【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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245:魂を捧げよう(side:トロイ)

 俺たちは、負けた。

 アッサリと負けてしまった。

 突然、海中から現れたアイツが、一瞬で仲間たちを……クソッ!

 

 圧倒的だった。

 何が起きたのかさえ、今でも理解できていない。

 現れた白いメリウスが、瞬きの合間に敵も味方も関係なく戦場にいた全てのメリウスを破壊した。

 俺は咄嗟に反撃をしようとしたが、奴の攻撃を受けて自分の機体も大破させられて。

 体の自由も利かなくなり、意識も一瞬で消えた。

 

 俺たちはファーストの仲間であるフォーという奴に助けられた。

 此処までは奴が運んでくれて、俺たちは暫くの間眠っていた。

 目を覚まして医者のおっさんに説明されて、俺はすぐにファーストたちは何処かと聞いた。

 すると、医者のおっさんは答えずらそうな顔をしていた。

 

 後から、見舞いだと言ってフォーがやって来た。

 奴はぴんぴんとしていて、ファーストの事も説明してくれた。

 ファーストは今、とても戦える状態ではないらしい。

 肉体が負傷を負った訳じゃなく、メンタル面で異常を来しているようだ。

 包み隠さずにそれを話したのは、奴らなりの礼儀だったのか……今はどうでもいい。

 

 オッコやレノアも無事だ。

 無事であるが、意識は戻っておらず。

 今も予断を許さない状態らしい。

 俺とは違って、意識が戻れば戦線には復帰できるようだが……俺は、違う。

 

 真面に体が動かない。

 動かそうとすれば激痛が走って、一分ほど動けば滝の様な汗を掻く。

 メリウスの操縦において最も重要な繊細な動きが出来ない。

 手だけじゃない。脚だってそうだ。

 皮膚の一部は焼けただれて、移植手術が必要だと言われた。

 医者はすぐに俺に対して、戦線への復帰は諦めるように言ってきた。

 

 ふざけるな。そんな事をお前が決めるな。

 そう言いたかったが、奴だってその道のプロだ。

 嘘でない事なんてすぐに分かる。

 そして、自分の体の状態は自分自身が一番よく理解していた。

 

 リハビリをすれば、復帰できる可能性だってある。

 しかし、今じゃなければダメだ。

 今じゃないと間に合わない。

 全てが手送りとなって、何もかもが終わってしまう。

 今まで人間が築き上げた文明も、人々が紡いできた歴史も――全て消えてしまう。

 

 マサムネは言っていた。

 奴らは、この世界を終わらせようとしていると。

 その為に、オーバードを求めていたのだと。

 嘘じゃないだろうさ。あんな場所で奴がジョークを言う筈がない。

 俺たちは真剣な顔で奴の話を聞いていて、何としてもそれを阻止しようとした。

 少しでもマサムネの助けになる為に、奴のバックアップもした……けど、手遅れだった。

 

 俺たちは敗れて、マサムネの行方も分からない。

 目覚めた時には全てが終わっていた。

 俺は何処なのかも分からない場所で治療を受けていて。

 体中に包帯を巻かれて、体も満足に動かせない。

 命は助かったが、戦場に復帰する為には相当な時間が掛かると白衣を着た人間に言われた。

 それではダメだ。それでは本当に全てが終わってしまう。

 

 あの白いメリウスは、恐らくはマサムネたちが言っていたオーバードだ。

 純白の機体であり、一目見た瞬間にこの世のものではないと理解した。

 圧倒的なまでの覇気で、そこにいるだけで俺たちに畏敬の念を抱かせてしまう。

 誰もが恐れ敬う神の如き力を持った機体がそこにいたのだ。

 

 浮上してすぐに俺たちを攻撃してきたと言う事は、十中八九が告死天使が乗っているという事で間違いないだろう。

 何故、仲間まで手をかけたのかは分からない。

 だが、マサムネが俺たちを攻撃する訳がないから、考察しても意味が無い。

 最初から奴は仲間を捨て駒にするつもりだった、そういう事だろう。

 

 つまり、マサムネは任務に失敗した。

 アイツがどうなったのかは分からない。

 最悪の場合は……殺されている可能性だってある。

 

 生きていたとしても、無事ではないかもしれない。

 神殿の中で何が起きていたのかは分からない。

 ただ、内部へと入れたのなら二人は相対した筈だ。

 相対して戦ったのか。それとも何らかの方法でマサムネは奴を止める事が出来なかったのか。

 何方にせよ。オーバードは奴の手の中に入ってしまった。

 これは考えられる中で、最も最悪なパターンだろう。

 

 

 無敵だ。圧倒的だった。

 神の如き力じゃない――アレは神そのものだ。

 

 

 分かっている。戦いにすらならなかったのだ。

 アイツは飛んでいる虫を叩き潰すように、俺たちを簡単に戦闘不能にした。

 いや、虫とすら呼べない。俺たちは人間が息をするようにただの流れでやられた。

 明確な殺意なんて感じなかった。ただ目に入って消されただけだ。

 それも瞬きの合間の一瞬であり……到底、受け入れられない事実だ。

 

 恐らくは、もう誰も奴を止められないだろう。

 この世界で神になれる力を最強の男が奴が手にしてしまったのだ……でも、それがどうした。

 

 諦められない。諦めてたまるか。

 そんな理由で、故郷を、この世界を終わらせはしない。

 奴らの計画を阻止する為なら、悪魔にだって魂を売ってやる。

 俺は無理やりにでも体を動かそうとした。

 心電図が大きく乱れて、俺は苦しさや痛みを感じながら限界まで目を見開く。

 そうして、上体を起き上がらせてから点滴の針を強引に抜いた。

 

 俺は行く。例え、一人であろうとも奴と戦うッ!!

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ぅぐ!」

 

 地面を一歩踏むだけでも、全身に激痛が走る。

 骨はボロボロであり、皮膚の一部だって焼けただれているだろう。

 しかし、苦しいのは俺だけじゃない。

 意識の戻らない仲間たちも、奴らと戦いたいと思っている筈だ。

 俺やレノアは、この世界しか知らない。

 この世界でしか生きられないからこそ――足掻くんだ。

 

 泥臭くても、格好悪くてもいい。

 俺たちは生きたい。生きて未来へ行きたい。

 まだ出会ったことも無い人間と会いたい。

 まだ経験していない事だって体験したい。

 見た事のない景色に、味わった事のない料理。

 

 まだある。まだまだある。

 

 後悔が無い筈がない。

 悔いの無いように生きようとしたって、人間が夢を見なくなる時は来ない。

 死ぬ時まで人間は夢を見続ける。

 俺だってそうだ。夢を見ているからこそ、明日を生きたいと思える。

 

 

 生きたい。生きて、俺は――皆とまた、冒険がしたいッ!!

 

 

 馬鹿な奴らと一緒に生きたいんだ。

 だから、だから、だから――ッ!!

 

 強引に扉を開けて外に出る。

 しかし、体がふらついて地面に無様に転がった。

 地面に当たった箇所が強い痛みを発して。

 俺はくぐもった声を上げながら、心臓を掻き抱いた。

 

 動け、動いてくれよ。

 俺はまだ、戦わなくちゃいけないんだ。

 戦って、戦って、大切なものを守りたい。

 

 動け、動けってんだ。何で、動いて――視界が揺れる。

 

 気づけば、両目の視界が雨が降る水面のように揺れた。

 ぐにゃりと歪んで、心臓がキュッと縮まったように息苦しい。

 頬を水が伝って行って、床に落ちていく。

 

「くぅ、ぅぅ、ぅぁ、ぁぁ」

 

 俺は泣いた。

 自分の不甲斐なさに、自分の弱さに――涙を流し続けた。

 

 誰も、手を差し伸べてくれやしない。

 誰も、この辛さを理解してはくれない。

 俺は独りで、頼りになる相棒もこの場にはいない。

 

 アイツを恨むのはお門違いだ。

 アイツは何時だって俺たちを救ってくれて、その先へと導いてくれた。

 俺は甘えていた。アイツの強さに納得して、アイツに任せていた。

 綺麗ごとを言っても、俺が足手まといだった事実は変わらない。

 だからこそ、アイツは先へと進んで。自分の心も体も傷つけていった。

 茨の道へと一人で行かせて、俺はそんなアイツを見ていただけだ。

 

「なさ、けねぇ……なさけ、ねぇよ……俺は、俺は……相棒なんて、言う資格、ねぇのによぉ……ちくしょうぉ」

 

 拭っても拭っても涙が流れていく。

 床を濡らしながら、俺は薄暗い廊下で泣いていた。

 

 音が聞こえる。

 

 コツ、コツ、コツと。

 誰かが歩いてきていた。

 真っすぐに此方に向かってくる。

 しかし、そんな事はどうでもいい。

 

 もう俺の体は、これ以上は進んでくれない。

 もう俺の体では、メリウスに乗って戦う事は出来ない。

 俺はただの役立たずで――

 

 

 

「兄さんは、弱くないよ」

「……ぇ」

 

 

 

 聞いたことのある声だった。

 その声を、俺は知っている。

 小さい頃から一緒にいて、俺を兄だと唯一言える人間。

 

 

 大切で、大事で、掛け替えのない――弟の声だった。

 

 

 俺はゆっくりと視線を向ける。

 すると、マルサスが立っている。

 死んだ筈の弟の顔で笑うそいつは、俺に向けて手を差し伸べていた。

 

 

 誰だ。こいつは、誰だ?

 

 

 マルサスな訳ない。

 

 マルサスは死んだ。

 

 俺の前で殺されたのだ。

 

 生きている筈がない。そんな筈は無い、のに……俺の心は、目の前の存在を”本物”だと告げている。

 

 

「何で、生きて……どうして?」

「はは、兄さんらしい反応だね……説明すると長くなるけど。これもゴースト・ラインの技術だよ。確かに僕は殺されたよ。殺されて、戻って来た……言ったでしょ? 死なないって」

「……何だよ、それ……意味、分かんねぇよ……分かんねぇけど……良かった」

「……兄さんは、戦いたいんだよね。その体でも、アレに挑むつもりなんだよね」

 

 

 マルサスは膝をついて俺の肩に手を置く。

 優しい目で俺を見てきてはいるが、その目には妖しげな光が宿っている。

 分かっている。こいつが単純な優しさでそんな言葉を言う筈がない。

 こいつの本心は、あの時に全て聞いた。

 長い間、一緒にいたから理解している。

 こいつが態々、狂った人間の真似をする筈がないと。

 

 

 関係ないさ。

 俺は戦いたい。戦って――この世界を守りたい。

 

 

「あぁ、戦うさ。手足がもぎ取られようとも、俺は戦うッ!!」

 

 

 マルサスに対して俺はハッキリと言った。

 迷う事は無い。最初から俺の意思は決まっていた。

 船に乗り込んで戦って、故郷が帝国の無人機に襲われた時に。

 俺は死んでも大切なものを守ると誓った。

 

 俺の覚悟を聞いて、マルサスは俺の体を抱きしめる。

 優しく。それでいて強く抱いてきて、マルサスは耳元で囁く。

 

「やっぱり、兄さんは最高だ……大丈夫。兄さんの願いは、僕が叶えてあげるよ。”最高の機体”を、”最高の体”を。兄さんにプレゼントするから――最期まで戦って」

「……戦うさ。死ぬその時まで、戦ってやる。だから、寄越せ。お前の全てを、俺に」

 

 震える手でマルサスの背中を掴む。

 ギュッと握れば、マルサスは体を震わせていた。

 息遣いでこいつが喜んでいる事が分かる。

 狂っている。狂っているが、こいつが俺の期待を裏切ったことは一度も無い。

 

 悪魔にだって魂を売れる、その覚悟に嘘偽りはない。

 俺は目の前の”悪魔(マルサス)”の呼吸音を聞きながら。

 これから始まるであろう世界の命運を懸け戦いを見ていた。

 

 遠くない未来。

 破滅へと進む道の先で、死神が俺を待っている。

 悪魔と取引をして力を手にした俺は、神と戦う事になるのだろう。

 

 全ての運命が決まる戦いで――俺は何処までやれるのか。

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