【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
現実ってのは非情だ。
どれだけ抗おうとも、どれだけ戦おうとも終わりが来る。
唐突に。突然に、アッサリとな……。
物語の主人公のように力があっても、結末を変える事は出来ない。
誰もが憧れるような操縦テクニックを持っていても、理不尽な最強には勝てない。
マサムネがどれだけ強くても……救えない人間だっている。
ショーコも、ゴウリキマルも死んだ。
元気に笑っていたアイツ等が、だ。
死ぬ姿何て想像できない。いや、想像もしたくなかった。
死ぬ筈は無い。死ぬ事なんて無い。
そう思っていたアイツ等は、もうこの世にはいない。
死んだ。アッサリと死んだ。
雪が溶けて消えていくように、姿も残さずに灰になった。
残された遺灰を手に取って、バネッサはそれを瓶に入れた。
マサムネの前では泣かなかったトロイやレノアも、声を上げて泣いていた。
俺も……泣きたかったさ。
でも、俺は泣けない。泣いたら……誰がアイツ等を……っ。
ゴウリキマルの火葬を終えて、バネッサはその遺灰を海に撒くと言った。
誰も反対する者はいない。
彼女の遺体を家族の元へと届けようと誰かが言ったが、それは出来ない。
現実に行けるのは俺くらいのもので、どんな面をして無残な姿になった娘を見せられるというのか。
殴られる覚悟はあっても、絶望する親の顔なんざ見たくない。
子供を失った人間が取る行動なんて腐るほど見て来た。
だからこそ、親には伝える事はしない。
ゴウリキマルも覚悟を決めていた。
もしかしたら自分が死ぬかもしれないと少しでも思っていたのだろう。
アイツは俺やバネッサに対して、もしもの時の場合を想定して自分の始末を伝えて来た。
道半ばでくたばったら、遺灰は海にばらまけと。
そして、絶対に家族には伝えないで欲しいとも言っていた……損な役回りだ。
探偵を初めてから、良い事なんて何一つない。
人間の汚い部分を見せられ続けて、この世界でも多くの人間の欲望に触れた。
嫉妬に欲望。他人の弱みを握る為なら、幾らでも金を払う人間たち。
そして、そんな依頼人の醜い欲望を叶える為に、多くの人間の涙を見て来た。
命を狙われた事だって嫌というほどある。
探偵ってのは弱者の味方じゃない。金払いの良い人間の小間使いだ。
殴られ罵られて、プライドも何もかもを捨てて生きる為に秘密を暴く……うんざりだ。
世界の姿が変わろうとも、人間の本質は変わりはしない。
俺はそんな人間に嫌気が差して、傭兵なんて職業についていた。
最初はただの気まぐれだ。嫌な現実を忘れる為のお遊びで。
まぁセンスがあったから、今も続いているのだろう。
命を懸けた戦いでも思考はクリアで、自分が死ぬ姿何て想像していなかった。
危険な賭けには出ない。安全圏で高みの見物を決め込むのが俺だ。
皆、自分の事で手一杯で他人の幸福には感心なんて無いのだ。
俺自身も、他人の幸せ何てどうでも良かった。
金さえ貰えれば何だって良い。飯を食えるのなら、何だってする。
そうして、誇りを捨てた野良犬として生きて来た……変わったのは、アイツ等のお陰だ。
唯一、U・Mだけは他とは違っていた。
此処でメリウスに乗って戦っている自分は、現実世界でヤニを吸うくたびれた男ではない。
ただ一人の傭兵であり、誰も俺を縛ろうとはしない。
温かい仲間たちに、馬鹿みたいに笑って酒を飲む阿保共。
毎日毎日うるさくて、夜だって真面には寝られない。
だけど、俺は幸せだった。俺が求めていたのはこれだった。
馬鹿みたいに騒いで、熱くなるほどの戦いに身を投じて。
一生懸命になれるほどの物事に、仲間たちと全力で挑む。
自由だ。自由だった。
そして、俺は犬ではなく人間として生きる事が出来た……でも、それだけだ。
自由を手にしようとも、人間に戻ったとしても。
俺の見た目は変わらない。
心だって変わりはしないのだ。
俺は人間で、心が汚れてしまった大人だ。
けど、どの世界に行っても……仲間を失うのは辛いよな。
大切な仲間だった。
そんなに長い時間を共にしていた訳じゃない。
それでも、俺たちの中には確かな絆があった筈だ。
ゴウリキマルはじゃじゃ馬であり、マサムネがいなければ誰も制御が出来ない。
でも、アイツはアイツなりに周りに気を遣っていた。
傍から見れば好き放題やっているように見えるが、アイツが一番苦労していた筈だ。
ショーコだってそうだ。
俺はアイツを疑っていたが。
心の底から仲間だと思っていた。
そんな筈は無いと可能性を否定し続けて、結果的にはアイツは……いや、いい。
死んだ人間の悪口なんて言いたくない。
そんな事をしても胸糞が悪いだけで。
俺は酒瓶を持ちながら、ぐびぐびと中身を飲んでいった。
こんなものなんて好き好んで飲みはしない。
ただ自分の感情を誤魔化す為に呑んでいるだけだ。
湧き上がる黒い感情を抑え込む為に、こんなものに頼っちまう。
良い事なんて無い。寧ろ、逆効果だろう……頭で理解しても、これを求めてしまう。
もう、俺たちに出来る事は無い。
ゴウリキマルの護衛に失敗して、マサムネは一人で行ってしまった。
此処から先は奴の物語であり、俺たちは静かに退場していくだけだ。
それがきっと正解なんだろう。それがきっと道筋なのだろう――ふざけるな。
俺は乱暴に口元を拭ってから、酒瓶を放り投げる。
どれだけ飲もうとも、どれだけ酔おうとも。
ふつふつと沸き上がる怒りは鎮まらない。
俺の意識は嫌なほどにクリアであり、切り株から腰を上げてから海原を見つめる。
そうして、大きく息を吸ってから声を張り上げた。
「俺も連れていけッ!!! クソ野郎ッ!!!! 仲間だろォ!!!!」
普段の自分じゃない。
諦観して、クールを気取った俺じゃない。
感情のままに、声を張り上げていた。
だが、俺の叫び声は波に搔き消される。
陸に打ち付けられるさざ波の音に掻き消されて、俺は呼吸を荒げながら水平線を睨みつけた。
他の人間はついていけなくとも、俺はついて行けた。
アイツ一人に行かせずとも、俺もファストトラベルを使えば良かった。
だけど、アイツは俺を連れていかなかった……あぁ、分かっているよ。
アイツは強い。異名がつくほどの腕前だ。
告死天使と真面にやり合って、いい勝負が出来るのだから当然だ。
一方で、俺の腕ときたらアイツよりも二つも三つも劣るだろう。
自信はある。だけど、本物にはまるで敵わない。
俺は現世人であり、この世界では偽物だ。
メッキの傭兵如きではダメだ。逃げ道を作っている弱者では到底届かない高み。
奴らはそこに到達した数少ない本物で、俺如きでは足元にも及ばないだろう。
得意の射撃センスであっても、アイツには勝てないのだからな……笑っちまうよ。
自分が劣っている事なんて理解している。
自分が弱い事なんて、嫌でも分かっていた。
アイツはこの先で、告死天使と戦う事になる。
最強の称号を持つ男であり、横やりを入れれば瞬殺されるだろう。
俺は足手まといであり、下手をすれば人質にされるかもしれない。
アイツはそれを理解していて、俺を置いていった。
俺が弱いから、俺が使えないから……いや、俺の勝手な思い込みだ。
分かってる。分かっているよ。
俺がネガティブなだけで、アイツは俺の事をそんな風に想っていないと。
でも、それでも、声を掛けてくれれば俺もついて行った。
今此処で、一人で酒を飲んでいる俺は……結局の所、怖くてついていけなかった負け犬だ。
怖いさ。怖いとも。
現世人である俺は死んでも生き返ると言っても、誰だって死ぬのは怖い。
一度だけの死を何度も何度も経験するなんて言ったら、頭がおかしくなっちまうだろう。
俺は怖かった。アイツについて行って、告死天使に殺される自分を想像して。
足が竦んでしまった。未練がましく心の中で連れて行ってくれなんて言っても。
心の中ではホッとしていた筈だ。
最低だ。最低な男だよ、俺は……。
その場に膝をついて、俺は片手で顔を覆う。
そうして、口から絞り出すように言葉を吐きだす。
「どうしろって言うんだ……俺には、何も……ッ!」
顔を上げた。
音が聞こえてきて、目を向ければ何が飛んできている。
そうして、頭上を凄まじい勢いで何かが通過していった。
突風が吹いて、俺は地面を掴みながら耐える。
そうして、通り過ぎて行ったものを見つめた。
アレは何だ。アレは一体……来るぞ!
機体を旋回させてから、何かが島へと着陸する。
ホバーリングしながら着陸したそれは、可変式のメリウスで。
凄まじい機動力を持った可変式のメリウスなんて聞いたことが無い。
俺は完全に酔いを醒まさせて、機体が降りて行った場所に駆けて行った。
走って、走って、走って。
木々を掻き分けて、走って行って――いた!
可変式のメリウスのコックピッドのハッチが開く。
戦闘機のようになったそれからは人が降りてきていた。
一人はパツパツのスーツを着た強面の男で。
もう一人はフルフェイスのヘルメットを被った小柄な人間だった。
スーツの男はジャンプをして地面に着地する。
どすりと音を立てて、パラパラと草が舞う。
そうして、スーツの皺を正しながら立ち上がった男は、近寄って来た俺の前に立つ。
ニコやかに笑ってはいるが、ただものではないとすぐに分かった。
俺は強い警戒心を抱きながら、腰のホルスターに手を伸ばす。
何時でも抜けると相手に警告しながら、俺は目を細めて――奴が手を挙げる。
「やぁ、私はファースト。ゴースト・ラインの……元幹部だ」
「……元幹部様が、何の御用で? 生憎と、アンタが会いたがっている人間は此処にはいないぜ」
「あぁ、分かっている……が、私が会いたいのは彼じゃない」
ファーストと名乗った元幹部の男は笑う。
そうして、俺に片手を差し出しながら言葉を発した。
「私が会いに来たのは――君たちだ」
「……何が目的だ」
「目的はただ一つ。共に告死天使と戦おう」
「……お前、正気か?」
この男は、告死天使と戦うつもりなのか。
それも、俺たちを連れて戦いに行こうと言った。
狂っている。真面な思考の人間じゃない。
奴と相対して勝てる筈がない。
殺されるだけだ。そんな事も理解できないのか。
俺たちが行ったところで、ただの足手まといで――
「何時まで、殻に閉じこもるつもりかね?」
「……お前に、何が分かる……俺たちには力が無い。俺たちには何も……」
「無いものを求めるな。あるもので戦え。それが傭兵の流儀ではないのかね?」
「……俺は役に立てるのか。本当に、俺が行っても」
「――来い。そして、戦え。それだけだよ」
「……ッ!」
ファーストは笑みを消してハッキリと言った。
無いものを求めず、あるもので戦えと。
奴は行った。ついて来いと。
此処まで言われて、俺は黙っていていいのか――駄目に、決まっているだろッ!!
俺は奴の手を弾いた。
乾いた音が鳴り響いて、俺はニヤリと笑う。
奴は呆けた顔で俺を見つめていた。
「お前は敵だ。敵とは握手はしない……連れていけ。戦いに行くぞ」
「……ふふ、それでこそだ。仲間を連れてきなさい。少々狭いが、我慢してくれよ」
ファーストは後ろを向いてフルフェイスの人間を見る。
そいつは呆れたような動作をして肩を落としていた。
ボタンを押せば後ろのハッチが開いて座席が現れた。
何とか人数分は乗れそうであり、俺は安堵した。
俺はすぐにトロイたちを連れて来る事を伝えて去っていく。
理由も、敵かどうかもどうでもいい。
俺は戦いたい。マサムネの為でも、ゴウリキマルたちの為でも無い。
俺自身の為に戦いたかった。
負け犬じゃない。野良犬でも無い――俺は人間だ。
自分の価値は自分で決める。
誰でも無い、俺自身が行動で示して価値を示す。
その為に、俺は敵からの誘いに乗った。
言葉を交わす必要も無い。俺は傭兵だ。
依頼を受けて、敵を倒して生き残る……それがこの世界での俺だ。
後ろからファーストが「急いでくれよ!」と言っていた。
分かっているさ。誰も俺たちを待ってはくれやしない。
だから、俺たちが奴らに追いつかなければいけない。
もう迷いはしない。もう恐れはしない。
俺はこの世界で、本当の仲間を見つけた。
探偵としてじゃない。傭兵としての仲間で。
今まで助けてくれた仲間を、今度は俺が助ける番だ。
確かな決意を抱きながら、俺は走って行く。
先に行った仲間を追いかける為に、俺は足を前へと動かしていった。