【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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236:良い旅を

 東王の大通りを抜けて、門の前に立った。

 警備をしている人間に天子に会いに来た事を伝えれば、彼らは俺を排除しようとした。

 少しばかりの荒事を終えて、どうやって中へと入ろうかと考えていた時。

 門の中からミネルバがやって来て、アイツは無言で中に入る様に促してきた。

 

 何故、俺が来る事が分かったのか……いや、それもシナリオの一つか。

 

 ゴースト・ラインと東源国は深い関係にあって。

 天子はシナリオと呼ばれるものを知っていたのかもしれない。

 俺が此処に来る事もシナリオから得られた情報で。

 これから俺が奴と会って話す事も、シナリオには書かれているのか。

 分からないが。それでも、俺が言う事は変わらない。

 

 何も臆する事なんて無いのだ。

 例え、これで死刑を言い渡されたとしても。

 俺は強引に包囲を突破してでも、告死天使が向かった神殿に行く。

 場所も分かっていないのに行けるのかと問われれば……まぁ、無理だけどな。

 

 コツコツと足音を鳴らしながら進んでいって。

 天狼閣へと入り、一度は経験したギミックを再び受ける。

 体が光に包まれて、俺はあの部屋へと転移する。

 そうして、目を閉じてから、もう一度目を開ければあの場所に着いていた。

 

 天狼閣の何処かにあるであろう部屋。

 黄金の椅子が聳え立ち、その椅子には黒髪黒目の白い着物を着た天子が座る。

 天子と初めて相対した部屋であり、目の前を見れば奴が不敵な笑みを浮かべて此方を見ていた。

 大きな赤い扇を広げて顔の下半分を隠しながら。

 奴はジッと俺の事を見つめていた。

 

 俺はスゥっと息を吸ってから、奴に対して報告をした。

 

 

「……オーバードは、渡せなくなった」

「……ほぉ、理由を聞いてもよいか?」

 

 

 始めに俺から口を開いた。

 天子は頭ごなしに否定する訳でも怒る訳でもない。

 オーバードを渡せない事を伝えれば、天子は試すような口ぶりで俺に理由を尋ねる。

 俺は静かに頷いてから、奴の目をジッと見つめてハッキリと言った。

 

「アレは、この世に存在してはいけない。あるだけで、多くの人を狂わせる……俺の大切な人たちも、それで死んでしまった」

「ふむふむ。そうかそうか。仲間が死んだから、か――で、それは我に何か関係があるのか?」

 

 天子は扇をぴしゃりと閉じた。

 奴の纏う空気が変わり、王者としての鋭い目つきで俺を睨む。

 支配者としてのオーラであり、まるで空気が振動しているようにピリつく。

 そうして、片手でパンと閉じた扇を叩くと周りから殺気を感じた。

 強い殺気であり、これは天子が忍ばせていた伏兵だろう。

 俺はそれらを見る事無く、ただ天子の目を見つめていた。

 

 

 怯える事は無い。

 恐怖だって感じない。

 俺は今、一人じゃない。

 仲間と共に、この場所に立っているのだ。

 

 

 全く震えない俺を見て、天子はほぉと息を吐く。

 

「恐怖を感じないか……ふむ。なら、一つ聞こうか。本当に、オーバードを渡す気はないと?」

「――渡さない。アレはお前には必要ない」

「必要ない、か……何故だ。我はこの国の為に、あれがどうしても必要だ。不可能を可能にする。それはつまり、この国を世界で唯一の」

「――それなら、もうなっているだろ」

「……なに?」

 

 天子が壮大な口ぶりで自らの夢を語ろうとした。

 俺は奴の話を遮って、お前の願いは叶っている事を伝えた。

 天子は無表情で、その冷たい目を俺へと向ける。

 怒りの琴線に触れたのか。でも、言葉を訂正するつもりはない。

 俺はハッキリと、奴の夢が叶っている事を伝える。

 

「唯一の国だ。東源国は他の国とはまるで違う。お前がこの国を、民を想っている事はこの国に住む人間を見れば分かる。一人一人が、自らの生活を脅かされず。商いに励み、恋を実らせて、家庭を作って子を成す。当たり前の日常を、全ての民が送る事が出来ている。これはお前の努力の賜物だ……もう一度言う。お前の夢は叶っている。オーバード何てものを使う必要が無いほどに、お前の国は豊かで暖かい」

「……手を差し出せ。両手だ」

「……分かった」

 

 鋭い目つきで俺を睨む。

 そうして、底冷えするような低い声で俺に手を差し出すように命令してきた。

 拒否権は無い。いや、俺自体も拒むつもりは毛頭なかった。

 

 俺は素直にすっと両手を差し出した。

 天子が指を上げて命令を下せば、陰から奴の手下が現れる。

 覆面をつけた大柄の男であり、身の丈は二メートルを優に越している。

 その手には大きな刀剣が握られていた。

 手下は俺の腕に刀剣を這わせてから、ゆっくりと上に振り上げた。

 天子はにやりと笑いながら「もう一度、言ってみろ」と言う。

 

 試している。

 揺さぶりを掛けてきている。

 発言を誤れば取り返しのつかない事になるだろう。

 命は取られずとも、俺は両手を失う事になる。

 

 ――が、それがどうしたというのだ。

 

 面白い奴だ。

 可愛げが無い奴だと思ったが、人間らしいところもあるじゃないか。

 俺は笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

「お前の国は、豊かで暖かい。アレはお前の国には相応しくない」

「……そうか……やれ」

「御意」

 

 

 天子の命令を受けて、覆面の男は腕に力を込める。

 ギュッと強く剣の柄を握りしめながら、勢いのままに振り下ろす。

 剣が一瞬にして俺の腕に迫る。

 スローモーションに感じる世界で、目の前を剣が通り過ぎていく。

 鈍い光沢を放つそれは、見るからに切れ味が良さそうで。

 剣が通り過ぎた後に見えた天子は、三日月のように口を歪めていた。

 

 俺は真っすぐに天子を見つめる。

 目を逸らす事も、瞬きをする事も無く真っすぐに奴を見ていた。

 そうして、突風が吹いて――剣が地面に触れた気がした。

 

 

 

 ゆっくりと視線を手に向ければ……何ともなかった。

 

 

 

 剣を見れば、床に触れた刃の部分が乱れている。

 精巧なホログラムであり、実在するのは柄だけだろう。

 天子を見れば、ムスッとした顔をしていた。

 

 奴は頬杖を突きながら、ジトッとした目で俺を睨む。

 不満を露わにしているが、その頬は薄っすらと赤くなっている。

 

「……何じゃ、つまらんのぉ。もっと焦るかと思ったが……はぁ、もうよい。好きにせい」

 

 天子が手を叩けば、顔を隠した手下が去っていく。

 奴は疲れたからもう寝ると言い出していた。

 俺はそんな奴を止めて、聞きたいことを聞こうとした。

 しかし、それよりも早くに奴が俺の言葉を遮って奴が説明する。

 

「ゴースト・ラインとは繋がっていた。シナリオの事も多少は知っている。お前を騙していたのも事実だ。だが、本当はオーバードを奪い取って我が物にしようと考えていた……ま、持っているだけでは意味が無いがな。宝の持ち腐れだ。お前を傀儡に出来れば良かったが。今ので理解した。お前はドがつく程の馬鹿だ。大馬鹿者だ……いいさいいさ。諦めよう。使えぬ力に固執しても、時間の無駄じゃ。騙していた事の詫びと、お前の働きの報酬として潜水艇をくれてやる……あぁそれと、ミネルバも連れていけ。奴が渦まで案内してくれる……これで、満足かぁ」

 

 天子は早口でそう言った。

 俺は笑みを浮かべながら、奴に対して頭を下げる。

 奴は欠伸をしながら、手をひらひらさせて早く行けと命令する。

 邪険に扱っているように見えても、奴なりに俺を気遣ってくれている。

 悪い奴じゃない。奴はやはり、良い君主だった。

 振り返ればミネルバが立っていて、彼女は俺を鋭い目で見てきていた。

 

 ……分かっているさ。

 

 

「天子」

「……何じゃ」

「ありがとう」

「……ふん。愚か者め」

 

 

 天子は鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 俺はミネルバに顔を向けて、これでいいかと顔で語る。

 すると、ミネルバは静かに頷いて納得してくれた。

 

 潜水艇はやはり出来上がっていた。

 渦の位置も突き止めていて、これで告死天使を追う事が出来る。

 俺はミネルバの横に立つ。

 すると、ミネルバは手に持った端末を操作した。

 

 光に包まれながら、俺は座っている天子を見る。

 奴はジッと俺の事を見つめていて――何だ?

 

 

「――」

 

 

 奴はにやりと笑ってから、口を動かした。

 何かを喋った様子だが声が聞こえなかった。

 聞き返したかったがもう遅い。

 完全に光に包まれて、次に目を開ければ……此処は?

 

 天狼閣の中じゃない。

 開けた場所であり、大きなドーム状の施設の中には幾つかの船が存在する。

 ミネルバは無言で歩き出して、俺は慌てて彼女を追った。

 作業服を着たスタッフが、ミネルバに挨拶をして去っていく。

 彼女は無言で彼らの挨拶を聞き流しながら、潜水艇らしきものの前で止まった。

 海水の中に浸かっている潜水艇で、その外観は俺が想像していたものとは違う。

 海の色と同化するような特殊なコーティングが施されていて、形は楕円形というよりはゴツゴツとしている。

 幾つものセンサーが取り付けられていて、潜水艇の両脇には折りたたまれたアームのようなものと魚雷の発射管のようなものまであった。

 

 スクリュー式のように見えるが、肝心のスクリューらしきものは無い。

 丸い円状のカバーがあるだけで、ミネルバに質問をすれば仕様だと言う。

 

「目に見えるものでは頼りないですから。超音波により、水流を操作する様になっています……同じ潜水艇が敵であれば、発見されるリスクは高まりますが。機動力を重視していますので。問題はありません」

「……東源国の技術力は、俺の想像以上だな」

「えぇ当然です。貴方程度が理解できる筈はありませんから」

 

 ミネルバは眼鏡をくぃっと上げて鼻を鳴らす。

 相変わらずの自信であり、流石としか言いようがない。

 俺は笑みを浮かべながら、浮かんでいるそれを見つめる。

 これが最後の旅になるかもしれない。

 神殿に向かった告死天使。そして、それを追う俺たち。

 果たして、何方が先に着くのか……これは賭けだ。

 

 何としてでも、告死天使の手に渡る前にオーバードを奪取する。

 可能ならば、その場で破壊したいところだが。

 恐らく、そんな余裕は無いだろう。

 そもそも、オーバードが破壊できるものなのかさえも分からない。

 だったら、先ずは奴の手から遠ざける必要がある。

 

 この旅で、終わらせる。

 ゴースト・ラインの目的もこれで完遂されて消滅していく。

 告死天使とアルタイルの野望も、潰える事になる。

 俺の手で、全てに決着をつける。

 

 

 それが、死んでいった人間たちの想いを遂げる事に繋がるから。

 

 

「……行こう。全てを終わらせに」

「……はい。それが私の仕事ですから」

 

 

 潜水艇のハッチがゆっくりと開く。

 俺は設置されたスロープを上がっていく。

 カツカツと響く音。そして、俺の心臓の鼓動も静かに早まっていく。

 

 奴との再会は近い。

 アルタイルも、その場所にはいるだろう。

 全てを終わらせる為には、乗り越えなければならない事が幾つも存在する。

 自らの罪と向き合い、俺は受け入れた。

 だから、アルタイルとも――向き合わなければいけない。

 

 中へと入り、俺は適当な席に座る。

 スタッフが既に何名か待機していてシステムのチェックをしていた。

 ミネルバが中へと入り、スタッフたちに声を掛ける。

 彼らはミネルバを司令官として彼女の命令に従う。

 俺も何か手伝う事はあるかと聞けば、ミネルバは黙って座っている様に言ってくる。

 

「……貴方には神殿に行くという大仕事があります。それまでは、私たちに任せてください」

「……分かった。頼りにさせてもらう」

「えぇ、結構です」

 

 ミネルバの頼りになる言葉を聞いて、俺は笑う。

 不安も恐怖も無い。未来何て分からなくても関係ない。

 俺は俺の出来る事をする。

 

 ミネルバの指示を受けて、潜水艇が動き出す。

 潜水艇を固定していたアームが外される音が聞こえて。

 俺は椅子にしっかりと座りながらディスプレイを見る。

 ゆっくりと進みだして、前方のハッチが展開されていく。

 ミネルバと俺とスタッフを数名乗せた潜水艇は、渦を目指して動き出す。

 俺は拳を固く結びながら、しっかりと前を見つめる。

 

 

 ――アルタイル。今から、お前に会いに行く。待っていてくれ。

 

 

 いるかも分からない妹。

 心の中で、彼女に会えることを強く望む。

 決して幸せな再会にはならないだろう。

 でも、俺はもう逃げない。

 お前と向き合う為に――今度は俺がお前を探しに行く。

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