【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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246:終末戦争(side:フォー)

 最悪の結果。最悪の流れだ。

 オーバードは奪われて、奴らは世界を終わらせるために必要な物を全て手に入れた。

 数週間前に、シナリオに記されていた場所へと行った調査班。

 何も無い海上にある座標へと向かった調査班からの連絡を受け取る。

 冷静であるものの、焦りを感じる声色で調査班のリーダーは簡潔に状況を知らせて来た。

 それを黙って聞いてから、私は遠隔操作用の偵察ドローンを数機飛ばしてエリアから離脱する様に指示する。

 そうして彼らとのやり取りを終えて、私は静かに端末を置く。

 

 ……奴らはもう隠れ潜む必要も無くなった様だ。

 

 狭い部屋の中にある壁に掛けられたモニター。

 リモコンを手に取ってから、私はそれを画面に向けた。

 ゆっくりと部屋に置かれたモニターの電源をつける。

 すると、この世界で最も人気のある国際放送のニュース番組が緊急的に放送されていた。

 生中継であり、ヘリに乗って報道している男のキャスターは大いに焦っていた。

 

 空中に浮かぶ何か。

 巨大な鋼鉄の城らしきものが宙に浮遊している。

 静かに、それでいて威圧的な雰囲気を醸し出す城。

 空間を裂いて現れたそれは、見方によっては幻想的にも見えるだろう。

 冷たい印象を覚えるそれは一切汚れが無く、表面は鮮やかな光沢を放っていた。

 

 来た。来てしまった――この時が。

 

 ニュースキャスターが数時間ほど前に突如現れたそれの情報を聞きつけてのこのことやって来ていた。

 ヘリの音。そして、キャスターの声。

 それらはどうでもいい。私はただ目の前に映っている城を見ていた。

 

 ぺらぺらと良く回る口で男のキャスターが状況の報告をしていて。

 全くと言っていいほど危機感を抱いていなかった。

 自分は殺されないと思っている。

 無知だからこそ、自ら進んで地雷の埋まった土地に足を踏み入れられる……。

 

 その城にいる人間を私たちは知っている。

 奴らだ。奴らが準備を終えて姿を現した。

 奴らが不可侵領域と呼んでいた安全な空間から出てきたのだ。

 それはもうコソコソとしている必要が無くなったからだ。

 もう誰も自分たちを止められないと判断したからで……それは、間違いじゃない。

 

 これから始まる。世界を終末へと導く儀式がこれから。

 オーバードを使って、奴らは自分たちが想い描く楽園を築こうとしている。

 その為に、この世界に住む人間たちを滅ぼすつもりだ。

 

 儀式が終われば、全てが無に帰す。

 この世界で生きる全ての生命も、人間が築き上げてきた文明も。

 土地も、自然も、海でさえ一新される。

 そうして、誰もいなくなった世界で、奴らは神に成ろうとしていた。

 この世界で唯一住むことが出来る選べれし者。

 もう二度と人間が住むことが出来ないように、奴らがこの世界の支配者となる……傲慢だろう。それは。

 

 何も知らないキャスターは必死になって状況を伝えている。

 仕事で来ているとはいえ、こいつは見ていて哀れに思う。

 もう、アイツは助からないだろう。

 あそこまで近づいたんだ。殺される未来しか無い。

 

 マイクを手に持ち唾を飛ばしながら、面白おかしく喋る男。

 やがて、城の扉が開き始めて中から人が出て来た。

 キャスターはチラリと視線を向けて、新たに出て来た情報を伝えようとしていた。

 

《あ、今何者かが城から出てき――アレは、子供でしょうか!? 子供です! 何故此処に子供が!?》

「……馬鹿が」

 

 カメラの先には城から出て来た奴が映っている。

 純白の衣装に身を包んで、優雅に歩いている少女。

 雪のように白い肌で、金色の瞳は前へと向けられている。

 一歩歩く毎に、奴の足元が冷気でも発している様に凍り付く。

 城から伸びる橋を渡りながら、奴は大海原が一望できる儀式場へと向かっている。

 始まる。これから地獄が始まろうとしている。

 

 傍から見れば十代そこらの子供だが、私の目には凶悪な化け物にしか見えない。

 奴は徐に足を止めてから、ゆっくりとカメラの方に視線を向ける。

 ニコリと微笑んだ少女を見て、こいつらはあの女が自分たちに対して友好的だと勘違いしたのか。

 手を振ろうとした瞬間に――映像は途切れた。

 

 一瞬にも満たない閃光。

 何かがヘリを射抜いて爆散した。

 無謀な撮影を試みたバカたちが死んで、今頃はネットは盛り上がっているのか。

 愚かだ。愚かにもほどがある。

 

 うるさいノイズが走るだけの番組を切る。

 そうして、私は椅子に座ってから深くため息を吐いた。

 駒が足りない。圧倒的に戦力が不足していた。

 この映像を見た事で、少なくとも治安部隊の奴らは動き出すだろう。

 だが、奴らが戦線に加わったとしても大した違いはない。

 ただの烏合の衆であり、ごろつき上がりの雑兵だ。

 そんなものは盾にしかならないだろうさ。

 

 私たちが本当に欲しているのは――英雄クラスの操縦者だ。

 

 最低でもSランクの傭兵。

 それ以下では話にならない。

 Aランクであるのなら、自分の身くらいは守れるだろうが……どれくらい集まるかだな。

 

 偽の企業の代表を偽り、傭兵統括センターの検閲を潜り抜けて依頼を出した。

 その内容は単純であり、あの城が出た場所へと集い、全力で敵を倒せというものだ。

 城への攻撃も許可している。あの城から出る者は何であれ攻撃するようにとも書いた。

 報酬は限界ギリギリまで上げてある。

 ボスは言っていた。出し惜しみはするなと。

 これが最期になるかもしれないんだ。出し渋って死ぬなんて格好の悪い事はしたくない。

 

 もう一度端末を取ってから、集まっている人数を確認する。

 傭兵はぞくぞくと依頼を受けている。が、これではまだ足りない。

 数は千を優に超えているが、Sランクの傭兵は十にも満たない。

 Aランクも少なく、集まっているのはBかC……何でEがいるんだ。クソが。

 

 お遊びじゃない。

 死ぬかもしれないような戦いにEランクが来て何をする。

 こいつらは金に釣られただけの馬鹿であり、どうせすぐに死ぬ。

 あの男のように力があるのなら別だが、早々、そんな奇跡は起きない。

 

 邪魔をしなければまだいい。

 他の仲間を巻き込んで死ぬようなら目も当てられない。

 だが、此方も選別しているだけの余裕はない。

 猫の手も借りたいような状況であり、精々、数秒くらいは時間を稼いでもらうつもりだ。

 

 私は眩暈を覚える頭を抑える。

 そうして、右手の親指の爪を噛んだ。

 

 時間が無い。兵士の数は足りていない。

 物資の支援は全力でする。

 弾薬やエネルギーの補給をする為の大型船は用意してある。

 隊列を組み、幾つかの部隊を展開して奴らと戦う。

 即席の部隊であろうとも、傭兵であるのなら戦いの心得は十分にある。

 残された無人機も全て投入して、私たちは総力戦を仕掛けるつもりだ。

 千人以上だろうと一万人以上だろうとも対応できるように準備は進めて来た。

 全てはこの一戦の為であり、それなりの覚悟も決めている。

 

 帝国や公国は重い腰を上げないだろう。

 何方も戦争の傷が癒えておらず。公国は自分の領域内に現れた奴らに交渉でもするつもりか。

 治安部隊を動かして投降しろとでも言うのだろうが……意味はない。

 

 奴らは第一波の攻撃にも耐えられない筈だ。

 私たちは第三波まで耐えて見せる。

 ボスは”アレ”の使用許可を私に出してくれた。

 ボスはボスでやる事があるから、現場での指揮権は私に一任するようで。

 これで片が付くのなら良いが、そんな単純な話でも無いだろう。

 

 第一波までの治安部隊。

 役に立たない帝国と公国。

 そして、私たちに対して支援を約束した東源国……何を考えている。

 

 もうこれ以上の協力は奴にとっては何のメリットも無い筈だ。

 奴の事だから、秘密裏に告死天使と交渉をしていると思ったが。

 どうやら、保険も打たずに奴は私たちに全ベットするつもりのようだ。

 奴らしくない。狐のように姑息な女だと思っていたが……誰が奴を変えた?

 

 自国のエースパイロットに新型機の投入。

 大盤振る舞いであり、それをして何になるのかと思った。

 が、奴なりに何か考えがあるのだろう。

 裏切る心配は無いが、警戒をしない訳じゃない。

 常に奴らに目を向けながら、私は全部隊の指揮に当たるが……クソ。私の仕事じゃねぇだろ、こんなの。

 

 どうする。どうする……こんな時に、ファーストがいれば……。

 

 あのデカブツは、恐怖を感じてしまったのだろう。

 勝てない相手ならまだいい。戦いにすらならなかったのだ。

 私たちが最強だともてはやした男が、赤子のように扱われた。

 奴の自信はズタズタに引き裂かれて、そう簡単には立ち直れない筈だ。

 マサムネも消息不明で、私たちの最強も殻に閉じこもっちまった。

 セカンドや他の幹部は死んで、残った幹部も僅かだ。

 ファイブは怪我で戦線に復帰するのは厳しい。

 マサムネの仲間であるアイツ等も、一人以外は意識不明の重体だ。

 

 念の為に、意識を取り戻したアイツの弟は呼んでいる。

 不測の事態があれば呼べと偉そうな事を言って。

 アイツは私たちの組織を上手く利用して何かを作っていた。

 意思伝達ユニットも改良して、見るのもおぞましい代物を作っていた。

 あんなものを誰かに与えるのかと思えば、流石の私も身の毛もよだつ。

 誰に恨みがあってあんなものを作ったのか……理解に苦しむほどのマッドサイエンティストだ。

 

 恐らくは、あの男に改造手術を施すつもりだろう。

 ファーストのようなサイボーグではない。

 脳などの一部の器官以外を機械へと作り替えて、戦闘の為のマシーンにする。

 改良が施された意思伝達ユニットは脊髄を通して脳と繋がる事になる。

 頭で考えて操作をするのではなく、即座に戦闘用のプログラムがメリウスに送られる。

 ロスタイムはゼロであり、戦闘において迷いが無いのは大きな利点だ。

 常に最善の一手を打ち込み、常に相手よりも一歩も二歩も前を行く。

 ”人道に全く配慮していない”点を除けば、これ以上ないほどの兵器だろうさ。

 

 体も機械化するのだから、耐久面の問題はない。

 あらゆる感覚が遮断されて、熱も電気も通さない。

 痛みと呼べるものも感じる事無く、最期まで戦う事が出来るのだ。

 そう、文字通り最期までだ。体が砕けようとも、頭だけになろうとも機体が無事であれば戦い続ける。

 

 奴は誇らしげな顔で、自らが作り上げた義体を私に見せて来た。

 それを使う人間は決まっていると言っていて……アイツは自分の兄に使わせると言った。

 

 アイツは狂っている。今まで会った誰よりもイカれていた。

 誰が好き好んであんなものを受け入れるのか。

 少年のように瞳を輝かせながら語っていたアイツに、私は強い吐き気を覚えた。

 

 ほとんどの感覚を遮断するという事は、味覚も嗅覚も無くなる。

 最低限、触れたものの感触くらいは分かるだろう。

 目に関しても人間の時以上に発達して、あらゆる速さにも対応できる筈だ。

 強い光や暗闇にも対応できるのは利点だが、デメリットは大きい。

 

 それだけじゃない。体を機械化すると言ったが、それは脳や目玉、脊髄を摘出してあの義体に移植するだけだ。

 もう人間では無くなる。生きていたって仕方のない人生を、アイツは自分の兄に強制させようとしている。

 死を望もうとも簡単には死ねないだろう。

 脳などの一部以外は完全な機械であり、毒も利かなければ刃も通さない。

 これからアイツは真面な食事を取る事が出来なくなり。

 機械化による精神の暴走を抑える為の、抑制剤を定期的に打ち込まなければなくなる。

 

 自分の喉を掻っ切る事も出来ずに。

 人間としての幸せも享受する事が出来なくなる。

 アイツはこれから先ずっと、ずっと…………胸糞悪い話だ。

 

 傍に置いてあったボトルを手に取る。

 そうして、氷の入ったグラスに注いだ。

 並々と注いだそれを手に取って私は一気に呷った。

 ぐびぐびと喉を鳴らしながら飲んで、叩きつけるようにグラスを机に置く。

 

 頬が熱い。

 頭痛を覚えるほどに頭を働かせたが。

 この一杯で少しだけ楽になった。

 指で口を拭いながら、私は視線を扉に向ける。

 

「……どうしようもねぇ。今更だ……私たちはクズだ。クズが道徳なんて語るな……誰だろうと使えるもんは使う」

 

 考えるな。次へ進め。

 私は灰色のコートを取って羽織る。

 そうして、椅子から腰を上げた。

 

 集まっている傭兵たちの支援を早めるように部下に指示をしに行こうとした。

 他の幹部とは連絡がつかない。

 いや、アイツ等に期待したって仕様がない。

 どうせ、時間になればふらっと現れるだろう。

 遅かれ早かれ、私たちは奴らと戦う事になる。

 戦わずに死を受け入れるか。戦って死ぬかは勝手に決めればいい。

 

 私は抗う。こんな所で死んでたまるか。

 私は生きて更に上に伸し上がる。

 もっともっと偉くなって、最高の人生を送ってやる。

 もう私はボロを纏って盗みを働くだけのドブネズミじゃない。

 生まれ変わった。人間として生まれ変わって、新しい人生を歩んでいる。

 

 扉を開けて外に出て――私は少しだけ驚いた。

 

 部屋の扉のすぐ近く。

 壁に背を預けながら、煙草を吸っている男。

 奴が持つと小さく感じるそれを奴は一吸いでほとんど吸い取る。

 そうして、吸殻を手で握りつぶしてから、奴は一気に煙を吐いた。

 

「……どうした。いじけてたんじゃないのか」

「……終わったよ。思い悩むのは私の趣味じゃない……行くんだろ? 私も同行しよう」

「……ふっ……来い。お前には最前線で戦ってもらうぞ。死ぬ気で働け」

「はは! 望むところだよ――リベンジマッチと行こうか」

 

 オーバードは完璧な機体だ。

 今の私たちの技術力では太刀打ち出来ないだろうさ。

 傷一つ付かない。あのボディーの汚れをつける事も出来ない。

 

 だが、壊せないのならそれはそれでいい。

 

 奴を破壊せずとも、やりようは幾らでもある。

 此方にもこの日の為にとって置いた”切り札”があるのだ。

 対オーバード戦を想定して作られた”秘密兵器”であり、アレを使えば勝てる見込みはある。

 

「奴の絶対防御は無敵だ。だけど、こっちだってそれを想定して用意をしてきた……アレを使う時が来た。時間を稼げよデカブツ」

「勿論さ……だが、私がアレを倒しても文句は言わないでくれよ?」

「――はは、言うねぇ。それでこそ、お前だよ」

 

 奴が突き出した拳に、私は自分の拳を当てた。

 そうして、二人で廊下を進んでいく。

 最終決戦だ。全ての力を出し尽くしての総力戦。

 人類が生き残るか、神が世界を滅ぼすかの戦い。

 

 終末戦争(ラグナロク)が――始まろうとしていた。

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