【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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261:神を殺す方法(side:トロイ)

 見える――全ての攻撃が、ハッキリと見えている。

 

 一瞬で迫る高濃度のエネルギーの塊。

 それをギリギリで回避して、宇宙空間を舞う。

 無重力の戦場でスラスターから鳴る小さな音を聞きながら。

 全てを焼き尽くすほどの危険な熱を持ったそれを避けていく。

 

 闇のように黒い塊は、直撃しただけで即死だ。

 ギリギリで回避なんてしたくない。

 だが、ギリギリになってしまうほどにアレは速い。

 普通のエネルギー兵器よりも更に速く。

 避けられないものはアクセラレート・システムで遅くする他ない。

 あまり切り札は知られたくなかったが、仕方ない。

 

 手札を隠したまま戦えば、此方が喰い殺される。

 それを一瞬で理解して、奴から距離を取りながら攻撃を避けていく。

 凄まじい速度で宙を翔けながら、四方八方から襲い来るエネルギー弾を感知する。

 レーダーで捉えてから避ければ死ぬ。

 だからこそ、全ての攻撃のパターンを少ない情報で読み取って。

 最適化された動きで避けていく。

 未来視に近い芸当であり、外れれば一巻の終わりだ。

 

 常にギリギリで。

 当たれば死ぬという現実を受け止めながら、俺は機体を動かし続けた。

 機械仕掛けの神だろうと、限界は存在する。

 コアから発せられる熱は高まっていき、心臓の辺りが焦げ付くほどに熱かった。

 全身に沸騰したお湯を流されているように体が強い痛みを発していて。

 それを感じながら、俺は視線を動かし続けた。

 ギョロギョロと視線を動かしながら、迫りくるエネルギー弾を回避。

 スラスターから鳴る音は強さを増していき、白い粒子が通った道に舞っていく。

 

 機体を激しく回転させながら、迫りくる攻撃をブーストによって避ける。

 体全体に強い力を感じて、視界を覆いつくす闇をブラスターの弾丸で弾け飛ばす。

 黒と白の衝突によって凄まじい閃光が迸る。

 目が潰れるほどの爆発を見てから、機体を動かして地球へと帰還しようとする。

 すると、センサーを赤く光らせていた奴はゆっくりと俺を追ってきた。

 

 やはり、そうだ。

 奴は完全に俺を敵と認識した。

 ついてくる。ついて来い――とっておきを喰らわせてやる。

 

 奴の周囲の空間が歪む。

 そうして、ノータイムでそこから黒いエネルギーの塊が四つ放たれた。

 またか。どんな攻撃でも避けて――ッ!?

 

 空中で塊が弾けた。

 そうして、拡散したそれらが俺へと向かってくる。

 同じだ。俺と同じ範囲攻撃であり、奴は俺をおちょくっている。

 それを理解しながらも、俺は冷静に機体を操作していった。

 システムからの声を聞きながら、パターンCからAへと戻す。

 

 機体内が少し揺れる。

 そうして、バランサーなどが瞬時に調整されて。

 俺は一気に機体を加速させた。

 宇宙圏から大気圏へと突入しながら、奴からの攻撃を躱していく。

 放たれた無数の線が縦横無尽に動いて、俺の命を終わらせようとしてくる。

 完璧には避けられずに、軽く装甲を撫でていった。

 脚部を軽く抉られて、残骸が宙を舞う。

 そうして、大気圏突入の余波で燃えカスとなって消えていった。

 眼前には残りのエネルギーが迫って来ていて――俺は笑う。

 

 激しい摩擦熱によって機体が赤く熱されていく。

 体全体が熱く、ガタガタと激しく揺れていた。

 そうして勢いよく迫っていた攻撃が勢いを弱めていく。

 俺を追いかけて来るエネルギーは動きを鈍らせながら、静かに消滅していった。

 

 

 これでハッキリとした――奴はまだ、あの機体に慣れていない。

 

 

 大気圏に突入する上で、拡散するような攻撃をすればどうなるか。

 エネルギーは霧散していき、静かに消滅していくのだ。

 奴がそれを理解した上で攻撃した可能性もある。

 だが、そんな攻撃には意味が無いと分かる筈だ。

 だからこそ、奴は”無駄な一手”を取ったと俺は結論付けた。

 

 奴が本物の全知全能であれば、俺は今頃死んでいる。

 紛い物の神では、本物に敵う筈がない。

 しかし、俺がまだ生きているという事は、奴自身も完成されていないという事を指す。

 無駄な行動を取るような半端物だ……それなら、勝機はある。

 

 大気圏を突入しながら、奴を見た。

 奴は俺から大きく遅れて突入して。

 俺の事をジッと観察していた。

 何を考えている。何を企んでいる――関係ない。

 

 俺は両手のブラスターを奴へと向けた。

 そうして、限界までチャージしたエネルギーを――奴へと放つ。

 

 一直線に飛んでいく白いエネルギーの塊。

 衝撃で機体全体が激しく揺れて、軋むような嫌な音が聞こえた。

 俺は衝撃に耐えながら、回避不能の攻撃を奴へと見舞う。

 大気圏に突入した状態で、機体を自由に動かす事はほぼ不可能だ。

 避けられない。確実に当たる。

 

 

 そう確信しながら弾を放って――奴に命中した。

 

 

 コアへとぶち当たったそれ。

 エネルギーの余波が散っていきながら、確かな手応えを感じる。

 奴の装甲を削っているような音が響いて。

 俺は強く歓喜しながら、エネルギーの出力を更に上げた。

 ありったけを奴へとぶつける。全てを捧げて――奴を殺す。

 

 奴を殺す事を願いながら、俺はエネルギー弾を放ち続けた。

 叫びたいと思えるほどの強い願いを吐き出しながら、奴をジッと見つめる。

 眩いばかりの輝きを発しながら、エネルギーが散っていって。

 大気圏を突破しながら、俺は機体を動かして距離を取った。

 ブラスターからの攻撃は止んで、エネルギーが消えていく。

 奴はどうなったのかと見て――驚いた。

 

 

 そこには、何もいない。影も形も――本能が働いた。

 

 

 アクセラレート・システムが起動する。

 時間がゆっくりとなっていき、俺は背後から強い殺気を感じた。

 センサーをそちらへと向ければ、奴が黄金の槍を突き出していた。

 ギリギリでその攻撃を回避する。胴体部を掠めたそれが、ガリガリと装甲を削り取っていった。

 まるで柔らかく脆い素材を指で掬うようにあっさりと。

 

 奴はスピードを一切緩める事無く攻撃を仕掛けて来る。

 俺は更にアクセラレート・システムの速度を高めた。

 その瞬間に、体に強い違和感を抱く。

 凄まじい負荷が体に掛かったが、奴の動きは遅く――ならない。

 

「――ッ!?」

 

 奴は以前変わりなく攻撃を仕掛けて来た。

 周りが静止している中で、奴の攻撃の音だけが響く。

 俺は機体を操作しながら、その激しい攻撃を避けていった。

 

 

 いや、違う。変わらないんじゃない――速くなっているッ!!

 

 

 動きが確実に速くなっていた。

 加速した世界に適応しているだけじゃない。

 明らかに奴の方が、俺の世界から進化しようとしていた。

 このままでは追い抜かれる。追い抜かれれば何も出来ない――そうは、させないッ!

 

 

「――アクセラレート・トレブルッ!!」

 

 

 命削りの行動。

 ぐぅんと周りの世界が更にゆっくりとなる。

 全てが完全に静止しているのではないかと思えるような空間。

 限界まで加速する俺は、奴の攻撃を避けながら此方も攻撃を仕掛けようとした。

 ブラスターから一瞬で近接戦闘用のブレードに切り替えて。

 奴へと斬りかかれば、奴は黄金の槍でそれを弾く。

 

 

 

 まだだ。まだ奴は、進化しようとしている――だったら、俺もやってやるッ!!

 

 

 

 更に限界を超えた。

 

 機体が激しく振動して、世界の情景が変わる。

 

 鮮明に見えた景色が変わって、油絵のようになっていった。

 

 光が、流れていく。

 

 点と点が繋がり、線となって空を描いていった。

 

 体が強く圧迫されて、目が真っ赤に染まっていく。

 

 頭が割れるように痛い。

 

 脳が、危険信号を発している――それでも、まだだッ!!

 

 

 

 奴の動きが弱まっていると感じた。

 だからこそ、死を覚悟した手を打つ。

 叫ぶようにノイズ交じりの声で、最期のコマンドを発した。

 

 

 

「――アクセラレート・クアドルプルッ!!!!」

 

 

 

 体が一気に重くなる。

 全身が鉛になったかのように重くなる。

 激しい頭痛が襲い掛ってきて、両目に強い痛みを感じた。

 潰れる。潰れてしまう。

 

 機体全体が激しく軋んで、装甲の一部が弾けた。

 限界まで加速した空間。光すら消えた空間で、この機体が耐えられない。

 長くいれば、負荷に耐えきれずに自壊する。

 全身の不調を感じて機体の悲鳴も聞こえてくる中で、俺は止まっている奴に対してブレードを振るった。

 全ての時間が止まり、光すら見えなくなった空間で。

 奴のコアへとブレードを突き刺す。

 

 

 白いエネルギーを迸らせるブレードがゆっくりと奴の胴体部を抉っていって――貫通した。

 

 

 その瞬間に、俺はアクセラレート・システムを切る。

 限界まで加速していた機体は一気に静かになっていく。

 光も見えない空間に輝きが満ちていって、世界の色彩が戻って来た。

 俺は目から濁った液体を垂れ流しながら、奴を見ていた。

 確実にコアを貫いた。確実に奴を仕留めた。

 それを確信して――奴の腕が動く。

 

 

 

《ふ、ふふふ……滑稽だな。哀れにすら思える》

「――」

 

 

 

 ――生きて、いる。

 

 

 

 それを見た瞬間に、もう片方のブレードを動かした。

 が、奴から放たれた黒いエネルギーの塊に腕ごと持っていかれた。

 半ばから失った手で、脳に直接痛みが伝わって来た。

 それを感じながら、俺は残った腕を動かして奴を切り裂こうとして――動かない。

 

 腕がピクリとも動かない。

 奴に深々と刺さった腕が、一ミリたりとも動かなかった。

 これは何だ。何が起こっている。

 奴は少しのダメージも感じさせる事無く、俺の腕ごと空いた穴を埋めていった。

 一瞬にして破壊された装甲を元に戻した。

 そうして、くるくると黄金の槍を回していた……あぁ、そういう事か。

 

 

 

 理解した。理解してしまった。

 

 こいつは、初めから本気では無かった。

 

 初めから本気ではなく。俺を――”玩具”だと認識していた。

 

 

 

 戦いになっていたと認識していた。

 奴を殺せると思っていた。

 しかし、それは奴の演出によって俺が勘違いしただけだった。

 

 奴は一瞬で俺が与えたダメージを回復させた。

 奴はコアがあると思わしき部位を貫いても余裕だった。

 それはつまり、俺を最初から敵だと認識していなかった。

 俺が取るに足らない存在だと――最初から思っていた。

 

 震えた。心が無くなった筈の俺が、ただただ震えた。

 圧倒的だ。圧倒的なまでに、奴は強い。

 並び立つ者は存在せず。本物の神であると認識してしまう。

 初めから分かっていた。初めから、紛い物で勝てる筈は無かった。

 

 

 

 理解した。理解できたよ――だが、お前の”負け”だ。

 

 

 

《――?》

 

 

 

 奴の機体が動きを止める。

 いや、自分の意思で動きを止めた訳じゃない。

 奴の空間だけが”固定化”されて、その場に縫い付けられていた。

 俺は心の中で笑う。

 そうして、奴の体を半ばから消えた腕で抱きしめる。

 勝負にはならなかった。戦いにすらならなかった――だが、侮ったお前の負けだ。

 

 周りの空間が歪んで、無数のメリウスが姿を現す。

 ワインレッドを基調とし黒いラインの入った機体が中心に立っていて。

 鋭角なフォルムの機体からは強い殺意を感じた。

 腕には無数の黄金のリングが付けられていて、ジャラジャラと音を立てている。

 本体のメリウスの他に外装として纏っているアーマー。

 その巨大な腕に接続した事によって、黄金のリングが激しく振動して甲高い音を鳴らしていた。

 

 他の浮遊するメリウスも色や形は違うが、アレと同じ機能を持っている。

 無数のメリスウが奴をその場に固定する事にだけ意識を向ける。

 奴は一分にも満たない時間だけ、その場に固定化されていた。

 その時間は本来なら意味の無い時間で。

 何も出来ない筈の時間である筈だった――そう奴にとっては、だ。

 

 

《――ほぉ》

 

 

 奴が動きを止めていた数十秒の時間。

 その間に、周りにいたメリウスが何かを展開する。

 手に持っていた銀色のボックスが展開されて、中から薄いピンク色をした膜が広がっていった。

 それはひし形の形状となり、俺たちの周りを囲んだ。

 

 奴が驚いている間に、遥か空の彼方がキラリと光った。

 そうして、遥か頭上より凄まじい濃度のエネルギーが降り注いできた。

 宇宙に浮かぶデブリに紛れた無数の小型衛星からエネルギーが放たれて。

 俺たちを囲むひし形の防壁に対して限界までエネルギーを注いでいった。

 それにより、ピンク色をした防壁はより強固のモノになり、徐々にその面積を圧縮していった。

 空間事、俺たちの機体が強制的にサイズを縮まらされていく。

 奴は徐に手を挙げて、防壁に対して攻撃を仕掛けた。

 しかし、奴の漆黒のエネルギーは防壁に弾かれて霧散していった。

 

「無駄だ……もう、俺たちは助からない……ゲームオーバーだ」

《ふふ、なるほど……鼠が考えそうな仕掛けだな》

「何とでも、言えばいい……お前は、負けたんだよ」

 

 俺一人の犠牲で、神を殺せるのなら安いものだ。

 俺はゆっくりと目を閉じていく。

 エネルギーの膜から発せられる甲高い音を聞きながら。

 俺は自らの役目を終えて、静かに眠りにつこうとした。

 

 これから何十年、年百年。

 こいつと一緒に、俺は封印される。

 神を殺せないのであれば、神と共に眠る他の術はない。

 コマンダーから聞いた作戦通りの展開であり、俺はもう用済みだ。

 

 目覚めて、機械として戦って。

 何も要求する事無く、己が使命を果たせた。

 最初で最期の相手が、神というのは……光栄なことなんだろうな。

 

 

 

 何も感じない。何も思わない……それなのに、心がキュッと締め付けられる。

 

 

 

 これを俺は知らない。

 これへの対処法を俺は知らない。

 胸の痛みを感じながら、俺は完全に瞼を閉じた。

 そうして、完全なる暗闇の中で俺は静かに声を発した。

 

 

 

「さようなら――相棒」

 

 

 

 自然に呟いた言葉。

 その言葉の意味を俺は知らない。

 それなのに、心は少しだけ楽になる。

 俺は完全に閉ざされた空間の中で、独り静かに――……

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