【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
自惚れていた――ただひたすらに、自惚れていた。
多くのメリウスが戦う戦場。
コックピッドの外では味方や敵が激しい攻防を繰り広げている。
まるで、耳元で響いているかのように大きな爆発音やスラスターの音が聞こえてくる。
心臓はかつてないほどに早鐘を打っていて。
今にも口からそれが飛び出しそうなほどに、俺は恐怖を感じていた。
血走った目で、周囲を見る。
そうして、両手に持ったガトリングガンを勢いよく乱射した。
ガラガラと音を立てて空薬莢が舞う。
発射の振動が機体内まで響いてきて。
襲い来るゾンビ共を迎撃していった。
恐ろしい。恐ろしい程に――この戦場は狂っていた。
破壊された機体が蘇って来た。
海中に沈んだ筈のロストした機体たちが浮上してきて。
センサーを赤く発光させながら、黒いエネルギーを纏っている。
奴らは俺たちだけに襲い掛って来て。
武器を持たない奴は特攻まがいの体当たりを繰り出してきた。
真面じゃない。真面な奴が、機体で体当たりしてくる筈がない。
奴らは死んでいる。無人機以外の傭兵が乗っていた機体には、操縦できる人間は乗っていない。
死体が操っているのか?
亡霊となって守ってくれなかった俺たちに怒りをぶつけているのか?
違う。違う違う違う違う――そんな訳ねぇだろッ!
死体が蘇る筈がない。
現世人のように肉体を再構築して戻って来るのとは訳が違う。
死んでいる。死んだうえで、機体だけが独りでに動いている。
ゾンビだ。ゾンビとしか言いようがない。
《来るな来るな来るな――来るなァァ!!!!》
《ニール! 俺だ! 聞こえないのか!? やめろ、やめてくれッ!!》
《死ぬ!! 死んじまう!! 誰か、誰か誰か誰かァァ――……》
先ほどから仲間たちの悲鳴が聞こえてくる。
必死に逃げ回っている奴。死体に話しかける奴。
助けを求めながら、死んでいった奴……俺も、そうなる。
オープン回線を繋いでいれば、嫌でも悲鳴が聞こえてくる。
先ほどまでは報酬の話をしていた奴らも、既に消えていて。
生き残った傭兵たちは、死に物狂いで戦っていた。
俺のチームもほとんど壊滅している。
残っているのはBランクの俺とAランクのチームリーダーである”アラン”だけだ。
必死になって弾をバラまく。
そうして、敵を牽制しながら一分一秒でも長く生きようともがく。
アランと共に互いの背中を預け合いながら、俺は呼吸を乱しながらも戦った。
瞬間、アランの怒声が響きわたった。
《フレッドッ! 避けろッ!!》
「ぇ?」
俺が恐怖から呼吸を荒げていれば。
横合いから敵の接近をレーダーが捉えた。
俺は咄嗟に前方への射撃を中断して横を向こうとした。
しかし、ゾンビによる特攻は俺の想像以上に厄介だ。
そちらを向く前に、機体に何かがぶつかり大きく揺れる。
警報が鳴り響いて、センサーの映像が乱れる。
視界一杯の赤い光の点滅に動揺しながら。
俺は情けない悲鳴を上げながら衝撃に耐えた。
そうして、センサーを再起動して見れば片手を失った無人機が俺の機体に抱き着いていて。
奴は半壊したスラスターを無理やり稼働させながら俺の機体事移動する。
まずい。まずいまずいまずいまずいまずい――ッ!
このままではアランから引き離される。
何とか奴の拘束から抜け出そうとした。
しかし、半壊したメリウスとは思えないような力で抱き着かれていた。
ギリギリと力を強めながら、奴は黒いエネルギーを迸らせる。
機体が強い力で絞められて、嫌な音がコックピッド内に響き渡る
俺は心臓の鼓動を早めながら、必死に硬く重いレバーを動かそうとした。
《敵メリウスのエネルギー濃度上昇中。危険域に突入しています》
「くそ、くそくそくそくそくそッ!!」
システムが敵のコアから発せられるエネルギー濃度が高まっている事を知らせてくる。
それはつまり、爆発する一歩手前で――敵の機体の背後にアランが立っていた。
アランがブーストによって俺に追いついて来た。
そうして、手に持ったレーザーブレードを振るう。
青いエネルギーを迸らせながら敵の機体を一刀のもとに斬り伏せる。
拘束が緩んだ瞬間に、俺は敵の機体を蹴りつけて離脱した。
そうして、一瞬遅れて敵の機体が背後で爆発する。
俺は呼吸を落ち着かせながら、額の汗を拭った。
《フレッドッ! よそ見をするなッ!!》
「あ、あぁ……助かった」
《……まだ来るぞ。弾は残っているか?》
「あぁまだ半分は残っている」
フレッドへと報告をしながら、俺はガトリングガンを構える。
そうして、フレッドの機体が背中に立ったのを確認して再び射撃を開始した。
ガラガラと音を立てながら、勢いよく弾が敵に向かって行く。
放物線を描くように飛んでいく弾は真っ赤に赤熱している。
勢いよく飛んでいくそれは此方に向かってくる敵を牽制出来ていた。
無人機は墜とせないが、理性の無いゾンビ共には有効で。
機体に何発も食らったそれは爆発して散っていく。
フレッドも片手に持っている突撃砲や肩に取り付けたキャノン砲を敵に向けて発砲していた。
派手な音を立てて打ち出されるキャノン砲の威力は絶大で。
突撃砲によって動きを止めた敵をそれで仕留めている。
流石はAランクであり、俺には真似できない堅実で正確無比な射撃だった。
アランのお陰で俺は生きている。
そして、アラン自身も俺のお陰で生きていると言える。
互いに仲間を失えば自らにとって痛手であり、死んでも守らなければならない。
この戦場において生存率を高める為には、チームとしての戦闘が必要不可欠だった。
《残弾が三十パーセントを切ったら船に戻るぞ! 報告を怠るな》
「あぁ、分かってるよ……クソ、終わりが見えねぇ!」
《お前の気持ちは分かる。コマンダーはコアを潰せと言っていた。そうしないと奴らは蘇ってくるからな》
”
これだけの数のメリウスが入り乱れる戦場だ。
そうして、先ほど確認できた城からの高濃度エネルギー兵器による砲撃。
それら全てを警戒しながら、俺たちは戦わないといけない。
運よく砲撃の範囲外にいたからいい。
しかし、二度目もそうなるとは限らない。
あんなものを意図的に避けられるのは、雲の上のSランクくらいだ。
Bランクの俺では絶対に避けられない。
だからこそ、常に死の気配を感じていた。
俺は死ぬ。確実にこの戦場で死ぬ。
俺は現世人ではない。この世界の人間で。
魔法や奇跡のように復活する事は無い。
――死んだら終わりだ。
”メアリー・スタットマン”の新曲を聞くことが出来ない。
大好きな”イエスタデイ”のミートパイも食べられなくなる。
新作のゲームも遊べない。気になっているアニスが働いている店にも顔を出せない。
出来ない。何も出来ない。死んだらそれで――終わりだ。
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――死にたくないッ!!
結婚も出来ず童貞のまま死にたくない。
好きな歌手の曲はずっと聞いていたい。
腹がはち切れるほどにミートパイが食べたい。
戦い何て嫌いだ。家でずっとゲームをして遊びたい。
したい――したいことだらけだ。
未練も後悔もありありで。
俺は死にたくないからこそ、今を生きている。
後悔しない人生なんて俺は信じていない。
人間が後悔しない時なんて無い。
人間は何時だって後悔する生き物だ。
俺は後悔だらけの人生でも構わない。
生きる為に俺は後悔をする。死んで後悔なんて真っ平ごめんだ。
センサーの映像を見る。
すると、無人機が二体。アランの方に向かっている。
俺は咄嗟にそいつらに対して銃口を向けた。
ガラガラと弾をバラまきながら、攻撃を仕掛けようとしたそいつらに銃弾を浴びせる。
攻撃を開始しようとした状態で無防備だったそいつらは。
呆気なく俺の弾丸を全身に浴びていた。
装甲が爆ぜて、露出した内部のケーブルが切れて火花を起こす。
そうして、吐き出されたオイルに引火して火だるまになり大きな爆発を起こした。
俺のガトリングガンの集中砲火を浴びて、スクラップになった敵。
俺はダラダラと汗を流しながらも、やってやったと笑った。
――そうして、遅れてレーダーが敵の接近を感知する。
《フレッドッ!!》
アランの声が聞こえた。
ゆっくりとセンサーを向ければ、敵のレーザーブレ―ドが至近距離に迫っていた。
黒いエネルギーがバチバチとスパークしていて。
高濃度のそれが刃となり、俺の機体を切り裂こうとしている。
その光景をスローモーションに感じる世界で見つめていた。
――あ、死んだ。
理解した。理解してしまった。
どう足掻いても、この攻撃は避けられない。
当たれば最期で、俺の人生は幕を下ろす。
ゆっくりと迫って来る黒い光を見つめながら。
俺の頭に出てきたのはしわくちゃな顔をした母の顔で――親不孝な息子だったな。
何もしてやれなかった。
何時も迷惑ばかり掛けて、何も恩返しが出来なかった。
俺は口が悪く、顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
そんな母の顔を死に際に思い出した。
やはり人生は後悔の連続だ。
俺は地獄で母さんに泣いて謝ろうと考えながら、口角を上げて笑って――敵が消えた。
瞬きするくらいの一瞬の時間。
その合間に、眼前に迫っていた敵が消えた。
何が起きたのかと目を瞬かせる。
すると、パラパラと宙を何かが待っていた。
センサーを動かしてそれを見れば――金属の破片だった。
この戦場では珍しくないかもしれない。
しかし、金属の粒子が舞う戦場は――嫌に静かだった。
先ほどまで響いていた爆発音やスラスターの音が聞こえない。
静かな戦場で俺は周りを見た。
すると、周囲一帯に敵の反応がごっそりと消えていた。
何が起きた。何があった――何が、来た?
センサーを働かせながら、周囲を索敵する。
すると、すぐ近くにポツンとメリウスが一機だけ浮遊している。
そちらに視線を向ければ、白いエネルギーの粒子を飛び散らせながら浮いている”白銀のメリウス”がいた。
西洋の甲冑のような装甲をしている。
機体の大きさからして中量級のメリウスだろう。
背中からは羽のような形状の大きなスラスターが二つ伸びていて。
青いライン状のセンサーを光らせながら、武器と一体となった両手を広げている。
まるで、神話の中のヴァルキリーのようないで立ちのメリウスで。
白いエネルギーを噴出しながら、それは宙を舞っていた。
一目見た瞬間に理解した。
アレが周囲のメリウスを一掃した。
原理は分からない。しかし、アレが瞬きの合間に敵を殺した。
神秘的だ。神秘的に思えるほどに、白銀のメリウスは美しい。
完成されたフォルムと、畏敬の念を抱かせるオーラを纏うそれ。
見惚れるようにそれを静かに見ていた。
すると、正気に戻った無人機やゾンビがそれに襲い掛る。
十や二十ではない。恐ろしいほどの物量で――白銀のメリウスが動き出す。
羽から粒子が舞い――瞬、だった。
瞬きよりも速く。
それが動いたのかも認識できないスピードで。
襲い掛って来たメリウスたちが機体をバラバラにされた。
残骸が宙を舞い。死んだことも理解できないそれらが一斉に爆ぜる。
無数の閃光をディスプレイ越しに見つめながら、俺は口を小さく開けていた。
勝てる。勝てるぞ……アレはその為の”奇跡”だ。
何故かは分からない。
でも、それを見た瞬間に勝利を確信した。
アレが味方であるのなら、誰であろうともアレには敵わない。
意味不明な自信が心の奥底から湧き上がって来て。
俺は狂ったように笑い声を上げた。
笑う。笑って笑って……涙を流した。
嬉しい筈なのに、喜ばしい事なのに……何故か、涙が零れ落ちる。
アレは間違いなく味方で。
俺たちに勝利を届けてくれる存在だ。
それなのに、アレを見た瞬間に強い悲しみに襲われた。
胸が締め付けられるような苦しみであり、アレがそうさせるのか……分からない。
戦場を自由に舞う”
それを俺は自分の眼で見つめながら、静かに涙を流す。
流れを変えてくれた奇跡は、何を想って俺たちに涙を流させるのか。
想像も出来ないそれを目に焼き付けながら、俺は無言でアランと共に船へと帰還していった。