【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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244:最高の冒険でした

 不動の敵を前にしながら、俺は奴の周りを飛行する。

 高速戦闘状態の中で、奴をかく乱し動揺を誘おうとした。

 しかし、相手は全く動じる事無く。

 ただジッとその場に浮遊していた。

 

《エネルギー充填率120パーセント到達》

「……一か八かだ」

 

 やるしかない。

 相手が動く気が無いのなら好都合だ。

 化け物は油断をしている。

 圧倒的な力を手にして、悦に浸っている。

 神にでもなったつもりで、余裕の姿勢を見せているのだ。

 俺はその余裕をついて、奴を倒す。

 

 エネルギーを更に充填させながら、俺は奴を睨みつける。

 シリンダーが激しく回転しながら、周りの空間を熱で歪める。

 コアもフルで稼働していて、コックピッド内が温まっていく。

 それを感じながら、奴の背後に回った。

 

 機体をピタリと止めて、プロミネンスバスターの銃口を奴へと向ける。

 エネルギーの充填率は百五十パーセントを超えていた。

 これで決まるなんて思っていない。

 こんなものでアレを倒せるとは思っていない。

 

 試してやる。無敵のバリアを剥がせるかどうか、今此処でッ!

 

 

《エネルギー充填率200パーセント到達》

「消し飛べッ!!!」

 

 

 AIからの報告を聞いた瞬間に、俺はボタンを押した。

 カチャリと音がして、銃口に光が一気に集まり――勢いよく放たれた。

 

 轟音を立てながら、レーザーが銃口から溢れ出す。

 決壊したダムのように溜まりに溜まった特大級のエネルギーが一気に放出された。

 真っすぐに飛んでいき、凄まじい熱量のそれが周りの空間を歪める。

 全てを焼き払い、消し去るほどの威力で。勢いの乗ったそれが純白のメリウスにかち当たる。

 

 触れた瞬間に、エネルギーが周りへと飛び散った。

 そして、甲高い音が鳴り響く。

 衝撃が凄まじい。空気が激しく振動していて、俺は歯を食いしばってそれに耐えた。

 街一つどころか、都市一つを壊滅させる事が出来るほどの威力。

 使用する事を禁じられた兵器であるのなら、奴の防壁を崩す事も出来る筈だ。

 

 俺は限界まで、奴に対して攻撃を続けた。

 視界は強い光に包まれていて、俺はその先にいる奴を睨みつけた。

 溜まりに溜まったエネルギーを全て出し尽くすまで放ち続ける。

 甲高い音は奴のバリアを削っている音だと信じて、俺は強くボタンを押し続けた。

 

 いつの間にか、俺は強い雄叫びを上げていた。

 声を枯らすほどに、俺は闘志を燃やして叫ぶ。

 

 強く、強く、叫んで――恐怖を塗り潰そうとした。

 

 やがて、凄まじい質量を伴ったレーザーの放出が止んでいく。

 極太のそれが細くなっていって、ゆっくりと掻き消えて行く。

 限界まで放った事によってバレルは真っ赤に赤熱していた。

 冷却装置が作動して、バレルが一気に冷却される。

 先端まで冷気が行きわたって、一時的に銃器を使用が出来なくなった。

 だが、これで奴の防壁は解けた筈だ。

 そう信じて、煙に包まれている奴を見つめる。

 

 

 瞬間、俺の勘が働いてその場から緊急回避をした。

 

 

 ペダルを強く踏みつけて、後方へと飛んでいく。

 心では分かっていない。体が勝手に動いただけだ。

 見れば、俺が立っていた場所に光の柱が立っていた。

 全てを破壊する黒いエネルギーであり、虚空からそれが放たれた。

 たった一本のレーザー。しかし、海面に触れた瞬間に――大きな穴が空いた。

 

 爆音が響き渡る。

 音が遅れて聞こえてきて、強い風圧に機体が襲われた。

 巨大なクレーターが一瞬にして出来上がり。

 穴を埋める為に、海水が流れ込んでいく。

 街を飲み込むほどの波が発生していて、大渦は更に大きくなって荒れ狂っていた。

 打ち上がった海水が、雨のように降り注ぎ機体をパシャパシャと当たっていた。

 

 俺は一瞬の光景で、心臓を激しく鼓動させていた。

 たった一発。たった一度の攻撃で、アレほどの威力だ。

 此方が限界まで溜めた一発を、あっさりと超えて来た。

 あり得ない。あり得るのか。真面じゃない。

 

 信じがたい光景。しかし、これは現実だ。

 勘で避けていなければ、今頃は機体事消滅させられていた。

 簡単に、アッサリと――俺は殺されていた。

 

 呼吸が乱れる。

 息が苦しい。恐怖が、死への恐れが、俺の体を鈍くさせる。

 ダメだ。恐れるな。止まっちゃいけない。

 俺はそう自分に言い聞かせながら、敵を睨みつけていた。

 

 瞬間、奴の纏っていた煙が晴れる。

 何の動作もせずに煙を払い。

 奴は背中のスラスターから黒いエネルギーを噴きだしていた。

 その黒いエネルギーが翼のような形をして揺らめいている

 白鳥のように綺麗な機体は、全てを飲み込むほどの力を体現していた。

 

 勝てない。勝つ事は出来ない。俺は此処で――まだだッ!!

 

 まだ、俺は力を出し尽くしていない。

 何の為に戻って来た。何の為に戦うと決めた。

 俺は逃げない。俺は戦う。

 最期まで、俺は諦めたりしない。

 

 奴がゆっくりと片手を上げる。

 頭上に伸ばした手の先に黒いエネルギーが集まっていく。

 それは形を成していった。

 俺の心が強い警鐘を鳴らしていた。

 アレはダメだ。アレを出させてはいけない。

 何も分からないが、本能が全力で危機を教えている。

 

《高濃度のエネルギー反応を検知。危険です。すぐに退避してください》

「逃げられないよ。何処にもなッ!!」

 

 冷却が完了した。

 俺はすぐにエネルギーを再充填し始めた。

 コアを限界まで稼働させながら、奴の周りを飛ぶ。

 そうして、四方八方から奴の機体に向けて攻撃を開始した。

 

 あらゆる角度から攻撃をする。

 全力での攻撃が通じないのであれば、バリアの隙を見つける。

 セーフティーを解除して機動力を底上げしながら、俺は攻撃を続けた。

 

 相手の意識外からの攻撃。

 それを実行する事は容易じゃない。

 何度も何度もブーストをして進路を強制的に変更すれば、体から悲鳴が上がる。

 雷切がどれだけ優れた機体であろうとも、体に掛かる負荷を完全に消す事は出来ない。

 俺は強く歯を食いしばりながら、奴へと攻撃を続けた。

 轟音が響き渡り空気が激しく振動する中で。

 奴には全くと言っていいほどダメージが通っていない。

 傷一つ、汚れ一つ付く事は無い。

 ただそこに浮遊して、手の先から何かを顕現させようとしていた。

 

 俺はそんな奴を見つめて――機体をブーストさせた。

 

 連続使用のブーストであり、体から嫌な音が聞こえる。

 くぐもった声を上げながら、俺は天上から降り注ぐ光を避けていった。

 一瞬、また本能が働いて攻撃を避けられた。

 何の予備動作も無く、音も無く降り注ぐそれを俺は避けていく。

 雨のように降り注ぐ限界の無い攻撃が、俺の機体を破壊しようと襲い掛かって来た。

 俺はそれらを縫うように回避して、限界まで目を見開いていた。

 

 前へと飛べば進路を塞がれて、バーニアを噴かせて右へと回避。

 横合いから何かの気配を感じて、上へと飛べば横から特大のエネルギーが放たれる。

 速度を跳ね上げる事によって、頭上から降り注ぎ続けるそれを回避していく。

 

 

 回避、回避、回避、回避回避回避回避回避回避回避――被弾。

 

 

「しま――ッ!!?」

 

 

 回避行動が間に合わない。

 眼前から何かの気配を感じたが、手汗でレバーを握った手が滑った。

 スローモーションに感じる世界で、心臓の鼓動が跳ね上がる。

 AIが機転を利かせて補助操作によって機体を操作する――が、間に合わない。

 

 一瞬の閃光。

 それと共に、目の前が光に包まれる。

 俺は呼吸を止めて、目の前の光景をただただ見つめていた。

 

 終わる。此処で死ぬ――そう思った。

 

 凄まじい破壊音が響き渡って、コックピッド内で火花が散る。

 計器がイカれて、ディスプレイに映る映像が大きく乱れた。

 赤い警告灯が激しく点滅して、機体の損壊状況を伝えて来る。

 見れば、右半分がごっそりと持っていかれていた。

 コアも少しだけ露出していて、機体のパフォーマンスは三十パーセント以下まで減衰していた。

 飛んでいるのもやっとの状態で、俺は呼吸を落ち着かせながらレバーを握る。

 ノイズが走るディスプレイを睨みつければ――奴が立っていた。

 

 瞬きする一瞬。その合間に、奴は目の前に現れた。

 目を疑いたくなる。それほどまでの速さだ。

 瞬間移動に近いそれに、俺はただただ震えていた。

 

 何故、殺さない。

 何故、俺を片付けようとしない。

 出来る筈だ。簡単に、アイツは俺を殺せるはずだ。

 なのに手を下さない――弄ばれているだけだ。

 

 簡単に殺せる俺が、必死になって足掻く様を見つめている。

 虫籠に入れた虫を観察する様に、奴はただ見ていただけだ。

 俺が藻掻き苦しむ様を、アイツは楽しんでいるだけだ……クソ野郎が。

 

 その手には、黄金に輝く槍が握られていた。

 心臓の鼓動のように青い光を発して脈動するそれ。

 未だかつてないほどに、俺の心が警鐘を鳴らしている。

 アレは俺を殺せる武器だ。現世人であろうとも関係ない。

 平等に命を終わらせる代物であり、逃げなければ確実に殺されるだろう。

 

 だが、もう逃げる事は出来ない。

 

 機体の半分を削られて、浮遊しているのもやっとの状態だ。

 尻尾を撒いて逃げたところで、追いつかれて殺される。

 一か八かファストトラベルによって逃げるしかない。

 もうそれしか道は無く、俺はすぐに指を動かした。

 

 

 

 瞬間、奴の槍から音が発せられた。

 

 大きく重い鈴の鳴るような音であり、それが聞こえた瞬間に――体の自由が奪われた。

 

 

 

「――!」

 

 

 

 声が出ない。

 

 指一本動かせない。

 

 何が起きた。俺は一体、何をされた――ッ!?

 

 

 

『死ぬ時が来た。受け入れろ――穢れし父よ』

 

 

 

 奴の声が、脳内に響く。

 通信を使っての会話じゃない。

 直接脳内に声を送り込んできた。

 奴は槍の矛先を俺へと向ける。

 奴の周りの空間が歪んで、無数の黒いエネルギーが塊となっていく。

 

 一つ一つが、尋常ならざるエネルギーの塊で。

 それが十を超えて存在している。

 黄金の槍は輝きを増しながら、黒いエネルギーを操る。

 膨張、圧縮、膨張、圧縮――それを無限に繰り返していた。

 

 動け、動いてくれ。

 指の一本でも良い。動かななければ、俺は此処で――っ。

 

 心臓の鼓動は一定だ。

 恐ろしく思えるほどに一定で。

 心だけは正常に目の前の脅威を認識している。

 

 焦り、恐怖、吐き気、絶望、怒り――感情がぐちゃぐちゃになって俺を襲う。

 

 何も出来ない。

 何も言葉を発することも出来ない。

 

 奴への罵声も、現状を嘆くことも。

 俺には許されていなかった。

 奴は神として振舞い、俺から自由を奪った。

 俺はそれをただ茫然と眺めながら、自らの死を待った。

 

 

 此処で、終わり。此処で、何もかもが……諦めるなッ!!

 

 

 俺は強く願う。

 強く運命に抗おうとした。

 此処で終わる訳にはいかない。

 此処で死ぬわけにはいかない。

 俺にはやる事がある。

 

 

 俺はアイツを――倒さなければいけない。

 

 

 美しく残酷なこの世界を、守りたい。

 この世界で出会った全ての人々を守りたい。

 その為ならば、何だってする。

 呪いだろうと、何だろうと受け入れてやる。

 

 

 

 だから、もう一度――奇跡を起こして見せろッ!!!!

 

 

 

 俺は動かない体に力を込める。

 その瞬間に、再び鍵から強い光が発せられた。

 ポケットが熱く。光がコックピッド内を照らした。

 

 消えかけていたシステムの光が強く灯る。

 ディスプレイのノイズが解かれて、AIが何かを起動させた。

 

 

 

《システム復旧。緊急脱出装置起動――さようなら。最初で最後の主よ。貴方との冒険は最高の経験でしたよ》

「――!」

 

 

 

 AIからの言葉。

 それを聞いた瞬間に、コックピッドからガシュリと音が響いた。

 一気に後方へと体が持っていかれて、ディスプレイの映像が機体から切り替わる。

 緊急脱出装置を強制的に作動させたことによって、コックピッドが機体から分離して宙を舞う。

 ディスプレイには、俺を切り離した雷切が、捨て身の特攻を奴へと行っていた。

 俺は心の中で必死になって止めた。

 

 

 行くな。行ってはダメだ。行ったら――

 

 

 黒いエネルギーが放たれる。

 無数の黒いエネルギーが細い線となり、雷切を襲う。

 手足を捥がれて、頭部を破壊されて。

 それでも前へと進んだ雷切は――跡形もなく消し飛ばされた。

 

 残骸が舞う事も無い。

 粒子が残る事も無い。

 そこにいた愛機は、奴の力によって消し飛ばされた。

 奴の手によって、俺を葬らせない為に。

 奴の力で俺を完全に消し飛ばさせない為に、雷切は俺を逃がしてくれた。

 

 体は未だに動かない。

 しかし、頬を冷たい何かが垂れていく。

 声が出ない中で、俺は愛機の最期を見届けた。

 そうして、下へと落下していって。

 勢いのままに海中へと突っ込んで行った。

 

 ゆっくりと沈んでいく。

 その中で、俺は宙に浮かぶ奴を見ていた。

 奴は俺をジッと見つめている。

 機体を失くした俺を、奴はただ静かに見ていた。

 

 殺すのか、仕留めに来るのか――奴は視線を逸らした。

 

 まるで、もう用はないと言わんばかりで。

 奴はゆっくりと上空に飛んでから、一瞬にて何処かへと移動していった。

 何も見えなかった。瞬きの合間に、その場から消えていた。

 残されたゼロ・ツーの機体は、俺を一瞥してから去っていく。

 

 俺は、負けた。

 奴と戦って完膚なきまでに叩きのめされた。

 体はやはり動かない。

 遅かれ早かれ、俺は死んでしまうだろう。

 コックピッドは海中に飲み込まれて行って、渦の中心に引き込まれていく。

 間もなく、死ぬ。ぐちゃぐちゃに潰される。

 

 雷切のお陰で生かされた。

 あの攻撃で消されるよりはマシだが……どうなるのか。

 

 死ぬのはこれで二度目になる。

 何処で目覚めるのかも分からない。

 そもそも、生き返れるのかすら不確かだ。

 不安はあるし、恐怖だって感じている。

 

 

 でも、諦めない。俺は奴とまた戦う。

 

 

 心の中で、闘志を燃やす。

 どんなに強大な敵であろうとも関係ない。

 俺はもう諦めないと誓った。

 最期まで戦って、彼女の願いを果たして見せる。

 渦へと吸い込まれていく中で、俺は決意を固めた。

 

 

 

 ――告死天使を倒して、アルタイルの心を戻す。絶対だ。

 

 

 

 俺は誓う。

 そうして、渦の中に引き込まれたコックピッドがずたずたに破壊されていく。

 中に海水が入り込んできて、強い海流にもまれていった。

 凄まじい力によって肺の中に海水が流れ込んできて。

 息苦しさを感じながら、俺は耐えがたい苦しみに襲われる。

 四肢は引き裂かれて、痛みを感じる間もなく俺は――

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