【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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256:戦死者たちへの祈り(side:トロイ)

 体が、軽い。

 羽のように軽やかで、何処までも飛んでいけそうだ。

 

 船の射出台から機体を飛ばして。

 宙を舞いながら、船を攻撃していた敵を一掃した。

 意思なき死体。ただ群がるだけのそれを瞬きの間に消す。

 息をするように全ての敵を撃ち落して。

 遠く離れた戦場で踊っている敵を見つめる。

 

 そうして、あっちの方が楽しそうだからと移動を始めた。

 機体を撫でる強い風に、回転すれば音色を変えるスラスター。

 花火のように閃光を迸らせる多くのメリウスたち。

 

 

 初めて見た。初めて感じる――これが、戦場なのだと。

 

 

 与えられた機体を使って大空へと羽ばたく。

 全ての方向の景色が鮮明に脳内に浮かび上がっていて。

 灰色の空を飛びながら、邪魔をする敵をロックオンする。

 

 短い機械音が連続して響く。

 それを聞きながら、俺は羽のような形状をしたスラスターから白いエネルギーの粒子を飛び散らせた。

 全身を駆け巡るそれは温かく。

 何も無い空っぽな俺の心を温めてくれた。

 

 

 何も無い。何も感じないが――温かさは認識できる。

 

 

 勇気や力を与えてくれるそれ。

 それを大切に想いながら、俺は両手の武装を展開した。

 閉じられていたそれが展開されて、数秒で銃のような形状に変わる。

 エネルギーを一瞬でチャージし終わり、俺はこの機体のギミックを作動させた。

 

 

《アクセラレート・システム起動》

 

 

 ”アクセラレート・システム”が起動する。

 その瞬間に、俺の視界に映る全ての機体の速度がぐぅんと落ちていった。

 そうして、ほぼ静止しているように感じる敵を見ながら。

 俺は両手の銃口から特大のエネルギーを放出した。

 バチバチと激しくスパークしながら、派手な音を立てて飛ぶ弾。

 静止した世界で機体を回転させながら、両手のエネルギー弾で敵を殲滅していく。

 止まった世界でレーザーが触れた敵は音も無く消えていく。

 螺旋のように広がるそれが、全ての敵を討ち滅ぼしていった。

 

 残るのは粒子となった残骸だけだ。

 

 俺はゆっくりと攻撃を止めてその場に静止した。

 すると、時間が再び進み始めて。

 ロックオンした数十体の敵は音も無く消えていった。

 

 粒子が舞う戦場は静まり返って。

 俺は背中のスラスターの音色に耳を傾けていた。

 綺麗だ。綺麗な音色であり、ひどく心が落ち着く。

 

 敵が俺の機体をロックオンして襲い掛って来る。

 それを静かに見つめながら、俺は機体を操作して降下した。

 一気に距離を離してやれば、敵は俺を見失って混乱している。

 それを海面ギリギリで見つめながら、俺は両手の武装を眼前で踊っている敵に向けた。

 

《チャージ完了。広域殲滅モード起動》

 

 システムからの冷たい声を聞きながら、俺は無感情に弾を放つ。

 放たれたエネルギー弾が一直線に伸びていき。

 途中で爆ぜて、無数の線となって分裂していった。

 蛇のように動くそれらは逃げ惑う敵へと襲い掛っていく。

 逃れられない。必中の攻撃であり、回避不能だ。

 それらが逃げ惑う敵を貫いて、無数の閃光を空で発生させていた。

 

 ……不思議だ。見たことがあるようだ。

 

 綺麗なそれを目に焼き付けながら、俺は静かに笑う。

 残酷で命が軽い戦場で、死んでいく命は綺麗な花を咲かせてくれる。

 無人機であろうとも関係ない。アレも生きている。

 生きて戦って、最期に綺麗な花を咲かせていた。

 死んでいく敵に思う事は無い。

 それでも、それが作る最期の光は俺の心を楽しませてくれた。

 

 

 

 もっと、もっとだ。もっともっと――花を咲かせてみたい。

 

 

 

 心の奥底から戦闘への意欲が沸き上がって来る。

 こうすればもっと綺麗な花を咲かせられる。

 こうすればもっと多くの花が見られる。

 自分が自分で無いように、戦闘の虜になっていくような気がした。

 

 無数のプランを脳内で建てながら。

 俺は笑みを深めながら、スラスターの出力を上げる。

 

 スラスターを動かしてその場から移動をする。

 爆発的な推進力を手にして、止まっている仲間を避けていった。

 そうして、広域殲滅モードのブラスターで敵を破壊していく。

 敵の密集する空域を目指して飛んで。

 その中心でチャージされたエネルギー弾を放つ。

 勢いよく拡散されて行ったそれらが獰猛に敵へと襲い掛り、確実に命を積み取って行った。

 

 連続して響く爆発音。

 そして、ビリビリと振動している空気。

 肌を刺すような敵からの殺気が、俺の戦闘への意欲を更に掻き立てる。

 戦いたい。戦って戦って――もっと綺麗な花が見たい。

 

 限界まで目を見開いて、周囲一帯の敵を知覚する。

 そこに存在する敵たちが俺の脳内でマーキングされていった。

 無数の敵をロックオンしていき、仲間たちへの被害が少ない箇所を短時間で計算する。

 そうして、再びアクセラレート・システムを起動した。

 時間がゆっくりとなっていき、静止した世界で俺は両手の武器を目の前で合体させた。

 ガチャガチャと音を立てて、大きな二つのブラスターが合わさる。

 ゴテゴテとした長大な砲台が目の前に現れて、噴射口から空気が吐き出された。

 ロックオンした敵たち。砲撃を行う空間には仲間がいない。

 短時間で計算し、タイミングを完璧に捉えた結果だ。

 

 

 銃口から溢れ出すエネルギーを見ながら、俺は静かに――命令を下した。

 

 

 派手な音を立てながら、特大のエネルギーが放出される。

 エネルギー放出時の衝撃で機体が後ろへと動こうとする。

 それをバーニアによって防ぎ、機体をその場に強制的に留めさせた。

 白いエネルギーの塊が一気に伸びていって。

 視界を覆いつくすほどに存在していた敵を塗り潰していった。

 そうして、勢いが収まる事無く、眼前で浮遊していた巨大な城へと飛び掛かっていく。

 城へと触れた瞬間に甲高い音が鳴り響いて、バチバチと高濃度のエネルギーが散っていった。

 俺は目を細めながらその光景を見つめて、限界までブラスターの出力を上げた。

 高濃度のエネルギーが練り込まれて圧縮されたそれが線となって放出されて城の防壁に襲い掛る。

 薄い膜上に広がったバリアのようなそれが、俺の目にはハッキリと見えていた。

 人間を辞めた俺は、人間には見る事が出来ない何かを知覚できる。

 それを砕くために、白いエネルギーを使用した。

 

 出力を高めた事によってブラスターから鳴る音は変わって。

 音色が高くなったそれを感じながら、俺は城へと視線を注ぐ。

 ゆっくりゆっくりと城へと攻撃を続けて――パキリと音が聞こえた気がした。

 

 薄い膜上の防壁に罅が入った。

 それを確認して、俺は城への攻撃を続行ししようとして――システムが強制的に中断させる。

 

《限界出力を超えました。ブラスターの冷却を開始します》

「……チッ」

 

 舌を鳴らしながら、冷却されるブラスターを見つめる。

 もう少しだった。もう少しで破壊できた。

 次は必ず破壊する。それが俺の最優先任務だから。

 

 アクセラレート・システムも終わりを迎えた。

 ゆっくりと世界が動き出して、消えていった敵が存在した道に金属の粒子が舞う。

 薄汚れた粉雪のようなそれを見つめながら――俺は機体を横に移動させた。

 

 バーニアを噴かせる事によって位置を変えた。

 すると、先ほどまで立っていた場所に赤黒いエネルギーの塊が通過していく。

 それを静かに見つめて、飛んできた方向に視線を向けた。

 すると、そこには既に攻撃を仕掛けて来た機体は存在しなかった。

 

 恐らく、攻撃を放った瞬間に移動した。

 まるで、俺が時を加速させて動ける事を理解しているような戦い方だ。

 姿を晒すことなく他の敵に隠れて攻撃をしてきている。

 嫌な戦法であるが、合理的な戦い方で――俺は笑みを深める。

 

 

 面白い。面白かった――案山子が相手では、つまらないだけだ。

 

 

 敵と認識できたそれ。

 戦場を自由に舞いながら、俺は冷却されたブラスターを再び二つに戻した。

 襲い掛る敵を回避して、敵が放ってくる弾丸や砲弾を紙一重で避ける。

 ひらりと回避すれば、背後で爆発音が小さく響いて。

 無数の閃光を見ながら――機体を横へとズラす。

 

 再び、死角からレーザーによる攻撃が飛んできた。

 空間を切り裂いて、他の仲間を巻き込んで放たれたそれが俺の機体の装甲を軽く撫でた。

 真っ赤に赤熱する装甲を認識しながら、俺は攻撃が飛んできた方向に機体を向かわせた。

 ディレイは存在しない。動く時間を与える事無く、敵へと向かって行った。

 すると、不審な動きをする外套を纏う灰色のメリウスがいた。

 逃げようとしたそれに向かって片手でブラスターの弾を放つ。

 それは弾が放たれる前にブーストによってその場を離脱した。

 

 

 しかし、それだけでは――この攻撃は躱せない。

 

 

 途中で拡散したエネルギーが、奴だけを追う。

 奴は連続したブーストを行って、迫りくるエネルギーを回避していった。

 機体を激しく回転させながら、両手に持つ銃から放たれたエネルギーで俺の弾を相殺して。

 人間では到達できない速度で飛行する奴は、音を置き去りにして宙を舞った。

 美しい軌道で、敵であっても見惚れてしまう。

 俺はそんな奴が全ての弾丸を回避した瞬間に――アクセラレート・システムを起動した。

 

 時間がゆっくりと進み。やがて全てが静止して。

 俺は全ての弾を避けた勇者を見ながら、銃口を静かに向けた。

 素晴らしかった。美しかった……それだけだ。

 

 俺には勝てない。勝負にならない。

 それを理解していない敵へと銃口を向ける。

 そうして、間髪入れずにチャージしたエネルギー弾を放出する。

 勢いよく放たれたそれが、目の前の命を終わらせようと殺到する。

 

 

 

 俺は強者が咲かせる花を楽しみにして――それが、動いた。

 

 

 

 止まった世界で、そいつは動き出す。

 

 そうして、俺の攻撃を避けてブーストによって一気に距離を縮める。

 

 迫って来たそれは俺の胴体に銃口を添わせた。

 

 硬い物を胸に押し付けられて、ゆっくりと銃口が熱せられていく。

 

 灰色のメリウスに乗る人間が笑っているような気がした。

 

 そいつはほくそ笑みながら、チャージした弾を俺へと放とうとしている。

 

 

 

 ゆっくり、ゆっくりと感じる世界で――俺は眠気を感じていた。

 

 

 

「アクセラレート・トゥワイス」

《――コマンド承認》

 

 

 

 体に強い力を感じた。

 まるで、巨人の手で体を捏ねられるような感覚で。

 俺はそれを受け入れながら、更に速度を速めた世界を見つめた。

 全てが止まり、ピクリとも動かない世界で。

 ほくそ笑んでいた敵を見つめる。

 俺はゆっくりと機体を移動させてから、そいつの背後に立った。

 そうして徐に片手を上げて、そいつの背中に銃口を向ける。

 

 

 

 悲観する事は無い。絶望する必要も無い――これは”必然”だった。

 

 

 

 力が無いものは強者に淘汰される。

 圧倒的な力の前では、どんな小細工も無意味になる。

 俺はそれを理解していた。最初に教えられた。

 この力は圧倒的で、他のどの傭兵でも追いつけない。

 神に等しい力であり、この機体が与えられた名は――Valhalla(ヴァルハラ)だ。

 

 全ての戦士に休息を。

 勇者たちの魂に安らぎを。

 今から死にゆく敵にも、俺は平等に死を与える。

 

 

「さようなら」

 

 

 俺は静かに声を発する。

 そうして、目の前で微かに動く敵に――弾を放った。

 

 一瞬で放たれたそれが、目の前の敵を穿つ。

 胴体を貫いて、吹き飛ばされた手足が宙を舞う。

 ゆっくりと止まったそれを見つめながら、俺は祈りを捧げた。

 死んでいった兵士の安寧を願う。そうして、次にまた出会えたのなら――また殺してやる。

 

 祈りを終えて、システムが解除される。

 そうして、消えていった強者の残骸を見つめた。

 思う事は何も無い。花は咲かなかったが、綺麗だとは思った。

 

 

 

 そうして、ゆっくりと背後を見た。

 

 

 

 感じる。圧倒的な力を感じていた。

 振り返れば、城の頂上に何かが立っていた。

 どす黒いエネルギーを当たりにまき散らしながら、それは俺を見ている。

 俺はゆっくりと両手を下げながら、奴に対して明確な敵意を向けた。

 

 アレは敵だ。比類なき力を持った――世界の敵だ。

 

 それを認識したからこそ、俺は武装を変更する。

 両手のギミックが動き出して、武装をブラスターから近接戦闘用のブレードに変える。

 真っすぐに伸びる白いエネルギーは触れるもの全てを容易く溶断するだろう。

 俺はそれを目の前に持っていって――強く振るった。

 

 空間を振動させて、白い粒子が舞う。

 俺は出力を上げたスラスターを動かした。

 そうして、爆発的な推進力によって城の頂上に立つ白いメリウスへと迫る。

 

 

 倒す。此処で奴を――倒すッ!!

 

 

 

 強い敵意と殺意を胸に抱きながら、俺は限界を超えて飛翔する。

 白いメリウスはその手に黄金の槍を持っていた。

 怖気が走るほどのプレッシャーを俺に与えるそれを見つめながら。

 俺は笑みを濃くして、敵に向けて突撃していった。

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