ何も分かっていない。自分がこの世に生まれた意味も知らない。

 でも、俺のやるべき事は決まっていた。

 手紙を便せんに戻してから、俺はそれを異空間に収納する。

 誰にも見られないように、誰にも知られないように。

 

 そうして、椅子から腰を上げて歩いていく。

 扉を開けて部屋から出ようとして――振り返る。

 

 彼女はもう此処にはいない。

 彼女は二度と、この部屋に帰って来る事は無い。

 彼女の匂いがほのかに香り、彼女の痕跡がまだ残っている部屋を見つめる。

 そうして、俺は電気を消してから部屋から出た。

 

 俺は行かなければいけない。

 奴らの計画を阻止する為に。

 ゴウリキマルさんの願いを叶える為に。

 俺は命を懸けて、戦わなければいけない。

 

 自分の掌を見つめてから、ゆっくりと握る。

 そうして、静かに目を閉じてから瞼の裏に映る彼女の影を見つめる。

 彼女はこの世にいない。それでも、彼女の気配を感じている。

 すぐ近くで、彼女が見守ってくれている気がした。

 

 コツ、コツ、コツと靴の音が聞こえて来た。

 

 瞼を開けてからチラリと横を見る。

 すると、白衣に袖を通したバネッサ先生が片手を上げて歩いて来た。

 一仕事終えたような顔であり……彼女の葬儀は終わったのか。

 

 バネッサ先生が俺の前に立つ。

 そうして、ポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。

 目の前に掲げられたそれは小さなガラスドームが中心に括りつけられたネックレスだった。

 これは何かと見つめていれば、彼女は静かに答えを言う。

 

「……彼女だよ。連れて行ってあげたらいい」

「……ありがとう、ございます」

「……いいさ。私はこれくらいしか出来ないからね……生きてくれ。マサムネ君」

 

 受け取った彼女の形見を大切に握る。

 そうして、それを首から下げた。

 オリアナから貰った指輪と、彼女の骨粉が入れられたネックレス。

 それを大切に抱きながら、俺はバネッサ先生に深く頭を下げた。

 

 彼女は色々な間違いを犯した。

 しかし、此処まで来るのに彼女は俺を助けてくれた。

 だから、恨むことはしない。

 ただ感謝するだけであり、彼女の言葉も真摯に受け止める。

 

 生きてくれというのなら、可能な限り生きたい。

 仲間たちが俺を生かしてくれたのだ。

 だったら、簡単には死ぬつもりは無かった。

 

「行ってきます」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 頭を上げて、俺は彼女に笑みを浮かべる。

 すると、彼女は静かに頷いてから俺の出立を応援してくれた。

 俺は指を動かして、東源国へのファストトラベルを開始する。

 体が光に包まれて行って、俺は笑顔で手を振るバネッサ先生を見ていた。

 

 そうして、体が完全に光になり――あの国に帰って来た。

 

 陽の光が頭上から差していて。

 街の人間たちは疎らであるが、少しの賑わいがある。

 屋台の準備をしていたり、提灯の手入れをしている人間など。

 耳を澄ませば、男たちが喧嘩をしていて、猫が鳴き声を上げている。

 変わらない光景であり、俺はそんな街並みを見てから歩き出す。

 声を掛けて来る人間たちを無視して、俺は前へと足を進めていった。

 

 天子に会う。そして、全てを話してもらう。

 

 ショーコさんは潜水艇が出来ている筈だと言っていた。

 そして、それが本当であれば、奴は俺に対して嘘をついていた事になる。

 別にそれを責めるつもりはない。寧ろ、俺の方が責められるだろう。

 俺はただ、奴の口から真実を聞きたい。

 そして、俺自身の気持ちも奴に打ち明けるつもりだった。

 

 互いにもう隠し事は無しだ。

 前へと進むのに、天子の協力は不可欠で。

 もしも拒絶されれれば……いや、そうなる事は無い。

 

 確証も保証も無い。

 でも、俺には何故かそんな気がした。

 奴は最初からこうなるだろうと思っていただろう。

 だからこそ、態々俺なんかにオーバードの情報を与えた。

 

 ショーコさんから聞いて、俺の中で点と点が結びつき。

 天子という人間の心を理解出来そうな気がした。

 奴の狙い、それは分からないが……この街を見れば、大体の想像はつく。

 

 活気のある街並みに、人々は皆幸福そうで。

 奴の根っこにある部分は君主としての善良さだろう。

 民を想い、人々を慈しんで。奴は何処までも良き君主だったと思う。

 ゴースト・ラインが世界を守ろうとしていたんだ。

 だったら、天子にもそれに近い願いがあったと思える。

 

 ――まぁ、全部。俺の予想だけどな……。

 

 何がどうなるのかは、その時にならなければ分からない。

 未来が見えたとしても、それは一つの可能性に過ぎないだろうさ。

 けど、未来を想い描くくらいは誰だってする。

 俺は天子が良い君主だと思った。ただそれだけだ。

 

 例え違っていたとしても、構わない。

 土下座でも何でもしてやるさ。

 腕の一本であろうとも、欲しければくれてやる。

 俺は自分の気持ちを奴にぶつけるだけだ。

 

 道の先で待っている奴を想像しながら俺は顔を引き締める。

 一歩、一歩。強く石畳の地面を踏みしめながら、俺は奴の元を目指して歩いて行った。

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