【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
日が昇り、冷たい風が吹く海上。
無数のメリウスが交戦して、綺麗な青空には黒煙が広がる。
スクラップが海へと落ちていき、綺麗な海を穢していく。
爆発音が連続して響き、空薬莢が宙を舞う。
スラスターから出るエネルギーの粒子が空に線を描く。
その光景を見ながら、俺は操縦レバーを強く握って敵をロックオンした。
海面を専用のホバーボードで滑りながら、プラズマライフルの照準を敵に合わせる。
ターゲットサイトが重なった瞬間にボタンを押す。
しかし、敵は俺の攻撃を予想していたかのように軽やかに回避した。
無数の無人機たちの相手をしながら、海上を走る俺たちからの攻撃にも対処している。
敵だけど、メリウスの操作技術は賞賛してしまいそうになるほどに上手かった。
オッコに誘われてこんな所まで来ちまった……でも、後悔はしていない。
ファーストとかいうおっさんは信用できない。
でも、ショーコの事を話していたおっさんの目は優しかった。
仲間の事を大切に想っていた事は理解できた。
俺たちにとってはそれだけでついて行っても良いと思えた。
同じ仲間だ。ショーコの事を大切に想っていたのなら、それでいい。
俺たちは途中で乗り込んだ輸送船に積んであったメリウスに乗り換えて。
敵である告死天使の仲間たちと戦っていた。
相手はSランク何て目じゃないほどの傭兵で。
本当であれば逆立ちしても敵わないだろう。
でも、俺たちには新しいメリウスがある。
水上走行型のメリウスであり、足場がほとんどないフィールドでの戦いで。
奴らはエネルギー残量に気を遣わなければならない。
帰りのエネルギーが尽きれば、奴らは海の藻屑となるだけだ。
その点、俺たちにはボードがあり墜落する危険性は無い。
戦場においてアドバンテージを獲得した俺らの方が優位な筈だった。
それに、俺たちはマサムネを守れればそれでいい。
奴らを倒す事まで考えなくてもいいのだ。
生き残る事を最優先にして、マサムネの進路を守る。それだけだ。
ホバーボードの出力を調整しながら、空を舞う敵を見つめる。
無数にいる無人機を相手にしても、奴らからはまるで怯えを感じない。
それどころか、流れ作業のように片付けていっている。
槍のようなものを持ったメリウスに、両手がマシンガンと一体となったメリウス。
マサムネを攻撃していたランチャーを装備したメリウス……そして、アレだ。
先ほどから、一体だけ戦闘に加わっていない。
安全圏から俺たちを見ているメリウスがいる。
攻撃をする訳でも無い。指示を出している訳でもない。
ただ観察するように、遠くから戦闘の状況を見ていた。
攻撃して見ようかとも思った。
しかし、たった三機だけでも手こずっているのだ。
もしも、もう一体が加わればそれだけ負担は増す。
危険を冒してまで、アレを攻撃する必要は無い。
今はただ、マサムネを守る事だけに集中しなければならない。
その為にも、藪を突いて敵の猛攻を強める事はしたくなかった。
冷静に周りの状況を見ながら、隙を見つければ攻撃を仕掛ける。
何処までも安全で、何処までも姑息な立ち回りをする。
相手をイラつかせればするほどに、ヘイトは此方に向く。
マサムネから意識を逸らさせながら、此方はただ邪魔をするように攻撃を仕掛ければいい。
「レノア、オッコ。武器野郎と近接野郎は任せた。俺はあのランチャーを相手にする」
《了解……ファースト、聞こえているか?》
《ん? 聞こえているとも。危なくなったら何時でもいいなさい。すぐに向かおう》
「……機体の整備はまだなんじゃないのか?」
《んー。まぁそうだが……君たちを助けるくらいは出来るだろうさ。はは!》
「……自信家だな。おっさんは」
俺は笑いながら、敵に連続して攻撃を放つ。
バッテリーが稼働して、凝縮されたプラズマが放たれた。
真っすぐに飛んでいったそれを、ランチャーの男は弾を当てて防ぐ。
爆炎が辺り一帯に広がって、奴の姿が視認できなくなった。
すぐにセンサーを動かしてサーチをして――ッ!!
煙が下へと動く。
そうして、出て来た奴は海面ギリギリを走行しながら銃口を俺に向けて来た。
俺はホバーボードを動かして、進路を九十度変更しながら態と前面に波を作った。
バシャりと機体全体を覆いつくすような大波が出来上がって。
奴のランチャーの狙いが僅かに逸れた。
装甲を軽く撫でて、背後に着弾したそれが大きな音を立てて爆ぜた。
水柱が勢いよく上がって、パシャパシャとしぶきが装甲に当たる。
内側に響く水音を聞きながら、俺は呼吸を整えて敵から距離を取る。
出力を一気に上げて、敵から離れようとして――追ってきたッ!
《……さっきからうぜぇんだよ。蠅がッ!!》
「そりゃ良かったよッ!!」
背後から追走してくる敵に対してプラズマ弾を放つ。
出力を抑える事によって可能な限り連射をした。
威力はそれほどでも、当たれば敵のセンサーを誤作動させる事くらいは出来る。
敵もそれを理解している様で、器用に機体を回転させながら全てを避けていた。
水しぶきを上げて奴の視界をかく乱しようとした。
しかし、奴は吹き上げる波などお構いなしに突っ込んでくる。
まるで、環境の変化何て関係ないと言わんばかりで……天才ってのはどうしてこうも強気なのか。
マサムネを思い出すような自信。
だからこそ――お前へと対処もすぐに思いつくんだよッ!!
プラズマ砲を二丁とも海面に向ける。
出力を限界まで上げて、それを勢いのまま放つ。
すると、海面が超高温に熱せられた事によって蒸気が発生した。
周囲一帯を蒸気が包み込み、敵も内部に侵入してきた。
俺はそれでも、連続して海面にプラズマ弾を撃ち込み続ける。
もっと濃く、もっと派手に広がれ。
そうして、完全に視界が白一色に染まって。
俺はホバーボードを操作して、レーダーに表示される敵に突っ込んで行く。
距離を縮めながら、俺は勢いよくボードを蹴って上に飛んだ。
そうして、エンジンを停止させて空中に浮遊する。
たった数秒。それだけの時間だ。
しかし、その瞬間に敵の攻撃が放たれた音が響いた。
殺される――瞬間、そう思った。
しかし、俺は生きていた。
賭けに勝った。それを確信して、俺はエンジンを再始動させる。
そうして、ディスプレイが表示された瞬間に眼前に見えた敵に銃口を向けた。
敵が驚いているのが分かった。当然だ。奴はレーダーを頼りに俺を攻撃してきた。
ホバーボードの熱源を頼りに攻撃して、奴の攻撃は空を切ったのだ。
まさか、空中に飛び上がってエンジンを停止する馬鹿はいない――アイツみたいな馬鹿以外はな!
プラズマ弾を奴へと放つ。
すると、俺のプラズマ弾は奴に命中して――逸れた。
「――ッ!!?」
確実に命中した筈だ。
確実に虚を突いた筈だった。
躱す事が出来たのは、奴の驚異的なまでの操縦センスがあってこそだろう。
視認した瞬間に、条件反射で最適な動きをしたってのか……化け物め。
装甲を焦がして、ズクズクに溶けている。
それでも、大破させるまでには至っていない。
俺はスラスターを動かして、奴から距離を取った。
そうして、ボードに再び乗り移ってから奴を見た。
静かだ。奴はただジッとその場に浮遊している。
何をしているんだ? 何を考えて――
《ぶっ殺してやるよ。三下》
底冷えするような低い声が響いた。
その瞬間に、ランチャー野郎は機体をブーストさせた。
一気に四連続もブーストさせて。
眼前に迫ってそれに攻撃を仕掛けようとして――奴が消えた。
「どこ――ぐぁ!!」
背後から強い衝撃を受けた。
コックピッド内が激しく揺さぶられて、警報が鳴り響く。
揺れるレバーを制御しながら、背後を向けば敵はいない。
何処に行ったのかと索敵しようとして――ボードを使って緊急回避した。
進路を強制的に変更して右に逃げた。
すると、先ほどまでいた場所に炸裂弾が撃ち込まれた。
見えない。何も見えない。
恐ろしいまでの機動力。いや、アレは瞬間的な加速度が高いのか。
雷切以上の加速力であり、肉眼は勿論の事。
レーダーで捉える事も不可能に近いかもしれない。
《楽には殺さねぇ。嬲り殺しだ》
「は、はは。上等だ……やっちまったかなぁ」
後悔しても遅い。
俺は敵の闘争心に火をつけてしまった。
せめて、ファーストのおっさんの機体の整備が間に合うまでは持ちこたえたい。
あのおっさんは、一度はこいつらに勝ったと言っていた。
多分、それは嘘じゃないと思う。
来てくれれば勝機はある。
持ちこたえればいい。
来るまでだ。来るまで――無理ゲーだな!
限界までレーダーの感度を底上げする。
これでは他の障害物まで索敵してしまうかもしれないが。
高速移動をする敵を見失うよりかはマシだった。
縦横無尽に空を駆ける敵に照準を合わせようとする。
しかし、狙いは一向に定まらない。
サイトが全く重ならず。敵はその間も此方に攻撃を仕掛けて来る。
爆発。衝撃。爆発爆発――緊急回避の連続だ。
機体に無理な動きをさせれば悲鳴を上げ始める。
ボードも少しだけ被弾していたのか、出力が低下している気がした。
限界まで機動力を上げて、攻撃を回避しながら。
やけくそで敵へと攻撃を仕掛ける。
せめて、牽制程度の効果を発揮してくれればそれでいい。
俺はそう思いながら、敵との戦闘を続行する。
オッコやレノアは問題ないだろう。
アイツ等はそう簡単にはくたばらない。
俺は仲間を信じて、自分が出来る事をするまでだ。
コアが限界まで稼働する。
機体全体にエネルギーを供給していって。
コックピッド内が薄っすらと温まっていく。
それを感じながら、俺は笑みを深めて敵を見つめた。
マサムネ、早く、早く行ってくれ。
神殿へ行って、オーバードを手に入れるんだ。
こいつらに渡しちゃいけない。
戦ったから分かる。こいつらは碌でもない奴らだ。
そんな奴らが力を手にすればどうなるか。
俺たちは嫌というほど見てきた筈だ。
最悪の未来を防ぐ。
その為に、俺たちは敵とも手を組んでいた。
敵の敵は味方なんて言うが、俺は今でもゴースト・ラインが憎い。
どんなに正当な理由があろうとも、奴らの仕出かした事を許すつもりは無かった。
だけど、この世界は俺の故郷だ。
自分の故郷は自分の手で守りたい。
この星を死なせたりはしない。
その為なら、幾らでも手を組んでやる。
「……頼んだぜ。相棒」
俺は神殿を目指す相棒にエールを送った。
全てにケリをつけて、ゴースト・ラインも告死天使もいなくなったのなら。
その時は、俺がマサムネや仲間たちに上等な酒を奢ってやる。
死ぬほど飲ませてやる。嫌って言っても飲ませる。
だから――死ぬんじゃねぇぞ。
俺はレバーを強く握りながら、敵へと攻撃を続けた。
空中でプラズマが爆ぜて粒子が舞う。
それを静かに見つめながら、内から湧き出る闘志をメリウスに流し込んでいった。