【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
戦闘開始から三時間経過――地獄は続いている。
モニターに映る光景をジッと見つめる。
無数のメリウスが交差して、激しい衝突を繰り広げていた。
黒煙が辺り一面に広がって、破壊された機体が爆炎に包まれて落下していく。
晴天の空には、命だったものが舞っている。
兵士たちは訳も分からないままにあの戦場へと送り込まれて。
得体の知れない敵と戦わされていた。
逃げる場所は無い。逃げたとしても破滅が襲い掛る。
輸送船から飛び立つメリウス。
護衛艦が輸送船を守る為に、対空砲火を継続していた。
何度も何度も入れ替わる形で、メリウスが戦場へと翔けていく。
数的有利も意味をなさずに、治安部隊のメリウスは徐々に数を減らしていった。
こうなる事は予想していた。
根回しをして奴らの危険性を治安部隊の上層部に教え。
此方の内通者を使ってまで、アレほどの規模の部隊を展開させた。
しかし、奴らが勝つ可能性は万に一つも無い。
私たちの準備が整うまでの時間稼ぎであり、それももう間もなく無くなりそうだった。
直に劣勢だと判断して、奴らは仲間を置き去りにしてでも撤退し始めるだろう。
それと入れ替わる形で私たちが戦場へと参戦する。
だが、クソのような奴らであっても理解できる筈だ。
目の前の力を退けない限り、安息の日は訪れないと。
治安を担う組織であるのなら、存分に戦えばいい。
戦って戦って、己が守って来た治安とやらを維持して見せろ。
私はニヤリと笑う。
頬をツゥっと汗が伝って行って。
悲惨な光景を目に焼き付けながら、横に立つ男を見た。
「始まったみたいだな……準備は出来た。私たちも向かうぞ」
「残りの船も合流できたようだ。これより、”長距離転移装置”を起動する」
私の言葉を受けて、ファーストはコンソールを叩く。
ブリッジにいる構成員たちも動き出して、長距離転移装置の起動準備に取り掛かった。
ピチピチのパイロットスーツを着て、戦闘準備は万全の様だ。
格納庫へ向かって機体に乗りこんでいないのは、奴が私たちにとっての手札の一つだからで。
奴の機体は莫大なエネルギーを消費する短期決戦仕様であり、最後まで伏せておくつもりだ。
全壊した鉄塊を修復する事は不可能だが、スペアは用意してある。
特別なチューニングも施して、武装も更に凶悪な物にチェンジした。
危ない様であれば出撃させるが、第一波なら問題ないだろう。
広い海上の上で、無数の船が停船している。
大型の特殊輸送船が、合計で六十隻停止していて、私の号令を今か今かと待っている。
乗組員は既に船に乗り込んで、傭兵たちの収容も完了した。
船を点検してくれた構成員たちは出航した私たちを見送って、後は戦場へとジャンプするだけだ。
この船は長距離転移装置を積んだメリウス輸送船であり、一隻のメリウスの最大収容数は五十機ほどだ。
長大な輸送船はずんぐりとしていて灰色のカラーリングが施されていた。
開発した人間はこれを”
戦意ある兵士を運び、死地へと送る鯨だ。
ある場所では鯨は"幸運の象徴"とされていて……ピッタリの名前じゃないか。
一度、戦闘域に入れば両側の装甲が展開される。
展開された装甲は滑走路となり、発射用の射出台が取り付けられていた。
船の中には作業用のアームや大型の整備用ドッグがある。
レース場のピットのように、瞬時に機体の状態を分析して応急措置やエネルギーの供給を担うのだ。
滑走路を使って一気に収容しているメリウスを射出装置によって空へと飛ばす。
輸送船の内部はメリウスの収容スペースとしてあてられている為。
戦闘能力はほとんど無い。あるとすれば、敵の攻撃から身を守る為の部分展開式のエネルギーフィールドと機銃だけだ。
なるべく距離は取るが、此方を狙って来れば最期だろう。
数名は護衛として残すが、ほとんどは前線に送らなければならない。
現世人にはファストトラベルで此処に来て貰った。
この世界の人間には機体に搭乗して貰った上で、指定したポイントに集まってもらって。
森の中に投棄された大規模な寺院や海洋プラント。廃墟となった街などに此方は重要拠点を隠してある。
そのポイントにある建物に隠してあった転移装置を使ってそいつらを此処に集合させた。
長距離移動用の転移装置は、未だに小型化に成功していない。
作るのには莫大な費用が掛かる上に、隠すのも手間がかかる。
何かと不便ではあるが、今は文句を言っても仕方が無い。
ボスが何故、無駄に多く転移装置を作らせて世界各地のアジトに配備していたのかは今の今まで謎だった。
しかし、今になってその理由も分かった。
全てはこの日の為の布石で……本当に恐ろしい男だよ、アンタは。
依頼を受けた傭兵たちは、構成員たちからのチェックを済ませて。
各所の港にある輸送船へとすぐに乗り込んだ。
今は、傭兵たちは各自、戦闘への準備を進めて貰っている。
この船は、傭兵たちにとっての生命線だ。
墜とされれば補給が絶たれて、エネルギーが無くなったメリウスから海の藻屑となっていく。
そうなりたくなければ死ぬ気で戦って敵を減らすだけだった。
船に乗り込む前に、この場所に集結した傭兵たちの顔は見たが……あまり期待は出来ない。
どこか浮かれた様子の奴らで。
自分たちがこれから死地へ行くと理解していない奴も数名いた。
戦いが好きな傭兵らしいが、真っ先に死ぬのはそいつ等だ。
Aランクの傭兵ともなれば、危機感を持っている様子で。
緊張した面持ちながらも、出来る限りの事をしようと今も自分の機体のチェックをしていた。
頼りになるのは”Sランク”の傭兵くらいだ。
「……”
手に持った端末に傭兵の情報を表示させて確認する。
情報を流し読みで頭の中に刷り込みながら、部隊を瞬時に決めていった。
高性能AIによる振り分けであり、ゴースト・ラインの頭脳が作り上げた人工知能だ。
判断を迷う事も、失敗することも無い完璧な存在だ。
部隊が決まっていく中で、私は奴らの特性を考える。
今回の戦闘では最低でも、五人一組で小隊を結成して敵と戦ってもらう。
傭兵ならば単独で戦う事が最適かもしれないが、生存率を高めるのならチームを組ませた方が良い。
互いの長所を生かして欠点を補えば、それだけで生存力は跳ね上がる。
心配はしていない。傭兵ならば、チーム戦の一つや二つは経験している。
Bランク以上であれば、味方への誤射は限りなくゼロに近いだろう。
なるべく、チーム戦の経験のある傭兵を部隊長にする。
そうして、経験の浅い傭兵にはカバー役に徹してもらう。
戦闘に参加させるのは危険であり、足手まといにしかならない。
敵前逃亡くらいならまだいい。錯乱して誰彼構わずに撃ち始めたら最悪だ。
そういう人間は船に残すか、後方からの火力支援を任せる。
大丈夫だ。アレだけの数なら何かしらには当たる。
それもAIによる補助があれば、誤射の可能性も限りなく低くなる筈だ。
部隊や役割を決めれば、速やかにその情報を傭兵に送る。
短時間で完璧なチームになれとは言えないが。
奴らだってタダ働きで死にたくは無いだろうさ。
意地でもチームとして働いて、全力で生き足掻こうとする筈だ。
私は傭兵共の適応能力に期待しながらニヤリと笑う。
チーム分けをAIに任せながら、今回参戦を表明してくれたSランクの傭兵の情報を見る。
その中でも、特に注目している四名の傭兵。
こいつらには敵のど真ん中で暴れまわってもらう。
より多くの敵を倒し、より多くの脅威を排除する。
そうすれば報酬も上乗せすると言っておいた。
士気は十分であり、必ず満足な仕事をしてくれるだろうさ。
銀狼は多くの戦場を渡り歩き。
依頼の達成率は九十八パーセントを超えている。
危機察知能力が高く、危ない橋は渡らない男だと聞いていた。
常に周りを警戒し、最も成功率の高い作戦で依頼を熟す手練れだ。
機動力重視の軽量型のメリウスに乗り、ハンドガンで相手の足を止めてレーザーブレードで仕留める戦法を好む。
姑息だと揶揄する人間もいるが、現世人でも無い奴が今でも生きている事が奴の成功を意味している。
王殺しは、かつてこの世界において現世人だけで構成された傭兵組合が存在していた時に。
単身で小国家を相手取り、多くのエースパイロットを屠った事からそう呼ばれていた。
実際に王を殺した訳では無いが、王はその後に多くの犠牲を出した事で国民から非難されて追放された。
奴が属していた傭兵組合は解体されて、現在ではフリーの傭兵として暗殺の依頼を受けていると聞く。
銀狼と同じで機動力重視の軽量型を好んで使う。
違いがあるとすれば、脳波制御による特殊兵装を使う事だ。
高速回転する小型の円盤を無数に操り、それから放出されるレーザーソーで相手を切り刻むらしい。
闇夜に紛れて接近し、独特な駆動音が聞こえたが最期だ。
裏の業界では名の知れたSランクの傭兵であり、初めて見たが恐らくは女だろう。
黒い特徴的な覆面で顔を隠していても、骨格から予想は出来る……舐められないようにだろうな。
殉教者はその名の通り神を信仰していると聞く。
神の名のもとに、悪行を働く人間たちを断罪し。
金や報酬では決して揺るがない信念の元で行動している。
自らの信仰の為に、弱者を救う為に奴は戦っているのか。
噂では、マサムネに注目していて奴を追っていたとも聞くが、今は関係ない。
依頼者が善であれば、硬貨一枚であろうとも依頼を受ける変わり者。
単身で圧倒的に不利な状況でさえも覆す高い技量を持っており、重量級のメリウスを使っての肉弾戦を好む。
両手に高周波ブレードを装備して、逃げる者は両肩のパルスキャノンで強制的に足を止めさせる。
凶悪な戦い方だが、味方であれば心強いだろう。
死狂は……その名の通り、死に取りつかれた狂人だ。
現世人であり、何度も何度も敗北して殺されてきた。
その殺され方は中々にえぐいもので、酸でドロドロに溶かされたり火炎放射器で生きたまま焼かれたり……聞くだけで吐き気がした。
普通の人間であれば一度の死で心が折れるが、奴はその死が最も甘美な経験だと宣っている。
最高の死の為ならば、どれだけ過酷な戦場であろうとも自ら進んでいく。
正真正銘のイカレ野郎であり、こんな状況でなければ関わりたくない相手だ。
中量級のメリウスを使い、主に射撃武器を使ってブーストを多用した命削りの戦法を取る。
死が奴を成長させて、たった一年足らずでSランクまで上り詰めた男だ。
死をも恐れない姿勢から、奴は戦場では忌み嫌われているが……技量は問題ない筈だ。
他にもSランクの傭兵は参加しているが。
最も注目しているのはこの四名だ。
こいつらが第一波と第二波において活躍してくれる。
三千を超えるメリウスも、その後から来る”呪い”にも真っ向から挑んでくれる事を期待している。
私は思考を終わらせてから、コンソールを叩いているファーストにある事を質問した。
些細な質問であるが、重要だとも言える質問で。
「……あの男の手術はどうなった」
「……終わったよ。最早、人間ではない……戦闘に特化したマシーンだね。今は調整をしているところだと聞いたよ」
「……そうか……なら、いい」
手術は完了した。
死んではいない。いや、死んでいた方が幸せだっただろう。
しかし、成功してしまった。
ファーストが言っている事は正しい。
もうあの男は人間ではない。戦う事を強いられる機械であり、哀れにすら思う。
だが、奴に対して同情している暇は無い。
使えるのなら死体であろうとも使う。そして、私たちは勝つ。
奴らを倒し勝利する事が、この依頼の達成条件で――生き残る為の最低条件だ。
カタカタというコンソールを叩く音が響く。
そうして、構成員の一人が私に報告をしてきた。
「長距離転移装置システム、オールグリーン! 何時でも使えます!」
「……よし。エンジン再始動。船のエンジンを温めろ。出力が安定してから三十秒後に転移装置を起動しろ」
「了解! エンジン再始動! 船へのエネルギー供給を開始!」
コンソールを叩きながら、エンジンを始動させる。
ディスプレイに映る船の横には棒グラフがあり。
徐々に出力を上げながら、船全体へのエネルギーの供給を開始した。
そうして、構成員がゆっくりとレバーを上げていく。
ゆっくりとギアを上げれば、船は少しだけ揺れ始めた。
揺れる船の中で、私は手すりをギュッと掴んでいた。
視線を目の前に置かれている黒いマイクに向ける。
私は目つきを鋭くさせながら、ゆっくりと手を動かした。
ブリッジに設置されているマイクを掴んで、スイッチを入れる。
そうして、この船や他の船に乗船している人間に私は言葉を送った。
「……これより我が輸送大船団は戦闘領域へのジャンプを試みる。現地へと無事に到着すれば、お前らには死に物狂いで働いてもらう。生きて大金を手に入れたければ、死ぬ気で抗え。多くの敵をぶっ潰して、最後まで生き残ってみろ。仲間を生かそうなんて考えるな。仲間を利用する事を頭に入れろ。常に自分が生き残る為に、仲間を上手く使え。お前らは傭兵だ。醜く生き足掻いて、泥水を啜ってでも勝ちを欲する――鴉だ」
秒読みが開始される。
モニターには時間が刻まれていて。
私はそれを見ながら、静かに笑う。
そうして、人生で最も激しい一日となる今日を歓迎する。
「今日出会う事が出来た傭兵たち。お前たちの事は忘れない。例え死んでも、私がお前たちの名前を後世に伝えてやる。死んで伝説になるか、生きて酒場で武勇伝を語る老害になるか。それはお前たちが決めろ……戦え。最期まで戦え。後悔が無いように、今を生きようぜクソ野郎共」
もう間もなくジャンプが始まる。
私は静かにマイクを切って元の位置に戻す。
気の利いた事なんて言えない。
こういうのは私のガラではないからな。
共に戦うカス共を、私が心配する事なんて無い。
だが、約束は必ず守るさ。
死んでも生きても、此処で戦った大馬鹿野郎を私は忘れない。
それぞれの考えで集まった寄せ集めの部隊だが、今は人類最後の砦だ。
此処で負ければ全てが終わる。此処で死ねば、未来は閉ざされる。
時間は、ゼロとなった。
「長距離転移装置起動ッ!!」
「――地獄へ飛び込むぞ」
構成員がボタンを強く押した。
その瞬間に船全体がバチバチと発光し始める。
一瞬だ。一瞬で体全体がゴムのように伸びていく感覚を覚えた。
無限に伸びていくような気持ちの悪い感覚を抱いて――すぐに収束していく。
一瞬の意識の変化を終えれば、眼前には――地獄が広がっていた。
綺麗な青空は薄汚い煙に覆われていて。
あちらこちらで火の手が上がっていた。
奴らの輸送船も襲撃を受けていて、随伴している護衛艦はもう既に何隻か撃沈されていた。
海が黒く淀んでいて、ブリッジの中からでも熱さを感じる。
戦場の熱気が離れた私たちへと届いていた。
熱く、息苦しく――死臭が漂っている。
私はそれを見つめながら、構成員に指示を出して装甲を展開させた。
地獄へやって来た。
もう後戻りは出来ない。
”欲望に塗れた人類”対”世界を終わらせる事を望む神”の戦いで――勝つのは私たちだ。