【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
速い――誰よりも、アイツは速い。
目まぐるし変わる景色。
奴の機体の反応を感じてそちらへセンサーを向ければ誰もいない。
そうして、直感でバーニアを噴かせて横へと回避をする。
すると、背後から迫っていた弾丸が装甲を掠めていく。
火花が散って軽く胴体部の装甲が削られた。
漆黒の雷切の機動力は常軌を逸している。
人間が乗っていて、アレほどの無理な動きがさせられる筈がない。
俺とは違って奴の武装はプロミネンスバスターではない。
両手に装備したレイジング・ソルであり、あの黒く禍々しいエネルギーによって攻撃力が高められていた。
胴体部を薄く撫でた攻撃も、白いエネルギーによるバリアが無ければ致命傷だった。
奴の黒いエネルギーは破壊を突き詰めたもので。
対して、俺が使う白いエネルギーは防御や治癒を得意としている。
最強の矛と盾による戦いであり、気を抜けば一瞬で殺されてしまう。
常に緊張感を抱きながら、俺はレバーを操って機体を移動させた。
高機動戦闘状態で、上も下も白い空間で戦う。
何処まで下がっても地面が無い。
何処まで上昇しても天井が存在しない。
不思議な空間での攻防には慣れず。俺は鉄の王の攻撃に圧倒されていた。
気迫でも、操縦技術でも……悔しいが奴の方が上だ。
俺は所詮は残りカスで。
戦闘に特化したアイツにとっては雑魚でしかないだろう。
殺す事は簡単で、今は掌で弄んでいるだけだ。
飽きれば殺しに掛かってきて……その油断が、俺の勝算に繋がる。
奴は慢心している。
己の力を信じ切っていて、俺を見下していた。
そんなアイツの驕りを利用して、俺は奴に勝つ。
ペダルを強く踏んで更に加速する。
音速を超えて飛行して、背後から追って来る漆黒の雷切を確認する。
両手のレイジング・ソルの銃口を俺へと向けていて。
銃自体からバチバチというスパーク音が鳴って黒いエネルギーが駆け巡る。
殺意は十分であり、今にも胃酸を吐き出しそうだった。
でも、俺は――負けるわけにはいかないッ!!
奴が笑い声を上げながら銃弾を放ってくる。
俺は機体を動かして、蛇のように動く弾丸を回避していく。
機体を激しく回転させながら、襲い来る無数の弾丸を視認して。
何発かが加速して降り注いできて、ブーストによってそれを回避。
ブーストに対応してきた数発を、更にブーストして回避した。
体から嫌な音が聞こえてきて、くぐもった声を上げる。
歯を食いしばり痛みに耐えながら、凄まじいGに体を無理やりに慣れさせた。
そうして、一気に弾丸の嵐を回避して突き抜けていく。
まだだ――奴が来るッ!!
俺には分かる。
アイツは俺で、俺もアイツだから。
レーダーでは捉えきれない奴の動きを予測して。
背後に蹴りを入れた。
すると、金属が衝突する甲高い音が鳴り響いて背後に立っていた奴の装甲を凹ませた。
べこりと凹んだ胴体部に確かな感触を覚えた。
予測が当たり見事に決まって――奴は笑う。
強い怖気が走った。
底冷えするような笑い方であり、俺は咄嗟にその場から離れた。
スラスターを動かして奴から距離を取ろうとして。
奴はきらりとセンサーを赤く輝かせながら、ブーストによって俺に接近してくる。
一瞬聞こえた爆発音。次に見た物は眼前で銃口を向ける黒い影で。
俺は全身から汗を噴きださせながら、下へと降下した。
何も考えていない。
何も感じていない。
一瞬の景色の変化に、体が勝手に反応した。
体への負担も考慮せずに、俺は一気に下へと降りた。
バキバキという音が体から鳴って、俺はがふりと血を吐き出した。
その間に、炸裂音が響いていて上空で閃光が迸っていた。
奴は余裕そうに笑いながら、銃をくるくると回していた。
まるで、避けられるだろうなと言わんばかりで……すごいな、俺は。
自分自身な筈なのに、凄いと思ってしまった。
これほどの力があって、アイツは誰よりも空を自由に飛んでいた。
奴の残虐性も破壊への衝動も理解できない。
でも、奴の力自体は素直に凄いと思っている。
圧倒的だ。圧倒的な力で――孤独なのだろうと思った。
俺の弱さがアイツを生み出した。
俺の苦しみがアイツを誕生させた。
自らの罪の大きさに絶望して、自らの過ちを悔いて。
俺は自分自身を守る為に、絵に描いたような”
全てアイツの責任だ。
俺は悪くなくて、アイツが全て悪い。
アイツの所為だ、アイツさえいなければ、アイツが悪で――もう、いいだろう。
責任も、失敗も、後悔も……アイツは独りで背負ってきた。
誰も助けてくれない。
自分自身でさえも、アイツを悪だと決めつけて拒絶した。
たった一人で全ての罪を背負って、アイツは暗い闇の中で生きていた。
それが自分の役割だと認識して。
それが己の生まれた証だと思い込んで。
叩かれ、傷つき、汚れ、捨てられて……もう、十分だ。
アイツは十分な程に痛みを受けた。
アイツだけが悪い訳じゃない。
俺にも罪があり、アイツと同じくらい俺自身も苦しまなければいけなかった。
この世界で生きて、俺は多くの不幸を味わった。
大切な人や愛機を失って、初めて痛みを認識できた。
お前もこれくらい苦しんでいたんだろう。
辛かった、悲しかった。それでも、お前は弱さを吐かなかった。
お前は強い。誰よりも――気高い存在だ。
白いエネルギーを全てプロミネンスバスターに流し込む。
シリンダーが激しく回転して、叫び声のようなものが聞こえた。
それをしっかりと聞きながら、俺は大きく息を吸う。
そうして、呼吸を止めながらペダルを強く踏んで機体を一気に加速させた。
機体を包み込む風のバリア。
スラスターから響く音が小さく聞こえて。
笑いながら迫るアイツの声ですら遠く聞こえてくる。
ガタガタと激しくコックピッドが揺れる。
頑丈な筈の装甲は軋んでいて、今にも空中分解を起こしそうだった。
呼吸を止めながら、短時間での戦闘による決着を決める。
これで決まらなければ俺の敗北で、甘んじて死を受け入れるつもりだった。
限界を超えて、速さの向こう側へと行く。
一面白に塗り潰された世界で、俺は何処までも羽ばたいていく。
全てのエネルギーを注いだと思ったが。
まだまだ、体の奥底から溢れ出してくる。
温かく、母の手の平のような優しさを感じるそれが全身を包み込む。
そうして、朦朧としていた俺の意識を一気に覚醒させた。
『止まるなよ――マサムネ』
「――ッ!」
彼女の声が聞こえた。
何時も傍にいてくれて、俺を支えてくれた相棒の声だ。
傍にいる。今もこうして、近くに立っている。
彼女の鼓動を、息遣いを確かに感じた。
それだけで、俺の心は熱くなり、全身に力が漲って来る。
《はははッ!! 逃げるだけかッ!! だったら――そろそろ締めだッ!!》
「――ッ!?」
奴の纏う黒いエネルギーが激しい音を上げた。
そうして、奴はレイジング・ソルを大きく横に向けながら発砲する。
無数の弾丸が発射されて、それがホーミング弾のように動いて俺へと襲い掛る。
俺はその攻撃を見つめながら――大きく目を見開いた。
未来視の力により、遥か先の景色が見えた。
幾つもの可能性。分岐した未来すらも見ながら。
俺は流れるように機体を操作した。
視界を覆いつくすほどの殺意の塊を視界に収めながら、それを最小限の動きで回避していく。
右へ避けて、背後から迫った弾丸を半身を逸らして回避。
左右から挟み込むように飛んできたそれを下へと降下して避ける。
死角から迫って来た攻撃に対しては、纏う白いエネルギーを展開してバリアにする。
速度の落ちたそれが機体に当たり装甲が爆ぜた――が、まだ動ける。
迫りくる弾丸を、全て眼で捉えた。
呼吸を忘れて、光の線となって見えているそれを認識する。
避ける。避ける、避ける、避ける、避ける――回避、回避回避回避回避回避回避回避回避――突き抜ける。
音速を超えて、一気に上空へと飛ぶ。
白いエネルギーの粒子がパラパラと舞って白い世界を輝かせる。
相棒の声が、彼女の強い願いが俺に力を与えてくれる。
限界を超えて空を翔けて、俺は限界までチャージしたプロミネンスバスターを奴に向けた。
これで終わり、これで チェックメイトだ。
すぐそこにいる奴を見ながら、俺は引き金を引こうとして――横から何かが通過していった。
バラバラと残骸が宙を舞う。
俺はそれを静かに見つめていた。
空を飛ぶのは、俺の雷切の――腕だった。
奴のレイジング・ソルから放たれた弾丸。
奴は全ての弾丸を放つ事は無く。
数発を残した状態で、遅れて残りの弾丸を放った。
それも他の弾丸が目に見えて大きなエネルギーを纏う中で。
それは薄く最小限のエネルギーしか纏っていない。
気づけない。気づく筈がない――奴は、そう思っている。
《詰みだ――消えろ》
奴は右手の武器を捨てて、拳を握る。
最後は己の手で消すつもりだったのだろう。
確実に消す為に、全てのエネルギーを右手に込めていた。
禍々しい黒いそれが蠢ていて、危険な音を奏でていた。
眼前に迫るそれを見ながら――俺は奴に言葉を送る。
「ごめん――ありがとう」
《何を――ッ!》
奴に対して、謝罪と礼を口にした。
奴は少しだけ動揺して言葉を返してきて――貫かれた。
斜め下から勢いよく白いレーザーが突き抜けていく。
凄まじい熱量のそれが、奴の機体を削り取っていった。
黒いエネルギーのバリアを突き抜けて、その装甲を溶断していく。
ズクズクに溶けて、赤く赤熱するそれは広がっていって。
大きな風穴を開けながら、それは下半身と上半身を強制的に分離させる。
バラバラと残骸が散っていって、残された上半身が俺の機体に当たった。
甲高い金属音をあげながら、俺は衝撃と共にそれを受け止める。
片手だけになった手で、しっかりと奴の体を抱きしめた。
静かに、ゆっくりと下へと降りていく。
そうして、何も無かった筈のそこに足を下ろした。
もう一人の俺が。
静かに、それでいて怒気を孕ませながら声を発した。
《……アレは、何だ……俺は”知らなかった”筈だ》
「……あぁ、知らなかった……彼女が俺に教えてくれたんだ」
最後に使った手。
手から切り離されたプロミネンスバスターの隠された機能。
時間差によって自動で放つ機能を、俺は先ほどまで知らなかった。
知らなかったが、彼女の声が俺に教えてくれた。
こうすれば使える、と――鉄の王は笑う。
《ははは……何だそれは……ずるい、じゃないか》
「……すまん」
奴は悲し気な声で笑う。
最期まで一人であった機械の王。
奴の機体は粒子となって散っていく。
俺はしっかりと奴の機体を抱きしめながら、伝えるべき事を伝えようとした。
「お前の苦しみを、痛みを。俺はこの世界で知った……でも、人間たちを理由も無く殺す事は認められない。それはダメだ」
《……だろうな。お前は、そうあるべきだ。俺は、俺として》
消えて行こうとするマサムネ。
悪役のまま死んでいこうとした奴の言葉を遮る。
そうして、片手で強く奴を抱きしめながらハッキリと言った。
「でも、お前は俺だ。存在しちゃいけない命じゃない。お前は俺にとってかけがえのない存在だ――お前も、マサムネだよ」
《…………ふっ……ふふ……何だよ、それ…………やっぱり、お前は……ずるいよ。マサムネ》
ポロリと奴の左手からレイジング・ソルが零れ落ちていく。
宙をくるくると回転して粒子となったそれが舞って。
奴は空いた手で俺の体を抱きしめて来た。
弱弱しい力で、必死に両の手で俺の体を抱きしめる。
まるで、零れ落ちていくそれを留めようとする動きで――俺は笑う。
「消えない。お前は消えない――ずっと、一緒だ」
《……そうか……ようやく、俺は眠れるんだな……ありがとう、マサムネ》
奴の背中を撫でる。
奴はセンサーからオイルを流して。
それが下へと落ちていった。
それを見届けて、マサムネの機体は粒子となって消えていった。
パラパラと舞う粒子は白い。
全てを飲み込む黒ではなく。
全てを優しく包み込む綺麗な白で――雷切が消えていった。
ゆっくりと地面に降りていく。
そうして、ひたりと足をついて前を見た。
そこにはボヤけて見えなかった筈の機体がハッキリと見えていた。
黒い。真っ黒なそれは銀色のラインが引かれていて。
鴉のようなそれが、俺に対して強烈なプレッシャーを放ってきた。
静かに鎮座するそれは、俺の事をジッと見つめていた。
品定めするように。
価値を示した俺に対して、”殺気”を放ってくる。
傍には、彼がいる。
母と同じ瞳をしたそれが立っていた。
俺はゆっくりと頷いて、彼の元へと歩いていった。