【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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273::国家の夜明け(side:沢渡)

 話には聞いていた。

 ツバキ主任が趣味で手伝っている研究があると。

 そこではロボットの研究を行っており、人と何ら変わりのないロボットを作ろうとしていたらしい。

 人工知能を搭載し、自らの考えで動く機械生命体。

 昔から子供でも考えるような御伽噺のような研究だ。

 現にそれを夢見て”それなり”のものを生み出した者は数多い。

 

 ちぐはぐな言語を喋り、滑らかな動きの無い機械体。

 それが一昔前のロボットで、現代のロボットはそれよりも遥かに進歩していた。

 代表的なのがバトロイドであり、アレは半自立思考型の機械だ。

 おおよその命令さえ与えれば、それに相応しい行動を取れるもの。

 しかし、完全な”心”を持ったロボットとは程遠い。

 

 全ては此方が予めプログラムしたもので。

 それから応用を利かせて判断は下せるだろう。

 しかし、完全に一から自分で思考し行動する事は絶対に無い。

 それもその筈だが、人間の脳のメカニズムは未だに解明されていないのだから。

 X線で見ただけのそれをデータにして解析し、見様見真似の知能は作り出せた。

 しかし、心と言う目に見えないものだけは誰も解明する事が出来なかった――ツバキ主任以外は。

 

 彼女は天才だ。

 それもただの天才ではない。

 天才の中でも、生まれるかどうかも怪しいほどの天賦の才を持った女傑で。

 彼女のお陰で世界の文明レベルが飛躍的に進歩したと言っても過言ではない。

 

 日本の”村雨”とソビラトの”アザーロフ”。

 そう言わしめるほどの人間で、彼女に匹敵するのはアザーロフ氏だけだろう。

 

 ツバキ主任は本物だ。

 彼女のお陰で、机上の空論とされた第二の世界の構築。

 それがあと一歩の所まで進んでいる。

 マザーさえあれば、日本が世界のトップに君臨する日も近い。

 

 だが、他国はそれを許さない。

 

 ソビラトもアラルカも何処からか情報を嗅ぎつけた。

 今日本は、多くの国から注目されている。

 それも此方にとっては良い意味ではない。

 甘い汁を寄越せとほざいている守銭奴の多い事であり、頭痛の種である。

 何としてもマザーの権利だけは死守したい。

 だが、それをするだけの力は残念ながら我が国には無い。

 

 もっと力が必要だ。

 他国を黙らせるほどの力があればいい。

 そうすれば、アラルカもソビラトも恐れずに済む。

 

 私は国防を担っている訳ではない。

 しかし、愛国心なら誰にも負けない自信がある。

 国を想い、この国に生涯を尽くす為に……そんな時に彼が現れた。

 

 頭痛の種を消す為に、あらゆる方法を模索していた時だ。

 ツバキ主任のアドレスから掛って来たから出れば、電話の主は彼女ではない。

 子供の悪戯かと最初は思った。

 しかし、実際には子供ではなく機械だった。

 

 彼は私が現役の研究者をしていた時には誰も考え付かなかった技術を私に提供してくれた。

 一目見ただけでも分かる。

 完璧な構造に加えて、従来のエネルギー資源で運用できるほどのコストパフォーマンスの良さ。

 世界中で誰もが欲するような装置の設計方法について事細かに記されていた。

 

 正直な所、とても興奮したさ。

 見たことも無いようなものであり、凡人には思いつかないプログラム。

 配列一つ一つにも意味があり、何処にも無駄な物は存在しない。

 構造自体はよく見ればシンプルだろう。

 しかし、実際に中身を見れば奥が深いのだ。

 

 まだこれは初期の段階かもしれない。

 いや、完成されているものだが、そういう意味ではない。

 まだこれには発展の余地が残されている。

 色々とカスタマイズを施していけば、あらゆる局面に適応できる筈だ。

 

 毒ガスが散布された戦場での作戦行動。

 危険な病原菌に犯された患者を隔離する為の医療施設。

 他にもまだある。避難所やシェルター……開発段階のセクターにも応用できる。

 

 私は確信した。

 彼こそが、我が国を導いてくれる存在だと。

 ツバキ主任と共に、科学技術によって我が国を発展させてくれる存在。

 

 他国よりも一歩も二歩もリードして。

 これらの技術を使う事によって多くの国の支持を得る。

 いや、まだ足りないかもしれない。

 更なる技術を使えば、我が国の未来は盤石なものになるだろう。

 

 特に常任理事国から支持が得られればベストだ。

 ソビラトもアラルカも敵に回せば恐ろしいが。

 それらの技術を上手く使えば……可能だろうな。

 

 マザーの権利を死守する事を優先する。

 その為には、それに匹敵するほどのものを用意せざるを得ない。

 三つも四つもあったとすれば、それら全てを寄越せなどとは言えない。

 そんな事を他国に知られれば、彼らが黙っていない。

 権利の独占は禁止されており、国家規模であれば尚の事だ。

 

 第二の世界への切符は高い。

 他国に干渉されてしまえば、それだけ此方の利が減る。

 いやそれだけじゃない。世界の構築に関しても注文を付けられてしまうだろう。

 そうなれば最後であり、ツバキ主任も研究から手を引いてしまう可能性がある。

 彼女の願いはシンプルであり、研究に関して口を出さないと言う事だ。

 契約書も書かされており、如何なる理由があろうとも彼女の研究は邪魔できない。

 

 ……だが、今にして思えば奇妙だ。

 

 マザーに関する研究は彼女に一任している。

 幾ら国家であろうとも、彼女の研究の邪魔は出来ない。

 それなのにだ。彼女は態々、我々に連絡をしてきた彼をマザーの中枢へ連れて行っても良いかと尋ねて来た。

 

 それは可笑しい事だ。

 何故ならば、彼女が研究の為だと言えば此方が拒否する事は出来ないのだから。

 如何なる人間であろうともだ……まぁ誰でもという訳ではないがな。

 

 私はそんな事を考えながら彼を見ていた。

 彼は世界地図に色々な事を書き記している。

 そうして、紙には別の事も書いており……これは数字か?

 

 アラルカやソビラトなど代表的な国の名称を記して。

 その横に数字を刻み込んでいた。

 私やSPがそれを見ていれば、彼はことりとペンを床に置いてから地図を広げるように指示してきた。

 私はSP二名に指示をして、言われた通り広げるように言う。

 

 世界地図を広げて見れば、何本もの線が書かれていて。

 バツ印なども記載されていた。

 字などは書かれていないが、これは何かを意味しているのか。

 一目見ただけではそれらが何を示すのかは分からない。

 私は顎に手を添えながら首を捻る。

 すると、彼はゆっくりと椅子から立ち上がって地図の前に立つ。

 

「これはこれから起こる未来の出来事を記したものです」

「未来の……本当に貴方は未来から来たと言いたいのですか?」

「それはまた後で説明します。先ずは、アラルカの南方のエリアで感染症が流行します。今はまだ何も報じられていませんがそれは国が情報規制を行っているからです。理由は教えられませんが、調べていただければ分かるはずです」

「……すぐに確認を」

「はい」

 

 外部と連絡を取る日下部。

 それを確認してから私は彼に話しの続きを促した。

 彼はすらすらと地図に記された線を辿っていく。

 この地ではこういう事が起こり、これにより物の流れは変わると。

 そうして、情報の規制や盛んになった交易エリアなどによりあるところではインフレが起きるとも言う。

 スラスラと喋る彼の言葉を聞いた日下部は逐一外部との連絡を取る。

 

「なに――分かった」

「……どうだ」

「……全て、当たっています」

「――なんと」

 

 恐ろしい。本当に未来から来たというのか。

 いや、そうでなければ説明がつかない。

 起こるかも分からない未来の情報。

 それを知っていただけでも恐ろしい。

 しかし、このロボットはそれだけではない。

 

 持ち得る未来の知識と今の時間の流れを読み取って。

 精確な時刻と起こり得る現象を見事に言い当てた。

 未来が見えているのは確かだ。

 未来から来たのかは定かではないが、少なくとも未来視の力はある。

 

 ふと、私はある事に気が付いた。

 それは先ほどまで彼が紙に書いていた謎の数字で……。

 

 汗が額から流れて頬を伝っていく。

 私は心臓の鼓動を早めながら紙を見ていた。

 彼は私には教えてくれない。

 しかし、今ならアレの意味が分かる。

 

 アレは世界情勢の変化で常に変わるものを指している。

 もしも、私が此処で納得しなければ時間を指定して調べるように言うのだろう。

 彼は全てを知っている。世界の変化も、これから先の未来も……恐ろしい。

 

 

 とても恐ろしい――が、欲しい。是非ともその力を国家の為に役立てて欲しい。

 

 

 私は強く望んだ。

 彼の力を正しい道で役立てて欲しいと。

 表には出さないが、興奮を隠し通すのは難しい。

 得体の知れない機械への恐怖は勿論ある。

 しかし、この国の未来を明るいものにするだけの力があるのだぞ。

 

 恐怖よりも、逸材を見つけた喜びの方が勝っている。

 私は彼に対して、言葉を発した。

 

「……なるほど。素晴らしいですね……分かりました。マザーへの立ち入りは許可します。ですが、条件が」

「――いえ、条件があります」

「……ん? いや、私が条件を言うのが普通ではないでしょうか……ですが、良いでしょう。言ってみてください」

 

 未来視の力を使って日本を正しき道に導いてもらう。

 その為に、私と契約を結んでもらおうと思っていた。

 正式な契約であり、勿論、それ相応の報酬も用意できる。

 

 出鼻をくじかれてしまった。

 だが、問題は無い。

 彼との話し合いで条件を提示されて、それを飲みさえすれば彼も私の条件を拒むことは出来ない。

 彼には逃げ道など無い。全てはこの国の為だ。

 

 彼は指を立てて私に向ける。

 

「貴方の力で、俺の家族を守ってください。何があろうとも、全力で」

「……それだけですか?」

「はい。そうすれば貴方の要求を呑みます。例え、俺が死んでも家族に幾つかのデータを渡しておくので安心してください」

「……死ぬとは、穏やかではありませんね……戦地にでも行かれる予定で?」

「まぁそんな所です……頼めますか?」

「……データに関しては未来の知識に関する事でしょうか……ふむ、いいでしょう。貴方のご家族を守ります。何があろうとも絶対に……貴方はこの国の発展に協力してもらいますよ。マサムネさん」

「えぇ、分かりました。よろしくお願いします。沢渡長官」

 

 彼は深々とお辞儀をする。

 そんな彼を見つめがら私は目を細めた。

 未来視の力。そして、見たことも無い技術たち。

 多くの謎に包まれた心を持った機械は、この国の未来を明るくしてくれるだろう。

 

 先ずは、彼と契約をし他の技術も提供してもらいたい。

 いや、それよりも先ずは彼から貰ったアレを完成させなければ。

 プロトタイプが出来上がるまではまだ時間がある。

 それまでに、彼の未来視により世界情勢を詳細に知る必要がある。

 ロスなく全てを知れる彼がいれば、経済を掌握する事も容易いだろう。

 私は内心でくつくつと笑いながら、彼を見つめる。

 

 さぁ楽しい未来が来るぞ――夜明けは近い。

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