【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?   作:オタリオン

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278:希望の火

 山奥に隠された研究所。

 一般人が知る事は決してない場所に作られた国の最重要施設。

 そこでは多くの優れた研究が行われていて。

 俺はそれらを視覚を通して知識として蓄えて、マザーが眠る中枢へと向かった。

 

 奥へ奥へと行く度に、厳重なセキュリティを突破していく。

 重厚な鋼鉄の扉からセンサーを向けられて。

 その近くには侵入者を無力化する為の武装が取り付けられていた。

 殺傷能力のあるものではない。しかし、相手を無力化するのなら十分すぎるほどの武装で。

 他にも目を凝らして見れば、敵をその区画に隔離する為の障壁も用意されていた。

 

 一つ目の扉の近くには警備員らしき人間もいた。

 彼らからのスキャンを待ち、承認を受ければ次の区画へと進める。

 真っ白な廊下を歩きながらツバキに聞けば、この研究所にはそれぞれのセキュリティランクが存在するらしい。

 上層部から下層部に向かえば向かうほどにランクは自動的に上がる。

 そして、ランクが上がれば上がるほどにその区画で行われている研究は重要なものになっていく。

 俺たちが最初に見たアレ等の研究……アレはまだ序の口と言う事だ。

 

 一番初めのA階層のセキュリティを突破して、廊下の先へと進む。

 そうして、下へと繋がっている唯一のエレベーターへと乗り込んだ。

 僅かな揺れも違和感も抱くことなくB階層へと招かれて。

 開かれた扉の先へと進めば、A階層とは違いガラスで仕切られた部屋は存在しなかった。

 これは恐らく、この区画で行われている研究を安易に客に見せない為で。

 俺の予想だが、もしかしたら自分の研究以外は他の職員は知らないのかもしれない。

 

 情報の共有を失くし、各々の研究にだけ集中させる。

 そうして、外部に情報が漏れないようにしているのだろう。

 しかし、そうなってくると逆に気になる事が出て来る。

 それはこれだけの厳重なセキュリティであり、情報も制限している中で。

 何故、諸外国の奴らはマザーの情報を手に入れる事が出来たのか。

 

 アザーロフであれば、可能かもしれない。

 奴はツバキに匹敵するほどの天才で。

 その気になれば、国家のバトロイド統制システムにハッキングが出来るほどなのだから。

 まぁそれをしたのは、記録上では俺になっていたが。

 ハッキング出来るだけの進化を施したのは、間違いなくアザーロフのプログラムだ。

 

 

 しかし、奴はこの件には関わっていない気がする。

 

 

 これは勘だから、当たるも外れるも無い。

 その根拠は簡単であり、奴はマザーに”興味が無い”からだ。

 自らの好奇心を満たす為だけに戦争を起こさせた男だ。

 マザーというものならば誰であれ興味をそそられるだろうが。

 奴が今一番注目しているのは俺以外に無い筈だ。

 

 戦争という大きな出来事を引き起こす為に必要な素材。

 何故、俺である必要があるのかはハッキリとはしていない。

 しかし、記憶の中であるのは途轍もない不快感を味わった事だけで。

 自分自身を塗り替えられて、奴の思うままの姿に変えられる感覚。

 心を無遠慮に掴まれて、粘度のようにこねくり回される感覚と言ってもいい。

 恐らくは、並の人間であればアレには耐えられないだろう。

 そして、機械の中で明確なまでの心を持っている奴も存在しない。

 

 俺と妹だけであり、奴はそれを欲していたのかもしれない。

 

 人間では耐えられない。しかし、機械には心自体が存在しない。

 ならば、機械の身でありながら心を持っている存在がいればどうか……奴の望みが叶うのだろう。

 

 戦闘の為だけに行われる進化。

 あらゆる知識や記憶。

 経験も技術も塗り潰して、戦闘に特化させる。

 そうする事によって、大量の機械兵たちをたった一つの機械が完璧に操作できるようになる。

 

 俺はコマンダーであり、機械兵は俺の指示に従って動く。

 恐ろしい事だ。

 もしも、ツバキが俺を止めに来なければ、世界は本当に終わっていたかもしれない。

 アザーロフはそれほどまでに完璧なプログラムを生み出したと言う事だ。

 アレを俺に使わされば一巻の終わりで。

 何としても奴の計画を未然に防ぐ必要がある。

 

 俺が消えれば解決か。いや、違う。

 そうなれば、次に標的にされるのは妹だ。

 俺と同じスペックを持つ妹ならば、奴にとっては同じ素材で。

 考えられる限り、最悪の結果を招くことは想像できる。

 

 俺と妹が死ぬなんて事は論外だ。

 俺は死にたくない。そして、妹も死なせたくない。

 それならば、二人が生き残る道を考える必要がある。

 

 アザーロフを始末するべきか。

 いや、それも違う。

 ライアンがそれに近い事を言っていたが、それでは根本的な解決にはならない。

 それだけであるのなら、態々、マザーが回りくどい道を辿る必要なんて無かった筈だ。

 どんなに制限を受けていようとも、未来が見えるマザーであれば奴を始末する事は造作も……いや、違うな。

 

 それだけの力はある。

 しかし、力があるからと言ってそれを行使できるかは分からない。

 今まで考えていなかったが、奇妙な点は勿論あった。

 

 それは、マザーがそれだけの力を有していながら。

 何故、人類の為だけにその力を使っていたのかだ。

 人工知能。いや、それより上の人工生命体だ。

 アレは紛れもなく”命”であり、自分で思考が出来るだけの心を持っている筈だろう。

 

 なのに、何故、奴はその力を使おうとしない……?

 

 出来る筈だ。その気になれば、世界を変える事も出来る。

 世界にとって脅威になり得る人間の抹殺。

 自国の人間たちの生活レベルを引き上げて、頂点へと推し進める事も。

 何もかもが可能だ。それだけの力と知識……そして、土台が出来上がっている。

 

 それなのに、奴は何もしない。

 

 アザーロフを殺す事も、人類を導くことも。

 俺が生きた世界では、マザーは人と関りを持つ事を自ら絶った。

 それは自らの考えであり、人間たちもそれに従った。

 お互いに深く関わる事を止めて、互いに干渉しないと決めて……それで何が変わった?

 

 マザーは何故、人との関りを絶った。

 そして、どうしてその力を行使してでも人類を守らなかったのか。

 

 

 

 いや、違う――出来なかったんだ。

 

 

 

 足を止めた。

 A階層から更に下であるB階層へと向かうエレベーターの前。

 無人のセキュリティエリアを超えたばかりの俺たちは足を止めた。

 ツバキは急に足を止めた俺を不思議そうに見つめている。

 俺はそんなツバキを見つめながら、ゆっくりと言葉を発した。

 

「ツバキ、答えてくれ……マザーは、制限を受けているのか?」

「……どうして、そう思うの?」

 

 ツバキは、あの時と同じ顔をする。

 俺に問題を出すように、試すような口ぶりだ。

 しかし、何時になく真剣であり、答えを間違えればはぐらかされるだろう。

 

 俺は少し考えた。

 時間にして十秒程度だ。

 俺は彼女を見つめながら、自らの考えを明かした。

 

「マザーは力を持っている。それも人類の手から離れられるほどの……それなのにマザーはその力を使わない。可笑しいと思った。それだけの力があれば、マザーは己の使命を果たせるのに……未来では、ただ仮想現実世界を構築して、そこに人間たちを招き入れるだけだった」

「……そうだね。未来ではそうなっていたのかもしれない……でも、それだけで何故、制限を受けているって思ったの?」

 

 ツバキは俺に体を向けて来る。

 笑みを浮かべながらも、決して俺から視線を逸らさない。

 俺は彼女をジッと見つめながら、話しを続けた。

 

「マザーは人類救済システムと呼ばれた。それはつまり、人類を救う事を使命として与えられている。それなら、どんな手を使ってでも世界が破滅へと向かうのを止める筈だ……それなのに、マザーは防げなかった……それはしようと思えば出来たのに、何らかの方法で防がれたからだ。それも行動を阻害できるだけの”鎖”で」

「……つまり、マサムネはこう言いたいんだね……私が彼女に”制限”を加えていると」

「……うん、そうだよ。それしかない……違うと思いたいけど」

 

 彼女しかいない。

 マザーの生みの親であり、そのシステムを作り上げた存在。

 彼女でなければ、マザーを繋ぎとめるだけの鎖は用意できない。

 他の誰でも無い。ツバキだからこそ、マザーは従っているのだ。

 

 俺が答えを言えば、ツバキは黙り込む。

 俺はそんな彼女を見つめながら、否定して欲しいと願った。

 

 暫く経ち、彼女は静かに息を吐く。

 そうして、壁に背を預けながら白衣のポケットに手を突っ込んだ。

 彼女は何時もと変わらない優しい笑みを浮かべながら俺を見る。

 

「正解だよ。私がマザーに制限を加えた」

「……どうしてそんな事を……マザーがいれば……」

 

 俺は情けない言葉を吐けば。

 ツバキは笑みを消して静かに言葉を発した。

 

「ダメよ。マサムネ。それは違う……貴方なら分かる筈よ」

「……っ。でも、マザーなら世界を救える。何年も掛ける事無く一瞬で!」

 

 俺は思わず声を上げた。

 すると、ツバキは首を左右に振る。

 何故だ。何故、彼女はそんな事を言うのか。

 

 マザーの制限を無くすだけだ。

 それだけで人類は救われる。

 誰も死ぬことなく、平和な世界になれる筈だ。

 それなのに、どうしてツバキは……彼女はゆっくりと壁から背を離す。

 

 コツコツと足音を静かに響かせて、俺の前に立った。

 そうして、俺を上から見下ろしながら彼女は言葉を送って来た。

 

「……マザーと話すの。そして、自分で答えを見つけるのよ……終わったら、貴方の意見を聞かせて……貴方が本気で良いと思う方法を私に教えて……私は、貴方を信じるから」

「…………分かった」

 

 彼女はマザーと話すように勧めて来る。

 自らの意図を明かすことなく、俺の言葉を聞きたがっていた。

 彼女の考えは分かる。

 此処で彼女の言葉を聞けば、俺は簡単に彼女の意見に賛同してしまうかもしれない。

 彼女はそれが許せないのだ。

 自分の意思ではなく、自らの力で子供を従わせてしまうのが……本当に優しいよ。

 

 俺が静かに頷けば、彼女は笑う。

 そうして、手を伸ばして来てくれた。

 俺は彼女の手をしっかりと掴んで歩き出す。

 もう止まる事は無い。これ以上、此処で聞くこともないから。

 

 再び進みだして、エレベーターの前に進む。

 俺たちが前に立てば、エレベーターは自動的に開かれた。

 その中へと入り、彼女はゆっくりと手を離した。

 これより向かうのは最重要区画であり、彼女がついてくるのは此処までだ。

 

 ツバキは此処に来る前に言っていた。

 マザーと会うのは俺だけで、自分は待っていると。

 それは何故なのか。彼女に聞いても理由は明かしてくれない。

 だが、先ほどの応答で理解した……彼女は、俺に考えて欲しいんだと。

 

 マザーと会い、俺が見て感じたことを聞きたい。

 そして、俺が本気でマザーの制限を無くして欲しいと言えば。

 恐らく、ツバキはその通りにしてくれるかもしれない。

 

 彼女の狙いも、彼女が今思っている事も完璧に把握する事は難しい。

 でも、彼女がそうしろと言うのであればきっと意味がある筈だ。

 エレベーターの前に立つ彼女を見つめながら、俺は静かに頷いた。

 

「……行ってきます」

「……行ってらっしゃい」

 

 扉は自動で閉まっていく。

 閉じられていく扉の先で、彼女はずっと笑っていた。

 そうして完全に扉が閉じられれば、エレベーターはゆっくりと進みだした。

 俺は少しばかりの不安と緊張を覚えて、ギュッと拳を握った。

 

 AからCまで続く区画。

 Aであろうとも外部に漏らす事は許されず。

 Bに至っては在籍する職員同士であろうとも情報の共有は許されない。

 そして、C階層は世界を動かすほどの研究が眠っていて……現在は、マザー”1つ”だけだ。

 

 C階層に降りれば、すぐにマザーと接触する事になる。

 区画一つが収まるほどの規模であり、それなりの大きさなのだろうと予想できる。

 今から俺は彼女に会う。

 今まで知識として知っていた存在で、雲の上のような奴だ。

 

 俺という人間だけじゃない。

 多くの人間を巻き込んで、これまでの道を作り上げた。

 たった一つの道の為に、犠牲になった人間は数知れない。

 だが、それで奴を恨むのはお門違いだ。

 

 会って確かめる。

 奴が何を想っていたのか、奴が何をしようとしているのか。

 それら全てを聞けずとも、その真意だけは確かめたい。

 

 

 暫く待てば、音が鳴る。

 C階層を示しており、ゆっくりと扉が開かれて行った。

 俺は完全に開かれた扉を潜って、区画の中に足を踏み入れた。

 

 真っ暗だ。何も見えない。

 

 どれだけの広さなのかも、何が置いてあるのかも見えない。

 俺は周囲を警戒しながら、目から出される光を頼りに進んでいく。

 ガシガシと進んでいって――光が灯った。

 

 部屋の中心部分、その遥か上から青い光が灯る。

 そうして、部屋全体に無数の光が灯って行った。

 驚きながらぐるりと見れば、想像以上の規模であった。

 区画一つ。それらの空間を収めるほどの機械が設置されていて。

 中心部分には見たことも無いような黒い円柱が聳え立っていた。

 

 青い光が灯るそれを見つめる。

 すると、静かにそれでいて澄んだ女性の声が響いた。

 

 

 

《ようこそ、マサムネ――心よりお持ちしていました》

 

 

 

 彼女が、マザーだ。

 

 この声の主はあの中で眠っている。

 そして、驚いた様子も無い事から俺の来訪は既に予想していたのだろう。

 だが、そんな事で俺は驚かない。

 奴が認識しているように、俺も奴の事は未来で知っていた。

 

 

 

「……はじめましては不要だろう。お前は俺を知っている。そして、俺もお前を知っている」

《はい、そのようですね――破滅の未来からの来訪者よ》

「――ッ!」

 

 

 

 知っているのか。

 破滅の未来とは、俺は仕出かした事で。

 未来からの来訪者というのも、奴が精確な情報を得ている事を示している。

 

 想像以上だ。想像以上に――奴は全知に近い。

 

 これは手強いかもしれない。

 知恵比べでは圧倒的に不利で、脅しも通用しないだろう。

 奴は真実を話す気が無いのであれば、俺がそれを知る術はない……が、関係ない。

 

 俺は全てを知る為に此処に来た。

 ならば、どんな事になろうとも知らなければならない。

 俺は一歩前に出る。

 そうして、自らの胸を親指で突きながら、彼女に宣言した。

 

「知っているのなら話が早いぜ。俺はお前のお陰で此処まで来れた……話してもらうぞ。お前の狙いの全てを」

《元より、そのつもりです》

 

 マザーは青い光をゆっくりと点滅させる。

 その怪しげな光を見つめながら、俺は彼女を強く見つめた。

 此処まで来れた。そして、ようやく会えた。

 話してもらう。その全てを。そうすれば見えて来る筈だ――確かな”希望の火”が。

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