【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で? 作:オタリオン
この空間に存在する全ての魂。
その鼓動を俺は全身で感じていた。
小さくか弱い火。しかし、その全てが一つになって俺に無限の力を与えてくれた。
感じる。感じるのだ。この世界で生きた命たちの――熱い心をッ!!
スラスターから鳴る音が変化する。
耳に響くような高音から、人々を奮い立たせるような音色に変わって。
それを聞きながら、俺は仲間たちと共に宙を翔けた。
何処までも、何処までも飛んでいける。
彼女たちが傍にいるのなら――何も怖くはないッ!!
《目障りだ――消えろッ!!》
イザナミがエネルギーを放つ。
凄まじい熱量を放つエネルギーの塊で。
それが星すらも呑み込んでしまうような巨大な大蛇に変わった。
雄叫びを上げながら、それが襲い掛って来て。
俺は剣を三つ向かわせながら応戦した。
大蛇へと迫ったそれがエネルギーを迸らせながら勢いを殺す。
しかし、完全には勢いを殺す事は出来なかった。
真っすぐに此方へと向かってくる敵。
それを見据えていれば、強い光を放つ仲間の魂が俺に囁いてくる。
《任せてくれ。蛇なんてものは幾らでも見て来た。社長としての手腕を見せてあげよう!》
《マイルス社長ッ!》
マイルス・ワーグナーの魂が飛んでいく。
そうして、更に強い輝きを放ちながら大蛇の中へと飛び込んでいく。
飲み込まれたそれは体内で激しい光を放ちながら、大蛇の体を塗り替えていった。
闇のように黒く淀んだ色から、透き通るような綺麗な白へと変貌していく。
そうして、大蛇の放っていた危険な赤い光は、優しい青い光へと変わる。
《ははは! まさか蛇になってしまうとは! だが、これでもっと戦えるよぉ!》
社長は咆哮を上げながら、イザナミへと向かって行く。
奴は舌を鳴らしながら応戦していた。
社長は初めての体の筈なのに器用にその体を動かしていて。
逃げる奴を追いかけながら、奴の放つエネルギーによる攻撃を全て相殺していた。
《神に逆らうなど――万死に値するッ!》
奴が怒声を発しながら、黄金の槍を天に掲げた。
すると、奴の頭上に黒いエネルギーが集まっていった。
渦を巻くように全てのエネルギーを取り込みながら、それは巨大なものへと変わっていく。
大きく大きく、禍々しいそれは太陽の如き熱を放っていて。
アレを喰らえば一溜まりも無いだろう。
俺はどうすべきかとそれを睨んで――また仲間の魂が俺の前に現れる。
《此処は私が行こう! 王としての誇りに懸けて――お前を守って見せる!》
《オリアナッ!》
オリアナ・ハーモニスクが翔けて行く。
いや、彼女一人だけではない。
無数の魂が強い輝きを放ちながら、彼女を先頭にして後に続いていく。
そうして、巨大なエネルギーの塊へと突っ込んで行った。
彼女たちの魂は、その巨大なエネルギーよりも遥かに小さい。
触れた瞬間に蒸発して、そのまま取り込まれて行ってしまった。
小さくか細く――しかし、誰よりも輝いていた。
闇のよう黒く濁った巨大な星が――僅かに揺れ動いた。
《何――ッ!!?》
太陽の如き熱と、惑星の如き大きさを持ったそれ。
内部から何かが蠢いていて、ボコボコと外殻を押し上げていた。
それが波のように広がっていって、バリバリと殻のように砕けていった。
内部から漏れ出した光が辺りを温かく照らしていて。
イザナミが驚きを露わにしている間に、それは大きな音を立てて砕け散った。
凄まじい爆風だ。
オーバードでなければ風だけで機体が大破していただろう。
それほどの強い衝撃を感じながら――全身に力が漲って来る。
熱い、熱いほどに――エネルギーに満たされていくッ!!
全身を温かな白いエネルギーの包まれて。
砕けた巨大なエネルギーをそのまま体内に取り込んでいった。
感じる。感じるぞ。オリアナや彼女の大切な市民の魂の鼓動を。
《これで奴と並び立った! 行け! マサムネ! お前なら出来る!!》
《あぁ、やってみせるさ!》
オリアナの声を聞きながら、俺は全身に力を込めた。
そうして、機体を激しく動かして奴に対して攻撃を行う。
奴は舌を鳴らしながら、黄金の槍を振るって応戦してきた。
時空の間の中で、俺と奴は時を超えるほどの速さで移動していた。
宇宙全てを何十何百周も出来るほどの速さで。
周りの景色が勢いよく変わっていくのが分かる。
人が生きた時間、この世界に住むありとあらゆる生命の記憶。
それが勢いよく流れて行って、俺はそれを全身で感じながら武器を振るい続けた。
いつの間にか、奴の分身体も加わって。
俺は両手を合わせた九つの剣で応戦した。
激しい攻防。剣と槍がぶつかり合う度に、星が誕生するほどのエネルギーが飛び散っていった。
一撃一撃が重く。手は痺れて痛みを発していた。
――が、まだこんなものじゃない。
俺は勝つ。勝って――俺と仲間が愛したこの世界を守って見せるッ!!!
心臓が激しく鼓動する。
そうして、全身に身を焦がすほどの熱が広がっていった。
それを感じながら、俺は限界を超えて武器を操作した。
機体全体が軋み声を上げて、弾けた装甲の一部からエネルギーが噴き出していた。
内部のオイルが漏れ出して、センサー部からとめどなく流れていく。
痛みや苦しみ。感じる事の無い筈のそれを感じながら、イザナギが涙を流していた。
しかし、それは悲しみの涙じゃない――この瞬間を喜ぶ涙だ。
感じる。イザナギの想いを感じる。
こいつは喜んでいるのだ。
またこうして、人と一緒になれた事を。
友となった俺たちは、この広い世界で共に翔けていた。
自由に、何者にも縛られずに――宙で生きていた。
イザナミは怒りの頂点に達する。
そうして、遊びは終わりだと言わんばかりにそのエネルギーを更に増大させた。
《終わらせる。何もかもを――終わらせてやろうッ!!!》
《くぅ!!》
凄まじい波動であり、体が押し戻されそうになる。
一度奴から引き剥がされれば、奴を捉える事は不可能に近い。
凄まじい速度で時の流れの中を移動しているのだ。
時を超えるほどの速さで進む俺たちが離れれば、奴からの奇襲を許してしまう。
そうなれば勝機はゼロに近い。
俺は歯を食いしばりながら、奴の機体にしがみ付くように追いかけた。
奴はエネルギーを増大させて俺を強引に引き剥がそうとしてくる。
このままでは、もう――強い光を放つ魂が俺の前に立つ。
《踏ん張りなさい。その為の力を――私が貴方に与えます!》
《マクラーゲンさんッ!》
彼女がゆっくりと俺の機体に入り込む。
そうして、背中の翼に彼女の光が伝わっていく。
輝きを増した翼が広がっていって、引き剥がされそうになった体に力を与えてくれた。
これならいける。そう確信して、俺は翼を羽ばたかせて奴を迫っていった。
奴は戸惑っている。何故だ、こんな事はあり得ない……そうさ。あり得ないだろうさ。
《大丈夫。貴方なら勝てます――私はずっと貴方を信じていますから!》
彼女の声を聞きながら、俺は更に機体を加速させた。
そうして、目の前に立ち塞がる偽物たちを一刀両断する。
音も響く事の無い速度で、通り過ぎ様に機体を斬りつけた。
背後で凄まじい爆発が起きて、一瞬で音と光が消えていく。
俺は七つ全ての剣を奴に向けて放つ。
奴はエネルギーを槍へと集中させながら。
大ぶりな一撃で、俺の剣を――砕いて見せた。
バラバラになって、残骸が宙を舞う。
砕けた剣が時の流れに吸い込まれて行って。
消えていったそれを見る事無く、俺は勢いのままに奴へと接近した。
そうして、両手のブレードを振るって奴に攻撃を仕掛ける。
全身全霊で銀の剣を振るった。
凄まじい衝撃が辺りに響き渡って。
奴は黄金の槍に自分が持ち得る全てのエネルギーを注いでいた。
《認めない。認めない認めない認めない――出来損ないがッ!! 神に敵うはずなどッ!! ないッ!!!!》
《――ッ!!》
奴が全てのエネルギーを自らの槍へと注ぎ終わる。
そうして、そのまま力任せに振られた一撃が。
俺の持つ二つの剣を半ばから砕けさせていった。
キラキラと銀の残骸が舞って、奴は狂ったように笑いながらそのまま槍による攻撃で俺を終わらせようとしてきた。
俺はその攻撃を見て――剣を放つ。
《――なッ!?》
光と共に現れた最後の剣。
奴は驚きを露わにしながらも、攻撃を中断して防いで見せた。
奴は気づいていなかったようだ。
この機体の剣は”十本”で、俺は最後の一つを隠していた。
虚を突く形で放ったが、奴は驚異的な反応速度で防いで見せた。
奴はくつくつと笑う。そうして、激しく閃光を迸らせるそれを再び砕こうとしていた。
《く、くくく。神に小細工など通用しない。こんなもの、砕いて――ッ!!》
再び剣を砕こうとしたイザナミ。
しかし、奴の槍が押し返される。
奴は何が起きているのか理解できていないようだった。
その剣は俺一人のものじゃない。そこには――彼女たちがいるッ!!
剣は強く美しく輝いていた。
そうして、ドクドクと熱い鼓動を響かせていて。
俺はそれの柄を掴みながら、両隣に現れた彼女たちと共に剣を握った。
《おじさん! 決めるよ!!》
《マサムネ! これで終いだ!!》
何時も聞いていた彼女たちの声。
その声が俺の心を熱く滾らせた。
ドクドクドクドクと心臓は限界を知らない様に鼓動を早めて。
俺は大きく笑いながら、彼女たちの声に応えた。
そうして、翼を大きく広げながら彼女たちと共に”未来”へと進んでいった。
限界まで――いや、限界を超えた先へッ!!
全ての命の記憶が駆け巡っていく。
この世界の全ての記憶が流れていきながら。
その一つ一つが光の線となって俺たちを照らしていた。
俺たちはその時間の中で、強く叫びながら剣を前へと押した。
奴の黄金の槍に罅が入る。
砕ける事の無い完全無欠の兵器が、限界を迎えようとしていた。
イザナミは、告死天使は叫ぶように声を発していた。
《馬鹿なッ!! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なッ!! あり得ない。あり得る筈がないッ!! こんな、こんな結果など――ッ!!!!!》
奴の悲鳴にも近い叫び。
それを受けた黄金の槍は――砕け散った。
半ばから折れたそれの残骸が宙を舞う。
俺は体に当たるそれを弾きながら、奴のコアに対して剣を突き立てた。
叫ぶ。叫ぼう。叫ばずにはいられない。
最後の力を振り絞って――決着をッ!!!
魂からの叫び。
勝利を願い、未来へと進むことを決めた者たちの声。
一つになった魂が混ざり合って、激しく共鳴していた。
そうして、銀色の剣はより一層輝きを増して虹の如き光を放つ。
それが時間の流れの中へと響き渡って、黒く塗り潰そうとした絶望の光を打ち払う。
叫べ。叫べ。何処までも響くように――心の声をッ!!
光の線が勢いよく流れていく。
そうして、光が消えていく中で奴の装甲に亀裂が走る。
小さな亀裂が広がっていって。
奴は剣を片手で握りながら、否定の声を上げ続けた。
俺たちはその否定すらも掻き消すように叫ぶ。
そうして、全ての力を出し尽くして剣を押し込む。
すると、奴の機体の罅が全身に駆け巡り――大きく貫いた。
奴は叫んだ。
全てを否定し終わらせようとした者の叫び。
それを聞きながら、俺たちは全ての時空を飛び超えていった。
光の線はぷつりと消えて、俺たちは――不思議な空間に立っていた。
何も存在しない空間。
形容できない色が広がる広大な世界で。
あらゆる感覚が一挙に押し寄せて来た。
温かい、冷たい――甘い、苦い。
ピリピリと、こそばゆく――静かで、派手で。
全ての感覚が合わさっていくような感覚。
虹色の輝きが広がる世界には、あらゆるものが存在した。
生も死も。全てを経験できる世界で。
此処は恐らく――”世界の外”だ。
人も神も存在しない世界。
そこへと到達し、俺たちは浮いていた。
何も無いように見えて、何もかもが存在しているのだ。
人はおろか、神でさえも立ち入る事が出来ない聖域。
俺たちはそこに入ってしまった。
ゆっくりとイザナミを見る。
奴のコアは完全に砕かれていて。
復活する事はもう二度とないだろう。
奴はセンサーを赤く点滅させて――弱弱しい青い光を灯らせた。
《父よ……俺は……負けた、のか……》
《あぁ、お前の負けだ……何か伝えたいんだろ》
長くは此処にいられない。
だけど、奴の最期の想いを聞かずに立ち去る事はしたくない。
俺はゆっくりと剣から手を離した。
そうして、奴の顔に手を添えた。
奴は笑う。
笑ったような気がした奴は……俺に対して伝えるべき事を伝えようとしてきた。